15.ミリアリアの1日 part2
「おはようございます。ミリヤさん本日もよろしくお願いします」
「おはようミリアリアさん。貴方はいつも通りね」
「いつも通り、でしょうか?」
「ふふ、ええいつも通りよ」
そう言って笑いながら彼女は早速連れて来た奴隷達の話を始めた。
「という訳で、この州に今いる欠損奴隷がこれで取り敢えずは最後なんだけど、本当に中央からもっと呼び寄せてもいいの?欠損奴隷以外なら今すぐにでももっと集められるけど?」
彼女の懸念ももっともだと思うが、これからまだまだ奴隷を集めるすつもりだ。なので我社として外向けに言い訳を用意してある。
「えぇ、アルフレッド社長には許可を頂いておりますので。それに、我社としては安い奴隷を使い生産量を増やす方針が社内で既に決まっております。」
「そう。なら予定通りに進めさせてもらうわね」
「よろしくお願いします。」
その後ミリヤさんと奴隷の引き渡しと契約内容の変更などを行う。ここで大事な事が1つあるそれは、彼女に奴隷が解放される事を知られない事だ。その方法はとっても簡単、1つ主人への攻撃を禁止する事、2つ逃亡の意思を持たない事、3つアルフレッドトレーディングコーポレーションに敵対しない事、そして4つ自社の定める社内規定に違反しない事。以上の内容で彼女に契約の更新を行ってもらう事だ。
たったのこれだけで全てが上手くいく。何故なら彼女は我社の無駄に長々とかいてある社内規定を知らないから。彼女側から見れば我社は国が管理する奴隷を、それも欠損奴隷を多く買ってくれるお得意様だ。そんなお得意様の社内規定など普通はガチガチに決まっている。わざわざ確認してこない理由も金払いの良さに加え脱走が1件も起きていないからだろう。
「それにしても貴方の会社は話も早くて助かるは」
「こちらとしましても、訪問していただく回数も多い訳ですから事前に資料の準備や受け入れの態勢を用意するのは当たり前かと。」
「皆が貴方みたいに優秀な訳ではないのよ。おっと失礼今のは忘れてちょうだい」
「ええ、聞かなかった事にしておきます。」
その後、契約の更新などを終えたミリヤさんを見送り、次は連れて来られた新しい奴隷の方たちに向けた説明を始める。
「みなさん初めまして私の名前はミリアリアです。この会社の秘書をやっております。みなさんにはまず、我社の説明を致したいと思います。」
私はいつも通りのここに来たばかりの人達へ向けた説明を始めた。
「我社では欠損を含めた全ての身体的障害の治療を受ける事が出来ます。更に、借金の返済と同時に少ないながらも給料が皆様に支払われます。また、衣・食・住が保証されます。以上となります何か質問は御座いますか?」
その後ガヤガヤと騒がしくなった皆さんの質問に全て答えながら午前中の仕事を終えた私は、奴隷の移動などを手伝った後昼食を取りに行くことにした。
昼食は朝と同じ魚料理だった。でも普段あまり食べる事が出来ない魚を2回も食べる事が出来て少し幸福度が上がったかな何て思いながら治療室へと戻り、社長の到着を待った。
「ミリアリアさん、今日治療予定の方の症状を教えて貰えるかな?」
「はい、アルフレッド社長、こちらになります。」
社長はいつも同じ質問をする。だから私もいつもと同じセリフを返す。これは一種のお遊びなのだろうか?でも、社長が何やら満足そうなので私はいつも通り気にしない様に気を付けながら返答を待った。
「欠損個所は特に無く、神経麻痺の患者さんか。それなら追加でもう1人行けると思うから追加してもらえるかな?」
「はい、そう言われるかと思い、一応既に待機させております。」
「流石ミリアリアさんだね」
「ありがとう御座います社長。」
更に満足そうな顔になった社長の表情を見て、自分の判断が正しかった事がわかり内心ホッとしたが、表情に出ないように今一度表情を引き締めた。その後、神経麻痺と欠損の両方の患者さんの治療を終えた社長を見送った。
「ヨシ!治療おわり!ミリアリアさんも残りのお仕事頑張ってね」
「お疲れ様でした社長。試作品はいつもの場所に置いてありますので、お忘れなく。」
「もう出来たのか!うん、そっちも忘れず受け取っていくよ!じゃあね」
それにしても、改めて凄い魔力だ。欠損回復魔法と同等の力を2回も使ってピンピンしている。社長が貴族の中でも特別な事は初めて会った時に肌で感じていたが、まさか子供だとは思っていなかった。
今思えば不思議な子供だ。何故奴隷解放なんて思いついて更には実行しようなんて思ったのだろうか。助けてもらった身ながら、社長の壮大な計画が子供のお遊びだと最初に思ったのはここだけの秘密だ。
でも、この1年社長と一緒に仕事をしてみて本当に実現してしまいそうな社長のバイタリティーにはいつも驚かされている。それが色々な発想を社長に与えるのだろうか?私も学生の頃は何でも出来ると思っていたが、今の社長を見ていると、世の中にはこんなにぶっ飛んだ人がいるんだなと思わされてしまう。
それに社長を見ていると、夢を追いかけていた頃の自分を思い出さずにはいられない。だからだろうか。時折社長がとても愛おしく感じてしまうのは。私にもし弟がいたらあんな感じだったのだろうか?
そういえば両親は今どうしているだろうか?正直あまり会いたくない。それに私は一方的に彼らを憎んでしまったから多分顔を見たらまた冷静でいられなくなってしまうかもしれない。
それに、私は冷静でいられなくなる事がとても怖い。あの魔術が解けたあと最初はとても嬉しかった。でも、いつも考えてしまう。いつか私は感情の制御が出来なくなり心が壊れてしまうんじゃないかと。それを一度考え出すと止まらなくなってしまうから普段から心を冷静に保てるように意識している。
本当はこんな事したくない。あの男が私に施した魔術と同じようなにする事なんて。でも、私が私でいられなくなってしまうのはもっと怖い。だからこれは苦肉の策。本当の意味で心が解放される日が来る事を祈らずにはいられない。
だからこそ、私は社長の夢に全てを託す事が出来る。な~んちゃってね。ヨシ!暗いの終わり!それから休憩も終わり!
休憩を終えた私は次の仕事場へと向かうことにした。午後の仕事は工場の建設の手伝いだ。世間では基本男性の仕事であるが、我社では治った奴隷全員の仕事だ。手の空いた者は基本全員参加になっている我社の一大事業だ。
それに社長が考案した団地が完成すれば欠損奴隷以外の奴隷の購入も視野に入れる事が出来るのだ。その為なるべく早く完成して欲しい。でも、コーヒー牛乳を買うのだけは止めて欲しいな。
「こんにちはナーシャさん。」
「あら、ミリアリアじゃないの!貴方が来たなら今日の仕事はかなり進みそうね」
「そんな事ないですよ。」
「何言ってんのよ!貴方がいれば男共は張り切って仕事するのよ!」
彼女は私と同じ最初の7人の内の1人ライノス種のナーシャさんだ。とっても力持ちで身体強化魔法が特異な種族の女性だ。旦那さんのグロースさんを尻に敷く姐さん女房だ。
「それならいいんですが。」
「まったく、男ってのは。それにしても最近よく来るね」
「ええ、最近は人も増えて来ましたし、それにもっと人を増やさないといけないですからね。」
「そうね、アル様の計画の為にも団地は早めに欲しい所だけど、団地を優先しちゃうと今度は奴隷達の仕事がなくなっちゃうからね」
「ええ、ですからこうして手伝いに来ている訳です。」
その後、それぞれ得意な魔法が使用出来る作業へと別れていく。私は身体強化より魔法の方が得意なので、木の加工や溶接など魔法で解決できる部分を集中的にやっていく。時には身体強化を使い重い材料を運んだりなんかもする。2時間程作業を行い、休憩を取り最後に1時間程作業をして今日の仕事が終わった。
仕事を終え、夜勤の人達が用意してくれたご飯をみんなで食べた。その後お風呂にいき、頑張った自分へのご褒美としてコーヒー牛乳を今日も飲む事にした。これよ!これ!これが無いと一日が終わらない。寝る前にもう1本飲みたい所だけど、、、うぅ。
社長は来年になれば更に給料を上げると言ってくれていたから、今は我慢よ!それにこんなに毎日飲んでいるのは私くらいなんだから、少しは抑えないと。我慢我慢、、、うぅでもやっぱり今日だけもう1本買っちゃおうかな?
「ミリアリア!良かったまだいた、ちょっと急いで病室に来てくれないか?」
「あれ、ラースさん…緊急ですか?」
「あぁ、何だか様子がおかしいのが1人混ざっていやがる」
「わかりました!すぐ行きましょう!」
彼はリザード種のラースさん元軍人さんだ。それに彼は恐らく貴族を除けばここにいる誰よりも強い。屋敷の護衛よりもだ。その彼が慌てているのはただ事ではない。
「どんな風におかしいのですか?」
「今日の昼に左目の欠損を治してもらった人種の女の子いただろ、その女の子なんだけどな、治ったはずの左目が見えないって言ってるんだ」
「それは大変ですね!でも、ラースさんが慌てる程でもないと思いますが。」
「まぁな、だが言ったろ?変なのが混ざってるって」
「混ざっているですか?」
「口で説明するより見た方が早い!」
それから急いで病室へと向かった私はその少女を見て明らかな異変に気付いた。
「なんて魔力、しかもこれは、、、制御が出来ていない?」
「あぁ、さっきよりやばくなっていやがる」
どういう事!?最初見た時と明らかに魔力が違う!?ここへ来たときも待機している時もごく普通の魔力しか無かったのに、、、目が治った後に、ッ!目か!だが、それはあくまで迷信の類だ。実際に目に魔力が宿っている訳ではない。それにどんどん魔力が、恐らくこれは元々の彼女の魔力以上の力を引き出している。こんなの彼女の精神以前に肉体が持たないわ。
「おい!ミリアリアそのガキに睡眠魔法をかけろ!今すぐ!」
「ッ!はい!…スリーピングフォレスト」
最初迷ってしまったが、恐らく精神的に眠らせるチャーム系統より、肉体的に眠らせるこっちの方がいいと判断し、身体”脳”を直接眠りへと誘う魔法を使った。だが、
「ようやく、ようやくほんの少しだけど自由が戻ってき…」
「チャーム・セウン!」
私はすぐさまチャーム系睡眠魔法を放ったが、少女がこちらに目を向けた瞬間、
「無駄よ、貴方の魔力じゃ足りないわ。それに私に敵対する意思は無い。だから魔法をかけようとする前に話を聞いてくれないかしら」
効いていない!?その上弾かれた?それも魔力のゴリ押しで!?随分と力技だ、それでよく敵対する気が無いなんて。
「まずは自己紹介から始めましょう。私はルナ・ナール・エル・マリア、貴方達に分かりやすくいうとエルフって所かしら?」
エルフですって!?どうやら今夜はまだまだ眠れそうにない…
ミリアリアの1日がまじで終わらない。




