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転生王女の私はタロットで生き延びます~護衛騎士様が過保護すぎて困ります~  作者: 有木珠乃
第6章 『星』・カードが導く光

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第27話 寂しさと恐怖

 お父様の命令に背き、離宮へ行くように言われてから、一週間くらい経っただろうか。王宮から出る時もそうだったが、随分と時間がかかっているような気がした。


 お陰でミサに謝ることはできたけど……離宮について行くことができない、と言われてしまい悲しかった。

 カイルの方は、さらに悲惨だ。お父様に出ていけ、と言われた翌日から会えていないのだ。ミサが言うには、私の護衛を外されたのだとか。謝る機会すらなく、離れ離れになってしまうなんて……ますます占いに自信が持てなくなった。


 あれだけ王宮でもてはやされていても、所詮、私の占いなんて、耳心地のいいことを言っているだけなのだ。皆の喜ぶ顔が見たくて、いいことしか言えない。そんな八方美人な私がもたらしたのは、国と民を危険に晒すことだった。


 もう占いなんてしない。離宮で大人しく過ごそう。だけど、タロットカードを手放すことはできなかった。


「リュシアナ様。そろそろ出発します」


 宿の一室で身支度を整えていると、扉越しに声をかけられた。王宮から離宮までは距離があり、こうして宿に泊まりながらの移動なのだ。

 声をかけてきたのは、御者と名乗ってはいるが、カイルと同じ騎士である。離宮には離宮で警備が万全であるため、王宮にいた時のように護衛をつけてもらえなかったのだ。しかし移動となるとそうはいかない。


 だったらカイルが送ってくれればいいのに、と思うけど。


『陛下より護衛の任を解かれたので、無理かと。で、でも! なんとかしてみせますから、だから姫様も希望を捨てないでください』


 私があまりにも無気力に振る舞っていたからだろうか。ミサまでこの世の絶望とでもいうような顔をしていた。


 今はそのミサもいないのだ。しっかりしなくては。私は立ち上がり、扉を開けた。


「ありがとう。今日もよろしくね」


 御者が一礼をし、私の前を行く。同じ騎士だからか、カイルの背中と重なった。


 さっき、上手く笑えていたかしら。カイルだったら、「無理しないでください」と言ってくれたかもしれない。私はここ最近、よく眠れていなかったからだ。



 ***



 揺れる馬車に乗っていると、前世のことを思い出す。バスも電車も、これほどではないけれど、揺れていた。今のように寝不足だと、その揺れが心地よくて、うっかり寝てしまうことがあったのに、それさえもできないなんて……重症としかいいようがなかった。


 広い馬車の中なら、横になれそうなのに、私はただ窓際に座り、流れる景色を見ているだけだった。同じような景色を、飽きもせずに見ている日々。離宮まで、あとどれくらいあるのかも分からない。


 もう一層のこと、と思ってしまったのがいけなかったのだろう。引き寄せるのは、なにも幸運だけではない。


「えっ、何?」


 突然、馬車が止まったのだ。ずっと窓の外を眺めていたから、これが不自然な止まり方だというのは分かる。馬車が止まる時は、必ず街か村だったからだ。


「扉から離れてください! けして外に出てはいけません!」


 あえて私の名前を呼ばずに警告する御者。馬車の後ろには、離宮に持って行く物資もあったため、幌馬車がついてきている。その中には勿論、物資以外のものも積んでいた。長旅には必須な護衛たちである。


 だから大丈夫だとは思うものの、聞こえてくる金属音や雄叫び、断末魔の他に、時折、揺れる馬車に悲鳴を上げそうになった。


 ダメ。この馬車に私が乗っていることを、相手に知らせないようにしてくれたのに、声を出すなんて……でも、怖い!


「キャッ!」


 馬車が倒れるかと思うほど、大きく揺れた。咄嗟に口を閉じるも、すでに出てしまった悲鳴に、背筋が凍った。さらに扉が開かれ、私は恐怖のあまり目を閉じた。


「リュシアナ様。もう大丈夫です」


 聞き慣れた声。この世界で初めて目を覚ました時、慌てるミサと違い、私を安心させるかのように優しく声をかけてくれたから、間違えることはない。

 私はゆっくりと目を開けて、確かめた。髪がアイスブルーであること、瞳の色が深緑色であることを。それを示す人物は一人しかいない。


「……カイル? どう、して?」


 嬉しい反面、本当にカイルなのか、確かめたくなった。


「申し訳ありません。今はそれどころではなく……失礼します」


 何が? と聞く暇もなく、カイルは扉を閉め、なぜか私の隣に腰を下ろした。途端、もの凄い勢いで馬車が走り出したのだ。思わず何かに掴まりたくて、咄嗟にカイルに抱きついた。背中に回る手のぬくもりに、場違いだと分かっているのに安堵してしまう。


「おそらく、これで撒ければ大丈夫でしょう」

「撒く? まだ刺客がいるの?」

「舌を噛みますから、黙って――……」

「それならカイルは?」

「俺は大丈夫です。慣れていますから」


 不公平では? と思うものの、時折、さらに強く揺れるため、大人しくすることにした。カイルが傍にいること。こうしてぬくもりを感じていたい、という想いも強かったのかもしれない。


 けれどカイルはその間、状況説明をしてくれた。おそらく私が不安に感じている、と思ったのだろう。その気遣いもまた、嬉しかった。


「それで陛下から、リュシアナ様の元へ行く名目を作れと言われ、まず近衛騎士団長のところへ行きました。残念ながら俺の力では、勝手に配置を変えることはできないのです」


 カイルは私の護衛である前に、近衛騎士団の団員でもある。一度、護衛の任を解かれれば、近衛騎士団に戻るのは当然のことだった。


「協力を煽ったところ、何かことが起こらない以上、リュシアナ様の警護を強化することも、離宮の警備を増員させることもできない、と言われました。ユーリウス殿下に掛け合っても、同じことを言われ、どれだけもどかしかったか」


 私も同じ気持ちだった、と言えない代わりに、抱きしめている腕に力を入れた。すると、カイルの鼓動が速くなった。


「み、ミサ殿が、リュシアナ様が王宮を離れた後、ずっと情報収集をしていたらしく。そこで聞いたんです。リュシアナ様の乗る馬車を襲撃しようとしている、と」

「っ!」

「さらに調べたら、トリヴェル侯爵邸がアジトになっていました。おそらくもぬけの殻にしたのは、カモフラージュだったのでしょう。実際には逃げておらず、リュシアナ様の動向を探っていたようです」

「どうして、トリヴェル侯爵が……」


 いつの間にか馬車の速度が緩やかになっていた。


「クラリーチェ殿下の後ろ盾ですからね。この戦争が終わった後のことを、考えてのことなのでしょう。クラリーチェ殿下がリュシアナ様のお命を狙っているのは、ご存知のはずですから」

「……そうね」

「あまり落ち込まないでください。グレティスのことを言わなかったのは、俺の落ち度ですが、クラリーチェ殿下のことは、リュシアナ様のせいではありません」

「だけど、私の占いのせいで――……」

「その占いがあったから、俺はここにいるんです。覚えていませんか? 俺を占った時のことを」


 確か、タロットカードを入手してすぐの時に、カイルを占ったのだ。


「あの時、リュシアナ様は『相手のために、冷静な判断を下せば、俺にとってもより良い未来が待っている』とおっしゃいました。冷静な判断が下せたか、については怪しいところですが、リュシアナ様のためにできる最善の方法を取ったから襲撃に間に合い、お守りすることができたのです」

「『THE() LOVERS(ラバーズ)』(恋人)のカード……」

「そうです。リュシアナ様が好きだから、ここにいるんです。再び、お傍にいさせてもらえますか?」

「私、あれだけ酷い態度をとったのに」


 それでも私を想ってくれるカイルに、涙が出た。


「先ほども言ったように、俺の落ち度です。叱られても仕方がありません。むしろ愛想をつかされたのかと思っていました」

「そんなこと、あるわけないじゃない。どれだけ心細かったと思っているのよ」

「っ!」


 カイルの服を握り締めるのが早かったのか、顔が近づくのが早かったのか。唇が重なった。その瞬間、馬車もまた停車した。

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