第9話 深緑の嘆き
アーサーが広げた革地図は、所々にインクが滲み、折り目が擦り切れていた。
アーサーの指が西の森林地帯をなぞる。
「深緑の森。ここ1ヶ月、不自然な魔物の出現報告が急増している。特に、この一帯の奥深くで」
ガレスが傷だらけの鎧をきしませながら、地図に顔を近づけた。
「俺も聞いた。森の村から避難してきた連中が、酒場で話してた。『木々が泣いている』ってな」
「詩的な表現だ」
片目の猟師キースが低く呟いた。
彼は弓を肩にかけ、鋭い一目で森の縁を見つめていた。
「だが、俺が1週間前に偵察した時、森の生き物たちが異常に警戒していた。鹿でさえ、人間を見ると牙をむいて襲いかかってくる」
アーサーが古びた杖で地図上の一点を軽く叩いた。
「ここだ。王国最大の木材会社『ローレンツィア商会』が、この地域の独占的な伐採権を王宮から得ている。彼らが森林開発を進める区域と、魔物の出現報告が完全に重なる」
レオンは眉をひそめた。
「ローレンツィア商会……あの商会の会長は、王宮の財務顧問も務めている。
勇者パーティの資金援助者の1人だった」
「皮肉なもんだな」ガレスが嘲笑した。
「お前を追放した連中の金づるが、問題の根源かもしれないってのか」
4人は沈黙した。風が森の木々を通り抜け、不気味なうなり声のように聞こえた。
キースがまず動いた。
「とにかく、森に入る。だが、注意しろ。ここ数日で、森の空気が変わった。魔物の臭いだけじゃない…何か別のものの気配がする」




