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最終話 もう一人ぼっちじゃない

「ああ~、やっちゃった……」


 俺はベンチで思わず頭を抱えてうなだれて独り言を漏らしてしまう。


「え⁉ い、今のキス、何か私やっちゃいましたか⁉」


 項垂れている俺の横で、キスの余韻でホワホワとしていた白兎さんが、一瞬で再起動する。


「いや、そうじゃなくて俺の方の話でね……」


 俺が、結局、今日の告白の段取りを全無視して想いを遂げてしまったことに、いくばくか残念に思い、つい物憂げな表情をしてしまっていたのがいけなかったのだろう。


 白兎さんを心配させてしまった。


「勢いで私とキスしたことを後悔してるんですか⁉ 私、つい舞い上がっちゃってましたけど、そうですよね……キスだけじゃ……きっと、本牧くんはダンスをやってて篠田先輩みたいな可愛い女の子に日頃から囲まれて、こういうの慣れてて……」


「いやいや、違うって紫野」


 何やらダンサーへの風評被害が酷いな。

 人によるかもだけど、俺はそういうのはないから!


「そうですよね……私は初めてのキスでしたけど本牧くんは……」

「いや、だから俺も初めてだって!」


 なんで、好きな子とのキスの直後に、こんな自分の経験の有無について語らなきゃならんのか。


 って、最初に白兎さんを不安にさせた俺が悪いか。


「そう……なんですか?」


 白兎さんが、俺の方を真っすぐに見つめる。


「俺はその……こういう好きな子への告白は、ちゃんと自分の思い描いた理想みたいなシチュエーションがあったんだよ」


「好きな子……」

「紫野に決まってるじゃん! 言わせないでよ」


 あ~、もう何だこのツンデレみたいな告白。

 男のツンデレとか誰得なんだよ。


「わたし……本牧くんの彼女になれるんですか? だってダンスのお兄さんは……」

「そこは、ただの純愛だって堂々と胸張って言えるから良いんだよ」


 社会的に不適切な類の交際が問題になるだけであって、アイドル売りしている訳じゃないんだから、ただ付き合ってる人がいるってだけで問題にになんてならない。


 全く……恵梨子も白兎さんが誤解するような説明して。

 今度のダンスレッスンでしごいてやろうか。


「純愛……」

「……じゃあ、不安要素が無くなったところで、あらためて言うね」


 俺はベンチから立ち上がって、居住まいを正す。

 白兎さんも同様にベンチから立って、俺の方を期待した表情で見上げる。




「好きです、白兎紫野さん。俺と付き合ってください」




「はい……喜んで。陽くん」




 そう言って、胸に飛び込んできた白兎さんを受け止める。


「やっと、紫野って呼んでくれて嬉しいです……」

「俺の事も陽って呼んでくれたね」


「それは私の意地です。私の事を紫野って呼んでくれるまで、私も呼んであげないって」


 いたずらっぽい泣き笑いをしながら、白兎さんがへへっと笑う。


「ん~、前にも言ったけど、俺は白兎さんって呼ぶのも好きなんだけどな」

「陽くんも、そこはこだわり強かったですよね」


「そうだ! 紫野、お願いがあるんだけど」

「いいですよ」


「まだお願いの内容言ってないよ?」

「私は、すでに大きすぎるお願いを陽くんに叶えてもらいました。だから、陽くんのお願いなら、今日限定ですが何でも聞きますよ」


 何でもお願いを聞いてくれるか……


 そうすると色々と男として邪なお願いも頭をよぎるが、一先ずそれは後の楽しみに取っておこう。


「じゃあ、お願い紫野! ラビィちゃんのウサ耳つけて欲しい!」


 本当は、今日のデートの中盤当たりの盛り上がっている頃合いを見計らって提案しようと思ったんだけど、何でもお願いを聞いてくれるというなら、まさに渡りに船だ。


「いいですよ。けど、そんな事でいいんですか? 陽くんって案外カワイイ所がありますよね」


 クスッと笑った白兎さんの笑顔に、俺は照れくさいけど言って良かったと、手元で小さくガッツポーズする。


「じゃあ、早速ショップにつけ耳を買いに……」



「「「「お客様、おめでとうございまぁぁぁぁあああす‼」」」」



 突如、周囲から複数の祝福の言葉が上がる。


「って、え⁉ みんな、なんで!」


 パチパチと拍手をしているのは、お土産ショップや清掃員、果てはアトラクションの専用コスチュームを着た、色んなキャストの人たちだった。


 そして、俺はすっかり頭の中から吹っ飛ばした告白計画のことを想い出した。


「陽君おめでとう。結局、用意してたサプライズのフラッシュモブダンスは無駄になっちゃったね」

「有希さん⁉」


 拍手のキャスト達の一団の中から、ラビフェスのダンスのお姉さんのコスチューム姿の有希さんが出てきた。


「せっかく告白の準備を周到に進めてたのに、その場のテンションで思わず暴発しちゃうって、若いね陽君は~」

「先輩、自分感動したっす!」


「芽衣さんと雷蔵さんも⁉ 」


 そもそも、この3人は、ショーの出番もあるし今回のサプライズには声を掛けてないのに何でいるの⁉


「園内に居るのは、採用倍率2桁倍の難関を超えてきた優秀なキャスト達だよ~。園内で彼ら彼女らの目をかいくぐるのは不可能。後は無線でちょちょいとキャストに招集をかけたらば、こんなに陽君を慕っている仲間たちが集まってくれました~」


 芽衣さんがニヤニヤ笑いつつドヤ顔で、種明かしをしてくれる。


「今にも告白しちゃいそうな雰囲気だったから、無線で慌てて招集掛けたんだぞ」

「バッチリ見てたぞ~」

「陽くんカッコ良く決めてたね」

「彼女さんもおめでとう~」


 想いもかけない大勢の人たちから祝福の言葉が飛んできて、白兎さんも恥ずかしそうに顔を俯かせる。


「っていうかどのタイミングから見てたんです⁉」


「陽君たちがベンチに腰掛けた所から」

「告白の最初からじゃん!」


 有希さんの返しに、俺は地面にしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。

あ~、もうっ! 恥ずかし過ぎるって!


「けど、フラッシュモブの準備が無駄になっちゃったね」

「陽君が暴発しちゃったからね~」


「う……」


 そこは本当に申し訳ないと思っている。

 ショップや清掃員といった、普段ダンスには縁のないキャストの人たちは、勤務後にダンスの練習をしてくれてたみたいだし。


「あの……皆さんが揃っているなら、ここで踊るというのはどうでしょうか?」


 俺とキャストの皆がごちゃごややっている横で、白兎さんが提案する。


「あ、それいいかも。ここ、割と広いしお客様もこの時間ならそんなに通らないし」

「確かに、数時間後にまた広場に集まって踊っても、何だか消化試合みたいっすね」


 有希さんと雷蔵さんが、白兎さんの提案に同意する。

 あと、雷蔵さん。そういう言いにくい事をはっきり言わないで。


「え……けどフラッシュモブって、本来、時間と場所と規模を事前に運営側に伝えて許可を得てからじゃなきゃいけないんじゃ……」


 こういうフラッシュモブは事前に届を出さなくてはならない。

 キャストの皆にも協力を得るならば尚更必要で、俺もその辺の調整に苦労したのだが……。


「子供がそういう細かい事を気にしないの~。大丈夫、もし何か問題になったら、有希ちゃんが責任取ってくれるから」


 芽衣さんが、相変わらずポワポワとしつつ、しっかりと責任という爆弾だけは有希さんに投げてよこす。


「なんで私が⁉……とは言え、久しぶりに胸をキュンキュンさせてもらえるものを覗き見させてもらったんだから、大人としてここは腹をくくりましょうか……やるわよ皆!」



「おお~!」

「流石、有希お姉さん~! 男前~!」

「姉御~着いて行きます!」



 キャストの皆から快哉が上がる。


「じゃあ、すぐ配置準備! 運営にバレる前にサッと踊って、サッと撤収するわよ!」


 優秀なキャスト達は、有希さんの号令であっという間にフォーメーション配置につく。

 センターの位置だけを空白にして。


「一緒に踊ろ、白兎さん」

「え、私もですか?」


 てっきり、自分は見ているだけだと思った白兎さんが、俺が伸ばした手を見て驚く。


「うん。こうなったら、一緒にみんなで踊ろ。ラビフェスのダンスわかる?」

「はい。陽君のラビフェスのネット動画を何度も観てましたから踊れます」


「じゃあバッチリだ。不安になったら隣の俺の方を見て」

「はい。ずっと陽くんの隣で見ています。私を、もう一人ぼっちにしないでください」


 白兎さんが俺の手を握る。

 そこには迷いはなかった。


 俺は白兎さんの手を引いてセンターの位置につく。


 急遽ダブルセンターになってしまったので、少しフォーメーション位置を全体で調整する。


「けど、本当は白兎さんの前で踊ってから、告白って流れだったんだよな……」


 俺は独り言のつもりでボヤいた。

 今さらながら、自分の頭の中で描いていた理想の告白シーンが未練がましく頭をもたげる。


「じゃあ、それは次の機会にお願いします」


 隣の白兎さんがコソッと俺にだけ聞こえるような声量で、呟くように返事をした。


「あ! 聞こえちゃってたんだ。って、次の機会って? 紫野」


 まさか白兎さんに、結局不発に終わったサプライズ告白のプランを聞かれているとは思わずに、俺は慌てて訊ねる。

 もう一回、告白を仕切り直せってことなのか?


 やっぱり、さっきの勢い任せの告白じゃ駄目って事なのか……

 と、顔から血の気が引く。




「プロポーズの時に、またお願いしますという意味です」


「へ……?」



 俺が間抜けな声を上げると同時に、


「じゃあ、ミュージックスタート!」


 と有希さんの号令でラビフェスの音楽が流れ始める。




 その日の俺のダンスの出来は、後日、キャストの人が撮影してくれていた動画を観たら、あり得ないくらいヒドイものだった。


 まるで素人みたいにダンスの入りを失敗してオロオロする俺の姿は、珍しい事もあるもんだと、有希さん達に物笑いの種にされた。


 けど、俺にとっては、踊っていてあんなに楽しくて、幸せな時間はなかった。


 だから、こんな失敗したダンスの記録でも、この動画は俺の宝物になった。



最後までお付き合い頂きありがとうございました。

お~、最後はちゃんと付き合ったね2人。


作者はダンスとか一切経験ないのに、動画のジャン○リミ○キーのお姉さんのキレキレダンスが格好良くて可愛くて、思わず書いてみた作品でした。やっぱり欲求って書く上で大事だな~。


最後に、特に☆☆☆☆☆→★★★★★評価をよろしくお願いします。

執筆する上では、本当に原動力になるんですよ。


それではまた!

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