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第29話 可否を占う

 ハーリント伯爵令嬢ことタリア・ハーリントは、私がミサとカイル以外に占った初めての女性だった。そう、私の部屋に大挙して来た女性たちの中の一人である。


「久しぶりね、タリア。あれから縁談が上手くいったのか、気になっていたのよ」


 ミサのように素敵な恋人や恋愛がしたい。けれど会ったこともない相手だから、不安で相談しに来てくれたのだ。

 占いは、良好だと出ていたが、やはりそこは気になる……!


「覚えていてくださったなんて……ありがとうございます。僭越ながら、そのお礼も言いたく、来た次第です」

「っ! ということは、上手くいったのね」

「はい。それで私の婚約者もこちらに来たのですが……」


 ベッドの傍で立っているカイルを見上げるタリア。私はなんとなく事情を察した。


「ごめんなさい。私がこのような格好をしているから」

「謝らないでください。同じ立場だったら、私もそうしてほしいと思いましたので……」

「ありがとう」


 そう、私は未だベッドの中にいる。シュミーズ姿に薄いガウンを羽織っている状態だ。ベッドの脇にある椅子に座るタリアは同性だからいいものの、このような姿を他の者には見せたくない。今は王女だけれど、中身は現代社会を生きていた人間なのだ。


「でも婚約者、ということはうまくいったのね」

「はい。その報告も一緒にできれば、と思いまして」

「ということは、他にも?」

「ミサから様子を見てきてほしい、と頼まれたんです。私も気になっていた、というのもありますし、彼の商団の伝手を借りて連れてきてもらいました」

「まぁ! もしかして、その商団は国中を回っているの?」


 私が嬉々として聞くと、逆にタリアがたじろいだ。


「安心して、別に変なことを頼むわけではないの。大変なことでもないけれど、大がかりなことをしたくてね。うまくいけば、戦争を早期に終わらせる、もしくは回避できるかもしれないの」

「大がかり、ですか?」

「えぇ。噂を、ね。流してほしいのよ」


 たったそれだけ? と思っているのだろう。ポカンとした顔をしていた。だから私はカイルに視線を送り、タリアにある物を渡すことにしたのだ。


「リュシアナ様、これは?」

「アルフェリオン王国が、ノルヴィア帝国に宣戦布告されたのは知っているわよね。そのキッカケと目論んだ人物の物的証拠よ」


 タリアの息を呑んだ音が聞こえるようだった。それもそうだ。重要機密であるお姉様からの手紙を、一介の令嬢に渡したのだ。よほど肝が据わっていない限り、驚くことだろう。


「その手紙を一読した上で、お姉様がこの戦争の首謀者だと国中に広めてほしいの。できればノルヴィア帝国側にも伝手があれば、尚いいのだけれど。引き受けてもらえないかしら」

「私の一存では……商団は彼の家門が経営していますから、まずは相談してみないことには答えられません」


 前に占いでタリア自身も見た時、気持ちはそこへ向いているのに、一歩踏み出す勇気がない、という印象を受けた。今回もそうなのだろうか。ならば、もう一度占いで後押しをしてみよう。


「タリア一人に、この重みを背負わせようとは思っていないわ。婚約者に是非、相談してみて。戦争によって、普段使っている道が封鎖されたり、通行料が値上がりされたりと商いをしている人たちにとっては、マイナスの部分もあると思うから」

「もしくは、戦争の道具や準備などで儲ける者もいると思われます」

「そうね。カイルの言う通り、逆に戦争を利用する者もいるでしょう。でも、皆が皆、同じものを仕入れるわけではないわ。そうでしょう?」


 私はタリアが婚約者を説得する名目を、先に掲示した。それをさらに確実にするため、カイルに向かって手を伸ばす。


「迷っているのなら、カードに聞いてみない?」

「え? 占ってくださるのですか?」

「噂を流すことが、商団の利益となるのか。タロットカードはただ占うだけでなく、その選択が正しいのかを問う、シンプルなやり方があるの。折角だから、やってみない?」

「お、お願いします」


 タリアが返事をしたのと同時に、カイルは私の手の上に、ネイビーの布に包まれたタロットカードを置いた。


 可否を問う占いには、タロットカードを十分シャッフルする必要があった。しかし今、私がいるのはベッドの上。このままでは占えない。だからベッドから降りようと思ったのだが……。


「こちらをお使いください」


 カイルがラップデスクのような脚の低い小さな台を、私の膝の上に置いた。これは先ほど、食事をした時に使っていたのと同じもの。なるほど、これならベッドの上でもできそうね……って、ベッドの外に出させない気?


「どうかなさいましたか?」

「ううん。ありがとう」


 ダメよ。今はタリアの説得が重要なのだから。


 私は早速、ネイビーの布を広げて、入念にシャッフルした。そしていつものように、七枚目から台の上に三枚、裏のまま置いていった。


「この可否を問う占いは、正位置なら可。逆位置なら否だと教えてくれるの。それじゃ、捲るわね」


 一枚目、『JUDGEMENT(ジャッジメント)(審判)』

 二枚目、ソードの四

 三枚目、カップの十の逆位置


「総合すると、カードは利益になる、と出たわ。ただカードが示しているのは、噂を流すことによって戦争を回避させれば、商団に利益をもたらす、といっているみたい」

「戦争の回避? 噂を流すことがですか?」

「元々、そのつもりで噂を流してもらおうとしていたから、この結果は私としても嬉しい限りだわ。審判によって、首謀者であるお姉様を表舞台に引っ張り上げたいと思っていたのよ」


 まさに審判はそれに相応しいカードだった。


「そしてソードの四は、休息または回復を意味するの。戦争を回避することで、国も民も安らぎを得られる。逆位置として出たカップの十もまた、同じね。戦争に不満を募らせている者たちが多いことを教えてくれているような気がするの。だからこそ、噂を流してくれない? これ以上、私たち王族の問題で、民を傷つけたくないの」


 一瞬、グレティスの姿が脳裏に浮かんだ。

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