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犬が兄弟になりまして  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬が兄弟になりまして・45


 両親のスマホはリクとカイの写真だらけだった。航が見ればヒトだけど。

 待ち受けもご多分に漏れずリクとカイである。ヒトだけど。

 たしか事故直後、警察から渡されたときにはまだちゃんとゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーだったような気がする。動転していてあまり覚えてないが、犬好きの両親のことだったので気にも留めていなかった。今思えば貴重な犬の姿の写真である。脳裏に焼き付けておきたかった。

 フォルダの中のリクとカイは今と変わらず笑顔である。ヒトだけど。別に子犬の頃の写真も無ければ母犬っぽいものと映っている写真も無い。ただただ延々アイドルの写真集みたいなのがスクロールされる。たまに友達みたいな犬と戯れてたりするが、たぶん航が見たことない犬なので、ちゃんと犬本来の姿で映っている。かわいい。

 旅行にでも行ったのか、たまに風景や建物も映っているのだが、観光地とは思えぬ鬱蒼とした森だったり、大きそうだがだいぶ古くて壊れそうな倉庫っぽい廃墟だったりして、いったいどこにドライブに行ったのやらと航はあきれる。こんな景色、実家の近所に文字通り山ほどあるだろうに。旅行に行ったらもっと記念になりそうなとこ撮ればいいのに。

 フォルダの最初の頃より最後の写真の方がリクもカイも笑っている。

 最初の方の写真は笑ってはいるが、なんとなくおとなしい。ヒトの姿なので余計に分かりやすい。気を使っているような表情をしている。

 枚数を重ねるにつれて砕けてくる。顔いっぱいに笑ったり、走ってブレてたり。画面いっぱいに近づいてたり、父に乗ったり母を抱きしめたり。

 母のスマホには、父の顔にキスしまくるリクの動画があり、父のスマホには、母の顔にキスしまくるカイの動画があった。父も母も笑いながら撮って、笑いながらキスを受け入れていた。

 大問題である。

 見ず知らずの成人男子が自分の両親を襲っている。両親はわーわー言いながらも甘んじて受け入れている。

 大問題である。

 訴えてもいい案件である。証拠として法廷に提出してもいいんではないだろうか。

 提出したら勝てるかなと航は考える。原告の両親は無抵抗かつ喜んでいるので敗訴であろうか。それとも両親は大きなふたりに抵抗できなかったので勝訴であろうか。自分が相手でも両親は無抵抗に喜んでくれたのであろうか。いや、絶対あんなことはやらないけれども。子供の頃もあそこまで全身で愛情表現はしなかったけれども。あれくらいやった方が良かったのか。両親は喜んだのか。いや、絶対引かれるって。なにどうしたのってマジで聞かれるか、頭ぶん殴られるって。それか会社で何かあったんかって、妙に心配されるって。やれねえって、あそこまで。あんなに好き好き露骨に言えねえって。

 航は泣きながら笑っていた。

 笑いが止まらなくなって涙も止まらなくて、鼻水も垂れてきた。

 心配したリクとカイが航のそばに寄って来た。

「どうしたの?」

「なんで泣いてるの?」

 航は笑いながら泣きながら鼻をかんだ。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「どうしたの?何がおかしいの?」

 リクとカイがどんどん詰め寄る。

「大丈夫大丈夫。なんでもないから」

 笑いと涙が止まらない航はふたりを追い払おうとするが、余計にふたりはのしかかって来る。

「悲しいの?どうしたの?」

「なんかあった?面白いの?」

 ふたりはとうとう航を押し倒すと涙を舐め始め、顔中に口づけし始めた。

「しょっぱい」

「しょっぱい」

「わー!やめろー!」

 じたばたしながらも、航は笑いが止まらなかった。


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