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「雨が止む前に」
世界が崩れていく音は、
案外、静かだ。
塔が崩れ、
空が割れ、
怪物が塵になっていく。
でも彼はまだ迷っている。
優しいから。
怖がりだから。
透は、わたしを見ている。
選びたくない顔で。
ああ、本当に。
最後まで、そうなんだ。
わたしは傘を閉じる。
この世界で最後の雨が、髪を濡らす。
「帰りなよ」
わたしは笑う。
うまく笑えているといいけれど。
「私を選ばないで」
その言葉は、本当だ。
彼がここに残れば、
わたしは続く。
でも、それは彼の始まりじゃない。
わたしは知っている。
あの日のブレーキ音の瞬間。
彼は、ほんの一瞬。
前に出ようとした。
それで十分だ。
だから今度は、
ちゃんと最後まで。
ねえ、透。
あなたは優しくなんかない。
強いんだよ。
選ぶことを、怖がるくらいに。
空が割れる。
光が差す。
彼の手が、わたしの手を離す。
痛くない。
わたしは最初から、
触れられる存在じゃなかったから。
でも。
もし、目を覚ましたら。
傘を持って。
雨の中を歩いて。
ちゃんと、濡れて。
それでも前に進んで。
それが、あなたの物語。
わたしは、ここまで。
さよなら。
――ああ。
やっと、雨が止む。




