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22.第2次産業革命後

 この日、私は休日を家の縁側でくつろぎ、今までの事を思い出していた。


 ここ、フレースヴェルグ州の夏は、私達サハギン種には厳しい気候だ。今もお天道様が雲の切れ間から顔を出し、身体の表面を熱い日差しが照らしていく。


 私の住む、フレースヴェルグ州エルグラードの街は、今や私達奴隷にとって最後の希望として知られる街となった。


 ほんの10年前だったか、この街で有名な貴族家、エアハート伯爵家の長男アルフレッド坊ちゃまが奴隷を大量に集め出したのが始まりだ。


 この街に集められる奴隷は全て、借金奴隷と欠損奴隷が基本だ。本物の犯罪を犯し奴隷になった者達は来ることが出来ない。


 借金から仕方なく愛玩奴隷や、技能奴隷、犯罪奴隷になった物達や、戦闘や生まれつきで仕方なく手足に欠損がある者、手足に麻痺や異常を抱える者がこの街へと入り、エアハート家へと雇われる事が出来る。


 エルグラードの街外れ、海に面しデカデカと建てられた町と呼んでも差し支えない工場一帯は、そんな奴隷達が仕事をする為の場所だ。今やこの一帯は奴隷と元奴隷そして一般労働者でひしめき合い、優に15万人が働く一大拠点となった。


 奴隷達には生活拠点として、団地の1室が与えられ、家族や恋人、同郷の者達で1部屋3人~5人が共同で生活を送っている。


 技能奴隷や戦闘奴隷ともなると、扱いがより良くなり、1人部屋や恋人と一緒に住める2人部屋なんかが与えられるようになる。


 その為、この工場内に建設された”職業訓練場”なる場所へ、日々沢山の奴隷達が仕事終わりに勉強へと向かう姿が多く見られる。


 最初の頃は奴隷専用労働所として、町の人々から忌避されていた事が今では懐かしい。


 この工場地帯では現在、生活用魔道具、石鹸、服、本、楽器、家具、ポーション、飲料、鉄鋼、そして兵器が製造されている。


 生活用魔道具工場は技能奴隷達にとって憧れの的だ。最新の技術を使ったテレビ、電話、洗濯機、冷蔵庫、ポット、等々を日々大量に生産し、それが列車に乗せられ各地へと運ばれていく。


 石鹸、ポーション、飲料については研究色が強めで、元学者等の奴隷が中心に集められ、日々研究を行ない商品の開発がなされている。民間に大量に出回る商品かつ、製造コストに比べ価格が安くなり過ぎない石鹸やポーションは巨額の利益をもたらしている事だろう。


 服の生産工場については女性の奴隷が多く、種族毎に別れた生産ラインが整えられ機械を使ってこれまた大量に生産されている。服の販売は『アルフ&フレア』で行われ、既に国内に25店舗を出店している。


 本の生産工場では、週刊ファッション誌、月刊漫画、大衆小説、魔学論文掲載誌、等が日々作られている。よその会社から注文が入れば、そちらの印刷も行っている。エルグラードの1等地に建てられた5階建てビルには美術全般を学んでいた奴隷が多く集められ、日々仕事に取り組んでいる。


 楽器の生産工場では、2年前に開発されたCDを使う、ステレオとラジオが一体となったCDラジカセが生産され、音楽周りのアンプ、ウーハー、イヤホン、等が、楽器で言えばギター、ベース、ドラム、等最新の流行りの楽器の製造が行われている。


 家具の生産工場では、未だに拡大され続けている工場一帯へ、新しく建てられた住居への家具の設置が主な仕事となっている。こちらはあまり利益にならない仕事となっているが、奴隷達にすればそんな事は言っていられない。自分の住居に良い家具を入れる為にも工場建設当初からある大事な仕事だ。


 鉄鋼生産工場では、形鋼、棒鋼、線材、厚板、薄板、帯鋼、鋼管、鋳鉄管、可鍛鋳鉄、機械用鋳物、等他の分野で欠かせない物が多く作られている。国営企業にこれらの鋼材を多く出荷しており、列車等の素材はフレースヴェルグ州が作っていると言っても過言ではない。


 上記の仕事については各地から集められた奴隷達にまず、各工場での出荷作業が割り当てられる。出荷作業のような簡単な仕事が初めに割り当てられ、徐々に仕事を覚えていくと、各工場の担当者が1年毎に希望職への割り当て調整を行ってくれる。



 そして、兵器生産工場。私個人としては、これが今最も熱い。この街ひいてはこの国に関わる一大事業だ。現在この工場ではバイクと名付けられた兵器の生産が行われておいる。そして取り分けこのバイク Ver.7 以降は、荒野を苦も無く駆ける性能と疑似路を走行する空中機動性を併せ持つ最新の魔導兵器となっている。


 この兵器の製造は6年前から開始され、現在では Ver.7.5 が最新となっている。開発当初は内燃機関を使った2輪車の開発が行われ、当時で時速40キロを記録していた。ただ、Ver.1 は機体が大きく、機関効率が悪い、航続距離が短い、と兵器として耐える使用では無かった。


 その後、改良が加えられていく中で、内燃機関の性能向上に伴い機体の軽量化を受け、操作性や航続距離の改善がなされていった。


 Ver.5.6 の時に真硬鋼(アダマンタイト)と名付けられた合金が開発され、性能向上に1役買った。これに伴い、防御魔法の展開をせずとも、一定の防御力を得た本機体の性能は更に飛躍的に向上していく事となる。


 そして現在の Ver.7 では新たに浮遊魔法と結界魔法を併用して作り出した疑似路を走行するという試みがなされている。結界魔法のデザインを道路のように伸ばす改良が施され、それを浮遊魔法で空中に固定し、走行可能な道とする。


 そして、それら全ての魔法の制御をバイク側で行う。これにより操縦する魔術師は魔力の消費を抑え、敵陣へと飛び込んでいく事が可能となる。現在この技術の開発がなされているのはバイクのみだ。


 同時に開発がなされた。車と通常バイクについては、既に金持ち達の間で購入され始めたが、 Ver.7 以降の疑似路走行可能バイクについてはこの兵器工場とフレースヴェルグ州軍の陸軍上層部の極1部の者達しか存在を知らない。表向きは車とバイクの製造工場となっている。


 車とバイクは国内の金持ちの間で飛ぶように売れており、製造コストが月単位で安価になっている。


 発売当初は、一番安い車が6700万、バイクが4200万だったのだが、現在では車が2400万、バイクが1200万まで下がった。それに加え性能は向上している。


 未だ民間に出回る価格では無いが、それも時間の経過と技術の向上が解決するだろう。


 バイクの話ばかりになってしまったが、もう1つ製造されている兵器が存在する。それは駆動鎧と名付けられた戦地用防護装備服だ。そう何故か鎧と名付けられているが、これは服なのだ。


 アダマンタイトの開発によって、戦場での防具に使用される素材の見直しがなされたのが切っ掛けだ。軍部ではアドマンタイトの開発を受け、多数の会社に兵器の改良を各州で行わせた。


 そして、その仕事はここエルグラードの兵器工場にも来た。それを受け考案されたのが、アダマンタイトを全身に縫い込んで作られた服だった。アダマンタイトの特性はその硬さと魔力に感応する所にある。


 魔術師が身体強化を発動すると、アダマンタイトが魔力に反応し硬化するのだ。そして、魔術師本来の防御力を実に4割も向上させる事が出来た。ただし、術者が動けなくなるという欠点を残して。


 その後、開発が進められた駆動鎧は、関節部へは別の素材を使う事で、目指していた本来の性能を何とか獲得する事が出来た。そして現在この装備は軍でのコンぺ待ちとなっており、近々疑似路走行バイクと共にお披露目予定てなっている。





 この10年間の間に私らの、いや国民の生活は一変したと言ってもいい。


 街中にはカフェと呼ばれるオシャレな店が増え、コーヒーやラテと呼ばれる飲み物を若者達がこぞって飲んでいる。カフェに設けられたテラス部分では、ファッション誌を片手に奥様方が集まり井戸端会議を開いている。


 店内には商店用に開発された音楽機器が取り揃えられ、最近流行りのロックバンドやカントリーソングと言われる歌が流れている。


 道行く人々の装いも前時代に比べて先鋭的な服を着る者達が増えた。


 エルグラードの中心地には、この州最大のショッピングモールと呼ばれる巨大な店が建てられ、各地から集められた様々な会社がその会社独自の店を出店している。他には海外からの輸入品専門店などもある。


 そして、この建物を管理しているのが、私が働くアルフレッドトレーディングコーポレーション———通称ETCだ。頭文字が何故Eなのかは、他の者達には内緒だ。


 この変化は街中だけに止まらず、家の中でも言える事だ。流行りに敏感な者達の中では、最新の魔道具をどれだけ揃えているかが自慢され、生活用魔道具を我先にと集める者もいる。そして、それは私も同じだ。


 同じ奴隷仲間達が作った最新の生活用魔道具を買い集めるのは、今や私の趣味となっている。テレビはまだないが、冷蔵庫、洗濯機、電話までは揃えた。


 そして、私は5年前に奴隷生活を終え、工場近くの結構良い家に最近結婚した嫁さんと一緒に暮らしている。これも全て、あの日の言葉を違えずにいて下さるアルぼっちゃまのお陰だ。


 奴隷に給料をやり、奉公が終わった後も一般労働者と同等まで給料を上げて再雇用して下さる人など、あの方を除いて他に居はし無いだろう。


 この感謝に応える事が、覚えておくだけでいいとは些か安すぎるとも思うが、アルぼっちゃまが選挙に出られ、議員に当選するまでは私を含め多くの者達がこの感謝を忘れる事無く、日々生きていく事だろう。


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