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第15節 繰り返される流れ

 妖精議会史上まれに見ない緊急招集により、議会が開会された翌日。

 一晩の休息を挟んでもなお、議場は荒れに荒れていた。


 大妖精たちが到着するなり、議場の各所から説明を求める声が噴出する。

 妖精というのはつくづく厄介なものだ。普段は無関心なくせして、自信が興味を持った事柄に対しては徹底的に説明を求める。

 今回はあまりにもイレギュラーな状況が発生してしまったがためにそれ自体が妖精たちの興味をひいてしまっているのかもしれない。


「やはり違和感があるな……」


 そんな声をあげるのはリノンの横に座る妖精だ。

 ヒノンというなの彼女は火を操る妖精であり、リノン同様、現状を静観している。


「違和感ねぇ。逆に聞くけどそれ以外に何かある?」

「ないね。今回の大妖精の対応もそうだし、ここまで妖精の不満が爆発するのもいささか違和感がある。たぶん、裏でなにか起きてるだろうね」


 おそらく、彼女がいう裏というのは議会の混乱の裏で何かしらの計画を進めているとか、そんなところであろう。

 そう考えると、一部の妖精たちの行動も事前に仕組まれたのではないかという疑惑すら持てる。


 現に壇上にあがる大妖精の数は重要なことを決めるはずなのに何人か姿が見えないし、それは妖精にも言える。

 普段なら、興味を失ったのだろうで片づけられるが、昨日の様子からしてそれは考えづらい。


「絶対なんかあるな……」


 改めて自分の考えを口に出してみる。

 具体的に何かと問われれば返答に詰まるが、ここまでやられて何もないなんていうことはさすがにありえない。

 そもそも、この議場にいるほとんどの妖精たちはいつもよりもおかしなことが起こっていることに気づいている様子は全くないが……

 この議場内にシノンやマノンといったあたりの姿が見えないことからすると、彼女たちが実行役として動いているのだろう。


 リノンはそこまでは考え込んでいたのだが、これ以上は頭をひねったところで何かわかるわけではなさそうだったので壇上に意識を向ける。


 ちょうどその時、妖精たちが思い思いに主張を述べる中で壇上の中央に立つカノンが片手をあげた。


 すると、これまでかなり騒がしかった議場が一気に静まりかえる。


 これほど紛糾していても、ちゃんと静まるあたりこの連帯感はすごいと思わされる。もっとも、そのせいでわざとこういった荒れた議場を演じているのではないかとすら思えてくるのだが……

 そもそも、いつもは形だけで何の反対意見もなく大妖精の意見が通されるこの妖精議会において、このように議論が起きている事態を見るのは初めてなので何とも言えない。

 もしかしたら、本当に議論が紛糾していて、そのうえでカノンには逆らってはいけないと刷り込まれた精神がこの異常な空間を作っているのかもしれない。あくまでそれも一つの可能性だ。


 そんな異常な空間の中でカノンは機能したのとほぼ同じ内容の説明を繰り返し、それが終わると昨日と同じような顔ぶれの妖精たちが説明が足りないと非難の声を上げる。


「まるでストーリーの決まっている演劇みたいに見えるな」

「確かに胸くそ悪い演劇のようね。どうせだったら、もっとうまくやれないものかしら……」


 さりげなく、口に出てしまった言葉をヒノンが強く肯定する。

 あまり話したことない相手であるのだが、かなり口が悪いというのはこの短時間話しただけでも明らかだ。

 リノンも口調が荒い方なのかもしれないが、彼女ほどひどくない。


「まっだからといって私たちはどうすることもできないし、事態を見守る他なさそうだけどね……」


 自分達にはこの状況に介入できるだけの権力は持ち合わせていない。それが現実だ。

 今の実力でできることと言えば、適当に賛成派か反対派に肩入れしてさわぐか、今と同じように静観するかである。


 それはヒノンもわかっているのか、彼女からの反応はない。結局のところ、妖精などその程度のモノなのだ。


 いい加減、永遠と繰り返される議論(演劇)に飽きたのでリノンは離席して議場から離れる。

 どういうつもりかわからないが、ヒノンも後に続く。


 議場からでると、背後にたつヒノンが嬉々とした様子で話しかけてきた。


「ねぇこれから調査するってことでしょ? どこからいく?」


 この発言を聞いた瞬間、リノンはとんでもなく面倒なやつに捕まってしまったと思った。

 彼女はリノンが今回の出来事について調査をする目的で議場を離れたと思っているようだが、実際はそれとは正反対だ。

 単純にこのやり取りを見るのに嫌気がさしただけだ。それに調査したところで何かわかるわけでもないだろうし、下手をすれば利用するだけされて終わりの可能性もある。


 しかし、ここで断ると面倒なことになりそうだと頭の中で警告音が響く。


 その理由はいたって単純でヒノン自身が少々面倒な性格だということをマノンから聞いていたことを今頃ながら思い出しているところなのだ。

 二人がどのような形でかかわっていたのかは知らないが、マノンは終始めんどくさかったと言っていた。

 気になったことを徹底的に洗い出そうとする妖精独特の性質に加えて、いったん相棒(パートナー)を決めると、その人物に対して徹底的に粘着(ストーキング)するモノだから面倒極まりない。おそらく、この場で断ったところであの手この手と駆使してリノンを今回の騒動に巻き込ませようと動くのだろう。


 ここは調査に応じるふりをして、適当にことを終わらせてしまう方が吉だろか? マノンも確か、対処法の一つとしてそんなことを上げていた気がする。


「……わかったよ。ただし、情報収集は別行動で、どんな情報を得ても行動を起こさないってことならいいよ」


 だからこそ、リノンは自身が対して動かなくても適当に対処できるような条件を提示する。つまり、あくまで目的は情報収集であり、その結果をもとに行動を起こすことはない。そして、別行動なのでリノンが対して動かず、情報が得られなかったのだとしても何ら問題ない。


「よし! それで行こう! 絶対に尻尾掴んでやりましょうね!」


 彼女はそのまま嬉々とした表情で浮かび上がって森のどこかへと飛んでいく。

 これなら放っておいても大丈夫そうだ。マノンも扱いは面倒だけど、悪い妖精じゃないとか言っていた気がするし……というか、マノンに聞けば大体の妖精についてわかるというあたり、彼女はこの森に住むすべての大妖精や妖精と顔見知りなのではないかとすら思えてくる。


 さて、そんなマノンの事情は置いておくとして、これから考えるべきことはいかにしてうまくヒノンから離れるかである。

 リノンはそのことを考えながらその場から飛び去った。

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