番外編15∶約束の夕刻と、罰の庭園
ジュリアは、ピナの叫び声のする庭園へと駆け出した。
息を切らしながら辿り着いた先――
そこにあった光景に、足が止まる。
衛兵に押さえつけられ、鞭を打たれているピナ。
その細い体が打たれるたびに跳ね、悲鳴が響く。
そして――それを見下ろす、父グラヴィスの姿。
「……え……」
信じられない光景に、思考が止まる。
だが次の瞬間、ジュリアははっと我に返り、駆け出した。
「父上!!なぜピナをこんな目にあわせるのですか!?やめてください!!」
その声に、グラヴィスがゆっくりと振り向く。
「……ジュリア」
そして、ふっと表情を緩めた。
「帰って来たんだね。無事で良かった」
そう言って、何事もなかったかのように優しく抱きしめる。
背後では、なおも――
パシン、と乾いた音が響く。
(なに……これ……)
温かいはずの腕の中で、ジュリアの背筋に冷たいものが走る。
(いつもの父上……なのに……どうして……)
グラヴィスはジュリアの肩に手を置き、静かに問いかけた。
「ジュリア……ベールはどうしたんだい?」
その間にも、ピナの悲鳴が続く。
ジュリアは首を振った。
「それより、やめさせてください!ピナが……!」
傍らに控えていたジェニエットも口を開く。
「グラヴィス様、おやめください。このままでは……」
だがグラヴィスは、わずかに眉を寄せただけだった。
「話を逸らしてはいけないよ、ジュリア」
穏やかな声。だが、その奥に冷たいものがある。
「君はこの国の宰相の娘であり……私の宝だ」
「その君を危険に晒した。職務を怠った者には、相応の罰が必要だ」
――パシンッ!!
鋭い音に、ジュリアの体がびくりと震える。
(違う……違うの……私が……)
「お願いです……やめてください……!」
涙が溢れ、声が震える。
「悪いのは……私です……!私が勝手に外へ……!」
その言葉に、グラヴィスは一瞬だけ目を細めた。
そして、ふっと息を吐く。
「……もう良い」
「そのメイドを手当てしてやれ」
鞭が止まる。
ピナの体が力なく崩れ落ちた。
ジュリアは思わず駆け寄ろうとする――が、
「ジュリア」
低い声に呼び止められ、足が止まる。
振り向くと、グラヴィスが静かにこちらを見ていた。
「これは、主である君の責任でもあるのだよ」
逃げ場のない言葉。
「これを機に、よく考えなさい」
そして、淡々と告げる。
「しばらく外出は禁止だ」
「……っ、そんな……!」
思わず声が漏れる。
(明日……約束したのに……)
だが、視界の端に映る――
血に濡れ、動かないピナの姿。
その瞬間、言葉は喉で凍りついた。
――何も、言えなかった。




