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犬が兄弟になりまして  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬が兄弟になりまして・32


 試しに『ボルゾイ サイゼリヤ ベローチェ』で検索してみると、案の定あの美しい兄弟がヒトの姿で出てきた。そしてサムネに『秋のBBQボルゾイオフ会!持ち寄りマツタケ品評会!』と銘打たれた動画には、たぶん昨日見かけたのであろうゴージャスな舞踏会の面々もちらほら映っている。だが中にはちゃんと犬のボルゾイもいて、たぶんこの子たちは昨日来てなかったのだろうなと航は思った。

 どうも一度直にあったことのある犬は、写真で撮っても動画で撮ってもその後はずっとヒトの姿で見えてしまうらしい、と航は結論付けた。

 だが会ったことのない犬ならば、本で見てもテレビで見ても、まだ犬として見られるわけなのだ。

 哀しいことに一度出会ってしまえばもう二度と犬としてのあの可愛らしい姿を見ることはできない。見ることどころか、何をどう逆立ちしても、会ってしまえばあのふわふわの愛おしい姿を抱きしめることは二度とできないのだ。

 だがしかし。会いさえしなければ。直に会いさえしなければ、まだ犬を犬として見るチャンスはあるのだ。

 それだけでもいい。

 もう二度と犬を犬として見られぬと覚悟し落胆した日から比べれば、今日のなんと幸せなことよ。

 航は少しだけ明るく開けた未来に感謝した。

 それにしてもと航は思った。『マツタケ品評会』って。犬の勉強会はどうした。

 動画の中でマツタケに興味深々の犬とか航にだけヒトに見えている犬たちに、食べちゃダメだよと声をかけながらおおかた下品なことでも言ったのであろうちょいワル紳士が、奥さんらしき人に蹴とばされていた。


 今どきの人間なので航も新聞はネットで読む。しかし食い扶持がふたりも増えたこと、引っ越ししたことなどを踏まえてやっぱり解約するかと思わなくもない。

 紙の新聞をなぜか未だに会社が契約しているので、読みたくなったら会社に読みに行けばいい。一応社会人として知っておくべき浅ーい社会情勢なら、ネットニュースやテレビでなんとかなるのではないかとうすうす感じている。

 解約するとしたら今月末かな~などと考えながらネットニュースをスクロールしていると、なんとなく指が止まった。

 ふだんなら全く気にもならない、ある政治家が女性蔑視的な発言をしたというもの。そんな軽はずみな言動でよく炎上する政治家だ。

 航はタップし、記事を読んだ。上から目線で女性大臣を評価し、なおかつ女はそんなに外で頑張らなくても家守ってりゃいいんじゃないの結婚してない女は大変だねえなどと火柱に注ぐガソリンが止まらないらしい。

 今どき困ったジジイだねえ、奥さんも大変だこりゃなどと航は思いつつ、貼り付けてあったニュース動画を再生した。

 そして止めた。

 いったん動画を止め、航も止まった。

 じっと静止画を見、航は考える。

 他人の空似かな?

 もう一度画面をタップし、動画を回す。

「仕事ができる女性はね、家の中のことも上手にできるんですよ。むしろ家庭の方が国よりうまく守れるんじゃないかな。おうちの中で犬でも可愛がりながらさ」

 あっはっはじゃねーよ!苗字違うから全然わかんなかったわ!

 航はカウンターで紙袋を貰うと急いで残ったポテトとハンバーガーを詰め込み、車に飛び乗った。そして保護施設へと乗り込む。

 怒りと恐れで目は吊り上がってるが顔色は土気色をした航に受付のいつものスタッフは驚いた。

「天道さん、どうしたの。仕事は?」

「これ!」

 さっき見ていたニュース画面をスマホで見せると、スタッフはにやりと笑った。

「あいかわらずすごいよねえ、美馬さんのおじいちゃん。根は悪い人じゃないんだけどね。反省ってものを知らないよねえ」

「これ……これ……」

 スマホを指さしながらたちまち顔色が白くなる航を無視して、スタッフはため息をつく。

「古い価値観の人だから仕方ないのかもしれないけど、ああいう商売だからアップデートはしないとねえ、社会にも世界にも取り残されるのにねえ。なんか考えがあるのかなとか、かえって勘ぐっちゃうよねえ」

 航は鯉のようにパクパクするだけで、もはや声さえ出ていない。

「あ。美馬さんには振らないでねその話。もう知ってるから。ものすっごく機嫌悪いから。とばっちり受けたくなかったら知らないふりしなね」

 いよいよ冷や汗まで出てきた航を、仕事の途中でしょ?大丈夫?運転できる?無理そうだね、ちょっと休んでく?カフェ、今誰もいないから座って休んでいきなよ、昼ハンバーガーだったの?食べていいよ。ホントはここ持ち込み禁止なんだからね。特別だよ、内緒だよ。などとスタッフは気遣い、奥の席へ連れて行った。

 休日よりヒトの少ないドッグランを航は口を開けたまま眺めた。

 ベンチに座るブルクや、穴を掘る少年たちや、若い娘の後をついて回ってるおじさんやら、前見たときと変わらない。

 そんな中、珍しく曹操とパーカーがいた。

 隅っこに姿勢よく佇み存在感を消しつつも、まるで皆を見守っているかのようである。

 航はふと思い出した。ふたりがおじいちゃんに言っていた言葉。

 検索して、頭を抱えた。





 

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