14.ミリアリアの1日 part1
設定:ミリアリア人間の女性22歳、学生時代は明るく利発的であった。被検体の頃は魔術師の趣味でショートヘアーだった。現在は長い黒髪でお団子にしている時が多い。美人な顔立ちに成長したが、表情一つ変えない。目の色は深い緑色
私の名前はミリアリア、5年前奴隷になりその後貴族の少年に買われた。1年間貴族の屋敷で生活した今の私は22歳の少し大人な女性になっていた。
私の朝は早い。朝5時に起床し、手早く身支度を整えたら奴隷の人達の食事を用意する為に厨房へと向かう。
この屋敷に集められる奴隷はみな欠損奴隷だ。現在、症状の重い物達の治療は日に1人までとなっている。その為、比較的に状態が良い物達と協力して他の皆の食事の用意をする。
「皆さんおはようございます」
「ミリアちゃんおはよう!」「お、ミリアちゃん今日も奇麗だね」「ミリアリアさんおはようございます。」
口々に皆が笑顔で挨拶を返してくれる。奴隷は皆表情が暗いのに。ましてや欠損奴隷ともなると笑顔なんて浮かべないものだが、この屋敷にいる奴隷の皆の雰囲気はとても良い。その原因は勿論我らの新しい主人のお陰だ。
連れて来られる奴隷の皆はここが貴族の屋敷だと聞くと、どんな恐ろしい労働が待っているのかと戦々恐々としているが、奴隷の先輩達がいるお陰か、待遇がいい事を知り希望を抱き更に、自分が治療されると知ると喜び涙する者が大半だ。
「皆さん、今日の食事は魚を大量に仕入れて下さったようなので、そちらを使って下さい。重傷者には別メニューで消化に良い野菜を中心とした料理の準備もお願いします。」
「おう!」「まかせろ!」「はいよ!」「わかったよ~」
本当に皆元気がいい。これも全て男性なのに何故か聖女の生まれ変わりと言われているあの小さな社長のお陰だ。
私は皆に指示を出した後、交代を告げる為に重傷者が収容されている建物へと向かう。
「マニエラさん交代の時間です。今日は1時間後に食事が順次出来上がるので、就寝前に皆で食べて下さい。」
「ミリアリアおは~、ようやく交代の時間か、今日は何が出るかな♪」
「今日はお魚が沢山入ったので魚料理ですよ。」
「お!そいつはいいや、魚なんて中々食えないってのに貴族様は凄いね」
「1人で全部食べないで下さいよ!それから、皆をちゃんと連れて行って下さいね」
このマニエラさんというミノス種の女性は何がとは敢えて言わないがデカい。それに縦にも大きいせいか全体的に見た目が豪快だ。ついでに性格も豪快で大雑把な性格をしている。その為、ついつい自分だけ食事をしに来ることが多々ある。
「分かってるよ!忘れたのだって数回だけだろう?」
「その数回がダメなんです。気を付ける様にしてください。」
分かった分かったと言いながら、他の看病をしていた人達を呼びに行ったマニエラさんを見送り、交代要員の人達を呼ぶ為に別室へと向かう。
「ラモットさんおはようございます。交代のお時間となりました」
「ミリアリアさんおはようだね。」
交代要員のラモットさんはラット種ののんびりとした性格のおっとり系の女性だ。なにがとは敢えて言わないが小さい。背も小さい。
「今日はマニエラさんが交代の準備を始めていますので、なるべく早めに向かわれた方が良いかもしれません。」
「あぁ、今日はマニエラさんなのね。なら早く行かないとまずいのね」
そう言いながらもゆっくりと向かって行くラモットさんを見送りながら私は次の場所へと急いで向かう。次に来たのはお風呂場だ。
因みにこの施設、社長が自ら作った大浴場だ。流石に屋敷の中にある大浴場は貸してもらえなかった為に社長が新しく作った。小さいゲストハウスの風呂ではその内足りなくなると、社長とその当時にいた20名ぐらいの奴隷とで作った結構思い入れのある建物だ。
大浴場に到着すると、私は魔法を使いお風呂の掃除を始めた。魔法が有るお陰で何とかなっているが、正直無いと私1人では掃除しきれない程設備が凄い。当時社長が『テルマエ・ロマエや~とか前面ヒノキ張りや~とかサウナや~とか打たせ湯や~とか垢すりじゃ~とかスーパー銭湯やないかい!』とかいいながら作った施設は今や奴隷達の憩いの場になっている。
その為、人の出入りが非常に多く掃除が欠かせない。それでも私1人で掃除が済んでいるのは皆が綺麗に使ってくれている為だろう。なにせ社長は毎日入浴する程の綺麗好きだと皆が知っているからだ。
それに、皆何処かで恐れているのだ。社長を怒らせて見捨てられてしまうような事が起きないか。そんな事は無いと皆に教えてあげたいが、それは出来ない。
あの日、私達だけを集めた社長がした話は最初の7人である私達と執事の3人しか知らない話なのだから。何故皆に伝えないのかは、社長の説明を聞く限り私は納得している。それに、社長は計画の全容は話すなと言ったが、奴隷に自由を与える方針を会社で取っている為、遠からず皆気付くことになるだろう。
それにしても、このお風呂の機能を最初に堪能した時は感動したものだ。広々とした解放感のある湯船につかれるのは最高だし、ヒノキ張りというお風呂も香りが非常に独特で落ち着く匂いを木が発している。私はこのお風呂に入るのが大好きだ。それにしても、それ以外の汗を流す為だけに設置されたサウナや打たせ湯や垢すりなどは何処から思い付いた物なんだろうか?
それに、あの社長は時折変な物や非常に革新的な物をダフさんに作らせているが、そのどちらもが次々成功して売れている。それにスーパー銭湯って言うのは結局何を意味しているのか未だに良く分からない。社長が考案したフルーツ牛乳やコーヒー牛乳を飲むのがそうなのかな?
でも、あれを始めて飲んだ時は衝撃だったな。おいしすぎてもっと飲みたかったけど、流石に沢山は飲ませてもらえなかった。何せあのドリンク1本2000ディラもするのだ。ご飯が食べられる金額は高すぎると思ったが、その原因が材料にあると言われたらどうしようもない。
だから、私を含め沢山の奴隷達が日々の仕事にせいを出し、借金と相殺な為に少ないながらもお給料を貰い3日に1本ぐらいで良く飲んでいる。今は1日に入荷するドリンクの数と奴隷の数が丁度いい為、いい塩梅で販売出来ていると思うんだけど、この先更に奴隷は増えて行くので飲みたい時に無くなっていないか今から少し心配している。
「ふぅ~」
考え事をしながらも、ちゃんとお掃除していた私はようやく壁の掃除を終え、夜勤を終え今からお風呂に入る人達の為にお湯を張っていく。私がお風呂場の担当をしているのは魔力のお陰だ。中央の高等魔法学校に受かった私は普通の人に比べて魔力が多いから。それに今は、他に人員を回せる程人数も多くないしね。
お湯を張り終え、施設のゴミ出しなどを終えた私はその後、朝食の配膳を手伝い、皆と一緒に食事を取り終えると、次はダフさんの工房へと向かう。
「ダフさんおはようございます。」
「おお、ミリアリアおはよう」
工房に顔を出すとダフさんがいつものように図面を片手に何やら作っている。
「ダフさん、先日社長が注文された商品の試作品は出来上がりましたか?」
「もちろんじゃ!何時もの棚に並べておるから持っていくか、他のもんを呼んで運んでいってくれんかの?」
「分かりました。」
そう言って隣の部屋にいくと、何やら良く分からない魔道具?が7個並べられてあった。大きさを見る限り1人で運べそうだったので、台車を借りて運ぶことにする。
「それでは失礼します」
「あぁ、ミリアリアいつもすまんな。暇な時は何時でも顔を出しに来るんじゃぞ」
そう言い見送ってくれたダフさんの工房を後にした私は、今の私の仕事場である治療室へと向かう。私は運んで来た魔道具?を7個何時もの場所に置くと、今日の治療予定を見直していく。
この仕事は結構重要だと私は思っている。奴隷の人数が増えるにつれ重傷者の数も増えて行く。その為死にそうな者達をなるべく先に回す必要がある。ただ、そちらを優先しすぎると、今度は完治した者達が中々増えずに作業効率が落ちてしまう。それを上手く調整するのが今の私の仕事だ。それと、この後に来るミリヤさんとの奴隷の引き渡しなども私の仕事となっている。
ミリヤさん。私のなりたかった国家資格である契約魔術師の資格を持つ女性だ。契約魔術師は契約にまつわる仕事には全て絡んでくる職業である。その為給料も良く、女子皆が憧れるなりたい職業の1つである。
ミリヤさんは主に奴隷の担当のようで、今はエアハート家の専属みたいになっている。この家がというより会社が奴隷を沢山買っているせいだ。だた、これは彼女にはむしろ良い事のようで太い客を掴んだと喜んでいた。
彼女が契約の管理を任された奴隷を片っ端から買ってくれるお金持ちなんて、世界広しといえど、ここにしか存在しないだろうからね。扱いに困る欠損奴隷を中心に買ってくれる社長に、彼女もいたく感謝していた。
予定を見直し終えた私は、同じ最初の7人の内の1人、6人目ケネスの作業部屋へと向かう事にした。彼にもようやく専門の仕事が与えられ、最近では凄く張り切っている。ただ、彼は睡眠や休憩をよく忘れる程没頭してしまう性格なのか、何時も寝不足な印象を受ける。
そんな彼に与えられた仕事は、絵を描く仕事だ。社長風に言うと『漫画』らしい。彼は元々芸術畑の人間だったようで、社長が考え出した漫画に物凄くハマっている。その為なのか全く部屋から出てこない。
「おはようございます。ケネスさん」
「…z…z…zz」
「社長が原稿を見に来ましたよ!」
「ッ!社長!見てください!集中線というものは奥深いですね!最初白黒で書けと言われた時は半信半疑でしたが、白黒にする事でよりキャラクターの躍動感が増しています!それに」
「起きましたか…」
「…ミリア騙しましたね」
「起きないケネスさんがいけないんですよ」
はぁ、何でこんな人があんな面白い物を書けるんだろうか不思議だ。
「食事の時間ですのでお早めに。それから朝風呂にでも入って来たらどうですか?」
「一応聞くけど、今日って何料理?」
「今日はお魚がメインですよ」
「じゃ、いいや風呂だけ入ってくる」
そう言ってそそくさと出て行ったケネスさんを見送り、原稿をチラリと拝見する。彼が今書いてる作品はこの世界でも有名な魔女と騎士のお話だ。私も小説や絵本になっているのを見たことがあるくらい有名な作品だ。それを絵本ではなく、場面を1つ1つ絵に起こし物語を書いていく手法が取られている。
因みに、社長の方が絵は上手いうえに、絵コンテというものだけでも面白さが全然違う。社長が書けばいいのにと最初思ってしまったが、社長は忙しすぎてそれどころではない。そこで白羽の矢が立ったのがケネスさんだ。それに彼は芸術家だからいずれは自分の方が上手くなると息巻いている。社長もそんな彼に期待しているようで、良く原稿を直接見に来る。
私は軽く彼の作業部屋の掃除を済ませると、そろそろ到着予定のミリヤさんに会いに行くことにした。
いざ書き出したらミリアリアの話が全然進まない。




