犬が兄弟になりまして・18
ふわふわした美馬のイメージから勝手に白が基調の家具を想像していた航だったが、ナチュラル系のインテリアだった。テーブルもソファーも素朴というか、割とがっしりしたデザインである。ご両親の好みなのかなと思いつつ、案内された食卓に着くと、膳はふたつしか用意されてなかった。
「手巻き寿司でーす。いっぱい巻いていっぱい食べてくださいね」
美馬はいそいそとすし桶に入った酢飯やら具材やらテーブルの上に並べ始めた。
航は急いで立ち上がり、美馬の後をついてほかに並べるものはないかと受け取る。
「あの、美馬さん。ご家族の皆さんは……?」
「はい。リクくんとカイくんのも用意したら連れて来ますね」
そして犬用のものらしい深めの四つの器に茹でた肉や野菜、そして手巻き寿司と同じ具材の刺身や卵を乗せると、奥の部屋へ行った。
「パーカー、おいでー。お客様がいらしてるよー」
パーカー?
予想だにしなかった語感の名前に、美馬のご両親は国際結婚なのかと航は納得する。通りで浮世離れした言動が多いはずだと。航の妙な偏見である。そして弟さんかなお兄さんかなと考える。名前で呼んだのでお父上ではなかろうと航は思ったが、砕けた口調に弟さんかなと予想する。
そして現れた『パーカー』にまたしても航の口はあんぐりと開きっぱなしになってしまった。
黒い三揃えのスーツに黒いマント。すらりと背が高く、モデルかドラキュラに見紛うごとき美しさである。
まさかの婚約者!?いや、旦那!?
あり得ない話ではない。むしろ何故今まで美馬のことを独身だと思っていたのか。航はなんだかんだ期待していたかも知れない自分の秘めた内心に唖然とした。
そんな航の葛藤なぞ知る由もないその男は右手を胸に当てかしずくと、恭しく言った。
「初めまして。ようこそいらっしゃいました。執事のパーカーです」
「しつじ!?」
航の声は裏返った。
美馬は笑った。
「やーだー、天童さん。羊じゃないですよお。どう見てもドーベルマンですよ〜。もー、面白いです〜、天童さん」
「どーべるまん!?」
またしても航は叫んだ。
美馬はケラケラと腹を抱えて笑っている。
ドーベルマン!?
航はもう一度心の中で叫んで、自称・執事のパーカーを見た。
パーカーは柔和な微笑みを絶やさず航を見ている。
執事のドーベルマンのパーカー。
心の中で呟きながら航は振り返り、テーブルの横にリク、カイと共に姿勢よく立っているソウソウを見た。
そしてまた呟く。
護衛のジャーマンシェパードのソウソウ。
まだちゃんとした人間の家族を見ていない。今から紹介されても人間とは素直に信じられないかも知れない。航は不安になった。
そんな航の内心を知ってか知らずか、笑いの収まってきた美馬が涙を拭きながら言った。
「紹介しますね。私の家族です」
そしてソウソウを呼ぶと、ふたりを両脇に抱えて言った。
「私の大事な家族たちです。よろしくお願いします」
どうやら家族はこれで全員らしい。
犬なのか人間なのか疑わしい家族はいないらしい。
とりあえず人間はいないらしい。
全部犬らしい。
よかった。
よかったのか?
結局芋焼酎を喜んでくれそうなご家族はいなさそうだし、なにより美馬とふたりきり。
……よかったのか?
何故よかったと思ってるのか?
航は首を傾げた。




