番外編2:庭園で出会った青年(前編)
豪奢な音楽が流れる大広間。
ジュリアはぎこちない笑顔を浮かべながら、次々と差し出される手を取っていた。
「ジュリア様、次のダンスを」
「ぜひ私と一曲」
貴族の子息たちが代わる代わる彼女を誘う。
母ジェニエットの手前、断るわけにもいかない。
ジュリアは何曲かダンスを踊ったが、内心はすっかり疲れきっていた。
(もう無理……)
くるりとターンを終えたところで、ジュリアは胸に手を当てた。
「申し訳ありません……少し、気分が……」
周囲の子息たちは慌てた。
「大丈夫ですか、ジュリア様?」
「医師を呼びましょうか?」
「い、いえ……少し外の空気を吸えば大丈夫です」
そう言ってジュリアは軽く頭を下げ、そのまま会場を抜け出した。
長い廊下を抜け、扉を開ける。
夜風が頬を撫でた。
「はあ……」
ジュリアは深く息を吐く。
王城の庭園は、月明かりに照らされて静まり返っていた。
遠くでは噴水の水音が静かに響いている。
「やっと自由……」
靴を脱ぎたくなる衝動をこらえながら、ジュリアは庭の小道を歩いた。
その時だった。
「……誰だ」
低い声がした。
ジュリアは驚いて振り向く。
そこには一人の少年が立っていた。
月明かりの下で、銀にも見える淡い金の髪が揺れている。
背は高く、整った顔立ちをしていたが、その瞳にはどこか冷たい光が宿っていた。
「あなたこそ、誰?」
ジュリアは眉をひそめる。
こんな場所に貴族の子息が一人でいるのは珍しい。
青年はしばらくジュリアを見つめていた。
「……パーティーの客だ」
ぶっきらぼうに答える。
「あなたもか」
ジュリアは肩を落とした。
「逃げてきたの?」
青年の眉がわずかに動く。
「……まあ、そんなところだ」
その答えにジュリアはくすりと笑った。
「同じね」
しばらく沈黙が落ちる。
夜風が庭の木々を揺らした。
「……そのドレス」
青年がぽつりと言った。
「似合っている」
突然の言葉にジュリアは目を丸くする。
「え?」
「さっきまで不機嫌そうだったのに、今は楽しそうだ」
ジュリアは思わず頬を膨らませた。
「不機嫌じゃないわ」
「そうか?」
「……ちょっとだけ」
青年はわずかに笑った。
それはほんの一瞬の笑みだった。
ジュリアはその表情に、なぜか胸が高鳴るのを感じた。
「あなた、名前は?」
そう尋ねると、青年は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……アンリ」
それだけを告げる。
ジュリアは嬉しそうに微笑んだ。
「私はジュリア」
しかし――
二人はまだ知らない。
この出会いがどれほど運命的なものなのかを。
アンリは、
ブリリアント帝国によって属国となった国――ナグラートの王子。
そして彼は、
この帝国を深く憎んでいた。




