11.目は口程に物を言う
最近うちの可愛いかわいい弟のアルの様子がおかしい。
以前までは、私たちの部屋に来て本を読んでとせがんでいたのに、最近は1人で、自分の部屋で寝る様になった。
もう、姉離れしてしまったのかな?お姉ちゃん悲しい…
多分一番下のマリンがしつこく構ってと終始付きまとったせいだ。絶対そうに違いない。
最近ではお洋服を着せ替えてアルと”一緒に”楽しんでいた私まで会う時間が少なくなってきている。
でも、それは貴族家の跡取り息子として生まれたアルの為でもあるから私にはどうしようもない。
私の家は女系家族だ。アルが生まれて来るまで両親は相当焦っていたようで、先々代ぶりに側室でも取るかと話し合いになったほどだ。
そんな折、母が妊娠し、アルが生まれると父も母も大層喜んだ。だから、多少の事には目をつぶる。
いや、かなり盲目するといってもいい。
普通に考えて、3歳児が魔法を使う!?
5歳で再生魔法を使う!?ってか魔力どうしたの!?
私ですらまだ再生魔法使えないぞ!
しかも会社ってなに!?
なんで立ち上げたの!?どうやって!?
え?3億あげた?
なんなら追加でもっとあげたですって!?
あぁ、、、、成程、、、ってなるかあぁぁ!!
ハァ、ハァ、少し落ち着こう。
やっぱり、これはそういう事なのだろうか…?
私は昨日読み終わった本の事を思い出していた。
その本にはそういった事をなしうる存在が稀に現れると書いてあった。
やっぱり何度考えてもそうとしか思えない、、、アルって
”天才”なんだ
だって、その読んだ本に書いてあったもん。100年に1人現れる存在がいるって。それが天才だって。
アルはその100年に1人の天才ってのに違いないわ。
100年に1人生まれる存在って事は相当希少な存在なのは間違いないわね。
それに本にはこうも書いてあった。
天才は孤高だと。
天才は頭が良すぎる為、自分の考えを対等に分かち合う存在がいないって。
あんなに可愛いアルが、誰とも分かり合う事が出来ず孤独になる未来を背負っているなんて。
だから、私は決めたの。どんな事があろうと私だけは絶対にアルの味方でいようって。
思いを新たにした私は早速アルに会いに行くことにした。
今日は日曜日だからアルもお昼以外は暇なはず、
コンコン…
「アル~いる?」
「はーい、いるよ!」
「アルおはよう♪」
「…おはよう、ノエルお姉ちゃん」
あれ?今少し間があったような?気のせいかな?
「アル、今日は何して遊ぶの?」
「えぇっと、レイモンド今日の予定ってどうなってるっけ?」
俺は急いでレイモンドに目配せして合図を送る。ご・ご・な・ら・い・い・よっと
「はい、本日は、朝から工場の下見と業務委託予定の会社の代表との打ち合わせ、昼に屋敷へ戻り奴隷の治療、午後は休みとなっております。」
レイモンドありがとう。取り合えず午後に時間があると分かれば大丈夫だよな?
「そっかぁ、うーん、じょう今日はお姉ちゃんも一緒にアルとお出かけしようかな♪」
「…ェッ!?」
何で!?今すごーく忙しそうな午前中の予定聞いたよね!?
いや、最初の工場の下見だけ一緒に付いてくるって事かな?多分そうだな。なぁーんだそういう事か。
「ノエルお姉ちゃん、短い時間だけど一緒に工場見学楽しもうね」
「ん?…何言ってるのアル…?今日はお姉ちゃんとずっと一緒よ♪」
「ェッ!?」
やっぱりだ。さっきは聞き間違いかと思ったけど、また『ェッ!?』って言った。
分かるよアル。
ううん、今の私ならアルを分かってあげられる。アルはお姉ちゃんが付いて来ても話についていけないから退屈しないか心配したんだよね?
『ェッ!?』に続く言葉は多分こんな感じかな?『ェッ!?でも僕に付いて来てもお姉ちゃんが退屈しちゃうよ』だ。
ハァ~、うちの子なんていい子なんだろう♪小っちゃくてすんごく可愛いし、6歳のくせに時折見せる太々しい顔がたまらなく可愛いのよね♪しかも、世に珍しい黒髪黒目、あの本の内容を思い出すまで完全に忘れていたけど黒髪はともかく、黒目なんてこの世界に早々いるものではない。赤目も紫目も探せばいるだろうが、黒目は別だ。瞳は古来より魔力の源。古い言い方で魔法とは呪いというらしい。思いの力、願いの力、信じる力、これらが転ずると恨み憎しみへと変わる。これらは全て心を表しており、心の強さが目に影響を与えると昔から考えられてきた。青い目は軟弱ものとか、珍しい赤目には悪魔が宿っているとか、それに、一番重要な黒目に関しては非常に珍しいとしか書いてなかった気がする、、あれ?。所謂迷信の類だとばかり思っていたが、アルを見ていると本当なんじゃないかと思わずにはいられない。それに、あの本の最後が気になる。最終章で主人公はたしか天に、、、
「……い、…おーい、ノエルおねえ~ちゃん、戻ってきて!」
ヒシッ!
「わぁ!ビックリした……突然抱き着いてどうしたの?ノエルお姉ちゃん?大丈夫?」
この子は私が必ず守る!孤独にだってさせてなんてやらない!
「アルはずっーーとお姉ちゃんと一緒よ!」
「…うん…?」
突然どうしたんだ?ノエルお姉ちゃんは?
まぁ、でもよくある事か。ノエルお姉ちゃんは言ってしまうと、思い込みが激しい性格だからこういう事は時々あるし、まぁ…いつもの事か?
「レイモンド、ノエルお姉ちゃんも一緒に行くみたいだから、メイド達に伝えてきてくれないかな?それから、ラースに護衛に混ざるように言っておいて。」
「かしこまりました。」
それから私とアルは一緒に工場の見学にいき、取引先?の会社の社長に会っていたのだが、
「アルフレッド様、それは勿論我社としても導入を検討いたしますが、まだ試験段階の物で御座いますよね?」
この目の前に座っているハゲ(ちょっと生え際が後退しているだけ)服をよく見れば端の方が少しよれているし、爪の先が黒ずんでいて不潔な印象だ。これで本当に会社の社長なんだろうか?それに、さっきからアルの話を否定的に捉えてべらべらとよくしゃべっていやがりますわね。
「ですから、アルフレッド様、我社から素材を買い集めていただいた方が、数も申し分なく集められるかと。それに…」
「ちょっと、あなたさっきから聞いていれば、可愛いアルの話を何度も何度も否定して、一体どういうつもりなの!それに貴方!清潔感が足りないんじゃないの?」
「へ?…あの…」
俺は、急な事で一瞬ビックリしたが、いつもの思い込みかと理解し、何とかノエルお姉ちゃんをなだめ、それから一悶着ありながら、別室で待機してもらうようにお願いした。
「マーチンさん、すみません姉が突然。多分姉の勘違いなので、先程の発言は気にされなくて大丈夫ですよ…はは、それに、多分駆け引きの事が良く分からなかっただけだと思いますので。本当に気にしないで下さい。」
さっき別室に連れて行った際に少し話を聞いたけど、やっぱり思い込みぽかったしね。
マーチンさんがハゲ?なのはいいとして、服についてはそれだけいろんな所を駆けずり回っている証拠だとも言えるし、爪の先が黒いのも、捉えようによっては、社長さんが従業員と一緒に仕事をしている証だとも取れる。
「ですから、先程のお話を続けましょう。」
「いえ、申し訳ございませんが、今回のお話はなかったという事で、失礼します。」
そういうと、マーチンさんはスっと立ち上がり、足早に会食をしていたレストランから出て行った。
はぁ、やっと石鹸の製造に取り掛かれると思っていたのになぁ…まぁ、候補は他にもいるしそっちをあたるか。
クソっ!馬鹿なガキがいい感じによく喋っていたというのに、あの女何故気付いた?
変身薬の効果時間はまだ3時間以上残っているはずだ。
それに、清潔感がどうのと言われた時には一瞬良く分からなかったが、あれは恐らく隠語や暗喩の類だ。
清潔感、不潔、不浄、不純それらを暗に示し、後ろ暗い所があるだろうと、弟に気付かれないように俺に忠告したのだ。
なにより、あの目がやばい、瞳には魔力が、呪いが、そして心の強さが表れている。貴族だけの事はあるぜあの女。ちょっと魔力漏れてたしな…それに、あの目は、たとえ死んだとしても絶対に弟を守るという強い意志を語ることなく物語っていた。クソが!
この件に俺が首を突っ込んだのは、貴族が馬鹿みたいにデカい空き地を買い、馬鹿みたいな量の物資を買い漁っている事が商売人の間で話題となっていたのを聞いたのがきっかけだった。
一体何を始めるのかと調べてみると魔石、鉄、鉱石、油、薬品、糸、花、植物の種、肉、魚介、海藻、etc、店でも始められそうな勢いで買い漁っていやがった。
俺が気付いたのは偶然だった。手下が言ったんだ『これだけありゃ、石鹸だって作れそうだ』と。
石鹸は高級品だ。一般人も毎日水浴びをするが、毎日石鹸を使うわけじゃねぇ。使っても3日に1度だけだ。
だから、手下が言うようにもし、石鹸の材料を集めているのだとしたら、あの独占している奴らに言って、いい金が引き出せるかもしれないと思った。
俺は石鹸の材料なんて知らない。
だが、かまを掛ける事はできる。
そして、それはあっさりと成功した。
貴族に石鹸の製造方法がバレたぞと言ってやると、奴ら泡を食ったように喚きやがって、あいつらの焦り様と来たら笑いものだったぜ。
そっから適当に嘘を並べてやったら、あいつら案の定金を出すから調べてくれって、まぁ、俺としちゃそっちが本業だからな、前金で300万ちょろい仕事だと思っていたの・・・
「よぉ!おっさん」
ッ!
何だ、、、この魔力と圧迫感は!警察なんて生易しいもんじゃねぇ!軍人かそれ以上だ。
「ゆっくりこっちを向きな」
誰だ!?まさか!追ってきたのか!?だが、さっきは何事もなく見送ったはずだ。店から誰かが追って来ないかも確認してから移動を始めたのに。何故だ…いや、それより今は何か言葉を返さなくては…
「私に何かようかな?」
そう言って慎重に振り返り、声をかけてきた人物を、そして目を見て、、、俺は諦めた。
なんて目してやがる。
一日に2度もこんな目で見られる事があるなんてな。あのガキがそんなに大事かよ。
「抵抗する気はもうねぇよ。俺が何を言おうがあんた、俺の嘘が分かるんだろう?」
「おお?、聞き分けが良くて結構。そうだな俺は嘘になれっこなんだ。何しろ10年間嘘つきに囲まれて生きてきたからな」
そう言ってこちらを見据えるリザードマンの目には、確固たる意志の強さが表れていた。
「さて、俺達も店を出るとするか。あれ?ねぇ、レイモンド、ラースがいないんだけど?」
「ラースなら経路の確認に行っております。」
作者が名前を憶えやすくする為です。他意はないです。本当です。おすし




