表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

第8話 思わぬ掘り出し物

「リュシアナ様。店主が来られました」


 『世界』のカードを再び手にした日から三日後。私は正式な手続きで、あの店の経営者を王宮に呼び出した。


 表向きは、カリエンテ病の調査。店主の足取りを聞き、そのルートを知る必要がある、とお父様を説き伏せたのだ。


 とはいえ、簡単に承諾を得られたわけではない。だから「病に怯え、一歩も王宮の外に出ない、なんて王女としてあるまじき行為です」「引きこもり王女、と後ろ指を指されたくはありません」と訴えかけた結果、勝ち取ったのだ。


 そして、内実はカードの出所の他に、目的があった。


「ミサ、通して」


 私の声かけに扉へと向かうミサ。入れ替わるように、カイルが私の方へと近づいてきた。

 表情は硬く、全神経をミサの後ろにいる老婆へと向けられているのか、歩みも遅い。椅子に座っている私の背後へ回った時は、思わず背筋が伸びたほどだ。


「あなたが『忘れ()の小間物屋』の店主、グレティスですね」

「さようにございます、リュシアナ王女殿下。お初にお目にかかれて光栄です」


 杖をつきながらも、丁寧に礼をする姿に、さすがは元王宮付きの魔道具師だと思った。椅子に座る姿も、どこか洗練されているように見える。


 それなのに、『忘れ路の小間物屋』の中は騒然としていて……あまり褒められるようなところではなかった。


 まぁ、仕事ができる人でも、私生活はダメダメって人はよくいるからね。


 私は驚かないけど、ミサたちは違った。怪しい人物を王宮に呼ぶことに大反対。それならば、と素性を調べた結果。なかなかに凄い経歴を持っていたことが判明したのだ。


「病から回復されたこと、心から安堵いたしました。けれど私は――……」

「この度、あなたを呼んだのは、それを咎めるためではないわ」

「しかし……」


 まぁ、無理もないか。そういう名目で呼び出したのだから、ある程度の罰を受ける覚悟で来るのが当たり前だもの。


「もしかして、カリエンテ病の出所を、グレティスは知っているのかしら」


 私は城下に行った時の活気を思い出した。カリエンテ病が仮に流行っているのだとしたら、あんなに人で溢れていない。それならば、どうしてリュシアナが病に罹ってしまったのか。


 答えは簡単だ。彼女は魔道具師。あの薄暗い店内に、いくつか魔道具を設置していてもおかしくはない。


「そ、それは……」

「質問を変えるわ。故意に病をうつす魔道具ってあるの? 王宮付き魔道具師だったのだから、そのような希少な魔道具があるかないかくらい、当然、知っているわよね」

「っ!」


 グレティスは、年齢を理由に王宮から退いた。それでも故郷に帰らず、城下に留まったのは、おそらく背後に誰かがいるからだろう。

 商いを新たにするような年齢ではないことや、寂れたお店であったこと。これを考慮すれば、嫌でも分かる。被害に遭ったのがリュシアナ、ということも含めて。


「それから、城下ではカリエンテ病が流行っている、という噂を王宮に流す手腕。あなた一人でできるとは、到底思えないの」

「も、申し訳ありません」

「いいのよ。私の落ち度もあったことだから」


 とはいえ、今の私にリュシアナの記憶はない。前世の記憶は取り戻したけれど、肝心のリュシアナの記憶がない以上、グレティスを言及するのは難しかった。


 あの日、本当に何があったのか、はグレティスしか知らないのだ。


 いや、リュシアナと、グレティスの背後にいる者との確執も含めて。


「私からも謝罪させてください」

「ミサ?」

「そこまで入念に計画されていたことも知らず、姫様を城下へお連れしてしまいました」

「頭を上げて。その謝罪は、もうすでに何度も受け取っているわ」

「しかし……」


 忠誠心の厚いミサからしたら、万死に値するレベルなのだろう。本当にそうされたら困るから、謝罪を受ける度に「気にしないで」「大丈夫だから」と言っていたんだけど、ミサの中では、なかなか処理できない事案のようだった。


 グレティスの顔色も悪い。背後にいるのがあの人なら、ここに来たのも、相当な覚悟があってのことなのだろう。


 とかげの尻尾切りなんて、よくあることだもの。とはいえ、グレティスを擁護できる力を、今の私は持ち合わせていない。

 今回グレティスをここに呼ぶことだって、お父様とお兄様は反対したのだから。


「それでも私に悪いと思っているのならば、ミサとグレティス。それぞれに頼みがあるの。聞いてくれる?」

「な、なんでしょうか?」


 二人の表情に緊張の色が一気に増す。私は意地悪くクスリと笑って、まずグレティスに声をかけた。


「最初に言ったように、私はあなたを咎めるために呼んだわけではないの。その代わり、あのお店にあったカードについて教えて。どこで手に入れたの?」


 それを聞いたからといって、私はタロットカードの歴史を知らないから、ここがどのような世界なのか、予測することはできなかった。


 ただ分かっているのは、私がいた世界ではないことと、昔にタイムリープしたわけではないことだ。アルフェリオン王国なんて、聞いたことがない。


 けれど唯一、前世の記憶と結びつくものを発見した。これを聞かない方が野暮である。しかし、グレティスの表情は優れなかった。


「お恥ずかしい話、あのカードが店にあったことを知りませんでした。そう、リュシアナ殿下が倒れられた日まで」

「殿下の前で嘘をつくのか!?」


 私は手でカイルを制した。


「今の話が本当なら、グレティスはあのカードを仕入れたわけではない。そういうことよね」

「は、はい。その通りでございます」


 グレティスは私の意図に気づかず、首を傾げた。その姿に思わず笑いが込み上げてくる。


「ねぇ、そのカードを私に譲る気はない?」


 だって目の前に、前世と繋がりのあるものを持っている人がいるのよ。

 リュシアナに危害を加えた、といっても、グレティスは主犯ではない。それならば恩情を与え、代わりにタロットカードを貰ってもいいのではないかしら。


「ですが、カードは一枚ではありません。お譲りするわけには――……」

「誰が一枚だといったの? 全部で七十八枚あるはずよ。あなたの罪に比べたら、軽いものでしょう?」

「リュシアナ殿下は……あのカードが何か、ご存知なのですか?」

「っ! なんて無礼な!?」


 今度はミサが反応した。王族相手に、質問を質問で返すという愚行。しかし見方を変えれば、咄嗟に判断ができないほど、グレティスが驚いたことを意味する。


 つまり、この世界にはタロットカードがない。もしくは存在自体が珍しいことを意味していた。


 ふふふっ。これは……ますます欲しいわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ