第17節 リノンとマノン
リノンがヒノンとの待ち合わせ場所に戻ると、すでにヒノンの姿があった。
彼女はすっかりと落ち込んでいるような様子を見せていることから、おそらく収穫はなかったのだろう。
「よっヒノン。どうだった?」
しかし、ある種形式てなものとして、リノンは彼女に成果があったかどうか尋ねる。
彼女はある意味予想通りに首を何度か横に振るだけだ。
「全然なかった。はぁやっぱり、そう都合いいことなんてないのかな?」
せっかく調べても何もない。
それが彼女の中ではずっしりと重みとなっているようだ。
リノンは先ほどの光景を見たことなど悟らせないように笑顔を張り付けてヒノンの頭に手を置く。
「……やっぱりさ。そんな都合のいいことなんていちいちないんだよ。それに仮にそんなことがあっても私たちじゃどうしようもできない。だったら、今のうちに手を引こうか?」
できるだけ自然になるようにそう切り出してみた。
若干、タイミングが早かったような気もするが、それでも回りくどく何か言うよりはストレートに話したほうがヒノンには通じやすい気がしたのだ。
ヒノンはリノンの言葉を聞いた後に首を小さく傾げた。
「…………リノンも何もつかめなかったの?」
すがるような上目遣いでヒノンが尋ねる。
リノンは自身の報告を忘れていたという事実に気付くとともに何を話すべきかという点について整理し始める。
「そうだな。私のほうも何もなかったよ」
結果的には、何もなかった。そういうことにするべきだという判断を改めて下すだけだった。
これはリノンの問題だ。ヒノンを巻き込みたくない。
そういう言い方をすれば、誰かがそう決めたのではないのだから勝手だとか言われるかもしれないが、それでもリノンとしてはそう思いたかった。
ノノンが去り際に残したあの言葉。
あれは真実が知りたければしっかりと調べろという風にもとらえられるあの言葉はあくまでリノンに向けられたものでヒノンに向けられたものではない。
だからこそ、これはリノンが解決するべき問題だ。
勝手な考え方だと言われればそこまでだが、少なくともリノンはそう思っていた。
リノンの答えを聞いたヒノンはシュンと顔を曇らせる。
「そう……なんだ……」
「あぁまぁそうだ」
本気で落ち込む彼女に対して、リノンはあまり表情を変えることなく応対する。
「まぁ仕方ないさ」
「……うん。そうかもしれないね」
どうやら、ヒノンはこちらの言葉に乗ってあきらめてくれるようだ。
リノンはしめたといわんばかりに彼女の頭をなでる。
「それじゃ、おとなしくお互い家に帰るか」
「うん」
そんな会話を交わした後、ヒノンは目元の涙をぬぐってから飛び上がる。
「それじゃまたね!」
「おう! またな!」
ヒノンはそのまま空を飛んで森の中へと消えていく。
「はぁ思ったよりもあっさりと行ってくれたな」
多少、ことがスムーズに進みすぎな気もしたが、そのことについて考えている暇はない。
リノンはヒノンの向かった方向を少し見つめたあとにノノンがいるであろう方向へと飛び立った。
♪
シャルロの森の中心部にあるセントラル・エリア付近。
先ほど、マノンとノノンが話していた広場のあたりにリノンが到着すると、それを待っていたかのようにマノンが姿を現した。
「ノノン様が来ると思った? 残念マノンちゃんでした! ってね。ノノン様からあなたが来るかもって言われたから来たけれど本当だったのね」
マノンは少し人の悪そうな笑みを浮かべながらリノンの姿を見ている。
「マノン……」
「あははっそんなに警戒しなくてもいいよ。大丈夫。ノノン様にあなたを連れてくるように言われてきているわけだし……というわけで早速行こうか」
どうやら、大妖精たるノノンからすれば、リノンの行動などお見通しらしい。
そんな考えに至ったとき、リノンの口には自然と笑みが浮かんでいた。
いっそのこと、それぐらいでなければ面白くない。
ここにきて、自分が来たのが予想外だとか、そもそも来てほしいとは思っていなかったから、帰ってくれ何て言われたら、それ以上につまらないことはないからだ。
しかし、現状リノンと対面しているマノンからすれば、その反応は予想外だったようで、彼女は少し驚いたような表情を浮かべている。
「まったく。あなたがそういう余裕の笑みというのは予想外ね」
「私としてもこの状況でマノンが出てくるのはちょっと予想外だ」
「……でしょうね」
マノンは一瞬、ちらりと近くの茂みに視線を送るがすぐに視線をリノンに戻す。
「……さて、時間も惜しいし、さっさと行きましょうか。ノノン様のところまで案内します」
「まぁどちらにしても頼むつもりだったから、おとなしくついていくよ」
リノンの返事を聞いたマノンは小さくため息をついて、頭に手をあて首を振る。
「あなたってそんなに怖いもの知らずだったかしら?」
「いや。私は臆病者だよ。本当の怖いもの知らずだったら、ノコノコここに姿を現したりしないで、直接乗り込むだろ」
「直接ね。まぁそうかもしれないわね。でも、私としては私がでてきたときにもう少し反応がほしかったかしら?」
マノンがそういえば、リノンはクスクスと笑い声をあげる。
「反応って言われても……確かに予想外だけどさ、そこまで驚くほどじゃないでしょ」
「まぁあの場を見られたらね……さて、時間も惜しいし、さっさと行きましょうか」
彼女はそう言いながらふわりと浮き上がる。
「あぁ望むところだ」
リノンは不適な笑みを浮かべて飛び上がり、彼女の横に並ぶ。
「やっぱり、怖いもの知らずなんじゃないの?」
「さっきも言った通り、そんなことはないよ」
マノンはちらりと茂みに視線を移したあと、リノンの手をとった。
「それじゃ行くから、ちゃんとついてきてね」
マノンのその言葉が終わるか否かというぐらいのタイミングでマノンは勢い良く加速をつけて飛び始め、リノンの手がぐっと引かれる。
「いきなり早過ぎるって!」
リノンのそんな抗議の声など耳に入らない様子でマノンは一気に高度をあげて、森の木々の上の方まで飛んで行った。




