◇番外編②◇ “推し”という言葉の意味
月日は流れ、あれから五年。
ジェニエットとグラヴィスの間に生まれた娘はジュリアと名付けられ、蝶よ花よと大切に育てられた。
ジェニエットは、カナデだった頃の記憶を物語にし、夜になるとジュリアに読み聞かせていた。
それは――自分が“推し”の人に出会い、愛し、幸せを掴んだ物語。
ジュリアはその話が大好きで、何度も「もういっかい!」とせがんでくる。
そしてある夜、首を傾げながら聞いた。
「母上? この物語に出てくる“おし”ってなぁに?」
ジェニエットは優しく微笑みながら答える。
「“推し”っていうのはね、その人が生きてるだけで幸せで、その人を幸せにしたいって思えるほど好きってことよ。私の“推し”は――父上なの」
「……!」
ジュリアは目を丸くし、それからキラキラとした瞳で言った。
「わたしも、おし見つける! 母上と父上みたいになる!」
その言葉に驚くジェニエット。
するとジュリアは椅子からピョンと飛び降り、近くにいたグラヴィスのもとへ駆け寄った。
「父上! 今のわたしのおしは父上よ!」
グラヴィスは一瞬目を見開き、そして微笑んで頭を撫でた。
「それは光栄だな。ずっと君のおしでいられるように頑張らねば」
その光景を見つめながら、ジェニエットの頬に一筋の涙がこぼれる。
――この世界に来て、愛する人と出会い、こうして家族を持てた。
現世に未練がまったくないわけではない。けれど、今この瞬間を過ごせることに、後悔はない。
私は今、幸せです。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
5歳になったジュリアと、ジェニエット、グラヴィス。
三人のやり取りを書きながら、私自身もすごく幸せな気持ちになりました。
“推し”って、時代や世界が違ってもやっぱり素敵な言葉ですね✨
もし「ジュリアが成長したお話」や「次の世代の物語」も読んでみたい、
と思ってもらえたら――ぜひ感想などで教えてください!
皆さまの声が、次の物語を生む原動力になります。
今日も読んでくださって、本当にありがとうございます。
次回、グラヴィス視点のお話です✨




