運
宇津井宗介 27歳 誕生日 6月17日
好きなもの
アクションゲーム
鯖味噌定食
生姜焼き定食
嫌いなもの
しつこい女
ファッションセンスでモテなくなってる可哀想な男だ!
親は小さい頃に亡くなっていて、結婚しろと言う人が居ないので自由気ままに生きている。
彼女は居ない。
こんなんでも、社交は高く、多くの人に信用されている。
友達も多い。
昔は生意気なガキだった。
自分は不幸な人間だと思いきっていた。
だから、自分はヤクザになるしかないと13の時に考えてた。
だが、暴対法によりヤクザは消えていく宿命だった。
そんな中、1人の男と出会う。
カタギだけど、腕っぷしが良いと評判で度々ヤクザの抗争に乗り込んでいたという…
今で言う、インテリヤクザ系って奴だ。
恥ずかしい話だが、完全に人を頼ってヤクザになろうとしていた。テメエで頭下げることより、他人の力でヤクザになろうと思っていた。
その時点であの人に負かされたんだと思う。
その日はいつもの食堂でメシ食ってるって聞いて、押しかけた。
「…らっしゃい」
じいさん、ばあさんが営む飯屋。安くて美味い…白飯のおかわり自由の気前のいい店だった。
「いんだろ?ヤクザモドキ…」
革ジャンジーンズ黒サングラスが、奥のカウンター席で黙々とメシを食っていた。
「話ある…出ろよ」
もちろん応える気がないのは分かりきっていた。
もぐもぐと白飯を口に放り込む。
「…んぐ…今日の日替わりは鯖味噌だ。魚はイイぞー、しつこい脂が無くて、何杯でも米が食える」
「…メシ食うの辞めろよ」
「やだね…もぐもぐ…やめてほしいなら、やってみろよ素手で…」
一度もこちらを見ずに会話だけが進む。
俺も馬鹿だからイライラしてた。相手にされなくて駄々こねるガキみたいに、怒りだけが募っていった。
「やってやるよ!!!」
カウンターに置いてあったピッチャーを掴んで殴りかかった…すぐに止められたけどな。
手首にナイフを立てられてた。
「店に迷惑かけるんじゃねぇ…それと、筋切られそうと思うぐらいなら、喧嘩なんて売ってんじゃねーよ…」
「チッ…!」
「目黒ちゃん、特別に残しておこうか?」
「いんすか、おばちゃん?たのんます…」
左手で顎を握られ、引き摺られる。
「あ゛っ!?はあなせっ!!!」
「メシの時間邪魔されて『おつかれー』って帰すもんかよ。喧嘩してやるよ」
「目黒ちゃん、手加減してやんなよ。ただのガキんちょだぜ?」
「心配なさんなって。ちゃんと指導してやるんでおじちゃん。産まれたての小鹿みたくしてやりますよ」
「くっ!?」
片手で掴まれてるのに、両手を使っても引き離せなかった。
店の扉が開いて、そのまま外へぶっきらぼうに投げられた。
「………ちくしょう!」
「おまえ、最近暴れてるガキだろ?3年前からお山の大将名乗ってる…確か、宇津井って苗字の…」
「どうでもいいだろ」
「中坊なんなら、勉強はしとけって。素手でのし上がる時代は終わったんだって」
「これしか…」
これしか、何もなかった。
「これしか、何もできねぇんだよぉ!!!」
3歩で間合いに入る大振りの右手パンチ。
防御又は躱される前提の攻撃。
本命は………
「左回し蹴りだな!」
呆気なく躱される。
「んっ!?」
俺のステゴロスタイルは勢いを殺さない。左脚が駄目なら、即右脚にスイッチ。2段前蹴りを放つ。
当たりはしなかったが、かけてたサングラスを蹴っ飛ばした。
「…ふぅ、どこで習ったんだ?」
「…」
「あっそ、自己流ってことね」
そいつは一気に距離を離れる。
「こっちも、自己流なんでね。種明かしはしないよ…」
肩をぐるぐると8の字で回す…前傾の体制で脱力していた。
一旦様子見を…
「見したら、負けは確定だぜ!」
「!?」
摺り足に近い足並みで、距離を詰める。
ダランとした片腕が顔を襲う。
2択。避けるか、守るか。どっちを選んでも詰み。
俺は防御する。
「がぁっ!!?」
防御の上からの攻撃なのに、貫通したみたいに顔面と腕の両方にダメージを喰らった。
それで終わるくらいなら、伊達にヤクザとタイマン張れる人間と噂される人じゃないと思ってた。
「ぉおらよっ!」
どういう足並みでやったか分からなかったが、脳天に回し蹴り…普通だったら、気絶もんだ。
「ぐあぁ…おえっ………ゲホッ、ゲホッ…」
「割と良いダメージだと思ったけど、意外とガッツあんだねぇ…」
髪を掴まれ、顔を覗かれる。正直、こんまま殺られると思った。
「…よし、オレの舎弟なれ宇津井」
「はぁ?」
「悪くねー話だろ?だが、学校には行け。高校も通え。それができないなら、お前の面倒は見ねぇ」
「…急すぎるだろ」
「腹減った!メシ食うぞ、宇津井!」
「…うっす」
こうして、目黒敦との交流が初まり、修行と社会のルールを覚える日々が始まった。
2024/4/15 pm4:56
「へー、宇津井さんって師匠が居たんですねー」
「まあな」
「んで、師匠超えはできたんですか?」
「あ?できてないけど」
「えっ!?」
「…おい、わかりやすくドン引きすんな」
「すみません…話の流れ的に、師匠を超えて新しい流派みたいに看板背負ってるもんだと…」
「そういうもんじゃねーぞ?俺の自己流に師匠のステップを取り入れただけだ」
「どんなのなんです?」
「簡単に言えば、躰道だ」
「躰道?」
「回避する体術だね。気分はどうだい東くん?」
ナツさんが割って入ってきた。
「…はい、胃の中もスッキリしました」
「よかった。なら、解剖させて?」
「嫌です」
「ちぇっ、仕方ないなぁ…」
ナツさんは座ってる僕の下半身に………
「おいコラ、未成年に手出しすんのがテメエの機関の目的なのか?」
「ジョーダンなのに〜」
絶対、冗談じゃないっ!!!目が本気だった…
「そ、そんなことより、お二人の能力を簡単に教えてくれても?」
「隠すつもりは無いから、教えるよ」
「んじゃ、アタシから〜…アタシの世人は【解】。その能力の弱点とか、隠された力の解明に役立ててるよ〜」
「な、なるほど」
「だから、今度はオッケー出してね?頭開きたいんだ〜」
「やめろっての!…さっき話した通り、俺の世人は【運】。対世人キラーって言っても過言じゃねぇ」
「対世人キラー?」
「宇津井くんの能力ってね、1初見能力に対して、絶対に死ぬことはない。2死に近づけば近づくほど、自身の能力は高まる。3その力はどんなモノでも、本人の意識に反してクリティカルする…こんな感じで困った能力なんだよぉ〜」
「えっと…つまり…?」
「下手したら、俺が東君を殺してたってことだな」
「…マジっすか?」
「大マジだよー。アタシだってヒヤヒヤしたんだから…またかって」
「仕方ねーだろ!?加減できねぇんだからよー」
「ははは…は…」
とりあえず笑うしかないな。
「それで、世人を集めてどうするんですか?」
「アタシは関係ないよ」
「へ?」
「実は会わせたい人が居るんだが…歳の近い奴らと一緒がいいんだが…」
「僕と歳の近い子が世人に?」
「極めて稀だがな。だが、2人とも訳ありでな…1人はこの病院に居るし、もう1人は…その、気難しいやつなんだ…」
「なるほど」
「霧島さんと会わせなよ、とりあえず」
「霧島さん?」
「だいぶ前から未成年世人の保護をやってる…上手くいってないけどな…」
「そこに、自分が?」
「それだけじゃないんだがな………」
何か含みのある顔を宇津井さんはしていた。
「霧島さんとのアポ取ってくるわ。今日は真っ直ぐ帰ってくれ…わかってると思うが、自慢とかそういうのするんじゃねーぞ?」
「しませんよ…」
「んじゃーな。ナツ、変なことすんなよ」
宇津井さんは先に出てしまった。
「そ、それじゃ…帰ります…」
早いとこ帰らないと何されるか…
「待って、東くん…」
背中がゾワっとした。
「もしかしたら、東くんの学校に他にも世人が居るかも…」
「そ…そうですかね…?」
「もし、見つけてくれたら…」
「ひぃっ!?」
下半身の危機!?
「ジョーダン、冗談だって!東くん、おもしろーい」
冗談じゃないっ!!!本気の脅しだった!
「お疲れ様〜。何とかして頭開けるようにしてね〜」
「そんなことさせませーん」
「あはは、またねー」
地下から脱出した。
2024/4/15 pm6:12 自宅前
今日は、色々ありすぎて疲れた…
なにか忘れてるような…
あっ。
「やばっ!?南くんっ!」
そういえば、約束してたんだった!お昼、一緒に語ろうって言ってた!
急いでスマホを開き、連絡する…メッセージ新着一件。
スカウトされたでしょう?行ってきてくだされ!
am10:42
ごめーん。連絡遅くなっちゃった
pm6:13
構いませぬぞ!明日、詳しい話聞かせていただきたい
pm6:13
もちろん!明日、学校で
pm6:14
ふぅ…怒ってはなさそうだな…
でも、親には何て言えばいいかな?
「スカウトされたー」で通るはずないし…
途端に玄関のドアが重くなった。
「ただいまー」
「あっ、おかえり〜」
扉の向こうは、母さんが作ったカレーの匂いが充満していた。
キッチンへ向かう。
「ただいま…あれ?父さん、今日早いね」
「おう、英志。おかえりなさい」
「そりゃ、お父さんも居なきゃお祝いにならないでしょ?」
「お祝い?」
「まさか、芸能界からスカウトなんて…」
「知ってたの!?」
「そりゃそうよー。ちゃんと、学校と島津プロダクションの方から連絡来たんだから〜」
「でも、学校は…」
「校長先生は断れって言ったんだって?全く、若い芽を摘むとは、教職として酷いな。あんまり気にするなよ?」
「う、うん…」
「ささっ、ご飯にしましょ?英志おめでとうのカレー。いつもよりド派手にしてみたわ」
カレーライスの上にハンバーグが乗ったハンバーグカレーだった。
「美味しそう…」
「ハンバーグのおかわりもあるわよ。いっぱい食べて、ヒーローになって!」
「息子がヒーローか…考え深いなぁ………」
「お父さん、泣かないの!ほら、席に着いて」
「気が早いって2人とも〜」
『せーの、いただきます!』
2024/4/16 am0:34
「チっ!人殺しても、こんぐらいしか稼げねーのかよ、クソッ!」
「そうカッカしないでください…アナタは特別なのですから、活躍すればするほど、お給金は良くなりますから…」
「ほんとかよ…アンタ、騙してないよな?」
「騙して、お金を支出してるバカなんて…本末転倒では?」
「…チッ!」
「次の依頼を言います」
「なんだよ」
「若い世人を誘拐してください」
「は?なんで?」
「実は…1人、有力な子が居ましてねぇ…」
「特徴は?」
「学生ですが強い能力です。アナタなら、負けないとは思いますが、気をつけてください」
「けっ!わかったよ。誘拐だな?」
「お手数ですが、お願いします」
「振り込み額、期待…」
ツー、ツー、ツー
「ボケがっ!舐め腐りやがって…」
2024/4/16 am6:02
なんか眠れなかったなぁ…
布団の中でウダウダするのやだし、いっそ出ちゃうかー。
ベッドから出て、布団を畳み、下に降りる。
ピンポーン…
降りきったタイミングでインターホンが鳴る。
誰だろ?
「今行きまーす」
玄関へ向かう。その先の主は、小声で話しかけてきた。
「すまん。東君か?」
「宇津井さん、ですか?」
「朝早くに悪いが、すぐ来れるか?」
「えぇっ!?今から?」
「霧島さんの件だ、私服で来い。学生服で来られるとマズイんだ…すぐ終わる」
「英志〜?どちら様、だったの〜?」
げぇ!?母さん!!!
「早くしろっ!マネージャーが来たとか、何とか言えって!」
「あ…ぇ、うん、マネージャー…じゃなくて、じゃなくなくなくて、すぐ行かなきゃなんだ!早く着替えなきゃ!」
ダッシュで自分の部屋に戻る。
下から母さんの声が聞こえてくる。
「急に来るなんて…お茶とか出した方がいいのかしら…?」
「だ、大丈夫!長話とか、してる暇ないって!」
リュックへ、ぐちゃぐちゃに制服を入れる。自分の服装は、動きやすいジャージ系で整えた。
「ご飯は〜?どうするの〜?」
「平気!…たぶん、いや、あるって!」
忙しく下へ降りる。
「ごめん、母さん!行ってきます!」
「はい。いってらっしゃい」
嘘をつく僕に胸がモヤつく。
「お待たせしました…」
「こっちこそ、すまん…今からなら、7時前には着くな…行くぞ」
「あっ…はいっ!」
「ここだ」
「ここが…ですか?」
何の変哲もない、住宅街のマンションの一部屋。
場所的に変わってると言われても特にない…消防署と警察署が遠くない場所、マンションの屋上から見える距離くらいだろうか。
「入る前に、ほれ」
宇津井さんは、開いた箱を渡してきた。
「なんです?これ?」
「スマホ入れろ」
「なんで?」
「そういう能力なんだよ…」
「ふーん」
素直にスマホを入れる。
「よし。入っていいぞ」
「えっと…お邪魔します…?」
玄関のドアを開けた先は………
1Kの必要最低限の家具しかない、広々とした部屋
だった。
壁が暗めの灰色で囲まれていて、床が研究室を思わせる白色で敷き詰められていた。
「いらっしゃい」
その部屋の主は、オールバックで髪を決めていて、両サイドは白く、トップは黒くしていた。
「はじめまして、おはようございます。東英志です…」
「こちらこそ、はじめまして。霧島よしきだ」
うわぁ…
ダンディって言葉が似合うのは、この人を指すんだろうなぁ〜と思った。
「宇津井も、急遽なのにすまなかったな」
「いえ、動ける時に動くのが先決かと…」
「うむ…こっちの部屋で話そう」
奥の部屋に手招きされて、指示に従い入る。
「失礼します…」
奥の部屋も変わらず、同じ壁・同じ床だった。強いて言えば、1人用の机と椅子が何脚かあったぐらいだった。
「これを読んでくれ」
1枚の紙を渡される。
「これは?」
「危険人物リストだな…とは言っても、名前じゃなくて能力しか分かってないがな…」
「俺の能力【報】は、電子機器から情報を引き出す…それなのに分からないのは、完全にこちら側を理解して情報を遮断していると考えられるな」
「な、なるほど…」
とりあえず、渡されたモノを読んでみた。
不特定人物、世人能力の報告
【血】 被害者多数。すぐに拘束又は処分の検討求む。
被害者から1箇所、傷を発見。
そこから、大量の血液を抜き盗ったと仮定する。
その血液を操り、構成員を殺めたのではないかと結論付けた。
防御は無意味。水圧カッターとほぼ同じ威力と思われる。
【祟】 被害者数不明。能力による殺害か事故なのか特定不可能。
この能力を調べれば調べるほど、自身にかかる負荷が増していく。最後、発狂する。
発動条件が不明の為、安易に近寄ることを禁ず。
発見しても動じるな。悟られるな。既に相手の領域内ということを忘れるな。
不明世人【色】について
手を出すな。
「記憶したか?東君」
「…はい」
「最近、幅を利かしているのは【血】だ。そいつらも、世人集めをしている…」
「霧島さん、質問いいですか?」
「なんだ?」
「僕に声をかけた理由はなんですか?」
「…戦って欲しいとは言わない。ただ、その力を正しく使うべきだ。それ以外、どう使ってもいい」
「簡単に言えば、悪いヤツを倒すのにその力を使うんじゃねーってこと。世人同士なら、しゃーないっちゃしゃーないけどな」
「東英志、我々に協力してくれるか?」
断る理由がない。
「わかりました。僕ができることがあれば、協力します」
「…感謝する」
霧島さんが手を出してきたので握手した。
「そろそろ、学校に向かわないといけないかな?」
「えっと…大丈夫ですね。駅で制服に着替えても、遅刻はしないと思います。」
「そうか。苦労をかけるが、これからも宜しく頼む」
「はい!こちらこそ!」
「んじゃ、学校に行ってこい。見送りはしねーからな」
「わかってます。何かあればまた…」
僕は霧島さんの家から出て、学校へ向かった。
「………本来の目的、伏せるべきっすよね」
「当たり前だ。まず、信頼と人数を得てからだ」
「よしき…アンタ、ガキんちょ共に無理させる気じゃないですよね?」
「余計なことを考えるな。それより、植野主水はどうした?」
「アイツらに先越されないよう、見張ってます。早くて今日かと…」
「注意しろ。植野主水と東英志は、我々にとってより良い戦力だ。安易に渡すな」
「…わかってますよ」
2024/4/16 am7:42
駅のトイレで制服に着替えて、外に出る。
今から学校へ向かっても余裕な時間だ。
結局、SOSが来たら即出動!って感じなのかな?
ってか、連絡先交換してないじゃん!?どうするんだろう…
なんて悩みながら歩いていると、ひとり、木の影のベンチの下で、ぐったりしている男性が居た。
(どうしたんだろう…酔っ払いにしては、身なりが整ってるな…声をかけてみるか…)
「あの…大丈夫ですか?」
「………大丈夫、じゃないです」
「えっ?…ちょっと、待っててくださいね」
自販機がある場所に行って、飲み物を買って戻ってきた。
「あの、ミネラルウォーターです…飲めますか?」
「……すみません。助かります」
男性は差し出されたペットボトルを受け取り、倒れていた身体をしゃんとさせて、水を飲んだ。
「…ふぅ。どうも、ありがとう」
「いえ、辛そうでしたので。それじゃあ、自分はこれで…」
「ちょっと待ってくれないか?」
「どうされました?」
「申し訳ないんだが…朝から愚痴を聞いてはくれないだろうか?」
「…その程度でしたら、構いませんよ」
「いやぁ〜、すまないねぇ…隣、座って座って」
僕は男性の隣に座った。
「君は、営業マンってどんなイメージ?」
「そうですね…ひたすらいろんなところ行って、実績を獲るって感じですかね?」
「なるほど…今の子はそう考えてるのか…」
「違うんですか?」
「いや、間違ってはない。むしろ、それを理解していない人が多いって感じかな…」
「望んだ仕事なのに、理解してないんですか?」
「そうなんだよ。思ったのと違うって、学生だから許されるんだよね。自分がやっていること…違和感を感じたら、辞めるか辞めれないかの2つしかない…嫌な話だったかな?」
「そんなことないです」
「へぇ…君は聡いね」
男性は立ち上がった。
「気分が良くなったよ…仕事も無理なくできそうだ」
「ご無理なさらないでくださいね」
「君の顔、覚えたよ。いつか、お礼するから…楽しみにしてて!」
男性は駅に向かい、姿を消した。
………って!時間ヤバいぃ!!?
呑気しすぎた!急がないと……
ってか、ご飯食べてないよー。お昼もないよー。
あぁ〜〜〜、どうして気が利かないのかなぁ〜。宇津井さん、ご飯くらい奢ってよぉ〜。
なんだ?あのガキを捕まえればいいのか?
やけに親しそうに喋ってたじゃねーか…
それとも、アイツの趣味なのか?
どーでもいいか
あのバカそうなガキ攫うだけでいいんだろ?簡単じゃねーか
ミスって、殺さないようにだけ気をつけるか…
2024/4/16 pm0:48
「なるほど。今朝遅れそうになったのは、人助けのせいでござったか」
「うん…南くんが、怪獣パンを3つもくれなかったら、お腹ぺこぺこで餓死するところだったよ…」
「未来のヒーローを助ける者こそが、1番の功労者なのですぞー。自分がそのポジションなら、大満足です」
怪獣パン。シール入り150円。チョコかクリーム味を選べる。作ったシールの数を、正確に覚えていない製作パン会社。
「それで…さ、平河くんとは…どう?」
「…気にしない方がよいでござるぞ」
「でもさー…」
「早速昨日、コンタクトがありました」
「えっ!?」
「『あんなヤツと一緒より、こっちに来い』と」
「あんなヤツ…」
「だから言いましたぞ『お互い費やした時間を、あんなヤツと済ませるのであれば、その程度の友情だった。別に平河どのとは、有意義な時間を感じはせぬ』と、丁重にお断りしました」
「…酷くない?」
「いいえ、思いませぬ。あんな、自己嫌悪の…」
南くんは、窓の外を見つめて言葉を塞いだ。
「どうしたの?」
「東どの、外に居る方はお知り合いですかな?」
「誰ぇ?」
南くんの視線の先は、全く知らない男性だった。
「…全然知らない人。あの人気になるの?」
「一限目が終わってから、校舎内をチラチラ見ています。誰かを狙っているのかも知れません…」
「そうなの?」
「あの髭、無精髭です。教員が特に話さないのも、誰かの待ち人…いや、そういう風に思わせてるだけかもしれませんな…」
「…」
もしかしたら…
「ごめーん。今日、早退するね」
「どうされた?東どの?」
「あそこに居る人…怖い顔してる?」
「そりゃ…カタギには見えない…よもや!」
「昨日の今日で、約束ブッチしたかも〜」
「泣く暇あれば、筋トレせよの島津プロダクションですぞ!?早く行きなされぇい!!!」
「あっはっは〜、怒られてくるね。南くん…」
もし、校内に入られて戦闘だなんてされたら…
確かめるしかないよね………
「チッ!待ってんのも苦痛だのぉ!(タバコも吸えねーなら、追いかけてくるんじゃなかった)」
イライラが止まらない。
「何見とんじゃ、ボケ!!!殺すかー?」
周りの人達は関わらないよう、視界を狭める。
「はぁ〜。いつまで待てば…」
べちゃ…
「は?」
誰かが、泥を投げた。
視線を上げると今朝見た青年。
「世人だな?捕まえたきゃ、捕まえてみろ」
学校の塀の上を走る青年。
「待てコラ、ガキ!!!」
青年と男の鬼ごっこが始まる。
パルクール。
心身の鍛錬を行う運動。
走る跳ぶ登る移動方法を自分でアレンジし、素早く且つ滑らかに行動する。
「なんじゃそれ!?」
こと東英志にとってパルクールは、幼い時から学んだ物事の1つ。
恐怖心はそれを行えば無くなる。
「聞こえるか!東君!」
「宇津井さん!?」
スマホでもない、直接脳に聞こえてきた。
「周波数を合わせて、東君にしか聞こえない。今から言うことに従ってくれ!」
「わかりました!」
「まず、今追いかけて来てるのは『青海豊』借金から逃げてるクズ。金の為なら人を殺すやつだ」
「…はい!」
「約2キロ離れた場所に工事現場がある。そこで…不本意だが、戦ってくれ。こっちも急用で助けには行けない。ひとりで何とかするんだ!」
「はい!」
「最終目標は、ナツの居る所まで逃げることだ!敵を倒すんじゃない。何らかの方法で行動不能にして、逃げ延びるんだ!」
「わかりました!」
2024/4/16 pm1:28 工事現場内
深呼吸をして、相手を待つ。
倒すことが目的じゃない。
足止めをする。行動不能にする。
不思議と【光】は、僕に応えてくれた。
運命断罪輪
ギャラクティカの必殺技の1つ、近づくもの全て切り裂く光の車輪。
「準備万端って訳かい…」
青海が近づいてくる。
「舐めんなよガキがっ!こっちの方が優れてんのじゃ…」
本人の気配はない…声だけが響く…
「別に傷あってもええやろ!抵抗するんが、悪いんじゃ!」
来るっ!!!
2つの車輪を回転させて、飛んできたモノから体を守った。
「チッ!ボケがっ!!!」
この匂いは何だ?昔嗅いだことがある…
「ますます気に食わないのぉ!ガキの癖にええ世人貰ったんか?ワレェい!?」
土だ…土の塊を投げたのか?
「近接が苦手なんか?喰らえぇぇぇい!!!」
ハッと、目を開く。
青海は身体を鋼となり、突進してくる。
「運命断罪輪!!!」
飛ばした車輪は青海の身体を…
(弾いたっ!?)
人を殺めてしまう恐怖心と、他に被害が受けるかもしれない恐怖心で、光の車輪は弾けて消えた。
そのまま青海のタックルを喰らう東。
「ぐぅ…!?」
「弱いのぉ…こんなん、赤子殺すより楽やわ」
首を掴まれ、持ち上げられる。
「一応、教えておくわ。わしの世人は【鋼】やわいヤツなんぞ、一捻りじゃ!」
【鋼】?そんな訳あるか!?
この握力…物質を感じられない………表面だけ、なのか?
「暴れんじゃねーよ、ガキ。でないと、ポキッとしちゃうかもなぁ?ガッハッハ…」
ここは工事現場。
丁度いい形の武器になる物があるはず…探せっ!
「おい!!!いい加減…」
シンプルな攻撃。
相手を怯ませる、単純な光。
「光眼!!!」
「がぁ!!?」
思惑通り、青海は手を離し東を解放した。
「ガキめぇ…なにを…」
「うおぉぉぉおおおお!!!」
拾った鉄パイプで、青海の左腰を突き刺す。
それが、普通の鉄パイプなら無意味だったろう。
だが、東は【光】の世人。
握りしめた手から光のエネルギーが伝導し、鉄パイプを伝って、体内でエネルギーが溢れ出す。
マスク英雄アンペアが使った、敵を自爆させる必殺技。
「超電導零!!!」
「なんだぁあああ゛!!?」
青海の身体を覆った鋼は剥がれ、左腰は粉砕した。
「てめえ…!!!チクショウが…テメェ!!!」
息を乱しながら、この状況を飲み込もうとする東。
(病院に…ナツさんの所に…)
東はこの場から離れようとする。
「待てやテメエ!!!やりやがったな!!?ふざけんなよ、元に戻せよゴラァっ!!!」
東に青海の声は届かない。
【光】のデメリット。
光を放つのに大きなカロリーを消費するが、電気のオンオフを繰り返している訳で、熱は冷めない。
使いすぎると脳が沸騰し、そのまま倒れてしまう。
東英志は、無意識にそれを理解し、ギリギリの状態で青海を再起不能まで追い込んだ。
ふらふらとなりながらも、東はナツの居る病院目指し歩く。
青海の怒号を聞きもせずに………
2024/4/16 pm4:25
「…まさか、失敗するとは」
「堪忍な…治してくれや…」
「嫌です」
「なんやと!?」
「無駄なことはしたくありません」
「ちょっ!ちょい………」
「嬉しい誤算ですね…新たな世人が居るとは…是非、我々と共に新しき世界の礎となって頂きたい…ふふふ」
最後までご愛読いただきありがとうございます。
次回、また植野主水に戻ります。