第10話 深緑の森の魔物
彼らは深緑の森へと足を踏み入れた。
すぐに、周囲の光景が変わった。
外から見るよりもはるかに古く、深い森だった。
巨大な樹木が空を覆い、地面には分厚い苔が絨毯のように広がっている。
しかし、そこかしこに不自然な傷跡があった——新しい切り株、引きずられたわだち、そして、無造作に捨てられた伐採用具。
「ローレンツィア商会の作業現場だ」
アーサーが杖で切り株を指した。
「だが、注意して見ろ。この切り口……普通の斧やノコギリの跡ではない」
レオンがしゃがみ込み、切り株を詳しく調べた。
確かに、木の断面には不規則な裂け目があり、まるで何か巨大な牙でかみ砕かれたかのようだった。
突然、ガレスが鎧の袖を挙げた。「音がする」
遠くから、重たい足音と、木々が倒れる鈍い音が聞こえてきた。
それに混じって、人間の叫び声——恐怖に震える声だった。
「行こう!」
レオンが即座に駆け出した。
4人が音のする方向へ急ぐと、すぐに広い伐採跡地に出た。
そこには、ローレンツィア商会の作業員たちがパニックに陥っているのが見えた。
馬車は横転し、木材は散乱していた。
そして、彼らを取り囲むように、異形の魔物たちがうごめいていた。
「あれは……」レオンが息をのんだ。
魔物たちは、木の皮のようなうろこに覆われ、枝のような腕を持ち、根のように絡み合った足で地面を踏みしめていた。
しかし、最も不気味だったのは、それらの魔物の体のあちこちに、人間の伐採道具——斧の刃やノコギリの歯——が埋め込まれ、一体化していることだった。
「森の精霊が……歪められている」アーサーが呟いた。
アーサーの目に怒りの色が浮かんだ。
「これは自然の魔物ではない。何者かが、森の精霊に人工的な『傷』を負わせ、暴走させている」
一匹の魔物が、斧の刃が埋め込まれた腕を振り上げ、逃げ遅れた作業員に向かって襲いかかろうとした。
レオンは迷わなかった。かつての輝く聖剣はもうないが、彼は腰の頑丈な長剣を抜き放ち、魔物との間に飛び込んだ。
「ガレス、右から!キース、狙いを定めて!アーサー、防御魔法を!」
かつての勇者パーティを率いていた時と同じように、指示が飛んだ。
しかし、彼らの間には、上下関係も形式的な役割分担もなかった。
ただ、互いを信じ、同じ目的のために戦う仲間たちがいるだけだった。
ガレスが咆哮を上げ、盾を持たずともその巨体で魔物の攻撃を受け止めた。
キースの放つ矢は、片目ながらも魔物の急所を正確に射抜く。
アーサーの詠唱する古い魔法が、歪められた精霊たちを一時的に鎮める光の檻を作り出した。
レオンの剣が、斧の刃が埋め込まれた魔物の腕を切り落とした。
その瞬間、魔物から苦悶の叫びではなく、木々が風に揺れるような、悲しげなすすり泣きが聞こえた。
「これで終わりだ」レオンが呟き、とどめの一撃を加えようとした。
その時、森の奥から轟音が響いた。地面が震え、木々が激しく揺れた。そして、すべての魔物たちが突然、攻撃を止め、一斉に森の奥深くへと引き返し始めた。
「何が起こった?」ガレスが荒い息を吐きながら尋ねた。
アーサーが杖を握りしめ、森の奥を睨んだ。
「奴らを操っている何かが……呼び戻した」




