STORIES 082: 藍より青く
STORIES 082
大学4年生の僕は、少し苦戦しながら就職活動をしていた。
大学も学部も、ブランドとしては強くはない。
現役で合格できたところは中堅の1ヶ所だけ。
まずは早く家を出たかった。
なりたいものをみつけるために進学したけれど、これといって将来のビジョンが思い浮かばず…
漫然と日々の日課をこなすだけの毎日。
そんな中でみつけた、生きてゆく道の先に見えたもの。
アルバイトしながら感じていた、手応えのようなもの。
まだボヤーっとしていたけれど…
お客さんと話すことを生業にしてみよう。
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そこからはアパレルに絞って探した。
ファッション業界に向けて勉強してきたわけではないけれど、ショップで働く姿が明確なイメージとして胸の内にあった。
ただ、僕には1つハンデがある。
色覚検査…
小さくてカラフルな丸がたくさん並んでいて、「2」とか「8」とか、数字をかたどったものが配置されているカード。
あの検査でわかることって、けっこう残酷だったりするのだけれど、知らない人も多い。
大多数の人が「2」と答えるのに、「5」が見える。
あるいは、そこにあるべき数字が見つからない。
僕もそうだった。
リンゴは赤く見えるし、海も空も青い。
初夏の木々は緑の葉が茂り、信号機の3色の違いもわかる。
でも確実にマイノリティであり、遺伝的な原因だから治ることはない。
言われてみれば、赤いボールペンの細い文字が黒く見えることはよくあるし…
多色刷りの分布地図なんかは、うまく判別できない色もいくつかあった。
僕は「色弱」という判定をされてきた。
履歴書には事実をハッキリと書いた。
後になって健康診断で落とされるのが嫌だったから。
95%は通ると言われた書類審査で、落とされたこともあった。
目指していたのは販売員だけど、アパレルの正社員だもんね。
プラスの要因とはなり得ない。
それでも、その業界にこだわった。
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なかなか就職先が決まらず、夏が近づく。
ある日、企業訪問を終えて帰る時間に…
彼女と外で待ち合わせることになった。
特に向かう先があった訳じゃない。
ただの気分転換。
慣れないネクタイを緩めながら電話をすると…
迎えに行くよ、と彼女が言った。
山手線の目黒駅のホーム、15:30。
前夜から泊まりに来ていた彼女は、僕のブルージーンズを履いて現れた。
借りちゃった。
パァッと明るく笑う彼女。
少し疲れていた僕もつられて笑う。
サイズが合うものかね、メンズなのに。
僕のジーンズは、鮮やかなインディゴブルー。
色を気に入って買ったものだ。
そう、僕には好きな色がたくさんある。
元気が出た。
やがて内定も出るだろう。