2.母を救うために
(やり直したい…もう一度)
その瞬間、いままでの記憶が蘇ってくる。
今はもういない、家族の笑顔。
母の形見のドレスを破いて捨てた叔母。
私を捨てて子爵家の令嬢を娶った婚約者。沢山の領民が斧で城の扉を壊す音。
血だらけになりながら懇願してくる政略結婚相手。
そして、斬首台を見つめる沢山の目。
そして、12連勤で疲れている私。
夜な夜な乙女ゲームをプレイしてる私。
寝不足で階段を踏み外し、意識が朦朧としている私。
頬を打たれたような衝撃を感じる。
あのまま私は死んだはず…
でも、私は10歳の姿に戻って生きている。
そして、前世の記憶も手に入れて。
神様はチャンスをくださったのね。
私はなんとしてでも母と兄の死、父の失踪を解決させ、アルテ戦を勝たせる。これが私の二度目...いいえ、三度目の人生のやるべきことだわ。
まず、母親の死を食い止めなければ。
母親の病気は病弱さに加えた過労によるものだと言われている。つまり、私が仕事を手伝えば良い。
お母様の書室へ向かう。
「お母様、公務を手伝います。」
高い位置にある書類を取り、ペンを取り出す。
「ノエル…、いきなりどうしたの?」
そりゃあ10歳の娘がいきなり公務を手伝い出したらびっくりするわね。
「お母様の仕事が気になるなと思って」
びっくりしたように瞳を開きながら、
「あら、そうなの。でもノエルにはまだ早いわよ」
と優しい声で言った。
そりゃあ駄目だわ。国家機密情報を子供に扱わせるわけにはいかない。
それに今は隣国との貿易が始まったばかりで特に忙しいはず。
今の私はお母様を癒すことぐらいしかできないわ。
それだけれど、このままだと、前の人生と変わらないかもしれない。