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犬が兄弟になりまして  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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35/64

犬が兄弟になりまして・35


 曹操とパーカーを車でドッグランまで連れて行くのかと思ったら、本当に散歩しながらドッグランへ向かうと言うので、航はリク・カイを伴って慌ててついて行った。

 直線距離ではマンションからドッグランが見えるほど近いが、道路自体は緩くて長いカーブの坂道になっている。山沿いの結構な田舎道で人通りも少ないのに、シェパードとドーベルマンを連れているとはいえただでさえ柱国の美人な孫娘が15分もかけて夕暮れの道を歩くって、帰りにはもう真っ暗でしょう!?

 内心では呆れつつ、航は要約して「女性の一人歩きは危ないですよ」と美馬に伝え同行した。

 案の定帰りの道は真っ暗で、通り過ぎる車に航の方が全身で警戒しつつ美馬の車道側に立ち、微力ながら守ろうとした。

 が、美馬の両脇をがっちりと挟む曹操とパーカーに「邪魔だ」とほぼほぼ弾かれていた。

 昼からずっと遊びっぱなしだったリクとカイは長い上り坂に、「疲れた」とすっかり不機嫌になった。

 夕食を済ませたリクとカイは航を待たずに寝室に行き、朝までベッドで折り重なって寝ていた。

 番犬にもならないし、主人のベッドは当然のように取り上げるふたりを見下ろしながら、航は冬のボーナスでマットレスを買うか広めのベッドを買うか悩んでいた。結局その夜もソファーで寝た。



 犬を飼っていると休日の朝でも遅くまで寝ているということはできない。散歩に行こうと起こされるからだ。

 たとえそれがヒトに見える犬であってもその習慣は変わらないらしい。

 朝早くから身体の上にドスンと乗られ、行こう行こうとせがまれる。

 これが可愛い彼女なら多少の重みでも愛おしいものだが……と思いかけ、航は布団から顔を出した。

「おまえら、体重何キロ?」

「たいじゅう?」

 リクとカイは首を傾げる。

 保護施設に体重計あったっけなどと思いながら航は起き上がった。


「リクくんが36キロでカイくんが34キロだね」

「軽っ!」

「重いよ。この犬種にしてはぎりぎりだよ。これ以上増えたらダイエットだからね」

 めっと厳しく言われて3人は「はい!」と姿勢を正した。

 リクとカイの体重を計りたいと航が言うと、譲渡希望で入所したときの記録があると、受付の水口がカルテを見せてくれた。

 ヒトとして見えるリクとカイは航と変わらない体格をしているのでそれ相応の体重だと思っていたが、犬と変わらない体重と聞いて驚いた。体重だけ聞けばもっと食べさせた方がいいんじゃないかと思うが、ヒトとして見ているのは航だけなので、犬として考えて食事も気をつけなければならない。孫に食わせるおばあちゃんでもないし、犬なのに猫っ可愛がりする飼い主でもいけないのだ。と決心しているそばからリクとカイは隣のカフェの入り口で、涎を垂らさんばかりに立ち尽くしている。

 まったく油断も隙もねえと引きとりに行くと、カフェの奥で美馬がひとりの男性と話し込んでいた。いつも笑顔の美馬が、あまりいい顔をしていない。仕事の話かと思い、航はリクとカイの襟首を掴んでドッグランへ行こうとした。

「美馬さんはお仕事。行くぞ」

 しかしリクとカイはびくともしない。それどころか今まで見たこともないような険しい顔で美馬の方を見ていた。

「どうした?」

「おれ、あの人嫌い」

「おれも」

「誰?美馬さんと話してる人?」

 リクとカイは頷いた。今にも唸りだしそうな顔をしている。

「知ってる人なのか?」

 いつにないリクとカイの形相に、航はとりあえずこの場から離れた方がいいと判断した。

 離れてしまうとリクとカイは落ち着きを取り戻した。誰だったのか話を戻しても良かったが、思い出させてもまた嫌な思いをさせるかもしれないと、航は蒸し返すのをやめた。 



 この日はフライングディスクを持って行った。

 当たり前だがリクとカイはボールにしろフライングディスクにしろ、投げたら手で持って帰って来る。

「投げ返していいんだぞ」

 と航が真顔で言うと、

「無茶言うなよ。おれら犬だぜ?」

 とリクとカイも真顔で言う。

 そんなだから犬ってことを忘れるんだよと思いつつ、航はまたフライングディスクを力いっぱい投げるのであった。

 投げ返しては来ないが、持って来ても素直に渡さないことはある。

 受け取ろうとすると手を引っ込める。おい、と奪おうとするとさらに後ろに回す。よこせよ、というと航の後ろに回る。からかうなよ、もう遊んでやらんぞ!と怒るが、リクもカイもへらへら笑ってフライングディスクを持ったまま走って行く。

 はたから見れば大きな犬が飼い主をからかっている姿はさぞかしほほえましく映ることだろうが、航にしてみればデカいただの成人男子ふたりなので、ヤカラに絡まれているようでいささか頭にくる。これがまた全力で追いかけてもなかなか追いつかないので、度が過ぎれば本当に腹が立つのだ。

 とうとう走れなくなりベンチに座って息を整えていると、リクとカイも寄って来た。

 飯抜きだと言いたくても言えず、ただ睨みつけてやると、リクが隣に座り、航を膝枕に寝転んだ。

 先を越されたとでも思ったのかカイはしばらくその姿を眺めていたが、そのまま地面で航の足の甲を枕に寝転んだ。

 蹴散らしてやろうかと思ったが、航はそのままベンチにもたれかかり空を仰ぎ見た。

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