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第30話 策を講じた結果

 タリアにとって私の占いは、十分説得力があったのか、早速婚約者に掛け合ってくれた。証拠となる手紙を、説得する材料として持たせたのも功を奏したらしい。手紙を返しに来てくれた時のタリアはとてもいい顔をしていた。

 手紙の証人がタリアだけ、というのは弱いため、婚約者にも同じ責務を背負ってもらう魂胆があったのだが、そこは黙っておこう。あとはもう待つしかないのだ。この離宮で、国の行く末を。


「自信が戻りましたか?」

「え?」


 私の代わりにタリアを見送りに行っていたカイルが、戻ってきて早々、そんなことを言ってきた。頑なに部屋の外どころか、ベッドの外さえも出させてくれないというのに。なんの話を言っているのだろうか。


「占いのことです。クラリーチェ殿下のことで、自信を失くされていたようでしたので」

「あぁ……そうね。タリアを見ていたら、王宮で占いをしていた時のことを思い出したの。皆に占って、感謝されて……ほとんどの人が初対面だったから、緊張の連続だったけど、とても楽しかったわ」

「……俺を占った時は?」

「え?」

「あ、いえ。失言でした」


 いつもならグイグイくるのに、なぜか照れくさそうに口元を手で隠すカイル。思わずクスリと笑ってしまった。


「カイルを占ったのは、タロットカードを入手してすぐのことよ。楽しさよりも、うまく占えるのか。そっちの緊張の方が大きかったわ」

「……初めて。そうだ。俺が最初だった。それでミサ殿が嫉妬して」

「カイル? ミサがどうかしたの?」


 突然、小さな声でぶつぶつ言い出したため、うまく聞き取れなかった。唯一、聞き取れたことを口にすると、カイルは慌てて手を前に出して否定した。


「なんでもありません。それよりもさっきの約束はお忘れですか? 俺、きちんと報告しましたよね」

「約束……あっ!」


 お姉様の手紙やお父様の真意。タリアの訪問ですっかり忘れていたわ。


「ごめんなさい。えっと……」

「リュシアナ様。今からその約束を訂正してもよろしいですか?」

「訂正? いいわよ」


 あんな恥ずかしいセリフを言わなくて済むのなら、なんだって構わない。


「俺を占わないでほしいんです」

「……どうしてそんなことを言うの?」


 占ってはいけないほど、私、カイルに何かした? もしくはあの時の占いに不満が……ううん。だってそれがあったから、今ここにいるって馬車の中で言っていたじゃない。あれは嘘だったの?


「俺はリュシアナ様が初めて占った相手。その肩書を上書きしたくないんです」

「は?」


 確かに前世も含めて、他人を占ったのはカイルが初めてだった。でも、だからって……。


「二度三度、占ったところで、上書きなんてされるわけがないでしょう!」

「されます!」

「それじゃ、カイルとはもうキスをしない! 私のファーストキスが上書きされちゃうからね」

「えっ、そ、それは困ります!」


 ならキスをして、とカイルに向かって両手を広げる。それでもどうしていいのか迷っているカイルの背中を押すように、私は目を閉じた。

 するとカイルの手が私の背中と頭を掴み、まるで今まで我慢していたのだといわんばかりに唇を押し付けてきた。けれどそれは私も同じだった。


 タリアの幸せそうな顔や境遇を見て、私だって羨ましく思わないはずはなかった。カイルが、好きな人がこんなにも近くにいるのに、触れてもくれないなんて嫌だもの。

 大事にされている実感はあっても、愛されている実感が欲しかった。


 それに応えるように、深く口づけをされ、もう一層のこと、これがファーストキスでもいいと思った。激しく求められる心地よさからか、頭がクラクラしたからだ。


 確かに上書きされたかもしれない。



 ***



 しかし、そんな甘い時間はあまり長くは続かなかった。いや、続いてしまうと、国内の情勢が大変なことになるため、いいといえばいいのだけれど……ほんの少しだけ残念な気がした。


 離宮にいる間は、王女という身分を隠しているため、一介の貴族令嬢の扱いを受けていたからだ。

 建物の外は危険なため、離宮内を散策。世話をしてくれるメイドたちを中心に、相談を受けて占ったりしていた。やはり王宮での私の噂を聞いていたのだろう。言葉の端々に占ってほしい雰囲気があり、根負けしたのだ。


 そんな日々を送っている中、珍しく私に来客があった。噂を流してほしいと頼んでいたタリアが、その成果を持って来たのだろうか。それともミサが、こっそりやって来てくれたら嬉しいな。そんな期待をしていたが……。


「まさか、あなたが来るとは思わなかったわ」


 以前、私の部屋を訪ねて来てくれたものの、そそくさと去って行ってしまった近衛騎士団長である。


「前は忙しくて挨拶ができなかったのかと思っていたけれど、今回はどういう風の吹き回しなのかしら」

「その節は、大変申し訳ございませんでした」

「いいのよ。でも、ミサの件については、私に挨拶をしに来ても良かったのではないかしら」


 ミサから直接、私の占いのアドバイスで、近衛騎士団長にアピールしたとは聞かなくても、王宮では噂になっていたから知っているはずである。私の占いがキッカケで、ミサと近衛騎士団長はお付き合いを始めたのだということを。


「それは……お伺いに行くとミサが……」

「嫌がるの?」

「違います! ミサと共にいる姿を、そこにいるカイルに見られたくなかったからです」


 つまり、デレている姿を部下に見せたくない、ということか。なるほどなるほど。


「分かったわ。そういうことなら許しましょう」


 私だってそんな緩んだ姿を見たくもないし、見られたくもない。


「ありがとうございます。それで早速、本日ここに来た用件をお話させていただいてもよろしいでしょうか」

「えぇ。ノルヴィア帝国との戦争があるのにもかかわらず、あなたがここに来たのだもの。何かよほどのことがあったのでしょう?」

「ご明察の通りでございます。ここ最近、国中に出回る噂により、民が暴徒化。それは我が国だけでなく、ノルヴィア帝国でも起こり、戦争どころではなくなりました」


 噂の内容を言わないところから、発案者が私だと分かっているのね。


 近衛騎士団長は私の様子を窺いながら、話を続けた。


「我がアルフェリオン王国とノルヴィア帝国は、暴徒化した民たちを抑えようとしたのですが、さらに悪化するばかり。結果、ノルヴィア帝国は戦争を企てたとされる重要参考人物、クラリーチェ皇太子妃殿下を廃妃。我が国に引き渡しました」

「つまり、お姉様を引っ張り出すことに成功したのね」

「リュシアナ殿下の策が、見事に功を奏しました。この度はその報告と、王宮に戻っていただきたく、参じました」

「王宮に?」

「クラリーチェ殿下を捕らえた以上、トリヴェル侯爵に何ができましょうか」


 確かに。お姉様に従っていたのは、甘い汁を啜るため。孫可愛さでやったとは思えない。もしも後者だとしたら、もっと早く、何かしらの手を打っていたからだ。


「それに、此度のことは陛下もリュシアナ殿下に見届けたい、とおっしゃっておられました」

「見届けって、まさか! リュシアナ様に見せる気ですか!?」


 お姉様の処刑を。最後までカイルは言わなかったが、二人が言いたいことは理解できた。だから……。


「一日だけ待ってもらえる? 少し……考えたいの」

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