光
東英志 17才 誕生日 4月3日
好きなもの
コズミックマンシリーズ、マスク英雄
※特に平成前期の作品
カレーライス
苦手なもの
目に見えない恐怖
進学校に通う高校2年生。
普段は勉強と体作りに力を入れてるぞ。休日になると幼児化して、ヒーローたちを応援する子供になってしまうんだ。親はその姿を見て「可愛いわ〜、うちの息子」「男の子だからな、凄くて強いヒーローに憧れるのは仕方ないことだ。わっはっは…父さんのこと、いつかダラシない人として扱われるのかなぁ…とほほ」と、まぁ英志に激甘だ。
辛いカレーも好きだけど、母親が作る甘いカレーの方が好きみたいだぞ!調理方法は知らん!手間がかかってるのはわかるってだけ。
「行けっ!コズミック・ラーン!!!進化したその姿は間違いなく最強だぞ!」
亡くなってしまった仲間怪獣の力を吸収したコズミック・ラーン。禍々しさがいつもより増して、正義のヒーローとはかけ離れた姿だが、隊員達は彼を頼る。
「強っ!!!エネルギー弾を反射してるじゃん!もしかして、ラストオーダーの伏線かなぁ?」
怯んだ怪獣にトドメの必殺技の準備をする。
ライフリミッターに左手をかざし、エネルギーを集中させる。禍々しさから一転して、神々しい光を放ちながら刃へと変化する。
狙われたら最後、逃げ切ることができない。確実に相手を仕留める、塵も残さない必殺の斬撃。
『巌窟光刃復讐』
「おー…めっちゃいい…」
原子分解のように散っていく怪獣。
そして、人間ドラマパート。
「やはり、コズミック・ラーンは危険すぎる!直ちに処理したまえ!」
「長官!お言葉ですが、今まで怪獣からの脅威を、コズミック・ラーンは協力してくれました!恩を仇で返すおつもりですか!」
「いいか!これは命令だ!違反したらどうなるか、わかってるな!?」
「…了解」
「うーん、長官やっぱりなんか隠してるよなぁ…重要そうだから、覚えておくか…」
「あら、今日はコズミックマンの日だったかしら?」
「母さん、おはよう」
「おはよう。応援の声、廊下まで響いてたわよ?」
「やべっ、父さんにまた怒られるよ…」
「大丈夫よ、昨日は残業で疲れたみたいだから、あと1時間くらいぐっすりだわ」
「それでも、申し訳ないよ…」
「英志はまだ子供なんだから、そんなこと気にしなくていいのよ?」
「でも…来年から受験就職だよ?落ち着かないと…」
「なら、コズミックマン卒業?」
「それはない」
「良かったいつもの英志じゃない。母さん、安心したわ」
「趣味を辞める訳ないじゃん!…そろそろ予備校行ってくるよ」
「はい、お弁当。朝ごはんは?」
「プロテインとオートミール食べたから大丈夫」
「そう、いってらっしゃい」
「いってきます!」
僕は東英志。好きな物はコズミックマンシリーズとマスク英雄シリーズ。子供っぽいと言われるが、僕は本気でヒーローを目指している。夢はアクション俳優。もちろん、特撮俳優として演じてみたい。
格闘技はやってない。変に覚えてしまうと、後々困ると思ってやらない。部活も所属してない。代わりに、パルクールやダンスを習ってる。体幹が大事と、憧れの俳優さんが言ってたことを守ってる。
「おい、まだこんなん持ってんのかよ。代わりに捨ててやるよ」
「か、返して、ください…」
「前から言ってるよなぁ?オマエみたいなオタクが嫌いだって?辞めないのが悪いよなぁ?」
いつも通り、平河くんを相澤くんが虐めている。
「おっはよう!平河くん」
「…東」
「ヤバっ!?これ、マスク英雄ユウギのレアカードじゃん!当てたんだ平河くん」
「う、うん。そうだよ…」
「相澤くんもさ、カードゲーム好きでしょ?そういうの集めたいじゃん?」
「…けっ、冷めたわ」
相澤くんは自分の教室へ戻る。
「いつもごめんね、東くん…」
「良いって、だって『イジメ』カッコ悪いじゃん?」
「…うん」
学校での東英志の評価
「正直、部活動をやって欲しいですよ。ムードメーカーで身体能力も悪くない。スタメン入りまでは行かないが、ベンチでの指揮が高まるとは思います」体育教師男性
「めちゃくちゃカッコいいですよね!私、文化部なんですけど、飛んできたボールから守ってくれて…まだ、ちゃんとお話ししたことないけど、先輩の好きな特撮ヒーローを勉強して、一緒にお喋りできたらなーって思います」1学年女子
「バスケ部に欲しい人材です。観察眼・身長の高さが良くて即戦力ですね。自分ら、本気でインターハイ狙ってるんで。なんとしても4月には入って貰うよう説得します」3学年バスケ部主将
「なんかー、カッコいいってより、カワイイより?な感じ〜。笑った顔がさ、マジで子供なの。アタシの好みじゃないけど、歳上が好きそうな歳下ってやつ?アタシ彼ピ一筋だから、もういい?」同学年ギャル
「まー、悪いヤツじゃないっすねー。基本、困ってる人居たら助ける感じっすかね…イジメっすか?無いですね。平河がよく虐められてるイメージだけど、だいたい東が助けてるので、酷いことは起きてはないっすね」同学年男子
予備校が終わり、特撮好き仲間と喋りながら帰る。
「どうする?なんかグッズでも買いに行くですか?」
「金欠であるからしてー、自分。ファーストフード店で本日のラーンの話、したいですな〜」
「おっ、いいねー南くん。この前、初代ギャラクティカ譲って貰ったから、奢るよ」
「ややっ!ありがたいです、東どの〜」
「平河氏もそれでいいですか?」
「…」
「ん?どうされた?平河どの?」
平河くんが、立ち止まる。
「…ねぇ、東くん」
「どうしたの?平河くん?」
「無理してない?」
「無理?」
「どういうことです?平河氏?」
「僕たちに無理に合わせないでよ…」
「平河氏!?それは…」
「どういうこと?」
「東くんが好きなのは、今の作品より昔の作品でしょ?僕たちは、今の作品が好きなんだよ。事あるごとに比べないでよ。空気読めって」
「平河どの?」
「帰る」
「ちょ、ちょっと…」
僕の話を聞かず平河くんは行ってしまった。
「…平河氏のこと追いかけるっす。みんな、すまぬ」
「お願いします。木村どの…」
木村くんは平河くんを追いかけに行った。
「…そうか、空気読めてなかったか…なんか、ごめんね?」
「いえ、東どのは悪くありません。これは平河どのが悪いです」
「でも…」
「自分、歴史が好きです。全てにおいて、歴史があります。東どのは、それを踏まえて作品たちを評価しているのです」
「…そう、なのかな?」
「そうですとも!東どのが特撮好きなのは、その歴史があってこそです。平河どのは…いや、これは自分が言うべきことではありませぬな…」
「…?」
「昨今、色々な事情で歴史が改変されています。特に海外のヒーローたちがそうです。身勝手な大人の都合で、表現の自由が不自由になりました。自分が東どのと話していて楽しいのはそういう理由です」
「南くん…」
南くんはリュックから何かを取り出す。
「東どの、お手を拝借」
「えっ?うん…」
渡されたのはチケットだった。
「いつものホビー店、怪獣ガチャの無料10連チケット…今回はお開きですが、時間がある時にでも行ってくだされ」
「…ありがとう」
「お気になさらず。自分も帰路へ向かいます。また、月曜日学校で」
「うん。バイバイ、南くん」
南くんと手を振って、僕たちは家に帰った。
「…ただいま」
家に帰ると誰も居なかった。
(母さん、買い物かな?)
自分の部屋に戻り、私服に着替える。
「………」
今まで考えたことがなかった。自分が好きなのは、特撮ヒーローであって、今のヒーローじゃない。ずっと、あの頃のヒーローに囚われているのだと…憧れているのは、新しいヒーローじゃない。
「なら、僕がなりたいヒーローってなんだ?」
マスク英雄ポラシファーでこんな回があった。
誰の為のヒーローか、わかっているのか!?
理解できない。
理解したくない。
ヒーローがヒーローをして、何が悪いのか?
強いからヒーローじゃない。
弱くてもヒーローなんだ。
誰かを守るのが、ヒーローじゃないのか?
ヒーローに相応しく無いのか?
手に握りしめたチケットを見る。
「…ガチャ、しに行こうかな」
チケットを財布に入れ、遅くならないように急いで店に向かう。
この時、知らなかったんだ。
事件に巻き込まれるなんて………
2024/4/13 pm5:48
すっかり暗くなった。街は、徐々に街灯を照らす。
(もう少し、着込めばよかったかな?)
春にはなったが、夜は未だに冷える。
歩く先の向こう側で、何かをやってる。
(…怪獣!?)
「ごめんなさーい。◯◯大学のサークルでーす。映画撮ってまーす。ご迷惑かけますが、ご理解お願いしまーす」
大学生たちが撮影をしていた。
「見ていても構わないですが、録画するので静かにお願いしまーす」
割と良い着ぐるみで道を歩く怪獣。人気のない道へ移動する。
「…はい、ご協力ありがとうございまーす。完成しましたら、動画サイトに投稿しますのでよろしくでーす」
パチパチと拍手され、大学生は怪獣を追いかけ、人々は自分の目的へ戻る。
(ウィービデオに投稿されるのかな?あとで、チェックしよう)
自分もホビーショップへ向かい歩きだす。
ゴッ………!
「えっ?」
先程の人気のない道から音がした。
明らかに何かがぶつかった音。
(誰も気づいてない…のか?)
道行く人たちは何事も気にせず歩いている。
(…何かあったのかもしれない…行ってみよう)
幸か不幸か、この出来事が自分を変えるとは思いもしなかった。
その道を覗いても、暗くて何もわからなかった。
(おかしいな、さっき大学生と着ぐるみがこっちに行ったのに…)
もしかしたら、何処かの建物に入ったかもしれない。気のせいかもしれないが、もう少しだけその道に入って行こう。
暗闇に目が慣れてくる。
一歩一歩、確実にソレに近づいた。
大学生数人が、着ぐるみの人を鉄パイプで殴っていた。
「おらっ!もっとバケモンの声出せって!」
「ゔっ!?ご、ごめんなさい!!!」
「ってか大丈夫な訳?こんなことやって?」
「大丈夫大丈夫。ここら辺の人には撮影だって断ってるし、本気で心配するヤツなんか居ないっしょ」
「ほら、オタクくん?もっとバケモンの声出さないと、新しいアザ量産されちゃうよー?」
ピンチだ。
誰かが助けなくては。
助けを呼びに行かなくては。
自分じゃダメなのか?
「何…してるんですか………?」
「は?」
自分でもおかしいと思うくらい、口から言葉を発していた。
「これ、撮影。ただの撮影だから、部外者はどっか行きなよ」
「…リンチ、ですよね?それ、小道具としては、本物すぎませんか?」
4人の大学生は顔を見合わせ、ため息をする。
「めんどくさ。自称正義マン、どうするよ?」
「別にほっとけば?どうせ、なんもできないだろ?」
「す、スマホで、今の会話録音しました!大人しく、警察に行くか、ここから逃げるか、決めてください」
咄嗟に出た嘘だった。
「おい」
「近づかないでください!あなた4人は…」
「やっちゃえ、シマちゃん」
「えっ!?」
後頭部を殴られた。そのままコンクリートへ倒れる。
意識がモウロウとする。身体を動かすことができない…完全に脳が揺れて、出血が止まらない………
「やったねぇ…まっ、コイツがやったことにすれば?」
「そりゃそうだろ。コイツのせいで、未成年に暴力を振るったからな…ゴミカス、出頭しろ」
「そ、そんな…」
「バケモンの癖に、日本語喋ってんじゃねーよ!」
「うわっ!?や、辞めて、ください…」
「みっともねーな。笑えるぜ」
『アハハハハ…』
笑い声が頭に響く。
着ぐるみの彼も、あれだけ殴られては彼もダメになってしまう…
だがどうする?何ができる?暴力どころか、人を殴ったこともないぞ…何もできない…僕は、無力だ!!!
「このガキ、アホのヒーローに憧れた、ただのバカだな。夢見過ぎなんだよ、バーカ」
心の底から何かが溢れ出た。
こんなとき、ヒーローはどうする?
ヒーローは、何をもってヒーローなのか。
僕がヒーローになるなら………
「むねーに、やどーるは…あーかーいちしおー」
不思議と起き上がり、立ち上がる。
「あ?何立ってる訳?」
胸ぐらを掴まれても、僕は怯まない。
「…みしらぬぼくらをすくいにきたぞ」
「何言ってんだ?テメエ…?」
「ギャーラク、ティーカー…!!!」
掴まれた腕を払い、突き飛ばす。
「お前、バカか?なんもできねーのに、何睨んでるんだよ…?」
右手に握りしめるは勇気。その勇気を正しき道を示す左腕。胸の前に右腕を立て、右肘に左腕を添える…正面から見て、L字のように見える。
コズミックマンシリーズの元となった、初代コズミックマン、ギャラクティカ。その必殺技。
「大宇宙破壊光線」
放たれた光線は、敵を貫き、闇へと消えた…
2024/4/13 pm8:36
「…んっ?」
「英志っ!?起きたか?具合悪くないか?」
「父…さん…?」
「待ってろ、母さん呼んでくる」
「ここ…は…?」
目が覚めると、病院だった。
何が起こったんだろうか?全く覚えていない…
「ちょっと!待ってくれ、アンタら…」
「申し訳ない、少しだけ…少しだけ、聞きたいことがあるので、ご協力を…」
刑事らしき2人組が、自分の前に現れる。
「東英志君、だね?」
「…はい」
「目覚めて早々、申し訳ないけど、襲われた時のこと覚えてる?」
「…覚えてません」
「ほんとに?なんにも?」
「やめろ!…すまなかった。あとで、詳しく教えてくれないか?」
「…わかりました」
「どうも、ありがとう」
2人の刑事は、そのまま帰ってしまった。
「…なんなんだ、あの刑事!あとで文句言ってやる」
「やめてよ、あなた…それより、本当によかった〜」
母さんが僕を抱きしめる。
「…何が、あったの?」
「大学生に襲われたらしい。後頭部を殴られたが、医者曰く脳が揺れただけ。出血したものの、後遺症になることはほぼ無いらしい」
「お願い英志。今度から1人で出かける時は、必ず連絡して?母さん、今回死ぬほど怖かったんだから…」
「う…うん…」
「パンデミックが終わったのに、今度は復讐依頼だの、暴力沙汰だの…どうなってんだ日本は?安心できないな全く…」
あの大学生たちは逃げたのか?
わからない…あのとき、僕がやったことは妄想だったのか?
モヤモヤが残ったまま、この日は終わった。
2時間前
「どもども〜。自分、こーゆーのっす」
身分証を見せる。
「…お疲れ様です。入ってください」
「あざっす。いつもご苦労様です」
いつもの定型文を言い、現場に入る。いつも通りの刑事が、そこに居た。
「…あっ!?またお前っ…!!!」
「はいはい、新妻君。いつものリアクションどーも」
ブルーシートで隠されたモノをめくる。
「…うっわー」
「流石のお前でも、今回は酷いと思うか?」
人間の身体を逆L字でレーザーしたモノだった。上半身、腕が焼け焦げて切れてる。
「宇津井、コレをする情報を持ってないか?」
「…残念ながら」
「そうか…」
「なんだよ!やっぱ使えねーな、お前」
「酷いなぁ、新妻君。復讐依頼実行者の情報、集めるの辞めよっかなぁ〜」
「こ、こいつ…!」
「謝れ、新妻」
「いいっすよ、八重樫さん。そっちの情報もまだなんで…」
宇津井は倒れてた被害者が居た場所を歩く。
「1番の子、どうなったんです?」
「上半身が消えた。近隣住民から何かが光り、空へ向かったと報告がある」
「ふ〜ん…」
一通り周り、犯人が居たであろう場所に立つ。
「つまり、こっからビームを撃って、5人貫いた…と。そして、力が制御できなくなって、周りを巻き込まないよう上空に…か」
「おそらく」
「非科学的ですよ」
「新妻君、いつまでもソレが通らないんだよ?もっとこう、頭柔らかくさぁー?」
「…ウザっ」
「他に同じ大学生が居たが、よっぽど怖かったんだろう。何もわからない」
「そっすかー…」
「せめて、高校生が何か覚えていれば…」
「ん?高校生?」
「ちょっと!?八重樫さん!?」
「構わん。必要な手がかりだ」
「…もしかして、その子が犯人だと?」
「それはありえん。被害者の1人が、高校生の頭を殴ってる。発見時、倒れていた」
「…その子が倒れてた場所は?」
新妻の携帯が鳴る。
「もしもし…えっ?目覚めた?」
「悪い宇津井。病院に行ってくる」
「あいよー。あの件は近々、報告するんで」
「頼む。行くぞ、新妻」
「えっ、ぁあ。はいっ!」
2人の刑事は出て行く。
鑑識の様子を見て…
「俺も出ます。お先に失礼」
軽く会釈して、その場から離れた。
「………聞いてたか、よしき?…あぁ、新しい能力者だな…オッケー、月曜日にそこ行くわ………わかってる。次はこちら側に引きこむ。任せろ」
現場を再び眼にする。
「楽しみだぜぇ…【光】授かりし者よ…」
2024/4/15 am7:46
日曜日はどこにも行かず、家で待機していた。いつも通りニチアサを観て、そのまま自宅からは出なかった。
登校中、平河くんを見かける。
「平河くん、おは…」
「…」
睨むように僕を見たあと、無視して学校へ向かう。
「あっ………」
気まずそうに木村くんは僕を見て、平河くんを追いかける。
(仲直りしたいんだけどな…)
学校へ行く足取りが、急に重くなる。
「やーやー、東どの〜。おはようでござる〜」
「南くん、おはよう…」
「どうされた東どの!?その頭の包帯…」
「…嘘みたいな、ホントの話。聞きたい?」
「もちろんです。いったい何があったのですか?」
土曜日あったことを南くんに喋った。
「…ふむぅ、実に奇妙な話ですなー」
「信じられないよね?」
「いや、信じますぞ」
「えっ?」
「東どのが声をかけなければ、怪獣が死んでしまうところでしたからな。誰にもできませんよ。自分は東どのの行動を無謀と言いません」
「…ありがとう。南くん」
壊れそうな心を、南くんに救ってくれた。南くんもヒーローだよ。
学校に着き、各々の教室へ向かう。
「それでは東どの、また」
「…うん」
平河くんと同じ教室がちょっと辛い。
「またお昼、話しましょう」
「…ん?」
「ですから、昨日のマスク英雄ですよ!観ましたよね?」
「う、うん…観たよ?」
「なら、感想会しましょうよ。昼に」
「…うん!」
南くんと別れ、教室に入る。
「おはよう」
たぶんクラスのみんなは驚いただろう。僕と平河くんが仲良くしていないことを…不思議がってる人が何人かコソコソと話している。
「ねぇ、英志くん」
「どうしたの?佐々木さん」
隣の席の佐々木舞さんが、痺れを切らして声をかけてきた。
「何かあったの?」
「…まぁね」
「うっそ!?珍しいね…」
「ちょっと、お互い距離置く感じ…」
「ふーん。なんか、参ってる英志くん初めて見た」
「そう?」
「予想だけど英志くん、全然悪くないでしょ?」
「ウッ…!」
鋭いな〜、佐々木さんは…
「あんま気にすると、病んじゃうよ?」
「…うん、ありがと」
「こら、お前ら席に着け〜」
担任が入ってきてホームルームが始まる。
「今日の予定を言う前にひとつ、めでたい話だ」
「結婚するのセンセー?」
「無理だ」
『ドッ!ワッハッハ…』
「失礼なやつらだなー。東ぁ!」
「は、はいっ!」
「芸能プロダクションの偉い人が学校に来てる。校長室に行って、話してきなさい」
「えっ…」
『マジィ!?』
『ウチらの教室から有名人に!?ヤバっ、早くツイートしなきゃ』
「やったじゃん英志くん。夢の一歩だよ?」
この時、僕はどういう顔をしてただろう?
きっと平河くんはムカついただろう。
きっと相澤くんは呆れただろう。
なんか、都合が良すぎる。
「はいはい、静かに!東、早く行きなさい」
「わ、わかりました…」
教室を出て、校長室へ向かう。
「…失礼します。校長先生、いらっしゃいますか?」
「東英志くんかい?」
「はい」
「待ってたよ。入りたまえ」
「…失礼致します」
扉を開けると、いつも通り滝汗を噴いてる校長先生と、一見スカウトと言うには胡散臭い革ジャンとジーパンの男性が居た。
「よっ!青年」
「はじめまして…」
「遅いぞ東英志くん!全く、担任は何を考えているんだ………ブツブツ」
「まぁまぁ校長先生、落ち着いてくださいって〜」
男性は右手を差し出した。
「俺の名前は宇津井宗介。島津プロダクションのスカウトだ」
「島津プロダクションって、ド派手なアクションで有名なアノ!?」
「おっ、知っててくれたかー。関心関心…握手してくれないのかい?」
「あ…ごめんなさい…」
差し出した手を思いっきり握ってきた。
「イタっ…」
「ふん…部活動はやってないんだよね?」
「…はい、そうです」
「昔、何か武術を?」
「いえ、学校外でパルクールとダンスを…」
「なるほどね」
少し考え事をしながら、宇津井さんは椅子に座った。
「東君、キミをウチに加入させたい」
「えっ!!?」
「宇津井さん!彼のことをよく考えて言ってくださいぃ」
「考えてますよ校長。悪い話じゃないでしょう?」
「いやいや、学生の本文は学業でして…」
「ふふっ、進学校だからですか?先程も言いましたが、学生が企業を建てても良い時代です。たかが遊びと言われたゲームも、立派な職業の1つになりました。否定よりも彼の意志を尊重すべきでは?」
「………ブツブツ」
論破されて、汗を流す校長先生。
「それなら、こうしましょう。今からウチの会社に行って、見学させてから彼の意見を聞きましょう。それで駄目なら、潔く引きます」
「そんな急な…」
「アンタが決めることじゃねーぞ?彼が決めるんだ。それとも、純粋なる青年の夢をアンタの匙で決めるのか?」
「うっ、うぅ………ブツブツ」
「決まりだな。どうする東君?」
「えっ!えっと…」
凄い勝手だなぁ…でも………
「見学して、いいですか?」
「もちろん。さぁ、行こう。すぐ行こう!」
半ば強引に校長室から引っこ抜くように出る。
「ちょ、ちょっと!話は終わってませんぞー!?」
「本日のお時間代は、事務所から振り込むんでー。宜しくです〜」
校内の裏口から逃げるように外へ出る。
「ご、強引ですね…」
「うん、まあね」
宇津井さんはその場で軽く2回ジャンプしたあと、学校のフェンスに向かって…
「よっと…」
飛び越えた。
「できるだろ?」
「えっ!?」
「ほら、早く」
「そっちの方向って、島津プロダクションじゃ…」
「いいから、来いって!」
「…もう」
自分も助走をつけて、フェンスを飛び越える。
「ほっほー。やるねぇ…」
「ふぅ…これって、なんかのテストなんですか?」
「いや、全く」
「え!?じゃあなんで!?」
「いいから、国立病院行くぞ」
「病院?」
「昨日何があったか、ハッキリさせるんだ」
「ど、どういうことですか?」
「…東英志君。キミは特別かもしれないってことを証明させるんだ」
引き止める脚は機能せず、宇津井さんの後を追うしかできなかった…
「…国立病院に来ましたけど」
「どした?」
「診察は別の病院でやりましたよ?」
「そことは全く違う」
「いや、同じでしょう?」
「行けば分かる」
受付を通らず、エレベーターに向かう宇津井さん。
「ちょっ!?勝手に入って大丈夫なんです?」
「俺は顔パスだからな」
「僕は違うじゃないですか!」
「うるさくすんなって。病院だぞ?」
納得いかないけど、ここまで来てしまった以上、最後まで付き合わなければ…
「ん?エレベーター、乗らないんですか?」
「こっちのエレベーターだ」
指した先は緊急専用のエレベーター。
「いくらなんでも、ダメでしょ!?」
「いいんだよ。マジで」
宇津井さんはボタンを押し、エレベーターの扉を開く。
「乗れよ」
誰かに見られてないか、確認してから入った。
「お医者さんに鉢合わせしたら、どうするんですか!」
「上に行かないぞ」
宇津井さんはカードを取り出し、スキャンさせる。
「地下に行く」
スキャン後、下に動き出す。
「まさか、秘密結社?」
「ハハっ!まぁ、秘密結社っちゃあ、秘密結社か」
どんどん、下へ進んで行く。
底の底まで落ちた感覚になりながらも、エレベーターは目的地に到着する。
エレベーターの扉が開いた先に、女性が立っていた。
「あっ…」
「君が、東英志くんだね?」
「すまん、東君。コイツが今日居るとは思わなんだ」
「えっ」
「酷いなぁ、宇津井くん。私を悪魔みたいに扱わないでよ。ちょっと頭開くだけじゃんか」
「えっ」
「…まぁ、がんばれ」
「えっ」
「さぁ、行くよ〜。とりあえず全裸なろっかー」
「えっ」
拒絶したいのに、凄い力で連れて行かれる。どうなってしまうのだろうか………?
「おっ、どうだった?」
「んー…凄かったよ。ホント」
「そんなに?」
「彼、人間じゃないよ」
「…は?」
「開けなかったよ頭」
「そりゃそうだろ。断られたんだろ?」
「違う」
「違う?」
「メス入れても、すぐ再生しちゃうんだ」
「メス入れたんかい!…んで?再生するだ?」
「うん、皮膚を裂いても即再生しちゃうんだ」
「…よく受け入れて貰えたな」
「採血の時点で刺せなかったから、睡眠薬服用して貰ったんだぁ…たぶん、土曜日は頭見れたんだけど、丸一日経ったら完璧に回復力が高まったんだねぇ〜。ちょっと悔しいかも…」
「悔しがるなよ。薬服用して貰えただけでも…待てよ?なんて言って飲ませたんだ?」
「痛くならない薬と、痛みが強くなる薬、どっちがいい?って聞いて、どっちも嫌だって言われたから…」
「いつか訴えられるぞ」
「へーきへーき…能力練習、やってくんでしょ?」
「あぁ、日常生活でウッカリなんて無いようにな…霧島には伝えてある」
「たまには呼んでよ、霧島さん」
「アイツが外出るのは、よっぽどの事がない限り出ないよ」
「…ちぇっ」
「お前の能力も、難儀なもんだな」
「君も、ちょっとは加減してよー。死体置き場じゃないんだよ?ここ」
「それは無理な話だ」
「じゃあ、頭開かせてよ」
「それも無理な話だ」
「ケチ〜」
「…ぇ、ね、寝てた?」
「起きたか。もう2時過ぎだぞ」
目が覚めると簡易ベットに横たわっていた。
「すまんな。アイツがいなければ、もっと早く終わったんだが…」
「普通に騙されて、薬飲んじゃいました」
「害ある薬じゃないから安心しろ。あれでも、立派な医者だ」
説得力無い………
宇津井さんは紙をヒラヒラさせる。
「検査結果だ。東英志、お前は晴れて化け物組へ生まれ変わった」
「化け物って…!?冗談ですよね?」
「見れば分かる」
渡された書類に目を通す。
東英志の身体調査
健康状態に異常無し。しかし、採血及び切開において体を傷つける行為は全て無意味な為、機構に則り特務Aとして記録。引き続き監視対象として扱われる
「…」
「絶望してるな?平気だ。国のために働かされる訳じゃないからな?」
「…わかんないですよ」
我慢の限界だった。
「何がなんだか、わかんないですよ!!!全部教えてください!僕に、何があったんですか!!?」
「今は全部教えられん」
「どうして!?」
「今、教えられること。それは、どうやって能力を使うかだ」
「意味わかんないですよ!能力ってなんですか!?」
「…はぁ、わかった。本当は集まってからやりたかったが…」
めんどくさそうに頭を掻いて、宇津井さんは話し始める。
「内に秘めた力は、外の者たちには理解できぬ」
「へ?」
「故に人で在らず、故に人で在る。力は異種として弊害せよ」
「???」
「…昔からある言い伝えだ。不思議な力を持ったやつがな。時に陰陽師と呼ばれ、時に戦人と呼ばれる…今の言葉で言うなら、特別に得れた人。俺らは【世人】と呼んでる」
「世人…」
「そうだ。俺も、あの狂った女も世人だ」
特別な力を持った人間が他にも居る…?
「宇津井さんの能力は?」
「ここでは言えない。だが、直ぐに分かるさ」
「…どういうことです?」
「東君、この前の夜みたいにビームを撃つんだ」
「えぇっ!!?」
それって、僕が実は………
「心配すんなよ。そのためのリハーサルなんだからさ」
「り、リハーサルって…気楽過ぎません?」
「いいから、いいから」
宇津井さんに押されるように、そのリハーサル場に移動した。
「どうだ?結構広いだろ?」
「…」
広いというか、眩しい。
「なんで、こんなにライト点けてるんですか?」
「そりゃ、俺が死なない為さ」
「死っ!?」
「あの夜、暴力沙汰を起こした大学生らを纏めて片したろ?その距離、ざっと15メートル。時刻は夕方を過ぎて、陽当たりも悪い。暗い闇の中でソレは起きた…理解できるか?」
「まぁ…?」
「なら、やってみな。あの時と同じように」
「む、無理ですよ!!!」
「どうしてだ?」
「だ、だって…」
あれ?途端に腕が震える。さっきまで、なんともなかったのに…
「あ、あれ?…薬が切れたかもしれません…また、服用を…」
「お前がやったことは間違ってない」
胸に、心に、深く突き刺さった。
「悪いが、色々と調べさせて貰った。何が好きで、どういうことを1番とするか、とかな」
「…」
「あん時、誰も助けない、誰も気づかない状態で、お前は気づいた。それは運命だ。逃れられない必然だ。なるべくしてなった。それがお前の能力【光】だ」
「光…」
「無理にとは言わない。その力を制御できるかどうかなんだ。できなければ…言わなくても分かるな?」
静かに頷いた。
「力を入れてみろ。ゆっくりとだ。深呼吸をして、心拍を落ち着かせろ。お前はできる」
目を瞑り、言われた通りに深呼吸をする。
「お前の体は、人智を超えた。正しき力は、正しく使わなければならない。お前が好きなヒーローたちも、そうだったんだろ?」
そうだ。運命は残酷だけど、人は間違いを起こすけど、根本的には変わらない。僕が何をしたいか…
「………やればできるじゃないか」
「えっ…?」
目を開けると、両腕が光っていた。
「聞こえるかナツ?…そうだ。両腕の温度を知りたい…もう一回言ってくれ、聞き取れなかったんじゃない、そんな訳ないだろ?」
宇津井さんが、慌てた顔をする。
「なんか、ヤバい…ですか?」
「ヤバいは、ヤバいな…今、180℃をキープしてるらしい…」
「へっ!?」
嘘だろ!?全然なんともないけど、超異常じゃん!小さい虫を殺すラケットみたいじゃん…え?なんか途端にダサく見えてきたぞ…?
「おい、どうした?温度が下がってきたぞ?」
「…なんか…カッコ悪いな…って」
「急にテンション下げんな!!?今は腕だけだが、全身がそうなったら、えらい事起きるぞ。ほら、制御制御」
事あるごとに服が燃えて全裸になるのだけは避けたい…あ。
「あっ…」
「おっ、温度戻ったな…ん?どうした?顔、真っ赤だぞ?」
「な、なんでもありませんっ!」
「…?ナツ、そっちのモニターで変化分かるか?」
「わ、わかんなくて、いいんですって!!!」
そういえば、身体検査で服脱いだとき、あの人…下から始めたんだよなぁ〜…色々あって、今の今まで忘れてた…は、恥ずかしいぃぃぃぃ〜。
「集中しろ」
「…はい」
「その状態で歩けるか?」
「…やってみます」
歩くだけ…歩くだけ…
「…ふむ、意識しなければ光は消えるのか」
「えっ!消えてました!?ごめんなさい」
「違う、それでいい。無意識下で抑えられるなら、悪くないな」
「そう…なんですか?」
「その辺グルッと、回ってみろ」
「は、はい」
自分が光ってるだなんて、意外とわからないもんだなぁ…
「敵だ。攻撃が来たぞ」
「えっ!?」
宇津井さんに背を向けた状態で振り返る。何かを投げて、顔に当たりそうだ。
「うわっ!?」
咄嗟に両腕で庇った。何かがジュッと焼けた。
「うん、切り替えも速いな」
「…クサッ!?何投げたんですか?」
「ティッシュ」
「汚なっ!!!」
「使用済みじゃねーよ」
「…そりゃそうか…ハハハ」
ちょっと気が楽になった。
「そんじゃ本番だ。ビームだ、東君」
「………」
「なんだ?」
「いや、ちょっと待ってください…」
あの時と同じように…心の中でギャラクティカの歌を歌おう。もしかしたら、それで撃てるかもしれない。
「………」
「行けそうか?」
「スゥ………大宇宙破壊光線」
握りしめた右腕を正しき場所を示す為に左腕は添えるだけ。
「あっ!!?」
しまった!宇津井さんに向かって放ってしまった!そんな…こんな事が………
「ヤベっ!?」
「え?」
体感、光線を放った瞬間、宇津井さんは光線を交わし、僕の懐へ潜りこんで腹部にアッパー………の寸止め。
「ぐぅっ…!!?」
寸止めのはずなのに吹き飛ばされた。なんだ!?あのパンチ!!?
「悪ぃ!平気か?」
「え…えぇ、大丈夫…ウッ…!?」
吐いた。
「マズった…今日はここまでにしよう。もっかい、ナツに診てもらえ」
「ゴホッ…ゲホッ…オェ…宇津井さん、宇津井さんの能力って、なんすか?」
「そんなんより、とりあえず胃の中吐き出しとけ。メシ前でよかったわ…肩貸せ。連れてってやる」
肩を担がれて、元居た場所へ戻る。
「教えて…くださいよ…ゲホッ…ズルい、ですよ?」
「…笑わないか?」
「へ?…笑わないっすよ」
「【運】だ」
「…」
「なんか言えゴラっ!」
「あ゛ー!?イッテェ!!?何するんすかぁ!」
「微妙な反応すんなっての!」
「微妙というか、なんというか…地味っすね」
「…」
「痛いっ!?やめてっ!自分のライフはもうゼロっす!」
「テメエなら、不死鳥みたく治るだろーがっ!チート野郎!」
こうして僕は世人になった。
そして僕はもう1人の世人に出会う。
名前は植野主水。
まだ、中学3年生。
彼もまた、殺人をしてしまう。
いや…した、じゃないんだ。してしまったんだ。
僕と仲良くは、しばらく馴れそうにない。
そもそも、仲間として受け入れてくれないかもしれない。
まだ、僕らの目的を知らないから…
最後までご愛読いただきありがとうございます。
異能力バトルものですが、最後まで描き書きたいと思っています。
光の力を手に入れた東英志。そしてもう1人の主人公植野主水。次回は植野主水のお話です。ご期待ください。
では、また