sao = Die Morgendammerung 2 (ディエ モルゲンデンメルング/黎明)
カール
ゲッベルス卿の決定すら、場合によっては覆す、いや、それだけではない、ゲシュタポの長であるあなたがその気になれば、総統閣下御本人すら容易に追い込み、破滅させることができるだろう
カール
その若さで、それだけの地位と権力、才気を有し、世界に覇を唱える帝国の暗部を掌握した黒太子、、
、、、男子たらば、皆があなたのようになりたかろう
カール
"髑髏を背負った貴公子殿"は、しかしなぜか、つまらぬ遊びに落胆した幼子のように鬱屈しているご様子だ
ラインハルト
、、、、、、、、、
だが、その言葉に驚かなかったと言えば嘘になろう
胸の内を当てられた事ではない
他者に生じている感想を、本人すら形容できなかった感覚に、そうであると断定できたことが、ただ、、、、、
カール
気になる、、、あなたは興味深い、、、、
牢から出る、けれど魔術師の声は止まらない
朗々と、訥々と、淡々と、感情をこめて、けれど不意に、されど絶対だと、天上の世界まで歌い上げる楽師のように
詐欺師の声は歌う
得体の知れない怪物へと、人の皮を捨て一枚一枚脱皮するかのように、、、、ゆっくりと
カール
その渇き、飢餓の心、何処から来て何処へ行く?、、、、あなたは何を求めて惑っている?
世迷い事だと、そう切り捨てるべき言葉が毒となり染み通る
にたりと、微笑しながらかけられたのは端的な問いで、当然、私は個人としても立場としても、それに答える義理もなく
ラインハルト
、、訊いているのは、私のほうだったはずだがな、、、、それにそもそも、卿の命は、、、、、
カール
どうでも良い、、、あなたはそう仰ったが、それはこちらも同じなのだよ
カール
死ぬも生きるも、私に選択などという概念は意味を成さない、この国には狂気が渦巻いていたゆえ、戯れで一石投じたまでの事、、、、
カール
そして、どうやら無駄ではなかったらしい、、、、、なかなか面白い人物と出会えたものだよ
カール
いや、"またしても"と言うべきで、本来なら失望するべき事態なのだが
言いながら、私を見る目、そこに宿った感情は明白で、しかしそれだけに理解し難い異常だった
カール
不思議だな、、、、私はあなたと再びこうしてまみえた事に、なぜか安堵をしているらしい、、、、、非常に珍しく、稀有な事だ
"懐かしいと"
この男は、今このときに郷愁めいた想いを抱いている、どこまでも意味不明でありながら、そこに込められた奇妙なまでの真摯さに、少なからず圧倒された
結局私に出来た事は、ごく当たり前な反駁でしかなく
ラインハルト
何を言っている?、、、私と卿は初対面だ
カール
ああ、そう、確かに仰る通り、、、、詐欺師風情の世迷い言に、惑わされる御方でもありますまい
カール
件の事、了承しましょう、ノストラダムスになれと言うなら喜んで、、、、、、、、事実あれも、また"私"だ
ラインハルト
、、、、、、、
カール
どうされました?、、、、こうして檻から出たのですから、ゲッベルス卿なりヒムラー卿なり、好きな所へ連れて行かれるがよろしい
肩をすくめて笑う男は、最初の印象と同じく現実味の薄い映像のような感がある
押し寄せてくる違和感の悉くを無視したまま、胸に蟠っていた言葉を吐き出す
ラインハルト
卿は、、、、、、卿は、詐欺師などではないな
カール
ほう、ではなんと?
ラインハルト
誇大妄想狂だ、さぞかし世の中が楽しかろうよ
つまりこの男の一挙一動、まともに取り合うべきではないという事、今さらながらそう結論付け、踵を返した
ラインハルト
ともあれ、ついてくるがいい、不遜な男だが、並みの奇矯者でないのもよく分かった、それだけ頭と口がよく回れば、狗でもなんでもやりおおすだろう
そして私は、私の務めを果たすのみだと弁えている
ゆえ、続く言葉は決まっていた
ラインハルト
ただし、肝に銘じておけよ
ラインハルト
卿が国家に害を成すと判断すれば、たとえ総統閣下が何を言おうとその首を胴から飛ばす
ラインハルト
私はな、嘘と出来ぬ事は言わぬ性質だ
カール
覚えておきましょう、ご忠告、痛み入る
カール
そして中将殿、あなたはこの国を愛しておられる御様子だが
ラインハルト
それがなんだ?、ゲシュタポは帝国の番兵であり、私はそれを指揮する者、国を慈しまなければやれるまい
カール
ふむ、いやなるほど、あなたの病理はどうもその辺りにありそうだ
カール
文武、容姿、すべてに秀で、強固な意志をも持っておられる、さぞかし世の御婦人方に騒がれているとお見受けするが、ご内儀も大変でしょうな
ラインハルト
くだらん事を、、、、、、"女はしょせん駄菓子にすぎん"
ラインハルト
欲しい時に幾らでも転がっている物の一つ一つになど、私はいちいち拘らん
カール
それはそれは、羨ましい
慇懃無礼な社交辞令に鼻を鳴らす。追従など聞き飽きている身であったが、それでもこの男に羨ましがられるというのは、言い難い奇妙さがあった
ラインハルト
卿はどうだ?、、、、その性格に、好きこのんで付き合える女がいるとは思えんが
カール
確かに、、、ご明察どおりそうですが、私はたった一人をこちらから追いかけるのが好きでしてね
カール
ただ、そう易々と逢える相手ではありませんので、拝顔の栄に浴するためにも、色々と骨を折るのが最近の趣味になっております
ラインハルト
そうか、、、、理解できんし、その女に同情する
ラインハルト
卿のような男に見初められ、付き纏われては人生の破滅だろう
ラインハルト
人の趣味にはとやかく言わんが、変質的な恋情もほどほどにしておけよ
ラインハルト
軍属が起こすそういった醜間も、私の職務対象になる
カール
心得ました、重ねて、ご忠告痛み入る
カール
さて、なにやら年甲斐もなく胸が躍って参りますな、まったくこの国は面白い
カール
なにせ、最初に知り合った御仁からして大当たりだ、他にはいったいどんな者が、どれくらい、どこに隠れているのやら
カール
ああ、それを探るだけでも、しばらく退屈せずにすみそうです
カール
おそらくは軍の未端、ないし、それですらない最下層の貧民棄民、、、、あるいは、この世界ではなく異空間のような作られし世界(仮想世界)
カール
髑髏の底辺には、さぞかし歪な者らが集まっている事でしょう
カール
今後、もしそうした者らを捕らえた場合、よければ是非御一報願いたい
まるでそのような者らがいるのは必然で、私がそれに関わる事も必然であるかのような言い草だが、さして否定する事でもない
現在の国情と私の立場を鑑みれば、確かに率は高かろう
早くも預言者の真似事というわけか、、、、、、、まあよい、、、それにしても、、、
"異空間のような作られし世界"か、、、、さすがは誇大妄想を謡し預言者だな
もし、そのような非現実的な世界があるのなら、見てみたいものだな
ラインハルト
考えておこう、卿の口舌に付き合わされるのは、ある種の拷問に相当する、殺意が湧くほど恨まれる事になろうが、どうせ卿はそんな事など気にもするまい
言い捨てて、獄舎を出る
あとはこの男を宜伝省に護送すれば務めは終わりだ
これがゲッベルスの手に負えるかどうかなど知った事ではない
ラインハルト
では行くぞ、宰相殿は勘気なうえに狭量だ、今の調子で図に乗っていると、早晩ここに送り返される羽目になる
カール
それはそれで、私としても特に不満はないのですがね
ラインハルト
だから、その軽口を慎むべきだと言っているのだ
そして、目の前にある車に乗り込む
そして、この男はまたしても、愚問な問いを投げかける
カール
ところで中将殿、一つお聞きしてもよろしいか?
ラインハルト
なんだ?
カール
なぜ、ついてくるのです?、、、部下に任せればよいでしょうに
ラインハルト
知れた事、、、私には責任がある、それを果たしているだけの事で、他意はない
カール
なるほど、ふふふ、、、
ラインハルト
何がおかしい?
カール
いえいえ、ただなんとなく、祝杯をあげたい気分になったもので
カール
願わくば、いつかあなたと乾杯したいと思うのですが、いかがかな?
ラインハルト
そんな日が、もし本当に訪れると言うのなら、考えておこう
カール
訪れますとも
そう、きっと近いうちに
この大戦の果て、あなたが何を思い何を求めるようになるかが分かるまで、、、、
今はただ、眼前にある美酒の蓋を開ける事なく、その味を想像し、楽しむ事にいたしましょう
この先すぐにも、無限に味わえる事になるだろうから、、、、、
1939年、12月25日
その日、始まりはさして珍しくもない捕り物の一つに過ぎなかった
ヴィルヘルム
はッ、はッ、はッ、はッ
追われる男は苛立っていた
名はヴィルヘルム・エーレンブルグ
息を荒げながら駆ける様は人のそれと言うよりも、野獣の様相を呈している
警官
いたぞ!あそこだっ!
ヴィルヘルム
チィッ、こっちもか
ヴィルヘルム
クソがっ、しつけえぇ!
銃火を掻い潜りながら罵声を吐くが、しかし男は己を狩られる側と思っていない
彼にそういう思考は欠落しており
警官
逃がすな、追え!、国家反逆の危険分子だ、殺して構わん!
ヴィルヘルム
はっ!、国家反逆だぁ?
ヴィルヘルム
なに吹いてやがる、軍属の狗が一よぉっ!
逃げるという概念も持ち合わせない、追っ手を纏めて叩きのめせる機を狙っていただけであり、まんまと誘い込まれた官たちは軒並み男の餌食となった
ヴィルヘルム
はン、ったくワケ分かんねえなぁ。そりゃ俺も色々とやったがよ、てめえらゲシュタポにしょっ引かれる覚えはねえぞ
如何に不意を突いたとはいえ、異様なまでに効率の良い迎撃の手際だった。それだけで、男が暴力の天車を有しているのは一目瞭然。
慣れており、躊躇がなく、他者を害することに罪悪感を抱いていない。
1939年、12月25日
その日、始まりはさして珍しくもない捕り物の一つに過ぎなかった
ヴィルヘルム
はッ、はッ、はッ、はッ
追われる男は苛立っていた
息を荒げながら駆ける様は人のそれと言うよりも、野獣の様相を呈している
警官
いたぞ!あそこだっ!
ヴィルヘルム
チィッ、こっちもか
ヴィルヘルム
クソがっ、しつけえぇ!
銃火を掻い潜りながら罵声を吐くが、しかし男は己を狩られる側と思っていない
彼にそういう思考は欠落しており
警官
逃がすな、追え!、国家反逆の危険分子だ、殺して構わん!
ヴィルヘルム
はっ!、国家反逆だぁ?
ヴィルヘルム
なに吹いてやがる、軍属の狗が一よぉっ!
逃げるという概念も持ち合わせない、追っ手を纏めて叩きのめせる機を狙っていただけであり、まんまと誘い込まれた官たちは軒並み男の餌食となった
ヴィルヘルム
はん、ったくワケ分かんねえなぁ。そりゃ俺も色々とやったがよ、てめえらゲシュタポにしょっ引かれる覚えはねえぞ
如何に不意を突いたとはいえ、異様なまでに効率の良い迎撃の手際だった。それだけで、男が暴力の天車を有しているのは一目瞭然。
慣れており、躊躇がなく、他者を害することに罪悪感を抱いていない
色々やったと言った通り、相当の悪行を積んできたのは間違いないと言えるだろう。だが今回追われたことについて、男は不満があるようだ。
ヴィルヘルム
国家反逆ってなぁ、もしかしてアレか? 近頃どこぞの高官サマが、コナかけた玩具に殺されかけただのなんだの、、、、、名前は、確かディルレワンガーとか言ったっけか
ヴィルヘルム
ボケが、それは俺じゃねえよ、掘ったり掘られたりが趣味の変態ジジイなんざお呼びじゃねえ、つまらん人違いで随分追い掛け回してくれたじゃねえか、なあっ!
警官
ぐっあっ!
苛立ちに任せて足元の警官を蹴り上げると、苦しげな喘鳴が返ってきた
それに男は、一転して表情を綻ばせる
ヴィルヘルム
おお、なんだてめえ、まだ生きてんのかよ、凄ぇ凄ぇ!、さすが軍人さんは丈夫だねえ!、、、、、、、んじゃ、こりゃご褒美だ
ヴィルヘルム
噂じゃあ、てめえらの頭は血も涙もねえっていうじゃねえかぁ、なら、どうせ戻ったところでよ、結果的には同じだわなぁ〜
拾い上げた銃を警官の顎に押し付け、にこやかに語りかける
涙を浮かべて命乞いをしている相手の事など、男は肩ほどにも頓着していない
ただ白々しく、陽気な声で死刑告をするだけだった
ヴィルヘルム
あばよ、、、、えーっと、大尉殿?、仕事で下手打って首切られるより、殉死なら特進もあるんだろぉ?それならガキと女房の今後は安泰だ
ヴィルヘルム
グーテ・ナハト(おやすみ)、、、、バイバイサヨナラおやすみとっつぁん
警官
ぐはっ!
呆気なく引き金を引いてから、それきり哀れな警官の事など忘れたかのように、男は混じりに立ち上がった
ヴィルヘルム
、、、、、ふん、しかしまあ、いい迷惑だぜ、どこの阿呆がやりやがったのか知らねえが、この先また間違えられても敵わねえ、こりゃいっその事、俺がそいつを殺っちまったほうがいいのかねえ
が、、、その時
警官
がああああああっ!
ヴィルヘルム
あん?
警官
ひぃ!、、、や、、やめろ!、、、くるな!、くるな!くるなぁぁあがぁ!!
ヴィルヘルム
おいおい
そう遠くない何処から、風に乗って聴こえる悲鳴と苦鳴、断末魔
男は苦笑し、次いで凶暴な光を目に宿す
ヴィルヘルム
噂をすれば、、、ってやつなのか?、、、、、こりゃ随分とまた、ご機嫌な馬鹿が近くにいるみてえだが
ヴィルヘルム
おもしれぇ、この俺につまらん火の粉飛ばしやがったツケ、今すぐ払ってもらおうじゃねえかぁ
続く