番外編10∶宰相の娘は天然でした。属国王子の理性がもちません
ジュリアは一歩近づき、そっとアンリの手に触れた。
そして、金色の瞳をまっすぐ見つめる。
「私、あなたが忘れられなかったの」
アンリの心臓が大きく跳ねた。
ジュリアは続ける。
「ずっと、会いたいと思ってたわ」
その瞬間だった。
アンリの顔が、カァッと一気に赤くなる。
「……っな、なにを……!」
思わず声が裏返る。
だが当の本人、ジュリアはきょとんとしていた。
彼女にとっては、思ったことをそのまま言っただけなのだ。
ジュリアは少し首をかしげる。
そしてふと思い出したように言った。
「アンリは、この辺りのこと詳しいのかしら?」
アンリは眉をひそめる。
「……は?」
ジュリアはにこっと笑った。
「もしよかったら、案内してくれる?」
アンリは完全に調子を狂わされていた。
「……なぜ私がそんなことを」
王子としての威厳を取り戻そうとするが、声がどこか弱い。
するとジュリアは一歩近づき、うるんだ瞳でアンリを見上げた。
「あなたがいいの」
そう言って、少しだけ首を傾げる。
「お願い」
その破壊力は凄まじかった。
アンリの顔が、さらに真っ赤になる。
「……っ」
しばらく言葉が出ない。
そして視線をそらし、小さく呟いた。
「……少しだけなら」
その声は、どこか悔しそうだった。
だがジュリアはぱっと顔を輝かせる。
「本当?」
アンリはため息をついた。
――
次回久々のグラヴィス登場回です。ジュリアとアンリの関係にも少し変化が……。




