表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

【第6話】「宰相グラヴィスの告白 〜グラヴィス視点〜」

私の名はグラヴィス。

十一歳の頃、奴隷市で売られていた私を、皇城の宦官長が買い上げた。

彼のもとで雑務をこなすうちに、皇宮の礼法や政務の基礎を学ぶ機会を得た。

それが、私の運命を変えた始まりだった。


掃除、雑用、雑兵の訓練の世話。

誰も見向きもしない仕事ばかりだったが、私は決して怠らなかった。

いつしか胸の奥に、ひとつの信念が芽生えた。

――いつか、この国の中枢に立つ男になる、と。


寝る間も惜しんで学び、時に命を賭して仕えた。

その努力がようやく実を結び、皇帝陛下の目に留まる。

側仕えを経て、戦場で手柄を立て、さらに内政改革でも功を挙げ、

皇帝陛下からの信任と皇妃アマデル様の推薦を受け、

三十歳にして宰相の座に就いた。


私は確かに、野望の果てに立っていた。

いつしか抱いたのは、皇帝すらも掌の上で操るという危うい夢。

けれど――その夢は、ひとりの少女との出会いで音を立てて崩れ去った。


彼女の名は、ジェニエット。

皇帝と皇妃の間に生まれた第一皇女。

まだ私が陛下の側仕えだったころ、初めてお見かけしたその日から、

あの方は私の心の奥に居座り続けている。


あの日――。

庭園の噴水のそばで、陽を浴びながら笑うその姿。

銀の髪が風に舞い、笑みが光の粒のようにきらめいた。

すぐにメイド長に叱られてベールを被ったが、

その一瞬の微笑みだけで、世界がまるで変わって見えた。


奴隷上がりの私が、望んでよいお方ではない。

それは、誰よりも分かっていた。

それでも――

「彼女が手に入るなら、命さえ惜しくはない」

そう、心の底から思ってしまった。


やがて宰相となった私に、皇妃アマデル様は言った。

『あなたほど忠実な臣下なら、皇女ジェニエットの夫にふさわしいでしょう』

それが、すべての始まりだった。


それが皇妃アマデルの策略の一つであると分かっていても、構わなかった。

野望は棄てた。この身が駒として使われても、

ジェニエット様の傍にいられるなら――それでいい。


婚約してからというもの、私は幾度も贈り物を送り、

幾度も愛を囁いた。

だが、彼女の瞳はいつも冷たく、笑みは一度もなかった。


「心がほしい。どうか、私の名を呼んでほしい」

その願いだけが、私を生かしていた。


――そしてある日、奇跡が起きた。


彼女が頭を打ち、数日間意識を失ったあと。

目を覚ましたジェニエット様は、まるで別人のように私を見つめた。

その瞳は温かく、柔らかく、そして――

まるで恋する乙女のように、私に向けられていた。


信じられなかった。

だが、日を追うごとに彼女は私を呼び、微笑み、言葉を交わしてくれた。

私は浮かれていた。ようやく想いが届いたのだと、信じていた。


けれど、心のどこかで囁く声があった。

――これは、夢ではないのか?


その疑念が確信へと変わったのは、あの日のことだ。


訓練場で隊長たちと話していた私のもとへ、

陽射しの中を歩いてくる彼女の姿が見えた。

息が止まるほど嬉しかった。思わず声を上げる。


「ジェニエット様……! どうされましたか!」


「グラヴィス様にお会いしたくて……お邪魔でしたよね?」


頬を染めたその表情に、胸が熱くなる。

だが、次の言葉がすべてを砕いた。


「母上が、“お兄様たちのことをよろしく”と伝えてほしいと……」


――ああ。やはり、皇妃アマデルの命令か。


笑うしかなかった。

「無理はなさらぬように」とだけ告げた自分が、情けなかった。


彼女が無理をしているとは、思いたくなかった。

けれどあの優しい瞳の奥に宿る“本当の気持ち”を、

私はまだ、信じきることができずにいた――。



---


グラヴィスの一途さ、伝わったでしょうか?

皆さんはどのシーンが一番ぐっときましたか?

感想や推しポイント、ぜひコメントで教えてくださいね!

次回もお楽しみに✨



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ