番外編 その後
「お~、ようやく付き合うことになったんだ」
週末が明けて、文化祭のお祭り雰囲気から平常モードに戻った学校。
いつもの屋上で黄昏れながら、俺は明浩に意を決して、親友の明浩に白兎さんと付き合うことになったことを報告した。
「悪いな明浩」
「なぜ謝る?」
「いや……失恋真っ只中のお前に、何か空気読めない感じの報告でさ」
「そうやって周りが自粛ムードになって、腫れ物扱いの方がキツイわ。あらためて、おめでとう。白兎さんも」
「ありがとうございます楠君」
横にいる白兎さんも、少し居心地が悪いが、無事に報告出来た安堵とが合わさった複雑な表情だ。
「それにしても、明浩。あれ見てて辛くならないの?」
俺が視線を向けた先には、
「菫~❤」
「真直~❤」
何だかバカップル度が上がっている、清武君と喜多さんカップルがいた。
2人共、文化祭明けのお休みでデートをして、より親密度が上がったからだろう。
「あ~、まぁ思った以上に大丈夫だな」
「すげぇな明浩」
明浩って寝取られの素質があったんだ。
俺なら、そのまま学校辞めちゃうことも考えそうなんだが。
「だから、俺に気にせず、陽も白兎さんとイチャイチャしていいぞ」
「ば……‼ 俺と白兎さんは、そういうのは……」
「その……私は学校でもしたいです」
「え、そうなの⁉ 紫野」
モジモジと恥ずかしそうにしながらも、白兎さんは俺にはっきりと意思表示する。
そういえば、前も清武君と喜多さんカップルの事を羨ましそうに見てたな。
けど、何でもかんでも彼らを基準にして欲しくないんだけど……
「ハハハッ! そうそう。白兎さんも彼女になったんだから、彼氏の陽にちゃんと言いたいことは言わないとな」
「彼氏……」
「彼女……」
明浩が笑いながら俺たちを茶化してくるので、俺たちは俯いて赤面した顔を伏せるしかない。
「あ~、それでさ……ちょっと、俺も2人に報告したいことがあってな……」
「なんだ?」
明浩が、頬をポリポリと指でかきながら、俺はいつもと違う明浩の様子に、はて? と違和感を感じた。。
日頃、パッパッと物事をズケズケと言う明浩が、こういう勿体ぶった物言いは珍しい。
「あら、やっぱりここでしたか」
「おう、恵梨子。ちょうどよかった」
屋上に入って来た恵梨子により、明浩との話は気になる所で一旦中断となった。
って……ん? 明浩の恵梨子への態度に何か違和感が……
「そう言えば、ムラサキ。結局、本牧コーチと付き合うようになったのね」
「え⁉ 篠田先輩、なんで解るんですか⁉」
出会い頭で言い当てた恵梨子に、白兎さんが驚いて聞き返す。
白兎さんと付き合うようになったのは昨日の今日で、まだ恵梨子には俺からも白兎さんからも報告はしていないはずだ。
「2人の距離感を見れば解るわよ。そういうの、外野は案外気付くから気を着けなさいよ」
「はい。あ、そう言えば、篠田先輩にお願いが……菅原さんの事なんですが……」
「あ~、美穂の事ね。今は文化祭のトラウマでイップスや舞台恐怖症みたいになってるかもだけど、そういうのはよくある事だから。ダンス部にはその辺をケアする体制もノウハウもあるから安心なさい」
「ありがとうございます」
白兎さんは恵梨子の話を聞いて。心から安堵したという様子で胸を撫でおろしている。
「まったく……後から聞いたけど、美穂はムラサキに暴言吐いてたんでしょ? そんな相手を思いやるとか、ムラサキも大概、人が良すぎるわね。ちょっとはズルさも身につけなさいよ」
「はぁい……」
恵梨子は笑いながら、ちょっと乱暴に白兎さんの頭を撫でる。
白兎さんも、大人しく撫でられておく。
どうやら白兎さんにとっては、恵梨子は頭が上がらない姉のような存在のようだ。
俺にとっては、有希さんみたいなもんだな。
ん……あれ?
恵梨子の姓って、篠田だよな?
そして、有希さんの姓も篠田だ。
文化祭のステージ本番直前に陣中見舞いに来てくれた有希さんが、年下の従妹がこの高校に在学してるって言ってたけど、それってまさか……
「って、あれ? 篠田先輩。それを言うなら、何というか楠君と距離が近くないですか?」
俺の思案は、白兎さんの気付きによる指摘により中断された。
確かに、恵梨子が明浩の横にピッタリと、というか腕を抱き込んでいる⁉
え? どういうこと?
「あ、俺と恵梨子、昨日婚約したから」
「「…………はい⁉」」
予想外過ぎる明浩の言葉に、俺も白兎さんも素っ頓狂な声を上げてしまう。
「え……婚約⁉ は⁉」
さっき、明浩が報告したい事があるって言ってたのはこれか!
「なんで⁉」
「週末に恵梨子のお祖父さんの家に指導対局にお邪魔したら、お祖父さんに気に入られちゃって、あれよあれよと婚約が決まってな」
「なにその、ラブコメの第1話みたいな展開⁉」
「え~! おめでとうございます篠田先輩!」
「ありがと……」
白兎さんのはしゃいだ祝福に、恵梨子が恥ずかしそうにボソッと祝福への感謝の言葉を口にする。
「お2人はいつから付き合ってたんですか? え、全然気づきませんでしたよね? 陽くん」
「そうだね」
つい2,3日前に、明浩は喜多さんへの想いをハートブレイクさせていたばかりなのに、これは一体どういう事なんだ?
「いや、即婚約だから交際0日婚だな」
「もう、明浩さんったら。婚約だから、まだ籍は入れてませんよ」
恵梨子も、ダンス部元部長としての日頃の迫力は鳴りを潜めて、明浩の横で貞淑な乙女然としている。
まぁ、恵梨子は元から将棋ファンとして、将来の棋士である明浩の事をリスペクトしてたみたいだし、願ったり叶ったりなのか?
明浩もデレデレしてるし、色々と変わった部分も多い明浩の事も、姐さん女房の恵梨子なら上手く操縦できそうだし。
「……しかし、このカップルは学校内が大騒ぎになるな」
「Bチームだった皆は、特に驚きそうですね」
恵梨子もダンス部の部長をやっていて目立つ存在みたいだしな。
ん? という事は……
ここで俺の中でとある下衆なアイデアが浮かぶ。
「なぁ、明浩、恵梨子。2人は学内ではオープンな関係にするの?」
仲睦まじい2人に俺は何気ないように訊ねる。
「いや、そこはどうしようかと正直迷っててな」
「私はちょっと恥ずかしいから、しばらくは内密にって感じですかね……」
お~、初々しいですね。
いや、付き合いたてって意味じゃ俺と白兎さんもそうなんだけどな。
よし。周りにオープンにしたいけど、ちょっと躊躇してるって感じで、本気で関係を隠したいって感じじゃなさそうだな。
ここで、俺は先ほどの下衆な考えを実行に移す。
「そう。じゃあ、話は変わるけど、ちゃんと答えろよ恵梨子」
「え⁉ は、はい。本牧コーチ……」
俺の突如のパワハラ気味な話の導入に、恵梨子が動揺しつつ身構える。
「紫野に、俺はダンスで忙しいから邪魔するなって忠告したでしょ?」
「は……はい。差し出がましい真似でしたが、でも……」
俺は敢えて、ラビフェスで鍛えた表情管理で満面の笑顔で、じわじわと追い込んでいく。
「本当だよ。あれ、俺は正直怒ってるんだよね」
白兎さんを牽制するような事して……まぁ、白兎さんはその障害すら飛び越えて来てくれたけど、下手したらそこでつまづいて拗れる所だった。
「も……申し訳ありません……」
ダンスの師匠の俺が静かに怒っていることに身震いして、恵梨子はシュンとしてしまう。
「陽くん。私はそんな、気にしてませんから……」
「いや、ダメだよ紫野。そもそも当時は部外者だった紫野に、俺の許諾無く内部情報を漏らしたのは、事務所的にもNGな行為だからね」
「事務所……」
恵梨子が青ざめた顔をする。
結果は大丈夫だったとはいえ、そこはなぁなぁには出来ないな~。
事務所に報告したら、なんて言うかな~。
「陽。恵梨子のやった事は、友人の俺に免じて許してやってくれないか? この通りだ頼む!」
珍しく俺が怒っていると勘違いしている明浩が、普段の飄々とした様子とは打って変わって、誠実に謝罪をする。
こんな明浩初めて見た。
うんうん。愛する人のために頭を下げるって、明浩も何やかんや、ただ浮かれて恵梨子と婚約した訳じゃないんだね。
「ほぉ……明浩。お前が婚約者の責を負うと?」
「ああ。恵梨子が本気でダンスに取り組んでるのはお前も知ってるだろ? だから事務所に言うのは……」
今、何でもやるって言ったよな?
よし、言質取った。
「じゃあ、ペナルティとして、2人の関係を今日からすぐに学内でオープンにして」
「「はい⁉」」
予想外の俺の要求に、明浩も恵梨子も素っ頓狂な声を上げる。
「解りやすく言うと、明浩と恵梨子には俺と紫野の避雷針役を担ってもらいます」
これが俺の思いついた下衆な策。
学内での話題性は、格段に明浩と恵梨子のカップルの方が上なのだ。
1年生と3年生、それも付き合いだしたじゃなくて、高校生の身空で婚約だ。
これは学内ニュースの間違いなくトップニュースとして、生徒たちの話題に上るだろう。
そして、俺と白兎さんカップルはするっと、いつの間にか付き合ってましたで、大して周囲の話題に上がることもないだろう。
「陽、てめぇ……最初からこれが目的で一芝居打ちやがったな……」
「え~、でも明浩はさっき何でもやるって言ったよね? まぁ、この提案は本来は責の無い明浩も巻き込む物だからね。そんなに嫌なら、やっぱり恵梨子だけのペナルティとして事務所に報告を……」
「それは止めてくれ! しかし、いきなりオープンに交際なんてそんな……」
「あ、喜多さ~ん。ちょっと話があるんだけどさ~」
「ちょ⁉ やめろ陽! 解った、やる! 恵梨子との関係はオープンにするから!」
「んじゃ、よろしく~」
フフフッ。
喜多さんに恋心を抱いていた事を暴露されるとでも思ったのか、明浩は慌てこちらの要求を呑む事を了承した。
「すいません明浩さん……私のせいで……」
「いや、大丈夫だよ。いずれはオープンにする話だったんだから、それが少し早まっただけだし」
明浩も、諦めたのか、泣きそうになっている恵梨子を慰める。
「陽くん、なんで2人にこんな意地悪するんです?」
白兎さんが、珍しく怒ったような口調で、頬を膨らませている。
怒った白兎さんって、貴重だな。
出来れば写真に撮って残しておきたい。
「背中を押してあげたんだよ。恵梨子は3年生ですぐ卒業なんだから、学内でコソコソするよりオープンにしちゃった方が、目いっぱい残りの一緒の高校生活楽しめるでしょ」
「それは、そうですが……」
「本当にオープンな関係にするのを2人が嫌がったら、やめるつもりだったけどね。でも、ほら見てよ」
俺という巨悪によって悲劇に見舞われた2人は、お互い手を握り合って励まし合っている。
その結束は、より強くなっただろう。
「わざと悪役を陽くんが引き受けたと?」
「そっ。これで恵梨子への俺のわだかまりも無くなったしめでたしめでたしだよ」
これで、俺と白兎さんの恋路を少し邪魔してくれちゃった恵梨子への溜飲も下がって、フラットな気持ちで2人に今後も接することが出来る。
恵梨子は、今までコーチとして俺に接している部分が強かったから、これを機にちゃんと明浩の方を向いて欲しいしね。
俺なんてちょっとくらい嫌われてる方がいいんだ。
「……本当にそれだけですか?」
白兎さんが、これまた珍しい、ジトッとした目つきで俺の方を、疑わしい……という目で見てくる。
「お前らだけ、秘密のお付き合いで、ドキドキウフフなんてさせるかよって思いも正直ある」
「それが本音なんじゃないですか!」
「アハハッ。紫野も俺のことよく解って来たじゃない」
「私はあなたの彼女ですから……」
そう言って、白兎さんはムゥと口をへの字にして、まだ許してませんよという顔だが、残念ながら、貴重な白兎さんの表情が拝めて俺には喜びしかない。
「本牧君。お話って何?」
喜多さんが、さっき俺がかけた声に反応して、こちらに清武君と一緒にこちらに来た。
「それがさ、聞いてよ2人とも。何と、明浩と篠田先輩がさ~」
「待て陽! せめて自分の口で言わせろ!」
その直後の、明浩からもたらされたニュースに、喜多さんも清武君も思わず声を上げて驚いていたが、それは、この後に学校中を巻き起こる驚きの声の大きさと比べれば小さなものであった。
最後に、☆☆☆☆☆→★★★★★評価をお願いします。
執筆する上では、本当に原動力になるんで、よろしくお願いいたします。




