【第2話】推し悪役、目の前に現る!
朝の光が、豪奢なカーテンの隙間から差し込む。透き通るような金色の光は、ただ眩しいだけでなく、私の胸をざわつかせた。
「……ここは、やっぱり夢じゃないよね?」
薄絹の天蓋を撫で、銀色の髪を指先で触れる。手触りは現実のものだ。間違いなく、私はジェニエットとして転生してしまった。
部屋の扉がノックされ、メイドの落ち着いた声が聞こえる。
「ジェニエット様、失礼いたします。グラヴィス様が、お見舞いにお越しになりました。よろしいでしょうか?」
(……グ、グラヴィス!?)心臓が跳ねる。小説で何度も泣かされたあの宰相が――。
私の脳内は瞬時にフル回転。
小さく頷き、答える。
「……ええ、入ってもらって」
扉が静かに開き、そこに立っていたのは――文面通り、いやそれ以上に男の色気を漂わせたグラヴィスだった。
(わぁ、本物のグラヴィスだ…!小説で読んでた時のイメージ通り!いやそれ以上にカッコいい♡ 確か今31歳だっけ?少し渋みもあって良い!あー、でもジェニエットからしたら確かに年上すぎるし、怖く見えるかもなぁ…)
長身、鍛え上げられた体、黒髪を後ろで束ねた整った姿。琥珀色の瞳、冷たさと威厳のある雰囲気と整った顔立ち……
(やばい、やばい、思っていた以上にカッコいい……目が離せない……)
グラヴィスは静かに頭を下げ、礼をする。
「ジェニエット様、失礼いたします。体調はいかがでしょうか」
その声……低く落ち着いていて、お腹の奥にじわりと響く。
(……きゃあ♡ 本物だ……夢じゃない!触ってもいい!?いや待て落ち着けカナデ!!)
私はベッドに座ったまま、心の中で暴走。
小説の中でしか知らなかった彼が、目の前にいる――しかも私に話しかけている――。
「……ありがとうございます、グラヴィス様」
声はなんとか平静を装うけれど、内心はもうパニック状態。
グラヴィスは控えめに距離を保ちながら、手元に小さな深紅の薔薇の花束を差し出す。
「お怪我が早く癒えますよう、心ばかりのものですが」
(……きゃっ♡ なにこの胸きゅんシチュ、心臓持たない……!)
花束を受け取りながら、私は思わず心の中で叫ぶ。
(推し悪役、目の前に現る!!救うどころか、もう落ちそう!!)
グラヴィスはベッドの横に立ち、短い会話を交わす。
「ご無理なさらず、休んでください」
(……やっぱり優しい……いや、優しすぎて罪……っ♡)
私はにっこり微笑み、口を開く。
「忙しいのに来てくれてありがとうございます。嬉しいです」
その瞬間、グラヴィスは固まった。
口元に手を当て、顔を赤くしながら小声でつぶやく。
「ジェニエット様が、私に微笑みかける…?夢でも見ているのか…」
(かっ、可愛い…♡推しが照れてる♡ そっか、ジェニエットから微笑みを返すことなんてなかったもんね……。これからは、いっぱい好きって伝えてあげなきゃ!)
ベッドの上で私は心の中で決意を新たにした。
深紅の薔薇の花言葉は「永遠の愛」「決して滅びぬ情熱」砂漠の中でも燃えるような愛です♡