夕刻イヤーワーム
夕方五時半になると、スーパー『マルイシ』ではお総菜売り場の半額タイムセールがある。
主婦にとっては『半額』という企画は節約に繋がるもってこいのうれしいイベントなのだ。
今の時間午後五時二十五分。
タイムセールが始まるの五分前だ。
主婦たちは皆、お総菜売り場の周りにポジションを取り、瞬時商品を獲得出来るように身構えている。
少し離れた場所からは、店員が時計を確認しながら合図を出す準備に入っていた。
店内の壁時計がタイムセールの時刻を示した。
「只今よりお総菜、半額タイムサービスとなります!」
ドドドドド……!
店員がタイムサービスの告知を告げるとマンモスの群れのように、主婦の群衆が押し寄せてきた。
マンモス、もとい主婦たちの激しい地鳴りと共に、店内にタイムサービスの曲が流れた。
『節約♪節約♪節節節節約♪タイムサービス♪主婦の夢♪夕方いつものハッピータイム♪』
簡単で分かりやすいタイムサービスの曲は、その時間いっぱい店内に流れ続ける。
激しい主婦バトルが終わり、曲が止まった後も頭の中でその曲がループしている。
『節約♪節約♪節節節ー♪』
店員が皆この現象に陥る。
長年勤める店員はなれているが、入ったばかりの店員には悩みを越えた苦しみがある。
一番悩んでいるのは、その曲を流している店の放送室自身だ。
『オレ自身が流してるものの、この曲を止めてくれないか?
誰か……』
『無理っぽい』
サッカー台が返答する。
『これについて調べたんだがな、『イヤーワーム』っつって延々と続く現象らしいぞ』
『じゃあオレが曲を流す限り、その現象終わらないのか?』
『我慢だ』
『キツいな』
店ではそれぞれ店内にある物が、イヤーワームの地獄を感じている。