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植野主水 15才 誕生日 4月13日

好きなもの

時代劇

おにぎり屋さんの、出来立てやわめのイクラおにぎりと高菜明太おにぎりと浅漬けと味噌汁

嫌いなもの

頭を使わず、ただ騒いでいるだけの人間

社会のルールは自分と言い張る馬鹿


中学3年

幼い頃から父親の影響で時代劇にハマり、柔道・剣道・弓道を習い始める。

センスが抜群で、数々の賞や新記録を叩き出しているが、本人曰く興味がないとのこと。

常に未来の自分の為に、勉学だけではなく家事や法律を学んでいる。

だが、クラスの皆んなからは嫌われている方だ。

人のためにルールが有るなら、それを破る者は万死に値する。

今まで免れてきたんだ。当然の報いだろ?

どいつもこいつも、ふざけた野郎だ。

いっぺん、ぶった斬られねぇとわかんないもんな?

…小賢しい真似しやがって…いい加減、腹決めたらどうだ?

テメエは、恨まれてたんだよ。テメエは覚えてないかもだがな。

じゃーな。2度と生まれてこないことを願うぜ…

2023/11/23 勤労感謝の日

植野主水うえのもんど初めての復讐殺害、実施




2023/11/26 am11:15 冬明とうめい杯決勝

力さえ有れば、他人は自分に付いて来るもんだと思ってた。

「それまでっ!!!………勝負ありっ!」

圧倒的教養と武術のセンス。人の上に立つ者として、充分なくらい努力した。

「植野くん、ちょっといいかい?」

「…柳先生。お疲れ様です」

「植野くん、さっきまで試合していたとは思えないくらい落ち着いてるねぇ〜」

「まぁ…勝ったんで…」

「ケガさえ無ければ、今年の全国大会個人戦、キミが優勝していたかもしれないねぇ〜」

「それは…やってみないと、わかんないです」

「ほほっ!謙遜してるねぇ〜。でも、気をつけた方がいいよ。いつか、キミも体験するから…」

「何をです?」

「強すぎると、やること無くなるから…」

「なら、別の競技をやるまでです」

「元気だねぇ〜。表彰式、そろそろだよ?」

「はい、準備します」

たかが紙切れと、たかが盾。

手に入れたところで、役には立たない。


「お疲れ様〜、主水くん」

帰り支度をしてると、幼馴染の直衛倫子なおえともこが話しかけてきた。

「おつかれ。そっちはどうだった?」

「全然ダメ。主水くんみたくできないなぁ〜、ウチらわ」

「顧問とか、何か言われなかったのか?」

「まっっったく!主水くん一筋だよ〜、みんな」

「…統率が出来てないな。主将も帰ったみたいだし」

「ひどいよねー。興味無いからって、先帰ることなんてしなくてもさー」

「文句言っても、帰っては来ないだろ?」

「えー?いいの?主水くんは?」

「偉い人ほど、嫌われるのが筋だからな…顧問たちは、これから話し合いだと」

「飲み会でしょ、どうせ。さっさと帰るのが勝ちだね」

「そうだな。身支度は終わった。帰ろうぜ」

「うん、帰ろ帰ろう!」

俺たち2人は、総合体育館から出た。

「それにしても…四冠達成ですか、主水くん」

「別に?獲りたくて獲った訳じゃないし…」

「そう?前人未到達成なるかーって騒いでたじゃん」

「…周りが騒いでただけだよ」

「そっか…でもさー、今日の試合、ほとんど観てたけどさー。なんか、キレというか…なんか、あった?」

「…何か問題でも?」

「ううん。いつもより増してさ、太刀筋凄いなぁって思っただけ」

「………気のせいじゃない?」

「顧問とか先生たちに、何か言われた?気迫がさ…相手を圧倒してたよ?」

「さぁ?特に何も…晩御飯何作るかなぁ〜とか、考えてた」

「余裕かよ、こら」

軽くパンチされる。

「冗談だよ」

「冗談に聞こえんのだよ、優等生くん?去年は柔道で全一獲って、今年は春夏秋冬杯全部優勝。来年どうすんのよ?」

「…試験勉強かな?」

「ウッ…今考えてんのそれ?」

「そりゃ、そうでしょ」

「弓道は?やんないの?」

「うーん…3学年って、長いようで短いじゃん?勉強しとかないと、余裕ないのかなって」

「えー?楽しもうよ、学校生活。修学旅行とかあるじゃん」

「それ来年の今頃じゃん。それに、中学生が行ける場所なんて限られてるじゃん」

「わかんないよー?海外行くかもじゃん?」

「…英語できんの?」

「あい、どんと、すぴーく、いんぐりっしゅ」

「Oh…That's unfortunate」

「日本語しゃべれっ!…このぅ!」

「ハハっ!竹刀で突くなって!」

部外者が見れば、ただの剣道少年少女なんだろう。

でも俺は違う。

俺はもっと、残酷になれる。

彼女に嫌われても、俺はこの事を辞めないだろう…

「それじゃ俺、こっちだから…」

「え?家と真逆じゃない?」

「武道具店に用事があって…」

「ふーん…もう4時過ぎだし、遅くなんないでよ!」

「はいはい、お母さん」

「誰がお母さんじゃ!」

「ハハっ!じゃあまた、学校で」

「うん。またね、主水くん!」

彼女と別れる。

別に付き合ってる訳じゃない。

ただの幼馴染…それだけ。

この事を話すつもりもない。

俺が信じた道を行くだけだ。


2023/11/26 pm4:12

「いらっしゃい…」

「ども」

武道具店鉛玉。おじいちゃんが経営する老舗だ。

「…今日は何が入り用で?」

「錆取りは、ないかい?」

「今は必要ないですよ」

「なら、鍔だけでも綺麗にしたい」

「…」

おじいちゃんは座ってた椅子を退かし、地下の階段扉を開く。

「先、行ってな」

「…はい」

俺は言われた通り、その地下へ入っていく。

暗い。

俺にとって、心地よい暗さ。

このまま、階段を踏み外して底へ落ちてしまいたい衝動を抑え、その先の座敷へ向かう。

階段を降りると明かりの点いた、四畳半の座敷が見えた。

重ねてある座布団を1枚、壁に近い場所に敷き座る。

しばらくすると、先程のおじいちゃんが降りてきて、座布団1枚ぶっきらぼうに置いて座った。

「…それで、どう信じてもらえる?」

「写真は無いのか?」

「…ある」

インスタントカメラを取り出し、そこからフィルムを出す。

「見れば分かる」

おじいちゃんは眼鏡をかけて、そのフィルムを覗いた。

「できるだけ苦しめて殺した…フィルムが物語ってるだろ?」

「…」

おじいちゃんは眼鏡を外し、しばらく何かを考える。

「…まさか、本当にやるとはの」

「今更だろ。とっくの昔に覚悟は決まってる」

「その歳で、何を見てきたと言うのだ?」

虚いだ目で、俺を見る。

「たかが、真剣を得る為にわしの復讐をするなんて…」

「対価を払ったまでだ」

おじいちゃんは深くため息をすると、木材の引き出しから、紫の布で覆われた物を取り出し、俺の目の前に置いた。

「打刀と脇差、短刀を包んである。手入れを怠れば、すぐに使い物にならん」

「…わかってる」

実際の刀身を見るため、布に手をかけた瞬間、おじいちゃんに手を止められた。

「わかっているのか!?人を斬るということは、人の重みを背負い続けることだ!斬ったが最後、死ぬまで背負わされる…」

「これを使うのは、最終手段だよ…それまで、チャチな小道具で殺めるしかないさ…」

「…」

おじいちゃんは俺の手を離した。

目的通り、それぞれの刀身を見る………本物を見るのが初めてだが、悪くないと思った。

「…それと、金だ」

おじいちゃんは懐から茶封筒を取り出し、渡してきた。

「いらねーよ」

「馬鹿言ってんじゃない、クソガキ。てめえの価値をてめえで下げるな」

「…それもそうか。有難く頂戴するよ…」

「50万入ってる。てめえの親父くらいの働き金だな…」

「…」

「しかし、どうやって持ち帰るんだ?隠し通せないだろ?」

「…企業秘密ってことで、他言無用で」

俺は畳の上に掌をかざす。

すると、影ができモヤモヤとその場に漂う。

その中へ刀たちをしまっていく………

また俺はその影に掌をかざして、それを掌にしまった。

「ほれ、この通り」

「…どうせ、明日には忘れるな」

「世話になった」

「2度とわしの店に来るなよ」

「その心配はねーよ。顔は映さないからな」

「どういう…」

おじいちゃんはもう分かったみたいだな。

「便利だろ?」

「…知らん。興味がない」




俺の能力は【暗】

影になっている場所であれば、どこでもその中に入ることができる。

自分の影に物を置くこともできる。凶器はそこにしまっている。

自分が作った影に人を入れることはできない。落とし穴みたいな芸当は無理。

自分の顔を覆う影を作るには、影になる物が必要。帽子とかフードとか…最悪、手拭いでも大丈夫。

俺は堂々とこの力を使って、己の義を貫く。

例えそれが、法を破ったとしても…助けを求める人の為、俺が非人道的になれば済む話だ。




身長ですか?175前後だと思います。

顔は暗くてよく見えませんでした。

彼と出会ったのは、本当に偶然なんです。

娘が自殺してしまい傷心してた頃、飲食店で話しかけられました。

「あなたの娘さん、自分に相談してくれました」

最初はただの無神経な人と思いました。

ですが、娘が私を心配していたこと、今付き合ってる人が半グレだったこと…最後に送られたメールのことを話してくれました。

そこまで知っているのなら、助けてくれと言いましたよ…でも、彼はただ悔しそうに大きな手を強く握ってたんです。

「人の命の価値は、あなたが決めてください」

そう言ってその日、彼とは別れました。

…お金準備しましたよ。30万。

アイツらの価値なんて、合わせても1円にもなりません。

私の気持ちなんです。

彼が復讐していただける、相応の値段です。




ほんと、参ってしまいますよ。ウチのホテルで殺人が起きるなんて…

グルじゃないです。そりゃ、反社の奴らですけど、普通にカネ払ってたんで。ナニしてようが、従業員は知りませんよ。個人情報ですし…

防犯カメラですか?ありますよ。でも、理解できないと思います。

観た自分も驚きすぎて、現実なのかフェイクなのかわかんないです。

………ほら、ここの丁字路の影から、何か投げて誘き寄せてます…そのまま首を絞めて………はい。ホテルにチェックインしたお客様ではないです。

刑事さん。この事件、闇に葬らないですよね?

こんな…化け物じみた殺人をやる人間、放っておく訳ないですよね?

困るんですよ、訳ありホテルって筋書きされるの。

ちゃんと犯人は映ってるんだから、捕まえてくださいよ!




2024年1月4日時点で、復讐依頼サイトの利用者は千を超えた。

おそらく、実行犯と思われる人間Aは、この中から獲物を選定。依頼者とコンタクトを取り、金銭の受け渡しをする。

その間、獲物について詳しく調べてる筈だが…イレギュラーというモノは起きてしまう。




2024/1/8 pm8:26 成人の日

【生放送】話題の復讐依頼をしてくれる人、凸ってみた笑

「シー…これから、あの店に居る正義の代行者へ凸しまーす…」

「先にゆーまが、中でコンタクトしてる!さっき、連絡来たからマジっぽい!」

「ちょっ、落ち着けって…マジかどうかは、音声確認しないと…」

「大丈夫。もう電話かけてまーす」

テロリンテロリン。テロリンテロリン…ピッ。

(ヤバっ!?でたぁ!!!)

「…お金って、即払いじゃないといけないんですか?」

(ゆーまの声、ゆーまの声!)

「…前金で分割した人も居ます…お金に困っているのですか?」

「そういうことでは…ないんですけど………」

(ガチっぽい、ガチっぽい!!!)

(行こう!颯爽と凸ろう!)

「お邪魔しまーす」

「ちょっと、マ!!?ガチで居るじゃん!!!」

「うぃっと…えすぷり…」

「誰ですか、あなたたち…」

「えっ!?なんで顔見えないの???これじゃあ意味ないじゃん…」

「…騙したんですか?」

「ちがっ…!待って、みんな、ちょっと待って!!!一旦ストップ!」

「どんな加工だよ?顔見せろって〜」

「触らないでください」

「人殺しに命令された〜。ころされる〜」

「はぁ…」

「えっ、ちょっ!カメラ触んなよ!」

「やめろ、離せ!」

「マジで、ヤバいんだって!!!一旦落ち着いてよ!」

「これだから、馬鹿は嫌いなんだ」

「ハァ?てめ、何言って…あがっ!?」

「まず、オマエからだ」

「誤解なんです!やめてください!!!」

「くがっ!?ごががっ!!?げごらっ!!?」

「えすぷりっ!!?何が起きてるの!!?」

「カメラ止めろ。次はオマエだ」

「止めろっ!うぃっと!!!」

「………わかった。止めるから、カメラ離して」

「…」

「…このっ!」

「うぃっと!?」

「押さえただけで、どうにかなるとでも?」

「ウギャッ!?…こ、コロサ…レ、ル…?」

「勘弁してください!もうやめて…」

カメラが踏み潰されて、映像はここで止まった。




大人気ウィーチューバー、それって未確認!?の3名の内、うぃっと(本名、臼井とうや21歳)とえすぷり(本名、江頭ふみや19歳)がAと接触。

臼井は、背中を細い針のようなモノで数十箇所刺される。以後、呼吸器が無いと生きれない体に。

江頭は、口の中に爆竹を放り込まれ着火。口内と喉を火傷し、2度と喋れなくなった。

この一件で、実行犯Aは姿を消した。

生配信は切り抜きが投稿、削除を繰り返す日々。

メディアも大きく捉えられ、ファンらが指名手配金として、4千万クラウドファンディングするが、自称犯人やら、金に釣られた虚言癖の人など、捜査の邪魔が増える一方、有力な情報を得られていない。

間違いなくアレは世人ポテンシャル。国家を脅かす能力者。

宇津井は情報を集めていると言った。

大人しく、信じるしかないか?

唯でさえ、奴らの事件は増える一方なのに、我々は手も足も出ないのか………?

「八重樫さん、お電話です」

「なんだ?」

「元同期が、亡くなられたという話ですが…」

「誰だ?」

「植野、寅市とらいちとか言う…」

「なんだと!?」




2024/3/13

親父が死んだ。

葬式は金が掛かるから、お袋はしないと言った。

親父は暴走する車から、幼稚園児を守るため庇ったらしいが、園児と共に撥ねられた。まだ、その時は息があったらしい。追い討ちでバックで轢かれた。

親父はよく言ってた「守るのに自己犠牲は要らない。完璧に助けてこそ、警官だ」

…死んでんじゃん。

親父は俺ばかり気がかりだった。

お袋より、妹よりも俺だけだった。

だから嫌われていた。

安月給の仕事だけ取り柄のない、つまらない男と。

お袋は体を壊してからは、家に籠ってタバコを吸う毎日。妹のみきは、夜遅くまで遊び歩いてる。たまに、倫子にお叱りをいただいてる。それでも、夜歩きするのは辞められないらしい。


ピンポーン…


「出てきな、みき」

「いや。ネイル、今やってんじゃん」

「俺が出るよ」

晩御飯の準備が終わったので、急いで玄関に向かう。

「どちらさまですか?」

「同期の…八重樫と言う」

「八重樫さん?」

「…もしかして、主水君かい?」

「今、開けます」

玄関を開けると昔、親父とよく遊んでくれた八重樫さんだった。

「よっ…サエコさん居るかい?」

「居ます。待ってください…」

リビングへ戻る。

「…誰?」

「八重樫さん。母さんに話があるみたい」

「うえ、アイツの知り合い?あたし、部屋行ってるね」

妹は逃げるように部屋へ閉じこもる。

「…通しな」

「わかった」

玄関へ戻る。

「すみません、お待たせしました。どうぞ、お上がりください」

「…失礼するよ」

リビングでお袋と会わせた。

「久しぶりだね、サエコさん」

「…老けたね、八重樫くん」

「そりゃ老けるさ。結婚式以来か?」

「思い出話に耽るほど、年を取ったのかい?」

「…寅市に線香上げに来たよ」

「部屋が臭くなるから、拝むだけにしてくれ」

「…わかったよ」

八重樫さんは文句を言わず、ただ拝んだ。

お袋は昔、検事だった。

親父よりも忙しくて、いつも家に居なかった。

その代わりではないが、八重樫さんが気にかけてくれていた。

だが、ある事件でお袋は刺されて、検事を辞めざる得なかった。その件から、八重樫さんとの交流も少なくなった。

「………主水君、借りてもいいかい?」

「好きにしなよ」

お袋が即答して、拍子抜けた。

「メシ、できたんだろ?行ってきな」

「う、うん…」

「遅くならず、返すよ」

「そうじゃないと困る。アイツに続いて、息子まで捕られるなんざ、仏を恨むね」

お袋はそう言って、またタバコを点ける。

「ほどほどにしなよ?」

「うるせー。さっさと行ってこい」

「んじゃ、行こうか」

「…はい」

八重樫さんと一緒に家を出た。


2人で街中を歩く。

「今、いくつだっけ?」

「もうすぐ、15です」

「そっか、10年経ったのか…」

「そうですね」

「変わったな。主水君」

「そうですか?」

「うん。なんていうか、凛々しくなったというか…」

「………」

「寅市とは…最後、何話したんだ?」

「変わらないですよ。時代劇の話です」

「どの時代劇だ?」

「…裏稼業です」

「…あぁ、隠れて復讐代行する話か」

「はい。お前ならどうする?って訊かれました」

「捕まえるんだろう?」

「いえ…そのままにします」

「どうしてだ?」

「その1人を捕まえたところで、結局何も変わらないんです。誰かが犠牲になるなら、自分を犠牲にして誰かを助ければいいんです」

「そうか…」

「おかしいですかね?」

「そんなこと…ないとは言いづらいな…」

「親父と同じこと言いますね…」

突如、街頭ビジョンに緊急ニュースが流れる。


「先日、車暴走事件を起こした、元某病院院長が記者会見をしました。乗っていた車メーカーに対して訴訟を起こすようです」

「いやね…安心安全な車だから乗ったんですよ。でなきゃ車には乗りません。それなのに、あんなことが起きてしまうなんて…車メーカーの方は私を騙した。小さい命まで奪うなんて…考えられませんよ…」

「…などと供述し、あくまで自分は悪くないことを主張。被害者家族に謝罪は無いのかと訊かれると」

「私が謝らなきゃいけないんですか?どうしてですか?命を奪ったのは、車じゃないですか!!!」

「…と、声を荒げて会見場から忽然と退出しました。これを受けて、被害者家族側は『ただの言い訳だった。反省すらしないなら、裁判までの無駄な時間稼ぎではないか』と憤りを感じています…」

「…主水君?」

俺はどんな顔をしたのだろうか?

怒りに満ちた顔?

呆れた顔?

………駄目だ。私情で殺しをしてはいけない。

「主水君。聞こえるかい?」

「………すみません。気分が悪いので、帰ります」

「待ってくれ、ひとつだけ…分かって欲しいことがある」

引き止められた俺の腕を、八重樫さんは痕が残るくらい力強く握った。

「復讐なんて、意味のないことなんだ。誰がやっても、人が死んだという結果しか残らない。わざわざ、君の手を汚す必要なんて無いんだ!」

「…離してください」

八重樫さんはゆっくりと、腕を離した。

「それ、親父の前でも言えますか?」

「………なんだと?」

「守ろうとしたのに…結局、撥ねられて、轢かれて…小さい命も守れず、ただ殺された。無意味なんですか?親父の命は?」

「主水君…」

「誰も、親父のことをなんとも思ってない。同じ殺された命なのに、好き勝手に憶測が飛んで、あることないこと騒ぐ…それこそが無意味じゃないんですか?」

俺は走り出した。

「主水君っ!?」

目的もなく走った。

走って走って…満足するまで走る。

満足なんて、するもんか。

私情?感情?クソ喰らえ!!!

俺はアイツを許さない。

絶対に許すもんか。

どうせ、金を持て余した老害。

生きる価値なんて、無いに等しい…




2024/3/20 pm10:12 春分の日

何もなければ、今日この駐車場最上階にアイツが来る。

自分が元居た病院の立体駐車場で死ぬなんて、誰が予想できようか。

これは、園児の親たちの想いも引き継いだ殺しだ。

俺の感情だけじゃない。それだけは確かだ。

防犯カメラの死角になるよう、影に潜む。

「…」

静かだ。

今日は風も吹かない、心地良い天気だった。冷たい風もここには届かない。

「…?」

人が歩く音と、何かを引きずる…いや、車輪のような音が鳴ってる。随分遠くから、聴こえてくる。

「居るんだろう?復讐代行人?」

「…!!」

「チンタラしてる間に、ターゲットは…ほら、この通り」

覗くとそこには「藤豊ふじゆたか」が、キャスターチェアと一緒に拘束されていた。

「…ふぐっ!………んぐっ!!!」

「別に、お前の手柄にしていい。殺せよ」

「…」

誰だ?なんで顔を隠さない?それとも…

「出てこないのか?…なら、代わりに殺してやるよ」

「んぅ…!!!うぅ………!!!」

「何が目的だ?」

思わず、声を出してしまった。

「そりゃそうだよな?お前の目的なんだから、お前が殺すよな?」

「ふっ…!んぐっ………!!!」

「姿、見せないのか?」

「逆に、なんで堂々としている?」

「それが世人だからだ」

「世人?」

「お前は【暗】の世人。特別は1人だけじゃない」

「…知ってる。それで?何が目的だ?」

「だいぶ警戒しているな?」

「この状況で、協力関係な訳ないだろ?」

「………俺は霧島よしき。世人は【報】」

「!!!…俺のことは喋らんぞ」

「話さなくてもいい。既に貰っている。植野主水くん…」

「何処からそれを!?」

「簡単だ。スマホからだ」

そうか!能力で得たのか、既に相手の土俵か!

「…目的は?」

「俺たちに同行して欲しい」

「…何の為に?」

「今、関係ない」

「だろうな」

相手に向かって走り出す。

どうせ、どう能力を使うかわからないんだ。正面突破しかない!!!

「…」

防御しない?でも、そのまま突っ込む!


霧島は、向かってくる植野に対して、チェスターチェアを蹴っ飛ばした。


「うぅ…!!?」


植野は藤を飛び越え、アイスピックを構える。

どう考えても、避けられる前提の強襲。


「…!」

植野はわざと影を作り、霧島の背後へ転移。

足払いで転ばせた。

迷いなく、アイスピックを振り下ろす。


「なるほど、だが…」


突然、駐車場内の電光が消える。

馬鹿な!?暗闇は俺にとって有利だぞ?


「おい、生きてるか?じいさん…」


霧島は藤の脈を診る…事切れていた。


「飛び越えた瞬間に、首を折ったのか?器用だな?」

「そんなことより、なんで俺が有利になることをした?」

「…単純だな」

「なに?」

「能力が単純すぎる。お前はこの暗闇で、俺に勝てない」

何を言っている?何も見えてないのは、そっちだろ?


植野の能力は、暗闇でもはっきりと誰が何処に居るか分かる。

植野は息を殺し、霧島へ近づく。


「無駄な争いは避けたい。武器を下ろしてくれないか?この通りだ」


霧島は両手を頭の後ろで組んだ。


今だっ!!!


容赦なく、植野は襲いかかる。


「…仕方ない奴だ」


植野の目の前で電流が走る。

一瞬の気の緩み。

そして、目の前には靴裏。


「…!!!」

「っほー!今の避けるかぁ?普通」


何者かによる前蹴り。

かろうじて、避けることができた。


「真面目にやれ。宇津井」

「んなこと言ったって、しゃーないでしょ?お相手、日本男子として武術心得てますもの…」

…2対1か…分が悪すぎる。おそらく、もう1人も能力者なんだろう…

「俺は真っ暗で何も見えないけど、諦めてくれない?植野主水君?」

「…断る」

「そっかそっか。ありがてー…えっ?何で?」

「メリットがない。帰らせてもらう」

「ちょい待ち!?」

「ダメだ。もういない」

「…はぁ〜。そっすよねー。挑発して失敗したんだから、逃げるよなぁ…ってか、俺の【運】発動してたらどうするつもりなんすか!?」

「加減しろ」

「できないんですって!…結局、色々動けるの俺だけっすか…スカウト上手くいきませんねー」

「そうだな…そろそろ、俺も限界だ…」

「歩けるっすか?肩貸しますよ?」

「大丈夫だ」

「…この爺さんの死体、どうします?業者、呼ぶっすか?」

「ほっとけ。復讐代行がやったことに違いないからな」

「うっす。じゃあな爺さん。墓より冷たいコンクリートの方がお似合いだぜ…」




俺以外の能力者…世人か………

いや、関係ない。

それを知ったところで、俺は何も変わらない。

これからも俺は、誰かの復讐の為に人を殺す。

今回だけ、イレギュラーだったんだ。

たまたま、俺の親父を殺し…たまたま、復讐リストに名前があっただけ。

私情じゃない。

感情で流されてはいけない。

目的がブレる。

救い続けるんだ。

その為の覚悟。

必要とあらば、刃を抜く。

今はちっぽけな殺しでいい。

いずれこの重みは………

親父に斬られるべきなんだから…

最後までご愛読いただきありがとうございます。

次回はまた東英志の視点に戻ります。

ではまた

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