第22話 占いは必ずしも……
お読みいただきありがとうございました。
今回の占いも私が引かせていただきました。
逆位置ばかりなところ、さらにボトムカードで運命の輪の逆位置に自分でも驚いた次第です。
書き手がまだまだ初心者ですが、占いの方も楽しんでいただければと思います。
「分かりました。お姉様を占わせていただきます」
私は立ち上がり、目の前の椅子に座るように、お姉様を促した。すでに別の椅子に座っているお父様は、お姉様に鋭い視線を注いでいる。私の決定を止めたいのに、それができないから、お姉様にその鬱憤をぶつけているのだろう。
どれだけ私に嫌われたくない、と思っているのかしら。それよりも、お姉様が幸せになれるのか、一緒に見守ってほしいのに。
お父様のそんな態度が、私とお姉様の確執を生んでいるのだ。この度の結婚もまた。だからこそ、引き受けないわけにはいかなかった。
「占ってほしいことは、さっき言ったからいいわよね」
お姉様は椅子に座るなり、そう言い放った。素っ気ない態度から、本気で占ってほしいのか、推測することはできない。私をからかいに来た可能性だってあるのだ。
わざわざお父様のいる時を狙ったのにも、何か理由があるのかもしれない。お姉様が私の命を狙っている明確な証拠も、私が小間物屋の店主、グレティスを免罪にしたことで得られなかったのだ。
嫁ぐ前に、自分は白だとアピールしに来たのかしら。ううん。今は占いに集中しなくては。私に恥をかかせに来たのかもしれないのだから。
とはいえ、占いは占い、である。
「では、私の方からも注意事項をお話させていただきます」
「注意事項?」
「はい。これはお姉様に限ったことではなく、やって来る人たち皆に言っていることです。私の占いは、当たる当たらない、ではなく。願いが叶うために必要なことを答えているだけだと。さらに、とても大事な質問であるため、受け取れるものだけを受け取ってください」
「受け取る?」
「結果を聞いて、微妙だと感じたものは、無視してください、という意味です。お姉様に必要な部分、またはこれはいいな、と思う部分だけ受け取り、それ以外は受け取らなくて構いません。すべてお姉様の判断に任せます」
これは後から占いが当たらなかった、と文句を言われないための処置でもあった。だから占う前に言うのだが……お姉様のように怪訝な顔をされたのは、初めてだった。
おそらく、私を辱められなくて悔しがっているのだろう。横にお父様がいるのに、凄い度胸である。いや、お父様の寵愛を逆手にしている私も大概か。
「それでは、分かっていただいたところで、占いたいと思います」
私は心を落ち着かせて、いつものようにシャッフルをし、カードに念じた。
『お姉様がノルヴィア帝国に嫁ぎ、幸福な未来を得ることができますか?』
いつもなら声に出していた質問。けれどお姉様にとっては、嫌味に聞こえてしまうかもしれない。結婚して幸せになれますか? なんて、普通ならいい質問だ。相手の幸せを願うものだから。
それが他人であったのなら、お姉様も受け入れられるだろう。けれど亡き王妃の存在と生き写しのリュシアナ。この二人によって、お姉様は常に陰日向となっていたのだ。
命を狙うほど、恨まれていても仕方がない。私は目を閉じ、祈るようにカードを抱きしめてから、テーブルに並べた。
「今回はとても大事な占いなので、ヘキサグラムスプレットを使います」
「ヘキサ? 聞いたことがないわね」
「形としては二つの三角形を組み合わせる方法で、正三角形に置いたカードには、それぞれ過去・現在・未来を読み解きます。逆三角形は相手やお姉様の気持ちなど多方面から読み解き、最後、中心に置いたカードで結果、またはアドバイスをカードが教えてくれる。そんな占い方です」
「……カードだけで、そんなに分かるものなの?」
一瞬、同じことをカイルにも指摘されたことを思い出した。やはりこの世界では、珍しく思えるらしい。お父様へと視線を向けると、同じように首を傾げていた。
「では、どんなカードが出たのか、一緒にご覧になってみてください。シャッフルの時や並べた時など、お姉様もご覧になられていましたので、お分かりかと思いますが、一切細工はしておりません。よろしいですね」
「……えぇ。構わなくてよ」
私はお父様にも視線を向ける。すると、その背後には、いつの間にかお兄様の姿があった。私の驚く姿に「俺に気にせず始めてくれ」とばかりに頷かれた。
「まずは一枚目……カップの四の逆位置。これはお姉様の過去です。このカードは倦怠を意味していますが、逆に出たので解決策を見出した、とか変化の兆しがあったのではないでしょうか」
チラッとお姉様の方を見るが、カードをじっと見るだけで答えない。つまり、当たっている、ということかもしれなかった。
この結婚はある意味、この国からの脱出、とも取れるのだから、お姉様にとっては悪い話ではなかったのだろう。私は続けて二枚目を捲った。
「ワンドのエースの逆位置。こちらは現在。お姉様は今、迷いや不安があるのかもしれません。結婚に対して不安に感じない人はいませんから、当然の結果かと思われます」
「そうね。相手がどんな方なのか、聞かされていないのだから」
「えっ」
それはさすがに酷いのでは、とお父様とお兄様の方へと視線を向ける。案の定、顔を背けられた。
こういうことをするから、私への当たりが強くなるのだと、なぜ分からないのかしら。
「では、次に未来を。ソードの八の逆位置ですね」
逆位置を採用しているとはいえ、多いなと感じながらも、私は言葉を続けた。
「このカードは、ご覧のように人物が束縛されていますが、逆に出ています。そこからの解放や解決に向かっている、とカードは教えてくれているのかもしれません。だからこの結婚がお姉様にとって、良い方向にもたらしてくれる。カードだけでなく、私もそう信じています」
出たカードは、とても幸福な未来が、といえるものではないけれど、少しでもお姉様の不安が取り除ければ、と思ったのだ。
「だからカードもアドバイスとしてソードのナイトを出してくれたのではないでしょうか。感情ではなく、合理的な判断で未来を切り開いてほしい、と言っているように思えます」
「……合理的な判断」
「はい。それと共に人への思いやりも忘れずに、と出ています。お姉様は、こうして私のところへ足を運ばれるほどの行動力のある方ですから、このカードのように、ノルヴィア帝国でも果敢に進んでいけると思います」
「そうね。ありがとう」
お姉様の微笑みに、一瞬ドキッとしてしまった。見惚れたわけではない。恐怖を感じたのだ。けれどその意味までは分からなかった。
私は不気味に思いながらも、五枚目のカードを捲った。
「お姉様はお相手の方をご存知ない、とのことでしたが、カードは『THE CHARIOT』(戦車)の逆位置を示しています」
「……勇敢な方、ということかしら」
どうしよう。正位置で出たのなら、行動力のある方、とか答えられるけど、逆位置の場合は……自分勝手とか感情をコントロールできない人、とも読める。
だけどそれをそのまま伝えるのは、さすがにマズいよね。でも嘘はつきたくない。
「とても勢いのある方、だと思われます。ただ勢いがあり過ぎるようなので、そこはお姉様が冷静な判断で支えるのがよろしいかと。ソードのナイトもアドバイスとして、合理的な判断と出ていましたから」
「そうね。なるほど……分かったわ」
私は胸を撫で下ろし、六枚目のカード、お姉様の気持ちを表したカードを捲った。
「カップのキングの逆位置。ここでもお姉様が結婚に対して不安になっている、と出ています。しかし逆になっている、ということは、いずれ正位置になる、とも読むことができますので、問題はありません。悠然と物事をこなし、いずれこのカップのキングのようなお姿になるでしょう」
玉座に座るカップのキングのカードを、お姉様に見せながら、再びテーブルの上に置いた。
「最終結果は……『THE HANGED MAN』(吊された男)」
まさかの大アルカナ!? しかも吊された男だなんて……そんなにお姉様の結婚はよくない、とでもいうの?
「リュシアナ? どうしたというの? 早くこのカードがなんと言っているのか、教えてちょうだい」
「分かりました。このカードは静止を表しています。今は思い通りに進まないことがあるかもしれません。すぐに答えが出ることも、幸せになることも。ですが、じっくり考えることで光が見えてくる、とカードは伝えてくれています」
「つまり、時が解決してくれる、ということかしら」
「はい」
おそらく、ここでもう一枚アドバイスカードを引くべきなのだろうが、よくないカードが出てくるかもしれない。ヘキサグラムスプレット、七枚の内、五枚逆位置で出ているし、最終結果の吊された男だって、いい意味とは捉えづらい。
「以上が、占いの結果です」
「ありがとう、リュシアナ。色々と思うところはあったけれど、決心もまたついたから」
「少しでも、お姉様の役に立てて良かったです」
これもまた、本心だ。椅子から立ち上がり、お姉様を見送る。そしてテーブルの上のカードを片付けようとした瞬間、カードの山の一番下のカードが気になった。
このカードはボトムカードといい、表に出ていない潜在的な意味を表す。私は普段、採用していないのだが、この時は見なければ、と思ったのだ。
「『WHEEL OF FORTUNE』(運命の輪)の逆位置?」
運命のいたずらに翻弄されている、ということなの? お姉様が? いやそれだけではない気がする。もっと大きな渦に巻き込まれるような……そんな感じがカードから伝わってきたのだ。




