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犬が兄弟になりまして  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬が兄弟になりまして・8


「1週間、待ってもらえますか?」

 と航は言った。

 ふたりを連れた美馬とスタッフは黙って頷いた。


 1週間でペット可のマンションは見つかるのか。

 見つからなかったら、縁がなかったとふたりを諦めるのか。

 というかすっかり引き取る気分でいるが、なぜそんな気持ちになってしまったのか、当の航にすらよくわかっていなかった。

 一応他人には犬に見えてるとはいえ、航にとっては十分デカい成人男性ふたりである。あんなデカい男ふたりを自分の給料で養っていけるのか。養うって、そもそもドッグフードを食べさせるには抵抗があるし、病気になったら獣医なのか普通に人間の病院なのか。

 果たしてあのふたりが人間に見えているのは自分だけなのか。

 さっき美馬とスタッフがふたりを連れて行くとき、通りかかった見ず知らずの女性が「あらかわいい、お散歩でしゅか~?」などと裏声で声をかけていたので多分彼女には犬に見えていたのだろう。

 今のところ圧倒的・犬である。

 今朝の女性や夕べの大将にはどっちに見えていたのであろうか。

 今朝と夕べを思い出し、……犬のような気がする、と結論付けた航であった。


 他人にとっては大型犬とはいえ、一緒に暮らす航にとっては人間サイズの人間である。それなりに広い部屋でないと暮らしづらい。

 それだけでも家賃は今より上がるのに、ペット可ともなるとなかなか探すのが難しい。しかもペット可とあっても『猫のみ』だったり『小型犬のみ』だったりと条件が厳しい。

 会社に近いところは完全に無理だと思ったので、ちょっと離れた郊外まで範囲を広げたがそれでも難しかった。

 まだ処分せずに残してある実家に戻ることも考えたが、通勤時間のことを考えるとやっぱりとんでもないので諦めた。

 実家は切り札だ。本当に本当にほんっとうに打つ手が無くなったときは、住もうと航は覚悟していた。

 実家に住むとなったら朝は早く出なければならないし、夜は遅く帰って来ることになる。ふたりの散歩の時間を確保するために自分の睡眠時間を削らねばならないだろう。てかあいつら自分で散歩できないかな。いや、無理だ。他人さまから見ればきっとただのデカい犬だ。

 航はふるふると首を振りながらため息をついた。

 明日は約束の1週間だった。



「すみません。もう1週間延ばしてもらえませんか?」

 一晩考えた末、航の出した答えだった。

 つまり手放すつもりが無くなっていた。

「ホテル代はちゃんと払いますんで」

 電話で済ませてもよかったのだろうが、無理を言って次の飼い主探しを延ばしてもらっている手前、直接施設に来てお願いするのが筋かなと営業職の癖が出た。

 なにより預かってもらっているふたり、というか2頭の様子を確認したかった。

 未だに航の目にはあいつらが『ふたり』に見えるのか『2頭』に見えるのか。

 ここにいる以上今日こそは犬に見えて欲しいと願いつつ。

「大型犬を飼える物件がなかなか見つからなくて……」

 対応に出たいつもの男性スタッフは一瞬驚いた顔をしたが、次第にニヤつき始めると「ちょっと待ってください」とトランシーバーを取り出した。

「美馬さーん。天道さん来られましたー」

 男性スタッフは「すぐ来ますんで」と言うと、航を残して別の仕事を始めた。

 しばらくすると、小走りで美馬がやって来た。

「お待たせしました天道さん!お引き取りですか!?」

 目をキラキラと輝かせる美馬に圧倒され、航は一歩退いた。

「あ、いえ、すみません。まだ引っ越し先が決まらなくて……」

 露骨に美馬はしょげた。彼女が犬ならあきらかに耳も尻尾も下がっていたであろう。

 もしや犬か!?と航は思い鏡を探したが、あいにく周りに鏡は無かった。

 いや、そんな誰でも彼でも犬なわけないしと航は思い直した。家に来たとき美馬の可愛い姿はちゃんと鏡に映ってたし。

 いや、ホントに!?ともう一度疑いが芽生え、ガラス窓や棚のスチール部分に映った美馬を確認したが、やっぱりちゃんと美馬だった。

「そっかー。楽しみにしてたんですけどね、リクくんとカイくん。今日、お父さんと一緒に帰れること」

「……喋ったんですか?あいつら」

 航の口調が険しくなった。

 犬好き人間にありがちな擬人化なのか、本当にあいつらがヒト化しているのか、今の航には甚だセンシティブな話題だ。

「戻って来たときは全然元気なかったんですけど、もうすぐお父さん迎えに来てくれるよって言ったらだんだん元気になってきて」

「環境に馴れただけじゃないですかね。じゃなかったら言葉わかるヒトですよ、それ」

「やっぱりお父様とお母様が亡くなったの知ってショックだったんでしょうね……」

 それは航もわかる。両親の死を告げたあと、ふたりは無言で航から離れ、振り向きもせず項垂れたまま美馬たちについて行った。

「今も『お父さんが迎えに来たって』って言ったらふたりともすごく喜んでて。もしかしたら亡くなったお父様が迎えに来たと勘違いしてるのかなってちょっとかわいそうになっちゃって」

 美馬が肩を落とす。

 先日のふたりの様子では『死』をきちんと理解できているようだったのでその心配はないと思うのだが、なにせヒトに見えてその実犬なので、すぐ忘れたという可能性も無きにしも非ずだ。

「天道さんのことは『お父さん』じゃなくて『お兄さん』って説明しとくべきだったなあって」

「どうでもいいです」

 被せるように航は言った。

「リクくんとカイくん、今ドッグランにいるんですよ。よかったら一緒に」

 ちょっと冷たい言い方をしても全然気にならないらしい美馬は楽でいいなあと航は思った。

 


 

 

 

 

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