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転生王女の私はタロットで生き延びます~護衛騎士様が過保護すぎて困ります~  作者: 有木珠乃
第4章 『節制』・広がる噂

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第20話 その腕前は……

「実は私、実家から縁談のお話が来ていて、迷っております」


 タリアは目線を下に向けながら、ゆっくりと話してくれた。訴えかけるわけではなく、私が聞き取り易い方法で。このたった一言でも、タリアという女性の思いやりが伝わってくるようだった。


「実家、というとハーリント伯爵家から、よね。今、王宮ではお姉様の結婚に影響を受けている者たちが多いと聞くわ。ハーリント伯爵家も、その波に乗ろうとしているのではなくて?」

「えっと、その……おそらくはそうだと思います。私がこの王宮で結婚相手を見つけられていれば、このような事態にはならなかったのですが」

「どういうこと?」

「元々、私は王宮勤めをできるほど、しっかりした者でもなく、要領がいい方でもありません。だけど両親は、そんな私に箔をつけるために、無理やり話をつけてこちらへ勤めることになったのです」


 なんだか、親近感を湧くわね。私も王女という器ではないのに、転生した先の体がそうだった。さらに記憶喪失とか、お姉様との確執。お父様とお兄様に至っては、溺愛というより、今のところは過保護とか心配性、の方が合っている。


 望まない場所で、望まない役割を押しつけられ、今度は望まない結婚、か。ん? 確かタリアは迷っている、と言っていたわよね。


「ご両親は、タリアに早く結婚してもらって、落ち着いた生活を送っている姿を見たいのかもしれないわ。それが無理そうなら、王宮勤めをして、立派な女官として一人で生きていく道を、タリアが見つけるかもしれない。あなたには、その二つの可能性をご両親から掲示されていたのではないかしら。無理に結婚を勧められているようには感じなかったのだけど」

「……確かに王宮へ行くように言った時ほど、強い口調ではありませんでした。むしろ……選びなさい、と言っている感じでした」

「やっぱりね。だからタリアは迷っているのよ。決めつけられた縁談だったら、迷ってなんていられない。そうでしょう?」

「さすがはリュシアナ様。いつもミサが自慢しているだけのことはあります」


 どんな自慢を……と、今はそんな話をするところではなかったわ。タリア以外にも占うのだから。


「とりあえず、そうね。まずはこの縁談が、タリアにとっていいものなのか、占いましょう。今回は、より深く丁寧に読みたいから、タロットカードの逆位置も採用するわ」

「逆?」

「えぇ。とても大事な質問だからね。といっても、タリアが受け取れるものだけ受け取ってくれればいいから。結果を聞いて、微妙だなと思ったら、受け入れなくていいの」

「そう、なのですか?」

「占いって、そういうものよ。だからそんなに肩に力を入れずに聞いてくれると嬉しいかな」


 私は前世でよく見たリーディング動画のように、軽い口調で話しながら、タロットカードを円を書くようにシャッフルした。そして一つにまとめると、いつものようにカードに質問をして、軽く叩いた。


「ダイヤモンドクロススプレットを使うわ」

「ダイヤモンド?」

「ごめんなさい。そういう名前の占い方でね。二人の未来を見るのにはちょうどいいかな、と思ったの」


 そう言いながら、タリアの前に横に二枚。縦に二枚、と合計四枚、十字になるように置いた。


「まずはタリアの気持ちを見てみるわね」


 私はタリアから見て左のカードを捲った。


「ワンドのペイジ。タリア……もしかして、この縁談に希望というか前向きに思っている?」

「えっ! あ、はい。ミサや他の人たちを見ていたら、私も、と思いまして。でも……」

「相手をよく知らないから不安なのかしら。お会いしたことは?」

「ありません」

「そう。なら、今度はお相手の気持ちを見てみましょうか」


 今度は右のカードを捲った。


「『TEMPERANCE(テンペランス)』(節制)」


 まさかここで大アルカナが来るなんて……七十八枚使用するようになってから、初めてのことだわ。


「リュシアナ様?」

「ごめんなさい。いいカードだったから、驚いてしまったの」

「そうなのですか?」


 タリアの嬉しそうな顔に、私も釣られて穏やかな顔になった。


「えぇ、このカードは協力やバランスの意味があって、調和を大事にするの。だからタリアにピッタリだと思えたのよ。どんな物事でも柔軟に対応できて、穏やかで平和的な解決を模索する。タリアといい関係を築いていきたい、と思っているのかもしれないわ。素敵なお相手ね」

「ありがとうございます!」

「次は現状」


 私はタリアの前に置かれたカードを捲った。


「ペンタクルの五……やっぱり不安な気持ちが、カードにそのまま出ているわ」

「えっ?」

「見て。雪の中を歩いている二人。でもこれは、二人で困難を乗り越える、とも読めるから大丈夫よ。それに最後の近い未来をまだ見ていないのだから、悲観的になることはないわ」


 とは言ったものの、どんなカードなのかは分からない。私はドキドキしながら、目の前のカードを捲った。


「っ! カップのキング! 大丈夫。安らかなカードが出てきたわ。これが出てきたということは、穏やかで安定した未来。つまり、いい縁談だと、カードは教えてくれている。この縁談に迷いはあるけれど、前向きなら会うだけ会ってみてもいいのかもしれないわね」

「そう、ですね。両親にも、一度だけでも会ってみたら、と言われておりますので」

「なら、会う時のアドバイスを、カードに聞いてみましょうか」


 私は再びタロットカードの束を軽く叩き、アドバイスを聞いた。


「ペンタクルのナイトの逆位置……」


 この間、近衛騎士団長のことを勤勉だと読んだ。その逆ということは……。


「緊張しすぎないことかしら。肩肘を張らずに、自然体に。タリアらしい姿がいい、と出ているわ」

「こ、こんな私でいいのでしょうか。引っ込み思案な私で……」

「お相手は『TEMPERANCE(テンペランス)』(節制)と出ていたから、大丈夫よ。怖い相手でなければ、短気な方でもないと思うの。むしろ、タリアに合わせてくれるのではないかしら」


 良かった。素敵なアドバイスカードが出てきてくれた。


 思わずカードに向かって「ありがとう」と呟いた。そしてペンタクルのナイトを真ん中に置き、タリアを見据える。


「これで占いは終わりだけど、どうだった?」

「とても参考になりました」

「この縁談が素敵な未来になるように、祈っているわ」


 私は安心させるように微笑むと、タリアは両手を合わせて、何度も何度も「ありがとうございます」といいながら、席を立つ。部屋から出て行く時も、ずっと頭を下げるタリアの姿に、逆に私の方が恐縮してしまった。


「お見事です」


 それを共に見ていたカイルが、後ろから声をかけてくれた。


「ありがとう。でも、思ったより疲れたわ」

「相談の内容を掘り下げるのが原因かと」

「分かっているわ。だけど、相手は本気で悩んで、相談に来てくれているのよ。私も生半可な態度で占いたくないの。同じ熱量で答えてあげたい」


 今の私が何不自由なく生活できるのは、王宮で働いてくれている人たちのお陰なんだから。


「勿論、カイルも何か相談したいことがあれば、聞くからね」

「っ! あ、ありがとうございます」


 声は戸惑っているものの、注がれる視線に既視感を覚えた。そう、この熱い視線……最近、どこかで見たような気がしたのだ。


 あっ、中庭だ。まさか、相談ってそっちのこと? ちょうど恋愛の占いだったから、また影響を受けたのね。もう、いいんだか、悪いんだか。

 お読みいただきありがとうございました。

 今回の占いも私が引かせていただきました。

 逆位置も採用すると書いておきながら、正位置しか出てこなかったので、どうしようか悩んでいたところ、ラストでようやく……ホッとしました。

 占いの描写は手探りでしていて、読み辛くないようにしていますが、そちらについては温かい目で見ていただけると幸いです。

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