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第18節 ノノンという大妖精

 マノンに手を引かれて空を飛ぶこと約十五分。

 ようやく彼女はスピードを緩めて高度を下げ始める。


「もうすぐノノン様のところに到着するわ」


 雪をたっぷりと被った森の木々の頂点と同じぐらいの高度に来たとき、マノンが口を開いた。


 ついてくるだけで必至というか、ここまでほぼ引きずられてるような形になっていたリノンは小さく息を吐いてから口を開く。


「まったく、いくら何でも急ぎすぎだろ」

「ごめんなさいね。ちょっと、事情があったのよ」


 マノンはそういいながら本当に申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 おそらく、本当にそうしなければならない事情があったのだろう。


 リノンは自分の中でそう納得して彼女のあとについていく。


「というか、ここはどこら辺なの?」

「セントラル・エリアの中でもはずれにある池の近く。それ以上は言えないわ」

「そう……」


 どうやら、かなり特殊な状況らしい。

 もしかしたら、ノノンの寝床の近くだったりするのかもしれない。

 大妖精は一部を除いて、自分の寝床が特定されたりするのを嫌うので、リノンに場所を理解させないために無茶苦茶な速度で飛行していたという可能性もある。

 確かにその間、リノンの意識は確かにマノンに持ってかれていたので、ここがどこかいまいちわかっていない。


 しかし、それならそうで目隠しをすればいいだけの話なのでもしかしたら、事情はもっと別にあったのかもしれない。仮にそうだったとしても、マノンを問い詰めたところでその解答が得られるとは到底思えないのだが……

 マノンは今一度周りを見回してからゆっくりと地面に着地する。


「もうすぐノノン様のところに到着するわ。そこまでは歩きよ」


 そういいながらマノンは歩き始める。

 この辺りにはリノンが普段住んでいるエリアとは違った種類の植物が豊富に生えていて、季節など関係ないと主張するかのように様々な季節に咲く花が入り乱れて咲いている。

 狂い咲きというレベルではない。この光景はこの場所に何かしらの特殊な力が働いているという証拠だとみるべきだろう。


 足元は花畑、頭上は森林という異常な光景の中でリノンはマノンの背中から離れまいと歩き続ける。


「……ついたわよ」


 やがて、マノンは巨木の前で立ち止まった。

 以前見たカノンの寝床ほどではないが、十二分に大きいそれは周りの木々よりも頭一つ以上大きくて、天に突き刺さるように真っすぐとその幹を伸ばしていた。

 マノンはその木の根元に立つと、幹を三回トントンと叩く。


「ノノン様。マノンです。リノンを連れてまいりました」


 マノンがそういうと、上から返事替わりなのかいくつかの花びらが落ちてきた。

 それを見たマノンは小さくうなづくと上を見上げる。


「入りますね」


 彼女はそういうと、リノンの手を取って上昇し始める。


 先ほどよりは速度は緩いが、それでもぐんぐんと高度は上がっていき、やがて周りの木々よりも高いところに到達する。

 そこにきて、リノンは初めて本当の意味でのこの木の異常さを理解できた。


 この木は周りよりはるかに大きく飛びぬけている。

 この場所からは見えるカノンの住んでいる巨木も含めて、セントラル・エリア内の様子は外から見えないが、中からははっきりとその様子をが見えるはずだ。というよりも見えなくてはならない。


 しかし、これまでリノンはセントラル・エリア内でカノンが住んでいるもの以外にこれほど高い巨木はこれまで目撃したことないのだ。


 この木の異常性はまさにそこに限る。


 つまり、“この森の中をすべて観測できるはずのセントラル・エリア内ですら観測できない”これがどれほどの異常なことかはただの妖精でも理解できるだろう。

 そんな木のちょうど中間地点。ようやく到達した一番低い枝の上にマノンは着地する。


「お待たせいたしました」


 そして、彼女はそのまま目の前にいる大妖精ノノンに頭を下げた。


「ありがとうマノン。悪いわね……」

「いえ、これが私の務めですので」

「務めだなんて堅苦しい型しなくてもいいわよ」


 マノンを前にニコニコと笑みを浮かべていたノノンはリノンに視線を移して、それを少し厳しくする。


「さて、それではリノン。私についてきてください」

「わかりました」


 リノンの返事を聞いたノノンはマノンを一瞥してからさらに上に向けて飛び立つ。


 リノンは自身の姿を真っすぐと見据えるマノンの姿を一瞬、見た後すぐに彼女の背中を追いかけて飛び立った。

 そのときにマノンが浮かべていたはかない表情が気になったが、今はそれどころではない。


 前を飛ぶノノンはぐんぐんと高度を上げていく。


 リノンの見立てが間違っていなければ、彼女はこの木のてっぺんを目指しているのだろう。

 やがて、ノノンは上昇速度を落として予想通り木のちょうどてっぺんに当たる場所に腰を下ろした。


「ようこそ。この森で二番目に天に近い場所へ……あなたは単なる一妖精だからしらなかもしれませんが、そもそも妖精たちが移り住む場所としてここを指定したのはセントラル・エリア内にある二つの大樹が理由となっているのです。そして、この木はそのうちの片割れ。天の力を取り入れ、大地のバランスを乱しているこの木です。さて、そんな御託はいいとしてあなたをここに連れてきた理由をお教えしましょう」


 彼女はそういいながらゆらりと立ち上がり、その手を天に向けて伸ばす。

 すると、周りの風景が心なしか少し淡くなって、讃美歌を思わせるような合唱が聞こえ始める。


 そのあまりにも異常な状況にリノンは思わずたじろいでしまった。


「クスクス。今頃後悔しても遅いからね。さぁ今話題の神話計画。それの一端を見せてあげるわ!」


 彼女が両手を広げるその先、白い光が発せられたかと思うとその場所から暴力的なほど強い力が一気にあふれて出来る。

 それに押されるようにしてリノンは飛ばされそうになるのを必死に耐える。


「何だこれ!」


 大妖精の御前だということすら忘れてリノンが声をあげる。


「カノン様が利用しようとしている力の一端よ。そして、私とマノンが封じ込めようとしている力の一端でもある」


 魔力として形容するべきかすら迷うその力の中でもノノンの声ははっきりとリノンの耳に届いた。

 少し力を抜けばあっという間に飛ばされてしまうようなその力はまさに神力という言葉がピッタリかもしれない。


 ノノンがゆっくりと手を下げると、白い光は一気に弱まって消滅する。そして、彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。


「カノン様はこの力を使って何をしようとしているかはわかりません。しかし、どうあっても間違っていると。それだけははっきりということができるというのが私の考えです。この力は簡単に利用できるモノではない。それを制御するすべも何も私たちには知らされていない。ただただ、シノン様が暗躍しながら準備を終えるまで時間をひたすら引き延ばすのみ。だからこそ、今回ばかりは危険すぎるとマノンもそして、シノン様でさえひっそりと神話計画を阻止しようと動いています」


 彼女はそういいながらゆっくりとリノンの前に歩み出る。


「シノン様も反対に動いている? だったらなんで議会の裏で暗躍なんか……」

「それはあくまでカノン様の視点から見てという話です。まぁそういうわけでして、こういった話をした理由。聡明なあなたなら理解できているのではないですか?」


 リノンを前にして、ノノンは勝ち残ったような勝者の笑みを浮かべている。

 これは勝てない。そもそも勝負していた気はないのだが、直感的にそう思わせるような笑顔だ。


「協力しろってことか?」

「えぇ。マノンからあなたの話を聞いてちょっと興味を持っていたの。あそこで覗いているのはあなたじゃなかったら、もしくは私がマノンからあなたの話を聞いていなかったら、今頃あなたは消し炭よ。運がよかったわね」


 どうやら断るという選択肢はないらしい。

 それを悟ったリノンは小さくため息をつきながらうなづいた。


「わかりましたよ。協力します。ノノン様」


 リノンの返事を聞いたノノンは満足そうに頬を緩めてリノンの手を取る。


「えぇよろしくお願いします。リノン」


 彼女はそういって、笑顔を浮かべた。

 やっぱり、変なことには首を突っ込むべきではなかったなとリノンはそれを見て今頃ながら後悔していた。

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