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19.パーシーヴァル

 オレの名前はパーシヴァル、相棒のミゲルと上司のレイモンドさんの3人でエアハート家の跡取りであるアル様を護衛しているウルフ種の男だ。執事はついでだ。


 オレの出身は、ここフレースヴェルグ州とは違い、北に位置するアイトーン州だ。フレースヴェルグ州はオレの故郷とは違い冬の厳しさがない。その為、オレには冬でも過ごしやすい良い場所だ。


 自分で言うのもなんだが、オレは軍学校を出たエリートの1人だ。防衛大学への進学も考えていたが、時期が悪くオレは直ぐに戦地へと派兵された。もっとも、幹部候補になるのは戦地を経験してからでも遅くないと最初は思っていたのだが。


 いざ戦場へ出てみたらそんな事は思わなくなった。戦場では最新の技術を使った魔導砲が火を噴き、仲間の身体を吹っ飛ばしていく。学校で優秀だった奴も平凡だった奴も等しく死んでいく。


 戦場では塹壕や拠点を築き、防御魔法で固められた防衛陣地しか気の休まる場所はない。


 そんな戦場で最悪な事は、相手の魔法使いに貴族級がいる事だ。ハッキリ言ってあいつら硬すぎる。軍人が10人~30人で集中砲火を加えても全く防御魔法が破れないのだ。


 貴族級の奴が防御魔法を展開し、他の奴らは攻撃魔法を使いこちら側に集中砲火を浴びせて来る。一方的な状況に陥らない為にもすぐさま反転し、防御を固める。そして防御陣地の存在に感謝する。それが戦地での、俺の生活だった。


 戦場では新しい武器がどんどん出てくるが、正直魔法を使った方が早いし威力もある。50年前に開発された魔導砲は今でも活躍しているが、それ以外は200年前の統一戦争から何1つ変わっていない。軍学校で習ったからな多分あってる。


 2年間戦地を経験した俺は上官に防衛大学へ進むか聞かれたが断った。正直、オレに他人の命を左右するような命令は出来そうにない。だから、オレは軍で学んだ事、戦地で学んだ事を生かせる職業として、要人の護衛を選んだ。


 最初にアル様を見て思った事はヤベー奴だ。戦場でも感じた貴族級の魔力を5歳の子供が発してやがった。いくら何でも規格外すぎるだろ!他の姉弟の皆様は普通だ。まだ、貴族級の魔力まで成長していない。子供にしては多いなくらいの印象なのに、末っ子が一番ヤバいとはね。


 そんなヤベー末っ子は発想もぶっ飛んでやがった。新しい生活用魔道具を次々作り売りさばいて金儲けを始めやがったのだ。しかも奴隷を使って安く。金持ちは生まれつき金の稼ぎ方でも持って生まれてくるのか?


 それともこの末っ子が特殊なのか?特殊と言えば、感性も特殊だ。一般的に奴隷に給料をやるなんて話は聞いたことが無い。やっても小遣い程度なもんだ。毎月支払ったりは普通しない。確かに奴隷は可哀想な扱いを受けているが、奴らは基本犯罪者だからな。


 それに、この国には監獄がない。その為、犯罪者は即刻死刑か労働奴隷になるしかない。他国には監獄があるようだが、うちの国では奴隷は労働力として消費されていく。実に合理的な国だ。


 それにエアーズ連邦には土地が腐るほどに余っているから、開拓をさせる為にも奴隷の存在は欠かせないのだが、末っ子の考えは違ったらしい。


 末っ子は奴隷制度を良しとせず、改革を行う為に奴隷を買い集めいい待遇を与えていずれは全世界の奴隷を解放すると言い出した。正直なんてめんどくさい事言い出したんだと思ったが、あの計画を聞いて考えを改めた。


 ハッキリ言って頭の出来が違う。もっというとイカレテやがる。よくそんな事思い付いたなとしか言えない。何で5歳でそこまで思いつけたんだ??伯爵様の事を単なる親バカだと最初は思っていたが認めるしかない。あの子は天才だ。


 物造りもそうだが、思考も発想もオレとは違う。まるで世界を別の視点から見ているような物の考え方をしている。だが、まだ子供な事には変わりなく少々詰めが甘い。その為、オレ達護衛は取引相手の会社や従業員の内偵を行っている。が、これがオレの本来の仕事なので文句はない。たまに奴隷の相手もさせられるけどな。


 奴隷と言えばあのナタリーとかいう女の子、、、


 ミ:「なぁパーシー、あのナタリーって子どう思う?」


 パ:「あー正直可哀想だな。…どっちもな」

 

 ミ:「そうだよな。レイモンドさんも嘘はついて無いって言ってたし、話が全部本当なんだとしたら、あれって革命戦争の後に制定された人権宣言違反だよな?」

 

 パ:「ミゲルお前良くそんな前に習った事覚えてたな。でもそれはどうかな?人権宣言には国民である事が定期されているからな、国としてエルフを国民と認めない限り違反にはならないんじゃないか?」

 

 ミ:「そういえばそんな事も習ったな。お前の方こそ良く覚えてたじゃないか」

 

 パ:「バーカ、最近勉強し直したんだよ!アル様の為にもな」

 

 ミ:「でも、バカはお前も一緒だ。だって、お前今あの子をエルフ扱いしただろ?あの子元々人種なのによ。それによ、エルフの女が産んだ子供は皆エルフとは別種族の子供なんだぜ、その子供たちには人権宣言適用されるだろ」


 パ:「そう言われればそうだな、、、なぁ――これってよアル様が一番頭悩ませてた問題を解決できるんじゃねぇか?」


 ミ:「アル様が悩んでた問題?、、、あぁ!エルフを解放する理由の事か?」


 パ:「そうそれ!だってよ考えてみろ、計画通りに奴隷を解放出来たとしてもだエルフも一緒にとはいかねぇぞ!さっきも言ったが国がまずエルフを国民と認めてねぇ上に皆エルフは野蛮だって教育受けて育ったんだぞ」


 ミ:「確かにそう聞くとこの問題マジでハードル高けーよな。でも、だからってどうすんだよ」


 パ:「だからよ、問題をすり替えちまうのさ。エルフの解放じゃなくてエルフが産んだ同種族の解放に」


 ミ:「うーん?でも、それじゃエルフは奴隷のままじゃん」


 パ:「それでいいんだよ!今はまだな」


 ミ:「えーぇ、なんでだよ全然わかんねぇ」


 パ:「ったく、少しは自分で考えろ。要は理由が重要なんだ。いいか、誰にも望まれること無く生まれて来た子供達、そして実験の為だけに死んでいく人生。この話を聞いて国民はどう思うよ?」


 ミ:「うーん?同情する?と思う」


 パ:「そう、同情するんだ。そしたら国民はこの非道な実験を辞めさせようと声を上げるだろ?そして支持者の声を聞いた議員連中は動かざる負えなくなる」


 ミ:「うーん、まぁそうなる――かな?」


 パ:「そしたら、非道な実験は一先ず止まるかもしれない。それに、国民がエルフに同情を覚えるかもしれない」


 ミ:「うーん、そんなに上手くいくかな?」


 パ:「だ・か・ら、今はまだそれでいいんだよ!アル様が選挙に出られる年になるまでに、国民感情を変化させるのが目的なんだからよ」


 ミ:「それは分かるんだけどさ、解放する理由は?同情だけ?」


 なんかミゲルとの会話思い出したらむしゃくしゃしてきた。あいつ普段脳筋のくせに文句ばっか言いやがって――――いや、何時もの事か。


 それにアル様か、いつ頃からそう呼ぶようになったんだっけ?気が付いたらそう呼んでたな。それにナタリーの扱いについては困った事になると思っていたのだが、アル様が普段から自分の傍に置くようになった事で殆ど解決した。監視の目と戦力を分散する必要が無くなった事は正直ありがたい。


 あのナタリーって女の子、恐らく中のエルフと同時に起きるとヤバい。こないだの話し合いでも一瞬同時に目覚める兆候が見られたが、一瞬魔力がとんでもなく膨れ上がった。その時は大事には至らなかったからいいものの。あのナタリーって子には早めに魔力を制御する方法を指導した方がいい。恐らくアル様も同じ考えだ、だからナタリーを傍に置いたのだろう。


 レイモンドさんが何も言わないのがいい証拠だ。あの人の目をごまかすのは多分無理だからな。俺は自分のやれる事をやればいい。奴隷解放なんて、めんどくさい事は雇い主であるアル様が考えればいい事だ。俺はただ黙ってアル様を護衛するだけだ。


 さっき思い出したミゲルとの会話も、恐らくアル様に報告する必要すら無いだろう。あの子ならきっとそれ以上の事を考えているだろうからな。


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