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第31話 私が出した結論

「陛下から、無理強いはさせるな、との仰せですので、いくらでも待つつもりです」

「ということは、陛下も俺と同じ気持ちということか」


 椅子に座る私の背後に立っているカイルが、ボソッと呟いた。


 確かに処刑を見るのは怖い。この世界は、私がいた世界よりも古い時代のように感じるから、おそらく処刑といったら……ギロチンだろう。王族として、妹として見なければならない。

 私に耐えられるかしら。


「私も含め、民たちは真実を我々に知らせてくれたのが、リュシアナ殿下だと知っています。クラリーチェ殿下の復讐に、我々が命を落とさずにいられたのも、リュシアナ殿下のお陰だとも。ですから、どうか王宮にお戻り願いたいのです」

「団長。さっき無理強いはさせるな、と陛下から言われたと」

「だが、戦争を食い止めてくださったのは、リュシアナ殿下だ。民たちはその姿を拝見したいと願っている」

「っ!」


 民たちの期待……それに応えるのが、王族に生まれた者の責務。これからもリュシアナとして生きていくのなら、尚更、必要な覚悟である。

 もう、お父様とお兄様に任せておくことができない立場と状況になりつつあった。


「近衛騎士団長。あなたの想いも分かったわ。だからこそ、一日待ってもらいたいの」

「リュシアナ殿下」

「大丈夫。逃げるつもりはないから。ただ、覚悟を持つための時間がほしいだけなのよ」

「分かりました。決心がつきましたら、お声がけください。いつでも出発できる準備を、こちらでしておきます」

「えぇ、よろしくね」


 カイルは不満そうな顔で、近衛騎士団長を見送りに行った。


 私は、というとベッドサイドに置かれた、書き物机の引き出しを開けた。ここはお母様の保養地ということもあり、王宮で使用している書き物机と似た物が部屋に置かれているのだ。私の部屋にあった物と違う点は、鍵をかけられないところである。


 引き出しを開けて、中からネイビーの布に包まれたタロットカードを取り出す。


「そういえば、私自身のことを占うのは、今回が初めてかもしれないわね」


 カードで占いができることを信用してもらいたくて、カイル、ミサと占い。その後は王宮の者たち。今は離宮の者たちを占っている。


「なんだか変な感じ」


 クスリと笑いながら、テーブルにネイビーの布を広げた。


「今の私に、お姉様の最期を見届ける覚悟はありますか?」


 祈るように両手で包み込んだ後、カードを叩き、シャッフルした。入念に、まるで私の迷いがそのまま形になったかのように、カードを混ぜる。


 どうか、私を導いてください、と祈るように。


 そしてシャッフルし終えた後、山から七枚目をテーブルの上に置いていく。一枚、二枚、と合計十枚のカードを並べた。ケルト十字スプレットである。


「まずは私の状況と障害は……カップのクイーンとワンドの四の逆位置? カップのクイーンは自愛とか思いやり、人徳があるとかの意味があるけど……ちょっと買いかぶり過ぎない?」


 逆にワンドの四の逆位置は、痛いところを突かれた気分だった。正位置ならば、祝福のカードだけれど、逆はお姉様の最期を喜びたくない気持ちが大きく表れていた。もしくはお姉様の死を喜ぶ民の姿を見たくないのかも。


「私の顕在意識、つまり考えていることは、ワンドのペイジ。未来への希望を抱いている? そうね。確かに、これで皆が幸せになってくれるのならって思っているわ。滞在意識、感じていることは何かしら」


 ワンドのクイーンの逆位置? 魅力がない。心の余裕がない……確かにそうかもしれない。近衛騎士団長から早急に帰還を求められても、すぐに動けないんだもの。


「過去はどうかしら……っ! ソードの三!」


 ハートに三本の剣が突き刺さっているカードが出てきた。まさにこのハートは私なのか、それともお姉様なのか。


「どっちにしても、傷ついてきたとストレートに出るなんてね」


 思わず苦笑してしまった。私は気分を直すように、左端のカード、未来を指示したカートを捲った。


「ワンドのエース。ワンドが多いわね。しかも今捲っているところは、私の内面を示している。行動しようとする意志がある、ということかしら。でも未来は終わり、過去を清算する、と出ているわ。これじゃ、ますます行くのが怖い」


 それなのに私の置かれている立場には、なぜか『THE() EMPEROR(エンペラー)』(皇帝)が出ている。民たちが私を待っている。まるでカードが代弁しているかのように感じた。


「だったら、周囲の状況は? ソードのクイーンの逆位置? 過剰防衛、ヒステリックになっている……これはお姉様への感情かしら」


 それに対し、私の願望は……ペンタクルのキングの逆位置。人を導く覚悟ができていない。


「……最終結果は? 『THE() HERMIT(ハーミット)』(隠者)の逆位置。現実逃避、かぁ」


 思わずテーブルに向かってうつ伏せになりたかった。だってこの結果は、アドバイスどころか、私の内面を掘り起こしただけなのだ。

 ケルト十字で占ったのが間違えだったのかな。ううん、最終結果に隠者の逆位置が出たんだもの。逆位置は、正位置の状態に到達していない、とも読み取れる。


「つまり、私自身を見つめ直せ、ということだ。もしくはお姉様とも。そうだ。こういう時こそ、ボトムカードを見てみよう。何かヒントがあるかも」


 私はカードの山を裏返した。


「ペンタクルの六の逆位置? また、逆。でもこのカードは関係性を示している。正位置は良好だけど、逆は支配の関係……王族の立場をカードが言っているのかも。だとしたら、責務を果たさない、とね。折角、皇帝が出ているのだから」


 自分の占いを信じなくちゃ。タリアが私の占いを信じて噂を流してくれた。私の占いで決断したカイルが、今ここにいる。

 離宮の外で待ってくれている近衛騎士団長だって、ミサが信じてくれたからできた縁なのだ。


「私が信じなくてどうするの?」

「そうですよ。自信を持ってください」

「っ!」


 いつの間にかカイルが真正面に立っていた。


「現実逃避をしたいくらい辛いのでしたら、俺がリュシアナ様を支えます。ですから、一人で抱え込まないでください」

「……このワンドのクイーンの逆位置が示しているように、依存してしまうかもしれないわよ」

「望むところです。リュシアナ様はむしろ、依存するくらいがちょうどいいと思いますし」

「ふふふっ。変なの。でも、なんだか吹っ切れたような気がしたわ。今ならこの隠者を正位置にできちゃいそう」

「できますよ、リュシアナ様なら」


 根拠のないカイルの言葉。私を励ますだけの耳心地のいい言葉だと分かっていても、胸が熱くなった。

 あぁ、そうか。ワンドが多く出ていたのは、このことなんだわ。炎の属性を持つワンド。密かにカードたちが私にエールを送っていたのかもしれない。


 ふふふっ。これも都合のいい解釈なのかも。それでも今は私の背中を押すのに、十分だった。

 お読みいただきありがとうございました。

 今回の占いも私が引かせていただきました。

 ケルト十字スプレット。おそらく、ヘキサグラムスプレットよりも有名かと思います。

 それを占えるだけ、リュシアナも私も成長した気分です。

 総合的な解釈もしたかったのですが、カードを解説したかったので、このような形にしました。また、アドバイスカードも入れようか迷ったのですが、ボトムカードや最終結果の隠者で十分のような気がしたので、このまま。

 少しでも占いに興味を持っていただければと思います。

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