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番外編7∶ 城下町の再会

その日からジュリアは、帝国の歴史を学び始めた。

今まで興味を持つことさえなかった分野だった。

けれど、あの夜――

ナグラート王国の王子、アンリと出会ってしまった。

彼の悲しそうな瞳が、どうしても忘れられなかったのだ。

ジュリアは母ジェニエットに頼み込み、歴史の講師をつけてもらった。

そして――知ることになる。

ナグラート王国の、あまりにも過酷な現実を。

かつて栄華を誇った王国。

豊かな土地と、誇り高い王家。

しかし十数年前。

ブリリアント帝国によって属国となったことで、すべてが変わった。

王族の権威は失われ。

国は帝国の管理下に置かれた。

重い税。

労働の強制。

そして、帝国貴族たちによる横暴。

ナグラートの民は、まるで奴隷のように扱われているという。

「そんな……」

ジュリアは言葉を失った。

胸が痛む。

これまでジュリアが見てきた世界は、美しく優しいものだった。

城の中では誰もが礼儀正しく、穏やかに振る舞う。

困っている者がいれば助け合う。

それが当然だと思っていた。

けれど――

「それが、現実です」

講師は淡々と言った。

「属国とは、そういうものなのです」

ジュリアは俯いた。

そしてもう一つ、知ってしまう。

ナグラート王国を属国へと追い込んだ作戦。

その中心にいた人物。

それが――

父、グラヴィス宰相だった。

「……父上が」

優しく、穏やかな父。

いつもジュリアの頭を撫でてくれる人。

その父が、冷酷な策略家として歴史に名を残している。

ジュリアの胸は強く締めつけられた。

「……本当なの?」

小さく呟く。

講師は静かに頷いた。

その日、ジュリアはほとんど眠れなかった。

そして数日後。

ジュリアはある決意をする。

「実際に城下町を見てみたいの」

お付きのメイド、ピナにだけ告げる。

ピナは必死に止めたが、やがて根負けし、協力することになった。

そうしてジュリアは、簡素な服に身を包み、お忍びで城を出た。

初めて歩く帝都の街。

人々の声。

店の呼び込み。

活気ある街並み。

けれど、少し奥へ入ると景色は変わった。

古びた建物。

痩せた子ども。

疲れた顔の大人たち。

そしてその中に――

「お願いです……もう許してください……」

震える声が聞こえた。

ジュリアは思わず足を止める。

路地の奥。

ナグラートの民族衣装を着た親子が、地面にひれ伏していた。

小さな子どもが泣きながら父親の服を掴んでいる。

「申し訳ありません……この子が、よそ見をして……」

どうやら子どもが帝国貴族の男にぶつかってしまったらしい。

父親は必死に頭を下げていた。

「ふん。属国の分際で口答えするな」

男は足で父親を蹴った。

「っ……!」

子どもが泣き声をあげる。

ジュリアの胸が強く痛んだ。

「やめて……!」

思わず駆け出そうとする。

その瞬間だった。

「――そこまでだ」

低い声が響いた。

全員の視線がそちらへ向く。

路地の入り口に、一人の青年が立っていた。

ジュリアは息をのむ。

淡い金の髪。

鋭い瞳。

凛とした立ち姿。

忘れるはずがない。

ナグラート王国の第五王子――

アンリだった。

アンリはゆっくりと歩み寄る。

そして親子の前に立った。

「その方たちを離していただきたい」

静かな声だった。

だが、確かな威圧感があった。

しかし貴族の男は鼻で笑う。

「ははっ」

嘲るような視線を向ける。

「誰かと思えば……ナグラートの王子じゃないか」

そして肩をすくめた。

「属国の王子ごときに、何ができる?」

路地に、嘲笑が響く。

アンリの拳が、ぎゅっと握られた。

「……」

肩がわずかに震えている。

怒りを必死に抑えているのが分かった。

ジュリアの胸が強く打つ。

アンリはゆっくりと顔を上げた。

その瞳には――

燃えるような怒りが宿っていた。

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