第17話 占いの結果に……
「質問の内容なんだけど、さっきミサはお相手についてって言っていたわよね」
まずはミサのことを知っているけれど、実際にどこまで占ってほしいのか、までは知らない。そこは本人のみぞ知るところ、というものだからだ。
「直接タロットカードに、彼氏はできますか? と聞くことはできるけれど、どんな人とか、どこで出会うか、までは難しいと思うの」
「そうなんですか……」
やっぱり、ミサが聞きたいのは、そこの部分なのね。
私は沈み込んでいるミサに向かって手を伸ばし、笑顔を向けた。
「大丈夫。ミサの次の恋の展開を教えてください、と聞けば、相手像や出会い方とか、抽象的になるかもしれないけど、カードが教えてくれると思うわ」
「本当ですか?」
「そこは……実際に引いてみないと、ね。さすがの私も断言はできないわ」
ミサの期待の眼差しを受けて、気持ちが推し負けそうになった。すると、テーブルにカイルが近づいてくる。
「俺も、その……近くで見てもよろしいでしょうか」
「私は構わないけど……」
「大丈夫です! それよりも、お願いします」
「分かったわ」
ちょっと、いやかなり緊張する場面になってしまったような気がした。けれど急かしているミサを見ていたら、私の緊張など、すぐに掻き消えた。
占いって、どこの世界でも気になるものよね。ましてや恋愛なら、尚更だわ。
「前は大アルカナだけを使ったけれど、今回はタロットカード七十八枚全部を使うわ。その方が色々な読み方ができるから。あと、展開するのは三枚。ミサから見て、左から現状、アドバイス。そして最後は近い未来の展望で見ていくわね」
私は両手でタロットカードを包み込み、心の中でミサの次の恋の展開を教えてください、と念じた。また、正位置のみを採用することも忘れずに。
そしてカードの裏面を叩き、トランプのようにカットする。それから三つの山を作り、一つにまとめると、次はカードの上から六枚取り、そのまま横に置いた。
七枚目は裏面のまま、ミサの前に置いていく。
前回は一枚だったから深く考えなかったけど、対面式なんだから、ミサに向けて右から置くのが当たり前よね。私からは逆さになるけど、正位置で、とお願いしているから大丈夫。読み間違えることはない。
私は手を伸ばして、一枚目を捲った。
「ミサの現状は、ペンタクルの三。これは技術力のカードだから、まさに今のミサの立ち位置ね。つまり、今は気になっている人がいない、ということかしら。それとも、職場に気になる人がいる、とか?」
思わずカイルを見ると、ミサが慌てて手を横に振って否定した。
「た、確かに好きな相手はいませんが、ヴァレンティア卿を選ぶことは、絶対にありません!」
「そうなの? 素敵だと思うけれど」
「……だからこそです」
どういう意味? と聞く前に、カイルから「次のカードに移った方が……」と指摘されてしまった。ミサを見ると、同意するように頷かれ、私は真ん中のカードを捲る。
「アドバイスはペンタクルのナイト。普通に読むと、勤勉や現実性のカードだから、ミサの仕事に対する姿勢を、好ましいと見ている人がいるのかもしれないわね。でもナイトだから、騎士という可能性もあるわ」
「姫様。この王宮にはヴァレンティア卿の他に、たくさんの騎士様がいます」
「そうね。これについては、あとで深掘りしてみましょうか」
どのような相手ですか? とかね。もしかしたら、カイルの知っている人かもしれないし、そうだったら、ミサに紹介できるのではないかしら。
「最後は展望ね。ワンドの十かぁ」
「どうしたのですか?」
「うーん。このカードは重圧を意味するの。見て、十本の棒を重そうに持っているでしょう? だからたとえ恋が成就しても、その先に色々な責任や期待がついてくると思うの。真面目なミサのことだから、すべてを受け止めてしまうかもしれないけど、無理はしないようにね」
「……姫様付きの侍女ですから、お付き合いともなれば、やはりそう……なりますよね」
確かに、ミサの立場を考えるとそうかもしれない。友達みたいに結婚して王宮を出る、なんてなったら、ミサはどうするのだろうか。
このワンドの十のように、たくさんのものを抱え込みそうだわ。
「さぁ、気を取り直して、さっき後回しにしてしまった、お相手について聞いてみましょう。このペンタクルのナイトが、どのような方なのか、をね」
私は再びカードに尋ねて、一枚のカードを引いた。すると……。
「えっ、キャッ! これは凄い!」
「姫様?」
「ごめんなさい、良いカードが出てきたものだから、思わずはしゃいでしまったの」
「そんなに、ですか?」
ミサだけでなく、カイルも驚いた声を出した。それもそうだろう。騎士の誰かかも、と読んだのだから。それを踏まえた上で、このカードだ。
「ペンタクルのエース。これは実力を意味するカードなの。さらにペンタクルは、絵柄を見て分かるように、金貨だから地位や財産も意味している。つまり……」
「騎士団長レベルの人物、ということですか」
「おそらくね。アドバイスでペンタクルのナイトが出ていたんだもの。すでに出会っているんだとしたら、アプローチをするのもいいかもしれないわ。見て、ペンタクルのナイトもエースも、ワンドの十の方を見ている。この背中を見ているのよ。ミサの重荷を軽くしたい、と思っているのかもしれないわ」
あぁ、そうか。こんな風にも読めるのね。いつも自分のことばかりだったから、あまり深掘りしなかったけれど。
「あとはそうね。ペンタクルのナイトは黒い馬に乗っているから、そういう人……いるかしら」
「はい。ちょうど俺の直属の上司に……」
「ヴァレンティア卿……その方って、先日、姫様のお部屋を訪ねてきた方ですよね」
「あぁ」
「え、何々。何かあったの?」
私はあの時、チラッとしか見ていなかったけれど、確かにイケメンに見えた。カイルよりも騎士らしくて、騎士団長と言われたら、納得するほどの風貌と貫禄を備えた人物だった。
「厨房から戻って来る時に、廊下でお会いしまして。このカードを届けに来たことなど、色々と教えてくださったんです。あと、クラリーチェ殿下の動向に気をつけるように、とも忠告を受けました」
「……それで遅かったのね」
「はい。その前から、困っているところを助けていただいたり、色々と教えていただいたりしてくれていたのですが……あれって、そういうことだったんですかー?」
「よく分からないけど、おそらくね。さり気なくミサにアプローチしていたんじゃないかしら。このペンタクルのナイトが騎士団長なら、ありえそうね。恋愛は奥手のようだから」
「分かりました。私、アプローチしてみます!」
ミサはそう言うと立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
「もしかして、俺をリュシアナ様の護衛に推薦してくれたのも……ミサ殿がいたから、か?」
カイルもまた、この結果に驚いたのだろう。私が傍にいるのにもかかわらず、そんな呟きをした。
お読みいただきありがとうございました。
今回の占いも私が引かせていただきました。
最初の三枚を引いた時、とりあえず読んだのをそのまま書くか、といった感じで書いていったら……まさかのペンタクルのエースに、このまま採用した次第です。
リュシアナのように、思わずはしゃいでしまいました。




