【第4話】推し悪役の心を揺らす、ベール越しのドキドキ
転生してから一週間ほどすると、ぼんやりとしていたジェニエットの記憶が、少しずつ自然に蘇っていった。
断片的な映像や感情が、まるで春の雪解け水のように流れ込み、私は気づけばジェニエットとしての感情さえ思い出し始めていた。
――グラヴィスとの結婚は、あと一ヶ月後。
そのことに気づいたジェニエットは、胸を高鳴らせながら思う。
「それまでに、もっと親密になりたいな…♡」
おつきのメイドであるメアリーは、急にグラヴィスとの結婚に前向きになった私を不思議に思っていたが、喜んでいるなら良いかと流してくれた。
国の重鎮である宰相と、皇帝の愛娘の結婚式なので、盛大なものになるらしい。
(グラヴィスが本当に私の夫になるんだ…)
そう思うと、胸がいっぱいになった。
今日はグラヴィスの執務室にお菓子を差し入れしに行こう♪
喜んでくれるかなぁ♡
そんな気楽な思いが、後で思わぬ結果を招くとは、この時はまだ知る由もなかった。
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メアリーにドレスを整えてもらい、口元に絹のベールをつけられる。
この世界では、家族や婚約者以外に女性が顔を晒すことは許されないらしい。高位の女性ほど規律は厳格だという。
しかし私は、メアリーに止められたにも関わらず、にっこり笑って言った。
「大丈夫よ、メアリー。王城だし、婚約者に会いに行くだけだもの」
そして、ベールをそっと外した。
廊下を歩くと、召使いたちは皆ぴたりと足を止め、深くお辞儀。目を伏せ、私の顔を見ないようにしている。胸を高鳴らせながら、グラヴィスの執務室前に立った。
扉の前の衛兵に取り次いでもらうと、部屋の中から慌てた声が響いた。
「なに!?ジェニエット様が!」
(そっか、ジェニエットとして会いに来たのは初めてだものね♡)
私は小さく笑いながら、中に足を踏み入れた。
すると、グラヴィスとその部下の視線が私に集中した。
ベールなしの私を見た瞬間、グラヴィスの目が大きく見開かれ、部下に向かって叫ぶ。
「顔を下げよ!ご尊顔を見るとは何たる無礼!」
部下は慌てて頭を下げる。
「ハッ!申し訳ございません!」
しかしグラヴィスの怒りは収まらず、腰の剣に手をかける。
「いや、許さん!死罪だ!」
私は思わず駆け寄り、手を握って止めた。
「やめて…!ごめんなさい。私がベールをつけずに急に来たから…!」
グラヴィスは私に向き直り、優しい表情になった。
「…このようなお見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。
しかしこやつは頭も下げず、貴方様のご尊顔を直視しました!死罪に値するかと…」
(顔見せちゃうの、そんなにダメだったの…?嫉妬して怒るグラヴィス、可愛いけど死罪はやりすぎ…!)
私は涙目でそっと言った。
「全部私が悪いのです。メアリーにも止められたのに…。本当にごめんなさい。早く会いたくて、そのまま来てしまいました。許してください」
グラヴィスは顔を真っ赤にして、ブツブツと呟く。
「ジェニエット様が…私に早く会いたくて…?信じられない…」
剣をおろし、表情はさらに優しくなる。
「差し入れも持ってきました。休憩にご一緒にお茶など、いかがでしょうか?」
小首をかしげて差し出す私に、グラヴィスは喜びのオーラを全開にした。
「私に差し入れを…!…コホン。今回は許そう。ジェニエット様の優しさに感謝せよ」
部下も恐縮しながら頭を下げる。
「感謝します!」
私は自分の軽率な行動に反省しつつも、胸が温かくなるのを感じた。
(あぁ、やっぱりグラヴィス可愛いなぁ…♡)
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今回は、ジェニエットがベールを外してグラヴィスと向き合うお話でした。
グラヴィスの思わず赤くなる姿、皆さんはどう思いましたか…?
ジェニエットの行動、可愛いと思った?それとも大胆すぎ?
ぜひ感想やキュンポイントをコメントで教えてくださいね♪