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ウイニングショット  作者: 中村鉄也
第1章~改革前夜、「英雄」たちの大集合~
10/15

衝撃一本のドラフト指名

 その後、他球団の1位指名が続々と決まっていった。競合を外した球団同士で再度抽選がありながら、無事に16球団すべての1位指名選手が決まった。


「ふう~。なんとか1位決めれたなあ…しかし、渡辺獲れんかったのは痛いなあ」


 神戸ブルーレイズのテーブルにて、清畑監督が天を仰いだ。隣に座る、ヘッドコーチの長見が同調する。


「攻撃ではトリプルスリーが狙えるスペックがあって、守っても広い守備範囲と強肩…。センターラインの強化にもってこいの逸材ですもんね」

「あの娘っ子…。インタビューの落ち着きようもそうやけど、1位くじを引くっていう大仕事をこなしきるあたり、ただもんやないな。和歌山フェニックス、要注意やな」



 その頃の、和歌山。紀州ボールパークに隣接する和歌山フェニックスの選手寮、「紀鳳館きほうかん」。その食堂には選手たちが集まってドラフト中継を見ていたが、ここでも渡辺小次郎の獲得に沸いていた。


「すげえなあ、オーナー。見事に引いちまったよ、当たりくじ。就任早々大仕事だぜ」


 感嘆の声を漏らしたのは木村だ。それに山田も頷く。


「オーナーも凄いし、あの渡辺さんがうちに来るのか…。これは攻守において頼もしい存在だぞ」

「おうおう、ヤマ。それじゃ俺が頼もしくないみたいじゃねえか」


 そこに横やりを入れてきたのは高橋だ。


「まあ、守るポジションは違うが、だからと言って打順まで譲る気はねえ。プロの四番ってもんを見せてやらあな」

「気合入ってんな、しゅうさん。ま、あんたの長打は確かに頼もしいし、来年は大爆発たのんまっせ」

「おうキム。任せとけ。最終戦で見せたようなどんでん返しを毎試合してやっからな!」


 そんなやり取りを遠巻きに見て、加藤は他とは違った思いを巡らせた。


(あの夏の勝者と敗者が同じチームになるってことか…。どんな化学反応になるのか、楽しみであり怖くもあるな…)


 そしてふと思い出し、少し青ざめる。


(あれ?…ってことはこのあとの指名で…)


「ん?どしだんだ?加藤がとう

「い、いや…何でもないっす」


 竹内に聞かれたが、加藤ははぐらかし足早に自室へと戻っていった。




『第2回選択希望選手、和歌山』


 その後、ドラフトは2位以降の指名が始まっていた。日本プロ野球のドラフトでは、簡単に言えば、2位指名は下位球団から順番に指名していき、次の順位では上位球団から順繰りに指名する。順位が下がるごとに、指名順番が行ったり来たりするというわけである。下位からの順番をウェーバー方式、上位からの手順を逆ウェーバー方式といい、ここに重複指名はない。球団ごとの資金力に差があるために、有力選手が偏らないようにという目的でこの方式を取り入れているのだ。このほか契約金に関する事項もいくつかあるが、ここでは割愛させていただく。


 1位で小次郎を獲得した和歌山は、2位指名でも再び会場を沸かした。


『ジャック・直人・ロビンソン、22歳。外野手、米大リーグ・ロサンゼルスロジャーズ』


「ロビンソン!?もしかして、ロビンソンの息子か」

せがれさんが今年メジャーデビューしたって聞いてたけど…そういや生まれは日本だったか…」


 清畑、不動がそれぞれ目を丸くする。二人は杉山監督の下でプレーしていたころ、ジャックの父親であるジェフリーとチームメートだった時期があり、息子の存在は知っていた。彼の指名もまた、美穂のアイデアであり、杉山監督からの口添えだった。


「正直言って、メジャーデビューをしていましたから可能性は低かったですが…当人が乗り気でしたからねえ。私からもジェフに頼みはしましたが、二つ返事とは驚きましたね」

「これも、健一君たちの縁の成せる業ですよ。ともかく、強力な左打ちの外野手が二人入っただけでも子のドラフトは『当たり』ですわ」

「もっとも、当たりとするか否かはその後の活躍次第ですがね」


 誇らしく語った美穂に、杉山監督はにこやかにくぎを刺す。美穂はそれに苦笑した。

 一方、テレビの前で木村もまた興奮していた。


「ロビンにいがくるなんてやべえ!飛距離は桁違い、足は爆速、肩もレーザービーム…いうことねえぜ。あの渡辺と右中間や左中間を組んだらもうヒットゾーンはねえって言っても過言じゃねえぜ」

「へ、へえ…だが、『左の大砲』の座は譲らねえぜ」


 対して高橋が顔をっ引きつらせていた。



『第3回選択希望選手、和歌山。林信彦、22歳。投手、湘南大学』


 そして、大学生活のうちほぼ3年を棒に振った林を3位で指名した。今シーズンから実践復帰を果たしたばかりで大学球界のドラフト候補の中では実績は乏しいが、報告を受けた杉山監督は、そのポテンシャルを評価し指名を決めた。


「監督、信じていただいてありがとうございます。部長には最後まで渋い顔をされてましたけど、ブルペン捕手として10年やってきた経験を信じてよかったです」


 林を注視してきた担当スカウトの土屋つちやがそう頭を下げた。立つ瀬をなくしている片山部長とは対照的に、杉山監督は穏やかな笑みを浮かべる。


「ブルペン捕手は、投手の状態を見極めるのが仕事ですからね。何万球とボールを受け続けた感覚を信じますよ。私ももとは捕手でしたからその感性は共感しますよ」


『第4回選択希望選手、和歌山。中村政信、18歳。外野手、近江長浜高校』


 4人目は高校生を獲得したが、その名前にざわついたのはわずかなほど無名の存在だった。が、反応した面々は「まさか獲るチームが出るとは…」という反応だった。その理由は、彼の身体の小ささだった。


「165㎝64㎏…正直言って、小学生にすら負けそうな体格ですね」

「ですが、彼はまさに『野球するために生まれた』…そう言っていいセンスの持ち主です。俊足で強肩、さらに変化球打ちも上手いだけでなく長打力もあります。何せ、チームでは四番を任され高校通算で33本塁打。正直、取っていい選手だと思いました」


 力説するのは、彼の担当スカウトを務めた馬場ばば。現場主義者で片山部長よりもスカウト歴も年齢も上だが、昇進を断り続け今でも全国を飛び回っている。ちなみに、竹内や山田を担当したのも彼だった。


「映像を見せていただきましたが、プロのパワーにも十分負けないほどのポテンシャルがありました。育ててみる価値は大いにありますね」

「ええ。おもしろい存在になるかもしれません。噂では、渡辺選手に憧れているらしいですわ」

「それはいい。ひょっとしたら、入団交渉のカードになりそうですね」


 美穂からの追加情報に、杉山監督はほおを緩めた。一方で、福岡の不動監督はフェニックスの指名に君の悪さを感じていた。


「読めない指名しやがるな、あいつら。大物釣りの後は確証のない才能の塊ってか」

「どういうチーム作りを考えているんでしょうね」

「ま、その手綱を握ってるのは杉山さんだ。敵ながら、その調理方法は楽しみではあるな」


 傍らのフロント陣に、不動監督はそう嘯いた。指名はなおも続く。


『第5回選択希望選手、和歌山。上田浩二、21歳。投手、マツデン簑島ベースボールクラブ』


「おお!上田のパイセン!ロビン兄に続いてまた先輩が入ってきた!」

「な、なんだ?お前の先輩か」


 テレビの前で、木村は弾けるように立ち上がった。驚いた山田が尋ねる。


「俺の高校の1つ上の先輩さ。お前知らねえか?高校生ナックルボーラーって話題になってたんだぜ!」

「…あ~。そういやいたなあ。なんかメジャーリーグでも通用するとかって…言われてたような」

「あの人のナックルはマジでエグイんですって。うーわマジか。これは楽しみだなあ」


 高橋が思い出したように言う傍らで、木村のテンションは高まるばかりだった。ちなみに美穂も彼の存在を知り、健一たちとともにテストを受けるか、妹の和美を通して連絡を取ったが「自分は自分の力で指名を勝ち取りますよ」と断っていた。ちなみに、彼を担当していた西山スカウトは「木村の先輩」という部分しか知らず、美穂の行動は一切気づいてはいない。


「高校から見てたんですけどね、ナックルのキレはほんとにすごいし、一辺倒じゃなくてチェンジアップを織り交ぜながら翻弄する投球術は一級品ですよ」

(有言実行…とでも言いましょうかね。あの高校の世代は、何よりも『逞しい』ですね)


 喜々として語る西山を見ながら、笑いをこらえる美穂と合わせて杉山監督は内心で苦笑した。独自色を全面に打ち出しながら、ここまで5人の選手を指名。続く6位指名で、いよいよ佳境に入る。


「さてオーナー、いよいよですね」

「ええ。覚悟はできてます」

「フフフ。ドラフトの主役はいよいよ我々になります。楽しみですねえ~」

「…」


 杉山監督と美穂のやり取りを見て、片山部長は目を逸らす。他人事のようににやける杉山監督を気味悪くも思った。


『第6回選択希望選手、和歌山。鈴木健一、22歳。投手、紀ノ川自由大学』


 瞬間、会場がどっとざわめいた。


「鈴木健一…聞いたこと、あ!!」

「ま、まさかこの鈴木ってあの!?」

「甲子園優勝後行方不明だった?!」

「な、何て言った?聞いたことない大学だぞ」

「まさか囲い込み!?どういうことだ!!」


「お、おいスカウト部長!お前ら鈴木のこと知らんかったんか!?」

 清畑監督も思わず立ち上がって、同席していたスカウト部長に掴みかかる。

「え、ええ…。だって主要どころか地方の大学リーグにも網を張っていたのに…そこですらプレーしてませんでしたから」


「…やりやがったな。ずいぶんとまあ…」

 不動監督はしてやられたと笑うしかない。そんな状況の中、杉山監督は笑いをこらえていた。


「ホホホ。皆さん大慌てですねえ。ですが、まだ『始まったばかり』ですよ」


 ざわめいていたのは、紀鳳館の食堂も同じだった。


「あ、アニキがくる…まじかよ…」と木村はただただ茫然としていた。だが、その表情は輝いてもいた。



 そこから和歌山フェニックスは、いわば『震源地』としてドラフト会場を大いに揺るがした。例年、7位指名以降は球団の支配下選手(一軍でプレーできる資格を持つ選手)の保有枠の関係もあって、ここで『選択終了』を宣言する球団も多く、会場は徐々に活気を失っていく。だがこの年は、和歌山の指名選手が発表されるにつれて、そのたびにどよめきが起き続けた。


『佐藤大輔、22歳。捕手、紀ノ川自由大学』

『山本真也、20歳。内野手、東京大学中退』


 7位の大輔よりも、8位の真也のほうがざわめきは大きかった。林のように故障で表舞台から遠ざかっていた大輔に対し、入学早々からその守備力で東京六大学で名を上げた真也。現状の知名度の差と言えた。

 そしてほとんどの球団が指名を終了し、熱量も冷め始めた会場で、日本球界を揺るがさんばかりの指名が起きる。


「さあ、いよいよですよオーナー。ここから、あなたには相応の逆風が吹き荒れるでしょう」

「心配ご無用ですわ、監督。むしろ、提案を受け入れていただけたこと、改めて感謝しかありませんわ」

「死に損ないの老いぼれには、よい退屈しのぎです。あの二人もまた、好奇の目と戦うことを決めたのですから、監督として懸命に見守るまでですよ」


 少し引きつりつつも表情を作り直した美穂に対して、杉山監督は終始穏やかだった。そして、その名がアナウンスされた。


『第9回選択希望選手、和歌山。清水優子、21歳。投手、元女子プロ野球、京都ヴァルキリーズ』


 瞬間、会場はもちろん中継を観ていた人々も凍りついた。まさかの女性選手の指名である。和歌山に対する視線は、戸惑いから怒りに変わりつつすらあった。そこにとどめの10人目だ。ドラフトは1球団につき支配下選手指名は10人までという制限がある。和歌山以外の15球団は『選択終了』としているため、今年度ドラフト最後の指名となる。


『第10回選択希望選手、和歌山。田中友理、22歳。内野手、紀ノ川自由大学。以上の指名をもちまして、今年度ドラフト会議の支配下登録選手の指名を終了といたします』



「な…なんなんだこの指名はよぉ!!せっかくいい指名してたのに台無しじゃねえか!!」


 食堂のテレビに向かってそう怒鳴ったのは高橋だった。他の選手たちも困惑や怒りの表情を浮かべている。


「あの監督、何考えてるんだ?最後の最後のおふざけが過ぎるぞ」

「これってもしかしてオーナーが関わってんのか…?大丈夫なのかよこのチーム」

「女二人もそうだけど…東大生の指名?どういうことなんだ?」



 終了後の囲み取材も、当然ながら女性選手の指名、それも二人も取ったというところの質問に終始した。


「杉山監督、最後の2選手の指名についてなんですがその意図をまずお伺いできますか?」

「どれだけ実力があるとしても、女性を男性の世界に入れるというのはいかがなものなのか…勝算はあるんですか?」


 一斉にマイクを向けて質問を矢継ぎ早に送る記者陣に対し、囲われた杉山監督はそれでも笑顔を見せていた。


「おやおや、第一声が最後の2名についてですか…。お気持ちはわかりますが、我々は大学球界最大の注目株と若きメジャーリーガーを獲得したんですよ。まずそれについての質問をするべきでしょう。でなければ、指名された選手に対しても失礼ですよ」


 その言葉に毒気を抜かれた記者団はしばし沈黙。それを破ったのも杉山監督だった。


「まあ、その意図を先に言っておかないといけませんかね…。先に指名された選手たちも混乱しているでしょうから。一言で言えば、ちょっとしたカンフル剤ですよ。私は来シーズン、このチームを大きく改造する予定ですのでね」

「と、いいますと…」

「先の戦力外通告で主力打者を多く放出しましたが、この和歌山フェニックスははっきり言って『病人』です。それも、『そんなに弱くない』という、下手な弱小球団よりも重篤なね。なぜなら、新興の4球団がいずれもプレーオフには出ているのに、このチームはそれすらないのがその証明です」

「つまり、この女性選手たちはそれと?」

「彼女たちだけじゃありません。おそらくあなた方の中にも誰かはいるでしょうが、今回のドラフトで我々が指名したのは、そのほとんどが4年前の夏の甲子園で優勝した和歌山平成高校の、もっと広く言えばその決勝戦で戦った選手たちばかりですよ」


 記者団の中に、明らかに顔色が変わった記者が数名。杉山監督はニヤリとしてつづけた。


「もっと遠慮なく言えば、これは『宣戦布告』とでも言いましょうかね。それも、チーム内に向けた」

「え?」


 頭にハテナを浮かべたような記者に、杉山監督はスッと笑みを消し、目を据わらせた。


「『俺は違うぞ』『ふざけるな』『こんな指名をした監督を黙らせてやる』…そう思っているなら春のキャンプで見せなさい。その意気込みを、形としてね。戦力外にせず、残して()()()私の判断が正しいものであることを示しなさい。それだけです…。では、1位指名した渡辺君からの感想を語りましょうか」


 杉山監督の表情は、また柔和なものに戻っていた。

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