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番外編4∶宰相の娘と属国の王子

――その夜。

自室に戻ったジュリアは、窓辺に立って夜空を眺めていた。

「……はぁ」

小さなため息がこぼれる。

脳裏に浮かぶのは、庭園で出会った青年の姿だった。

月明かりに照らされた横顔。

真っ直ぐな瞳。

そして――どこか寂しそうな表情。

まるで夜空に輝く一等星のような人だった。

どうしてこんなに胸が震えるのだろう。

ジュリアはまだ知らない。

それが恋という感情であることを。

そのときだった。

コンコン、と扉がノックされる。

「ジュリア、起きているかしら?」

優しい声が聞こえる。

「母上?」

扉を開けて入ってきたのは、母ジェニエットだった。

「今日の宴の終わり頃から、少し様子がおかしかったから……心配で来てしまったの」

ジュリアは少し驚きながらも、椅子に座った。

そして少し迷ったあと、ぽつりと話し始める。

「……母上。実は今日、ナグラート王国の第五王子にお会いしたの」

ジェニエットはわずかに目を見開いた。

「でも……私が父上の娘だとわかった途端、とても冷たくなってしまって……」

ジュリアは視線を落とす。

「なぜなのかしら……」

ナグラート王国。

その名前を聞いた瞬間、ジェニエットの表情が少し曇った。

「……ナグラート王国」

遠い記憶を辿るように呟く。

そして静かに言った。

「ジュリア、それは……仕方のないことかもしれないわ」

「え?」

「ナグラート王国は、昔とても栄えていた国なの。でも――」

少し言葉を選ぶように間を置く。

「ブリリアント帝国の属国となったことで、王家の誇りも権威も……多くを失ってしまったの」

ジュリアは息をのんだ。

「今では王族であっても、宮廷では嘲笑の的にされることもあると聞くわ」

「……」

「だからきっと……私たちのことを、よくは思っていないでしょうね」

それを聞いたジュリアは、うつむいた。

「そうなの……」

声が震える。

「私、何も知らなかったわ。この国のことも……ナグラート王国のことも」

そしてぽつりと呟いた。

「彼は……苦しんでいたのね」

ジュリアの瞳が涙で揺れる。

そんな娘を、ジェニエットはそっと抱きしめた。

「大丈夫よ、ジュリア」

優しく髪を撫でる。

「今から知ればいいの」

「……」

「そして、私たちに何ができるのか考えていけばいいと思うわ」

その言葉を聞いたジュリアは、ゆっくりと顔を上げた。

瞳には強い決意が宿っている。

「母上」

「もっと教えてください」

真剣な声で言う。

「わが国とナグラート王国のことを」

そして続けた。

「そして……私に何ができるのか、考えたいのです」

ジェニエットは少し驚いたように目を見開いた。

だがすぐに、優しく微笑む。


ジュリアは初めて、国と歴史について深く学ぶことになるのだった。

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