表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

sao = Die Morgendammerung 6 (ディエ モルゲンデンメルング/黎明)


トリファ

ではこの度、ドイツ古代遺産継承局、ウォルフラム・フォン・ジーバス局長の名代として参られたあなたに、件の物をお渡しします


トリファ

東方正教会、第十七管区司祭、ヴァレリアン・トリファ


トリファ

あなたとあなたの行く道に、幸と祝福のあらん事を、、、エイメン


ルサルカ

エイメン



聖堂の中、荘重な声に合わして礼拝する女は、次の瞬間小刻みに肩を震わせ、笑い始めた



ルサルカ

うふ、うふふふ、あははははははは


ルサルカ

いや、いやいや、ごめんなさい、どうにもわたし、駄目なのよねこういうの


ルサルカ

なんだかこう、神妙な顔でまってると可笑しくなっちゃうっていうか、お葬式とかそういう時、思わず笑っちゃう癖があるのよ〜



不謹慎を絵に描いたような表情で、ケラケラと愉快げに喉を鳴らす

肉感的な肢体に露出の多い衣装も合わさって、もはや冒涜的と言えるほどの態度だった



ルサルカ

あー、でも、ありがとうね〜神父様、無理言って、こんな大事な物をお譲りいただいちゃうなんてさ〜


トリファ

いえ、以前ならばいざ知らず、今のアーネンエルベ局はSSに吸収されたわけですから、、、ひいてはそれが国家のためとなるのでしたら、我々としてもお断りする理由はありません



応じる神父は、女の不敬を取り立てて咎めなかった

よく言えば清貧な聖者さながら、悪く言えば単に風采のあがらない容貌の男であり、厳格さとは縁遠い

聞き役としては最上だろうが、他者に何かを促すには些か以上に弱く感じる

気力が削げ落ちたような印象の男だった

神父の力ない微笑を横目にしながら、女は手の中の小瓶を弄びつつ問いを投げる



ルサルカ

んー、そんなもん?、、、でもこれ、貰っといて悪いけど、本当に本物なのかな?



トリファ

おそらくは、、、コンスタンチノープルの僧院に代々隠匿されてきた秘宝だと伺っております


トリファ

ヴラド・ドラクル公、、、、、その人の血液、すでに結晶化した粉ではありますがね


ルサルカ

闇の賜物、、、、カズィクル・ベイか、、、、じゃあ、これを飲んだら、吸血鬼になれるのかしらね?、、、、どう思う?


トリファ

さて、それは分かりません


トリファ

ですがなんにせよ、我々がこれを持っているとローマに知れたら、十字軍(クルセイド)が発動しかねない代物です


トリファ

正直申しまして、個人的には厄介払いができたと思っていますよ


ルサルカ

そう、ら、、じゃあ遠慮なくいただくわね、私もヴァチカンは嫌いだけど、いくらあの連中が野蛮だからって、今のドイツにはおいそれと手を出せないでしょうし〜



何せ今や時勢が時勢だ。形式上ヴァチカンは独立国だが、地政的にイタリアとの関係を無視できない

そしてイタリアは、近くドイツと同盟を結ぶだろうと言われている

であれば、いかに彼らの信仰を脅かす涜神的な遺物であっても、それが今や国家機関と化したアーネンエルべ局にある以上、迂闊な真似はできない

その事実が愉快で堪らないのだろうか、女はにやにやと邪に笑っていた

まるでローマに恨みを持つ"魔女"のように



ルサルカ

ねえ神父様、なんだかとっても気分がいいわ〜、せっかくですから、今夜はこのまま、わたしと一緒に夜のお散歩にでも出かけませんこと?


トリファ

いえ、、、私は、、、


ルサルカ

正直、あなたにはちょっとだけ興味があるの、上手くは言えないけど、なんだかこう、、、、、



言葉尻を浮かしたまま神父を見つめ、次の瞬間




"美味しそうだし"




奇妙に空けられた間の中に、神父は何を感じたのだろう



トリファ

、、、、、、、、



胸を押さえて眉を顰め、額に脂汗を滲ませている

その様を見て、女はわざとらしいほど大袈裟に驚いてみせた



ルサルカ

あら、どうしたのかしら神父様、お顔の色が優れないみたいだけど


トリファ

なんでもありません、どうかお気になさらずに


ルサルカ

ふーん、そう、なるほどねえ〜


トリファ

、、、、何か?


ルサルカ

いえ、そういえば、以前に興味深い噂を聞いたことがあったなあっと思ってね


ルサルカ

なんでも、ルーマニアか何処かの田舎に、神の声を聞ける神父様がいらしゃったとか


ルサルカ

噂じゃその方、こういう呪いだか、信仰だか分からないような思念が纏わりついた遺物、、、、その探索がすこぶるお上手だったみたいで


ルサルカ

察するに、今風に言えばサイコメトラー、それともテレパシストってやつかしらね〜、つまるところ、人や物の記憶と思考が、見える、読める、聞こえてくる


ルサルカ

羨ましいわ〜、わたしもこんな仕事をしているとね、その手の高性能レーダーが欲しくなるわよ〜


ルサルカ

ねえ神父様、あなたの知人に、そういう方はいらっしゃいません?



内面を覗きこんでくるような女の視線から目を逸らし、神父は首を横に振った



トリファ

、、、、、さて、どうですかね


トリファ

私も神に仕えて長いですが、凡夫ゆえに、未だ奇跡の一端を垣間見る事も出来ません


トリファ

それにお話を聞く限り、それはそう素晴らしいものでもないでしょう


ルサルカ

まあねえ〜


ルサルカ

よくありがちな喩えだけど、自分の周囲縦横に、止められないテレビとラジオがひしめいている状況かもしれないし


ルサルカ

いつもそうだと、夜も満足に眠れそうにないからね〜


ルサルカ

神父様も、目の下に凄い隈が出来ていらっしゃることですし


トリファ

、、、、、、、、


ルサルカ

でも、その人は幸運よ〜


ルサルカ

一昔前なら問答無用で火刑台に直行していたような身が、今の時代に生まれたお陰で助かっている


ルサルカ

そう考えると、彼はこの時代に何らかの存在理由を持って生まれたのかもしれないわね


トリファ

ほう、例えば?


ルサルカ

他人に同調しやすいということは、他人になれるかもしれないっていう事よ


ルサルカ

彼がその力を忌み嫌っているとして、彼の力を心底欲しがっている人がいるとして、、、利害の一致が成されれば、交換できる可能性は無きにしもあらず


トリファ

交換?


ルサルカ

分かりやすく言えば、脳外科移植よ


ルサルカ

まあ、今の医学じゃ無理だけど


ルサルカ

脳の回路が、変な方向に繋がっている結果として雑音に苛まれるなら、別人の頭に換える事でそれは消える、、、、いいえ


ルサルカ

いっそのこと、魂そのものを抜き出して、身体丸ごと別人のものに宿るとか、、、、、、うふふ、まるで御伽話ね〜


トリファ

ええ、、、雲を掴むような話です


ルサルカ

まあ、最後のは冗談よ〜、わたしもこんなオカルト臭い仕事をしている身だけれど、そんなデタラメが出来る人も、それを可能にする方法も、まるで聞いた事がないんだから〜


トリファ

文字通り、絵空事ですか


ルサルカ

そう、、、、ところで、ねえ〜神父様、結局最初のお話に戻るんだけれど



先ほどまでの、どこか底知れない隠秘さは消え去って、まるで少女のような明るい笑みで女は神父のほうへ振り返った

その変わり身に、トリファは苦笑が漏れる

何を考えているのかは、彼ならずとも一目瞭然というものだろう



トリファ

夜のお散歩、、、ですか?


ルサルカ

ええ、付き合ってくださらない?


トリファ

、、、、、、、


トリファ

分かりました、断ると、何か根も葉もない噂を流されそうな気がしますので


ルサルカ

あはは、やーねー、そんな事、するに決まってるじゃない〜!



言って、女は身を翻すと礼拝堂の外に出る

開いた扉の向こうには、クリスマスのベルリンが広がっていた



ルサルカ

さあ、ほら行きましょ、神父様、今夜は星が綺麗だわ!



トリファ

ええ、本当に、、、吸い込まれそうな夜空です



続いて戸外に出た神父もまた、空を見上げて感嘆とも憂いともつかない声を漏らす



トリファ

私はね、思うのですよ


トリファ

この空も、この星も、世界を余さず包んでいるのに、なぜ人は争わずにいられないのかと、、、、、


トリファ

もし叶うのなら、"この戦争を人類最後"のものにしたいと、、、、、そう願うのは、滑稽ですかね?


ルサルカ

さあ?、、、でも、あなたの望みを叶える方法があるとするなら、きっと一つね



それはいったい、と目で問う神父に、女は悪戯っぽく笑いながら、しかしぞっとするほど醒めた声でこう告げた



ルサルカ

"この戦争が、永遠に終わらなければいい"、、、、、、そういう事よ、神父様





そうして

帝都に散らばる星々は、今宵、運命の邂逅(かいこう)を果たす

意識せずとも、抗おうとも、それは定められたうねりに沿って導かれ

今宵、この時、この場所で、出会う事は一つの必然

よって、、、、、





ベアトリス

中尉、中尉待ってください。走るの早いです。メチャクチャです!!!


エレオノーレ

甘ったれるなキルヒアイゼン、、、貴様、民間人より足が遅いとはどう言う事だ


リザ

しょうがないでしょ、だってあの子じゃ、、、、


ベアトリス

歩幅がっ、歩幅が違うんですよぉ、だって二人とも背が高ぇぇっ!!!





ルサルカ

ふん、ふふん、ふん、ふん、ふ~ん♪


ルサルカ

ねえねえ、ほら見て神父様、こうしているとわたしって、ドヴォルザークの歌劇に出てくる、妖精みたいに見えません?


トリファ

とりあえず、妙齢の女性が噴水の中ではしゃぐような真似はお止めなさい、、、みっともないですよ




真実、今この時こそが、私にとっての転換期となるだろう

なぜなら、、、、、




ラインハルト

ここにいたか、道化師が、、、、随分とまた、手の込んだうえにふざけた呼び出しをかけてくれたな



"彼"と、"彼が率いる事になろう軍団(レギオン)"、、、、、その始まりが、今なのだから、、、、



カール

やあ、ようこそお出でくださいました、ハイドリヒ中将閣下、、、、席はすでに取ってあります、、、、共に観覧いたしましょう


ラインハルト

、、、、なに?



そう、、、、ではこれより、、、、、




ヴィルヘルム、シュライバー

うりゃああああああああああああっ!!



突如として、激しい、争いの光景が目の前に開かれている



ラインハルト

ぬっ?


ベアトリス

ええっ?


リザ

ちょっと


エレオノーレ

これは、、、、、


トリファ

なんともまた


ルサルカ

おかしなことになってるじゃなぁい





今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう




続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ