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sao = Die Morgendammerung 4 (ディエ モルゲンデンメルング/黎明)


ラインハルト・ハイドリヒは自身が所有する部屋でとある者からの手紙を読んでいた

その名はカール・エルンスト・クラフトである



カール

つまり、先のディルレワンガー将軍に関する醜聞を揉み消そうというあなたの意図、及び立場は重々承知しておりますが、その上で一言いわせていただきたい。あたら部下を死地に追いやるのはいかがなものかと

あなたが私の預言、占いを信じておらぬは百も承知のことなれど、親愛なる中将閣下がこのような些事にかかずらうのは見ておれぬと思ったゆえ、勝手ながらご注進したく、こうして手紙などをしたためた次第


大恩あるラインハルト・ハイドリヒ殿、私はあなたの栄光と未来を言じております

よって、その御威光とお名前に万が一にも傷がつかぬよう、件の殺人鬼とやら、なんとなればこの身をもって捕らえることも辞さぬ覚悟-どうかその旨、平にご容赦くださいますようお願いしたく、、、、、



ラインハルト

愚か者が!、、、、



手紙を掌中で握り潰し、ラインハルト・ハイドリヒは席を立った

胸に不快感は渦巻いているが、その表情は小揺るぎもしていない

唐突に立ち上がって歩き出した上官を前に、傍らの部下が慌てた様子で追従してきた



部下

、、、、、っ!、これは閣下、いかがなされました、このような時刻に、、、、


ラインハルト

出る、車を用意しろ


部下

はっ!、ですがどちらへ?


ラインハルト

ゲッベルス宰相に会う、、、部下の手綱も握れんのか、あの男は、、、


部下 

っ!、、、お、お待ちください、宰相殿は今夜、総統閣下の共としてオペラ座へ、、、、


またぞろいつものニーベルングか、、、くだらん、いい加減に飽きるという事を知らんらしいな、、、、、度し難い


部下

閣下、お待ちください、、閣下!



なぜこれほどまでに苛立つのか

自分自身理解できずにラインハルトは歩を進める

背後に追い縋る部下の声を黙殺し、庁舎を出ると待ち構えていた車のドアを開いてシートに深く腰を下ろした

捨て置いてはきたものの、彼の部下は上官の命を忠実に守ったらしい

個人の気持ちはどうであれ、言われた事はやる

言われた事しか出来ぬ、なるほど、自分のような男に似合いの部下だと、そんな感慨を心の片隅で嘲いながら



ラインハルト

出せ


部下

は、どちらへ?


ラインハルト

国立歌劇場、、、いや、此度の反逆者を捕らえようと出た者らは何処だ?


部下

それでありましたら、ベルリン大聖堂の近辺か


ラインハルト

ではそこへ行け


部下

し、しかし閣下、それは、、、、


ラインハルト

なんだ?


部下

い、いえ、了解であります


ラインハルト

急げよ


部下

はっ!



短く、有無を言わせぬやり取りで運転手に命じたラインハルトは、動き出した車の中で、流れ行く帝都の夜を眺めながら独りごちた



ラインハルト

、、、、、馬鹿め、あの男、いったい何を考えている



その名はカール・クラフト

一月ほど前に知り合った奇怪な詐欺師、魔術師

不遜な男

脳裏に浮かぶその顔は常に薄笑みを浮かべていて、何もかも知っていると言わんばかりの態度を崩さぬから気に入らない


あの男に関わると、"自分が自分でなくなるような焦燥を覚える"

それは恐怖のようでいて、しかし違うと断言できた

もっと別の感覚なのだと朧げながら分かっているが、では何かと言われれば言葉に出来ない

今まで己の人生で、感じた事のないような心理

それを自分は知りたがっているのだろうか

それともそんなものは錯覚だと、一蹴したいだけなのか

懊悩(おうのう)に答えは出ず、苛立ちだけが増していく

ゆえに今もこのような、目先の職務を放り投げておよそどうでもよいはずの些事に顔を出そうとしている

まったくもってらしくない

だがしかし、自分らしいとはどういうことか

分別を弁えず、自己と世界の関わりに明確な形を見出せない小児

のごとき愚挙愚考

いっそ腹を抱えて己自身を嘲笑えたら痛快だろうが、表情筋は鍋鉄のように固まったまま動かない

もとより正しく笑ったことなど、一度もないような身であるから

ふと手元に目を落としたラインハルトは、握り潰したまま持ち歩いていた手紙に気付き、再び開いて目を通す

そこに並べられた活字の列から、あの男の声が聞こえてくるようだった



カール

そも、先のポーランド侵攻により戦端が開かれて以来、帝都には複数の凶星が集いつつあります、これは東洋において羅、計都と呼ばれ、蝕を起こし日と月を飲み込む災厄の星、、、、、此度の件、なかでも強力な一星が深く関わっておりますれば、並みの者では歯が立ちますまい


カール

閣下の星は王者のそれゆえ、下の者を使うことこそ本分でありましょう。ですが人材を間違えてはいけません。凶なる相手にはしかるべき部下を。破軍の星を有する者らが、この件に関わらんとしておりますので、彼女らを使ってみるのがよろしいかと存じます



ラインハルト

、、、、、、



その内容に、疑念を抱く



ラインハルト

彼女?、、、私の部下に女はおらぬが、、、、



そして、ラインハルトは手紙を読み続けた



カール

加えて、蠍の大火星、および黄道の第四星、これらとの縁もある模様

特に後者は、この先あなたにとってなくてはならぬ影の星ゆえ、努お見逃しなきように

親愛なる中将閣下、"御身を苛む飢えと乾き"、一刻も早くその正体にあなた自身が気付かれますよう、お祈り申し上げておきます

そして願わくは、その目覚めが私にとっても福音となるように。


恐々謹言(きょうきょうきんげん)

        カール・エルンスト・クラフト



追伸一今あなたは、この手紙の冒頭のみを読んで、憤慨しつつ車中にあるのではないですかな?

ご心配なく

あなたがここに来られるまで、私は陰に隠れております

凶星との対峙など、恐ろしくてとてもとても、、、、、、



ラインハルト

くっ、、、、、



謀られていた事に今さらながら気が付いて、再度手紙を握り潰す。まったく、こんな様で何が帝都の首切り人か



ラインハルト

とぼけた男だ、どこまでも私を騙ってくれる


部下

は?何か仰いましたか、閣下


ラインハルト

いや、なんでもない、、、、、、不遜な詐欺師が、なかなか笑わせてくれると思っただけだ、、、、、、、あの男、いっそ道化師にでもなればよいものを


部下

はあ?


ラインハルト

余所見をするな、早く目的の場所へ連れて行け


部下

も、申し訳ありません!


ラインハルト

ふっ、、、、、、



もしくは、己こそがただの道化か

少なくともあの(カール・エルンスト・クラフト)を笑わせてはいるのだろうから、その素質はあるのかもしれない

不本意だし、不愉快だが、事実はそのようになっている

沈思するよう首を傾げ、車窓に目をやるラインハルト

帝都を包む夜の静寂に、降り注ぐような星空が広がっている

凶星その他、数多の星が集うと言う

それの真偽、実体、諸々皆目不明だが、無聊(ぶりょう)の慰めにはなるかもしれない

己の中の飢えとやら、そんなものがもし本当にあるというなら



"よいだろう、私に見せてみるがいい"


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