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東英志 17才 誕生日 4月3日

好きなもの

コズミックマンシリーズ、マスク英雄ヒーロー

※特に平成前期の作品

カレーライス

苦手なもの

目に見えない恐怖


進学校に通う高校2年生。

普段は勉強と体作りに力を入れてるぞ。休日になると幼児化して、ヒーローたちを応援する子供になってしまうんだ。親はその姿を見て「可愛いわ〜、うちの息子」「男の子だからな、凄くて強いヒーローに憧れるのは仕方ないことだ。わっはっは…父さんのこと、いつかダラシない人として扱われるのかなぁ…とほほ」と、まぁ英志に激甘だ。

辛いカレーも好きだけど、母親が作る甘いカレーの方が好きみたいだぞ!調理方法は知らん!手間がかかってるのはわかるってだけ。

「行けっ!コズミック・ラーン!!!進化したその姿は間違いなく最強だぞ!」

亡くなってしまった仲間怪獣の力を吸収したコズミック・ラーン。禍々しさがいつもより増して、正義のヒーローとはかけ離れた姿だが、隊員達は彼を頼る。

「強っ!!!エネルギー弾を反射してるじゃん!もしかして、ラストオーダーの伏線かなぁ?」

怯んだ怪獣にトドメの必殺技の準備をする。

ライフリミッターに左手をかざし、エネルギーを集中させる。禍々しさから一転して、神々しい光を放ちながら刃へと変化する。

狙われたら最後、逃げ切ることができない。確実に相手を仕留める、塵も残さない必殺の斬撃。


巌窟光刃復讐ブラッドセイクリットリベンジャー


「おー…めっちゃいい…」

原子分解のように散っていく怪獣。

そして、人間ドラマパート。


「やはり、コズミック・ラーンは危険すぎる!直ちに処理したまえ!」

「長官!お言葉ですが、今まで怪獣からの脅威を、コズミック・ラーンは協力してくれました!恩を仇で返すおつもりですか!」

「いいか!これは命令だ!違反したらどうなるか、わかってるな!?」

「…了解」


「うーん、長官やっぱりなんか隠してるよなぁ…重要そうだから、覚えておくか…」

「あら、今日はコズミックマンの日だったかしら?」

「母さん、おはよう」

「おはよう。応援の声、廊下まで響いてたわよ?」

「やべっ、父さんにまた怒られるよ…」

「大丈夫よ、昨日は残業で疲れたみたいだから、あと1時間くらいぐっすりだわ」

「それでも、申し訳ないよ…」

「英志はまだ子供なんだから、そんなこと気にしなくていいのよ?」

「でも…来年から受験就職だよ?落ち着かないと…」

「なら、コズミックマン卒業?」

「それはない」

「良かったいつもの英志じゃない。母さん、安心したわ」

「趣味を辞める訳ないじゃん!…そろそろ予備校行ってくるよ」

「はい、お弁当。朝ごはんは?」

「プロテインとオートミール食べたから大丈夫」

「そう、いってらっしゃい」

「いってきます!」




僕は東英志あずまえいじ。好きな物はコズミックマンシリーズとマスク英雄シリーズ。子供っぽいと言われるが、僕は本気でヒーローを目指している。夢はアクション俳優。もちろん、特撮俳優として演じてみたい。

格闘技はやってない。変に覚えてしまうと、後々困ると思ってやらない。部活も所属してない。代わりに、パルクールやダンスを習ってる。体幹が大事と、憧れの俳優さんが言ってたことを守ってる。

「おい、まだこんなん持ってんのかよ。代わりに捨ててやるよ」

「か、返して、ください…」

「前から言ってるよなぁ?オマエみたいなオタクが嫌いだって?辞めないのが悪いよなぁ?」

いつも通り、平河くんを相澤くんが虐めている。

「おっはよう!平河くん」

「…東」

「ヤバっ!?これ、マスク英雄ユウギのレアカードじゃん!当てたんだ平河くん」

「う、うん。そうだよ…」

「相澤くんもさ、カードゲーム好きでしょ?そういうの集めたいじゃん?」

「…けっ、冷めたわ」

相澤くんは自分の教室へ戻る。

「いつもごめんね、東くん…」

「良いって、だって『イジメ』カッコ悪いじゃん?」

「…うん」


学校での東英志の評価

「正直、部活動をやって欲しいですよ。ムードメーカーで身体能力も悪くない。スタメン入りまでは行かないが、ベンチでの指揮が高まるとは思います」体育教師男性

「めちゃくちゃカッコいいですよね!私、文化部なんですけど、飛んできたボールから守ってくれて…まだ、ちゃんとお話ししたことないけど、先輩の好きな特撮ヒーローを勉強して、一緒にお喋りできたらなーって思います」1学年女子

「バスケ部に欲しい人材です。観察眼・身長の高さが良くて即戦力ですね。自分ら、本気でインターハイ狙ってるんで。なんとしても4月には入って貰うよう説得します」3学年バスケ部主将

「なんかー、カッコいいってより、カワイイより?な感じ〜。笑った顔がさ、マジで子供なの。アタシの好みじゃないけど、歳上が好きそうな歳下ってやつ?アタシ彼ピ一筋だから、もういい?」同学年ギャル

「まー、悪いヤツじゃないっすねー。基本、困ってる人居たら助ける感じっすかね…イジメっすか?無いですね。平河がよく虐められてるイメージだけど、だいたい東が助けてるので、酷いことは起きてはないっすね」同学年男子


予備校が終わり、特撮好き仲間と喋りながら帰る。

「どうする?なんかグッズでも買いに行くですか?」

「金欠であるからしてー、自分。ファーストフード店で本日のラーンの話、したいですな〜」

「おっ、いいねー南くん。この前、初代ギャラクティカ譲って貰ったから、奢るよ」

「ややっ!ありがたいです、東どの〜」

「平河氏もそれでいいですか?」

「…」

「ん?どうされた?平河どの?」

平河くんが、立ち止まる。

「…ねぇ、東くん」

「どうしたの?平河くん?」

「無理してない?」

「無理?」

「どういうことです?平河氏?」

「僕たちに無理に合わせないでよ…」

「平河氏!?それは…」

「どういうこと?」

「東くんが好きなのは、今の作品より昔の作品でしょ?僕たちは、今の作品が好きなんだよ。事あるごとに比べないでよ。空気読めって」

「平河どの?」

「帰る」

「ちょ、ちょっと…」

僕の話を聞かず平河くんは行ってしまった。

「…平河氏のこと追いかけるっす。みんな、すまぬ」

「お願いします。木村どの…」

木村くんは平河くんを追いかけに行った。

「…そうか、空気読めてなかったか…なんか、ごめんね?」

「いえ、東どのは悪くありません。これは平河どのが悪いです」

「でも…」

「自分、歴史が好きです。全てにおいて、歴史があります。東どのは、それを踏まえて作品たちを評価しているのです」

「…そう、なのかな?」

「そうですとも!東どのが特撮好きなのは、その歴史があってこそです。平河どのは…いや、これは自分が言うべきことではありませぬな…」

「…?」

「昨今、色々な事情で歴史が改変されています。特に海外のヒーローたちがそうです。身勝手な大人の都合で、表現の自由が不自由になりました。自分が東どのと話していて楽しいのはそういう理由です」

「南くん…」

南くんはリュックから何かを取り出す。

「東どの、お手を拝借」

「えっ?うん…」

渡されたのはチケットだった。

「いつものホビー店、怪獣ガチャの無料10連チケット…今回はお開きですが、時間がある時にでも行ってくだされ」

「…ありがとう」

「お気になさらず。自分も帰路へ向かいます。また、月曜日学校で」

「うん。バイバイ、南くん」

南くんと手を振って、僕たちは家に帰った。


「…ただいま」

家に帰ると誰も居なかった。

(母さん、買い物かな?)

自分の部屋に戻り、私服に着替える。

「………」

今まで考えたことがなかった。自分が好きなのは、特撮ヒーローであって、今のヒーローじゃない。ずっと、あの頃のヒーローに囚われているのだと…憧れているのは、新しいヒーローじゃない。

「なら、僕がなりたいヒーローってなんだ?」

マスク英雄ポラシファーでこんな回があった。


誰の為のヒーローか、わかっているのか!?


理解できない。

理解したくない。

ヒーローがヒーローをして、何が悪いのか?

強いからヒーローじゃない。

弱くてもヒーローなんだ。

誰かを守るのが、ヒーローじゃないのか?

ヒーローに相応しく無いのか?

手に握りしめたチケットを見る。

「…ガチャ、しに行こうかな」

チケットを財布に入れ、遅くならないように急いで店に向かう。

この時、知らなかったんだ。

事件に巻き込まれるなんて………




2024/4/13 pm5:48

すっかり暗くなった。街は、徐々に街灯を照らす。

(もう少し、着込めばよかったかな?)

春にはなったが、夜は未だに冷える。

歩く先の向こう側で、何かをやってる。

(…怪獣!?)

「ごめんなさーい。◯◯大学のサークルでーす。映画撮ってまーす。ご迷惑かけますが、ご理解お願いしまーす」

大学生たちが撮影をしていた。

「見ていても構わないですが、録画するので静かにお願いしまーす」

割と良い着ぐるみで道を歩く怪獣。人気のない道へ移動する。

「…はい、ご協力ありがとうございまーす。完成しましたら、動画サイトに投稿しますのでよろしくでーす」

パチパチと拍手され、大学生は怪獣を追いかけ、人々は自分の目的へ戻る。

(ウィービデオに投稿されるのかな?あとで、チェックしよう)

自分もホビーショップへ向かい歩きだす。


ゴッ………!


「えっ?」

先程の人気のない道から音がした。

明らかに何かがぶつかった音。

(誰も気づいてない…のか?)

道行く人たちは何事も気にせず歩いている。

(…何かあったのかもしれない…行ってみよう)

幸か不幸か、この出来事が自分を変えるとは思いもしなかった。

その道を覗いても、暗くて何もわからなかった。

(おかしいな、さっき大学生と着ぐるみがこっちに行ったのに…)

もしかしたら、何処かの建物に入ったかもしれない。気のせいかもしれないが、もう少しだけその道に入って行こう。

暗闇に目が慣れてくる。

一歩一歩、確実にソレに近づいた。

大学生数人が、着ぐるみの人を鉄パイプで殴っていた。

「おらっ!もっとバケモンの声出せって!」

「ゔっ!?ご、ごめんなさい!!!」

「ってか大丈夫な訳?こんなことやって?」

「大丈夫大丈夫。ここら辺の人には撮影だって断ってるし、本気で心配するヤツなんか居ないっしょ」

「ほら、オタクくん?もっとバケモンの声出さないと、新しいアザ量産されちゃうよー?」


ピンチだ。

誰かが助けなくては。

助けを呼びに行かなくては。




自分じゃダメなのか?




「何…してるんですか………?」

「は?」

自分でもおかしいと思うくらい、口から言葉を発していた。

「これ、撮影。ただの撮影だから、部外者はどっか行きなよ」

「…リンチ、ですよね?それ、小道具としては、本物すぎませんか?」

4人の大学生は顔を見合わせ、ため息をする。

「めんどくさ。自称正義マン、どうするよ?」

「別にほっとけば?どうせ、なんもできないだろ?」

「す、スマホで、今の会話録音しました!大人しく、警察に行くか、ここから逃げるか、決めてください」

咄嗟に出た嘘だった。

「おい」

「近づかないでください!あなた4人は…」

「やっちゃえ、シマちゃん」

「えっ!?」

後頭部を殴られた。そのままコンクリートへ倒れる。

意識がモウロウとする。身体を動かすことができない…完全に脳が揺れて、出血が止まらない………

「やったねぇ…まっ、コイツがやったことにすれば?」

「そりゃそうだろ。コイツのせいで、未成年に暴力を振るったからな…ゴミカス、出頭しろ」

「そ、そんな…」

「バケモンの癖に、日本語喋ってんじゃねーよ!」

「うわっ!?や、辞めて、ください…」

「みっともねーな。笑えるぜ」

『アハハハハ…』

笑い声が頭に響く。

着ぐるみの彼も、あれだけ殴られては彼もダメになってしまう…

だがどうする?何ができる?暴力どころか、人を殴ったこともないぞ…何もできない…僕は、無力だ!!!

「このガキ、アホのヒーローに憧れた、ただのバカだな。夢見過ぎなんだよ、バーカ」


心の底から何かが溢れ出た。

こんなとき、ヒーローはどうする?

ヒーローは、何をもってヒーローなのか。

僕がヒーローになるなら………


「むねーに、やどーるは…あーかーいちしおー」

不思議と起き上がり、立ち上がる。

「あ?何立ってる訳?」

胸ぐらを掴まれても、僕は怯まない。

「…みしらぬぼくらをすくいにきたぞ」

「何言ってんだ?テメエ…?」

「ギャーラク、ティーカー…!!!」

掴まれた腕を払い、突き飛ばす。

「お前、バカか?なんもできねーのに、何睨んでるんだよ…?」

右手に握りしめるは勇気。その勇気を正しき道を示す左腕。胸の前に右腕を立て、右肘に左腕を添える…正面から見て、L字のように見える。

コズミックマンシリーズの元となった、初代コズミックマン、ギャラクティカ。その必殺技。


大宇宙破壊光線ビックバンヌクリア


放たれた光線は、敵を貫き、闇へと消えた…




2024/4/13 pm8:36

「…んっ?」

「英志っ!?起きたか?具合悪くないか?」

「父…さん…?」

「待ってろ、母さん呼んでくる」

「ここ…は…?」

目が覚めると、病院だった。

何が起こったんだろうか?全く覚えていない…

「ちょっと!待ってくれ、アンタら…」

「申し訳ない、少しだけ…少しだけ、聞きたいことがあるので、ご協力を…」

刑事らしき2人組が、自分の前に現れる。

「東英志君、だね?」

「…はい」

「目覚めて早々、申し訳ないけど、襲われた時のこと覚えてる?」

「…覚えてません」

「ほんとに?なんにも?」

「やめろ!…すまなかった。あとで、詳しく教えてくれないか?」

「…わかりました」

「どうも、ありがとう」

2人の刑事は、そのまま帰ってしまった。

「…なんなんだ、あの刑事!あとで文句言ってやる」

「やめてよ、あなた…それより、本当によかった〜」

母さんが僕を抱きしめる。

「…何が、あったの?」

「大学生に襲われたらしい。後頭部を殴られたが、医者曰く脳が揺れただけ。出血したものの、後遺症になることはほぼ無いらしい」

「お願い英志。今度から1人で出かける時は、必ず連絡して?母さん、今回死ぬほど怖かったんだから…」

「う…うん…」

「パンデミックが終わったのに、今度は復讐依頼だの、暴力沙汰だの…どうなってんだ日本は?安心できないな全く…」

あの大学生たちは逃げたのか?

わからない…あのとき、僕がやったことは妄想だったのか?

モヤモヤが残ったまま、この日は終わった。


2時間前

「どもども〜。自分、こーゆーのっす」

身分証を見せる。

「…お疲れ様です。入ってください」

「あざっす。いつもご苦労様です」

いつもの定型文を言い、現場に入る。いつも通りの刑事が、そこに居た。

「…あっ!?またお前っ…!!!」

「はいはい、新妻君。いつものリアクションどーも」

ブルーシートで隠されたモノをめくる。

「…うっわー」

「流石のお前でも、今回は酷いと思うか?」

人間の身体を逆L字でレーザーしたモノだった。上半身、腕が焼け焦げて切れてる。

「宇津井、コレをする情報を持ってないか?」

「…残念ながら」

「そうか…」

「なんだよ!やっぱ使えねーな、お前」

「酷いなぁ、新妻君。復讐依頼実行者の情報、集めるの辞めよっかなぁ〜」

「こ、こいつ…!」

「謝れ、新妻」

「いいっすよ、八重樫さん。そっちの情報もまだなんで…」

宇津井は倒れてた被害者が居た場所を歩く。

「1番の子、どうなったんです?」

「上半身が消えた。近隣住民から何かが光り、空へ向かったと報告がある」

「ふ〜ん…」

一通り周り、犯人が居たであろう場所に立つ。

「つまり、こっからビームを撃って、5人貫いた…と。そして、力が制御できなくなって、周りを巻き込まないよう上空に…か」

「おそらく」

「非科学的ですよ」

「新妻君、いつまでもソレが通らないんだよ?もっとこう、頭柔らかくさぁー?」

「…ウザっ」

「他に同じ大学生が居たが、よっぽど怖かったんだろう。何もわからない」

「そっすかー…」

「せめて、高校生が何か覚えていれば…」

「ん?高校生?」

「ちょっと!?八重樫さん!?」

「構わん。必要な手がかりだ」

「…もしかして、その子が犯人だと?」

「それはありえん。被害者の1人が、高校生の頭を殴ってる。発見時、倒れていた」

「…その子が倒れてた場所は?」

新妻の携帯が鳴る。

「もしもし…えっ?目覚めた?」

「悪い宇津井。病院に行ってくる」

「あいよー。あの件は近々、報告するんで」

「頼む。行くぞ、新妻」

「えっ、ぁあ。はいっ!」

2人の刑事は出て行く。

鑑識の様子を見て…

「俺も出ます。お先に失礼」

軽く会釈して、その場から離れた。

「………聞いてたか、よしき?…あぁ、新しい能力者だな…オッケー、月曜日にそこ行くわ………わかってる。次はこちら側に引きこむ。任せろ」

現場を再び眼にする。

「楽しみだぜぇ…【光】授かりし者よ…」




2024/4/15 am7:46

日曜日はどこにも行かず、家で待機していた。いつも通りニチアサを観て、そのまま自宅からは出なかった。

登校中、平河くんを見かける。

「平河くん、おは…」

「…」

睨むように僕を見たあと、無視して学校へ向かう。

「あっ………」

気まずそうに木村くんは僕を見て、平河くんを追いかける。

(仲直りしたいんだけどな…)

学校へ行く足取りが、急に重くなる。

「やーやー、東どの〜。おはようでござる〜」

「南くん、おはよう…」

「どうされた東どの!?その頭の包帯…」

「…嘘みたいな、ホントの話。聞きたい?」

「もちろんです。いったい何があったのですか?」

土曜日あったことを南くんに喋った。

「…ふむぅ、実に奇妙な話ですなー」

「信じられないよね?」

「いや、信じますぞ」

「えっ?」

「東どのが声をかけなければ、怪獣が死んでしまうところでしたからな。誰にもできませんよ。自分は東どのの行動を無謀と言いません」

「…ありがとう。南くん」

壊れそうな心を、南くんに救ってくれた。南くんもヒーローだよ。

学校に着き、各々の教室へ向かう。

「それでは東どの、また」

「…うん」

平河くんと同じ教室がちょっと辛い。

「またお昼、話しましょう」

「…ん?」

「ですから、昨日のマスク英雄ですよ!観ましたよね?」

「う、うん…観たよ?」

「なら、感想会しましょうよ。昼に」

「…うん!」

南くんと別れ、教室に入る。

「おはよう」

たぶんクラスのみんなは驚いただろう。僕と平河くんが仲良くしていないことを…不思議がってる人が何人かコソコソと話している。

「ねぇ、英志くん」

「どうしたの?佐々木さん」

隣の席の佐々木舞さんが、痺れを切らして声をかけてきた。

「何かあったの?」

「…まぁね」

「うっそ!?珍しいね…」

「ちょっと、お互い距離置く感じ…」

「ふーん。なんか、参ってる英志くん初めて見た」

「そう?」

「予想だけど英志くん、全然悪くないでしょ?」

「ウッ…!」

鋭いな〜、佐々木さんは…

「あんま気にすると、病んじゃうよ?」

「…うん、ありがと」

「こら、お前ら席に着け〜」

担任が入ってきてホームルームが始まる。

「今日の予定を言う前にひとつ、めでたい話だ」

「結婚するのセンセー?」

「無理だ」

『ドッ!ワッハッハ…』

「失礼なやつらだなー。東ぁ!」

「は、はいっ!」

「芸能プロダクションの偉い人が学校に来てる。校長室に行って、話してきなさい」

「えっ…」

『マジィ!?』

『ウチらの教室から有名人に!?ヤバっ、早くツイートしなきゃ』

「やったじゃん英志くん。夢の一歩だよ?」

この時、僕はどういう顔をしてただろう?

きっと平河くんはムカついただろう。

きっと相澤くんは呆れただろう。

なんか、都合が良すぎる。

「はいはい、静かに!東、早く行きなさい」

「わ、わかりました…」

教室を出て、校長室へ向かう。


「…失礼します。校長先生、いらっしゃいますか?」

「東英志くんかい?」

「はい」

「待ってたよ。入りたまえ」

「…失礼致します」

扉を開けると、いつも通り滝汗を噴いてる校長先生と、一見スカウトと言うには胡散臭い革ジャンとジーパンの男性が居た。

「よっ!青年」

「はじめまして…」

「遅いぞ東英志くん!全く、担任は何を考えているんだ………ブツブツ」

「まぁまぁ校長先生、落ち着いてくださいって〜」

男性は右手を差し出した。

「俺の名前は宇津井宗介うついそうすけ。島津プロダクションのスカウトだ」

「島津プロダクションって、ド派手なアクションで有名なアノ!?」

「おっ、知っててくれたかー。関心関心…握手してくれないのかい?」

「あ…ごめんなさい…」

差し出した手を思いっきり握ってきた。

「イタっ…」

「ふん…部活動はやってないんだよね?」

「…はい、そうです」

「昔、何か武術を?」

「いえ、学校外でパルクールとダンスを…」

「なるほどね」

少し考え事をしながら、宇津井さんは椅子に座った。

「東君、キミをウチに加入させたい」

「えっ!!?」

「宇津井さん!彼のことをよく考えて言ってくださいぃ」

「考えてますよ校長。悪い話じゃないでしょう?」

「いやいや、学生の本文は学業でして…」

「ふふっ、進学校だからですか?先程も言いましたが、学生が企業を建てても良い時代です。たかが遊びと言われたゲームも、立派な職業の1つになりました。否定よりも彼の意志を尊重すべきでは?」

「………ブツブツ」

論破されて、汗を流す校長先生。

「それなら、こうしましょう。今からウチの会社に行って、見学させてから彼の意見を聞きましょう。それで駄目なら、潔く引きます」

「そんな急な…」

「アンタが決めることじゃねーぞ?彼が決めるんだ。それとも、純粋なる青年の夢をアンタの匙で決めるのか?」

「うっ、うぅ………ブツブツ」

「決まりだな。どうする東君?」

「えっ!えっと…」

凄い勝手だなぁ…でも………

「見学して、いいですか?」

「もちろん。さぁ、行こう。すぐ行こう!」

半ば強引に校長室から引っこ抜くように出る。

「ちょ、ちょっと!話は終わってませんぞー!?」

「本日のお時間代は、事務所から振り込むんでー。宜しくです〜」

校内の裏口から逃げるように外へ出る。

「ご、強引ですね…」

「うん、まあね」

宇津井さんはその場で軽く2回ジャンプしたあと、学校のフェンスに向かって…

「よっと…」

飛び越えた。

「できるだろ?」

「えっ!?」

「ほら、早く」

「そっちの方向って、島津プロダクションじゃ…」

「いいから、来いって!」

「…もう」

自分も助走をつけて、フェンスを飛び越える。

「ほっほー。やるねぇ…」

「ふぅ…これって、なんかのテストなんですか?」

「いや、全く」

「え!?じゃあなんで!?」

「いいから、国立病院行くぞ」

「病院?」

「昨日何があったか、ハッキリさせるんだ」

「ど、どういうことですか?」

「…東英志君。キミは特別かもしれないってことを証明させるんだ」

引き止める脚は機能せず、宇津井さんの後を追うしかできなかった…


「…国立病院に来ましたけど」

「どした?」

「診察は別の病院でやりましたよ?」

「そことは全く違う」

「いや、同じでしょう?」

「行けば分かる」

受付を通らず、エレベーターに向かう宇津井さん。

「ちょっ!?勝手に入って大丈夫なんです?」

「俺は顔パスだからな」

「僕は違うじゃないですか!」

「うるさくすんなって。病院だぞ?」

納得いかないけど、ここまで来てしまった以上、最後まで付き合わなければ…

「ん?エレベーター、乗らないんですか?」

「こっちのエレベーターだ」

指した先は緊急専用のエレベーター。

「いくらなんでも、ダメでしょ!?」

「いいんだよ。マジで」

宇津井さんはボタンを押し、エレベーターの扉を開く。

「乗れよ」

誰かに見られてないか、確認してから入った。

「お医者さんに鉢合わせしたら、どうするんですか!」

「上に行かないぞ」

宇津井さんはカードを取り出し、スキャンさせる。

「地下に行く」

スキャン後、下に動き出す。

「まさか、秘密結社?」

「ハハっ!まぁ、秘密結社っちゃあ、秘密結社か」

どんどん、下へ進んで行く。

底の底まで落ちた感覚になりながらも、エレベーターは目的地に到着する。

エレベーターの扉が開いた先に、女性が立っていた。

「あっ…」

「君が、東英志くんだね?」

「すまん、東君。コイツが今日居るとは思わなんだ」

「えっ」

「酷いなぁ、宇津井くん。私を悪魔みたいに扱わないでよ。ちょっと頭開くだけじゃんか」

「えっ」

「…まぁ、がんばれ」

「えっ」

「さぁ、行くよ〜。とりあえず全裸なろっかー」

「えっ」

拒絶したいのに、凄い力で連れて行かれる。どうなってしまうのだろうか………?


「おっ、どうだった?」

「んー…凄かったよ。ホント」

「そんなに?」

「彼、人間じゃないよ」

「…は?」

「開けなかったよ頭」

「そりゃそうだろ。断られたんだろ?」

「違う」

「違う?」

「メス入れても、すぐ再生しちゃうんだ」

「メス入れたんかい!…んで?再生するだ?」

「うん、皮膚を裂いても即再生しちゃうんだ」

「…よく受け入れて貰えたな」

「採血の時点で刺せなかったから、睡眠薬服用して貰ったんだぁ…たぶん、土曜日は頭見れたんだけど、丸一日経ったら完璧に回復力が高まったんだねぇ〜。ちょっと悔しいかも…」

「悔しがるなよ。薬服用して貰えただけでも…待てよ?なんて言って飲ませたんだ?」

「痛くならない薬と、痛みが強くなる薬、どっちがいい?って聞いて、どっちも嫌だって言われたから…」

「いつか訴えられるぞ」

「へーきへーき…能力練習、やってくんでしょ?」

「あぁ、日常生活でウッカリなんて無いようにな…霧島には伝えてある」

「たまには呼んでよ、霧島さん」

「アイツが外出るのは、よっぽどの事がない限り出ないよ」

「…ちぇっ」

「お前の能力も、難儀なもんだな」

「君も、ちょっとは加減してよー。死体置き場じゃないんだよ?ここ」

「それは無理な話だ」

「じゃあ、頭開かせてよ」

「それも無理な話だ」

「ケチ〜」


「…ぇ、ね、寝てた?」

「起きたか。もう2時過ぎだぞ」

目が覚めると簡易ベットに横たわっていた。

「すまんな。アイツがいなければ、もっと早く終わったんだが…」

「普通に騙されて、薬飲んじゃいました」

「害ある薬じゃないから安心しろ。あれでも、立派な医者だ」

説得力無い………

宇津井さんは紙をヒラヒラさせる。

「検査結果だ。東英志、お前は晴れて化け物組へ生まれ変わった」

「化け物って…!?冗談ですよね?」

「見れば分かる」

渡された書類に目を通す。


東英志の身体調査

健康状態に異常無し。しかし、採血及び切開において体を傷つける行為は全て無意味な為、機構に則り特務Aとして記録。引き続き監視対象として扱われる


「…」

「絶望してるな?平気だ。国のために働かされる訳じゃないからな?」

「…わかんないですよ」

我慢の限界だった。

「何がなんだか、わかんないですよ!!!全部教えてください!僕に、何があったんですか!!?」

「今は全部教えられん」

「どうして!?」

「今、教えられること。それは、どうやって能力を使うかだ」

「意味わかんないですよ!能力ってなんですか!?」

「…はぁ、わかった。本当は集まってからやりたかったが…」

めんどくさそうに頭を掻いて、宇津井さんは話し始める。

「内に秘めた力は、外の者たちには理解できぬ」

「へ?」

「故に人で在らず、故に人で在る。力は異種として弊害せよ」

「???」

「…昔からある言い伝えだ。不思議な力を持ったやつがな。時に陰陽師と呼ばれ、時に戦人と呼ばれる…今の言葉で言うなら、特別に得れた人。俺らは【世人ポテンシャル】と呼んでる」

「世人…」

「そうだ。俺も、あの狂った女も世人だ」

特別な力を持った人間が他にも居る…?

「宇津井さんの能力は?」

「ここでは言えない。だが、直ぐに分かるさ」

「…どういうことです?」

「東君、この前の夜みたいにビームを撃つんだ」

「えぇっ!!?」

それって、僕が実は………

「心配すんなよ。そのためのリハーサルなんだからさ」

「り、リハーサルって…気楽過ぎません?」

「いいから、いいから」

宇津井さんに押されるように、そのリハーサル場に移動した。


「どうだ?結構広いだろ?」

「…」

広いというか、眩しい。

「なんで、こんなにライト点けてるんですか?」

「そりゃ、俺が死なない為さ」

「死っ!?」

「あの夜、暴力沙汰を起こした大学生らを纏めて片したろ?その距離、ざっと15メートル。時刻は夕方を過ぎて、陽当たりも悪い。暗い闇の中でソレは起きた…理解できるか?」

「まぁ…?」

「なら、やってみな。あの時と同じように」

「む、無理ですよ!!!」

「どうしてだ?」

「だ、だって…」

あれ?途端に腕が震える。さっきまで、なんともなかったのに…

「あ、あれ?…薬が切れたかもしれません…また、服用を…」

「お前がやったことは間違ってない」

胸に、心に、深く突き刺さった。

「悪いが、色々と調べさせて貰った。何が好きで、どういうことを1番とするか、とかな」

「…」

「あん時、誰も助けない、誰も気づかない状態で、お前は気づいた。それは運命だ。逃れられない必然だ。なるべくしてなった。それがお前の能力【光】だ」

「光…」

「無理にとは言わない。その力を制御できるかどうかなんだ。できなければ…言わなくても分かるな?」

静かに頷いた。

「力を入れてみろ。ゆっくりとだ。深呼吸をして、心拍を落ち着かせろ。お前はできる」

目を瞑り、言われた通りに深呼吸をする。

「お前の体は、人智を超えた。正しき力は、正しく使わなければならない。お前が好きなヒーローたちも、そうだったんだろ?」

そうだ。運命は残酷だけど、人は間違いを起こすけど、根本的には変わらない。僕が何をしたいか…

「………やればできるじゃないか」

「えっ…?」

目を開けると、両腕が光っていた。

「聞こえるかナツ?…そうだ。両腕の温度を知りたい…もう一回言ってくれ、聞き取れなかったんじゃない、そんな訳ないだろ?」

宇津井さんが、慌てた顔をする。

「なんか、ヤバい…ですか?」

「ヤバいは、ヤバいな…今、180℃をキープしてるらしい…」

「へっ!?」

嘘だろ!?全然なんともないけど、超異常じゃん!小さい虫を殺すラケットみたいじゃん…え?なんか途端にダサく見えてきたぞ…?

「おい、どうした?温度が下がってきたぞ?」

「…なんか…カッコ悪いな…って」

「急にテンション下げんな!!?今は腕だけだが、全身がそうなったら、えらい事起きるぞ。ほら、制御制御」

事あるごとに服が燃えて全裸になるのだけは避けたい…あ。

「あっ…」

「おっ、温度戻ったな…ん?どうした?顔、真っ赤だぞ?」

「な、なんでもありませんっ!」

「…?ナツ、そっちのモニターで変化分かるか?」

「わ、わかんなくて、いいんですって!!!」

そういえば、身体検査で服脱いだとき、あの人…下から始めたんだよなぁ〜…色々あって、今の今まで忘れてた…は、恥ずかしいぃぃぃぃ〜。

「集中しろ」

「…はい」

「その状態で歩けるか?」

「…やってみます」

歩くだけ…歩くだけ…

「…ふむ、意識しなければ光は消えるのか」

「えっ!消えてました!?ごめんなさい」

「違う、それでいい。無意識下で抑えられるなら、悪くないな」

「そう…なんですか?」

「その辺グルッと、回ってみろ」

「は、はい」

自分が光ってるだなんて、意外とわからないもんだなぁ…

「敵だ。攻撃が来たぞ」

「えっ!?」

宇津井さんに背を向けた状態で振り返る。何かを投げて、顔に当たりそうだ。

「うわっ!?」

咄嗟に両腕で庇った。何かがジュッと焼けた。

「うん、切り替えも速いな」

「…クサッ!?何投げたんですか?」

「ティッシュ」

「汚なっ!!!」

「使用済みじゃねーよ」

「…そりゃそうか…ハハハ」

ちょっと気が楽になった。

「そんじゃ本番だ。ビームだ、東君」

「………」

「なんだ?」

「いや、ちょっと待ってください…」

あの時と同じように…心の中でギャラクティカの歌を歌おう。もしかしたら、それで撃てるかもしれない。

「………」

「行けそうか?」

「スゥ………大宇宙破壊光線」

握りしめた右腕を正しき場所を示す為に左腕は添えるだけ。

「あっ!!?」

しまった!宇津井さんに向かって放ってしまった!そんな…こんな事が………

「ヤベっ!?」

「え?」

体感、光線を放った瞬間、宇津井さんは光線を交わし、僕の懐へ潜りこんで腹部にアッパー………の寸止め。

「ぐぅっ…!!?」

寸止めのはずなのに吹き飛ばされた。なんだ!?あのパンチ!!?

「悪ぃ!平気か?」

「え…えぇ、大丈夫…ウッ…!?」

吐いた。

「マズった…今日はここまでにしよう。もっかい、ナツに診てもらえ」

「ゴホッ…ゲホッ…オェ…宇津井さん、宇津井さんの能力って、なんすか?」

「そんなんより、とりあえず胃の中吐き出しとけ。メシ前でよかったわ…肩貸せ。連れてってやる」

肩を担がれて、元居た場所へ戻る。

「教えて…くださいよ…ゲホッ…ズルい、ですよ?」

「…笑わないか?」

「へ?…笑わないっすよ」

「【運】だ」

「…」

「なんか言えゴラっ!」

「あ゛ー!?イッテェ!!?何するんすかぁ!」

「微妙な反応すんなっての!」

「微妙というか、なんというか…地味っすね」

「…」

「痛いっ!?やめてっ!自分のライフはもうゼロっす!」

「テメエなら、不死鳥みたく治るだろーがっ!チート野郎!」

こうして僕は世人になった。

そして僕はもう1人の世人に出会う。

名前は植野主水うえのもんど

まだ、中学3年生。

彼もまた、殺人をしてしまう。

いや…した、じゃないんだ。してしまったんだ。

僕と仲良くは、しばらく馴れそうにない。

そもそも、仲間として受け入れてくれないかもしれない。

まだ、僕らの目的を知らないから…

最後までご愛読いただきありがとうございます。

異能力バトルものですが、最後まで描き書きたいと思っています。

光の力を手に入れた東英志。そしてもう1人の主人公植野主水。次回は植野主水のお話です。ご期待ください。

では、また

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