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74/74

74 巻きで

龍化した若君に連れられるのは、もう勘弁して欲しいと思った。息はできないし、風で髪も着物もバタつくしー。


それでも、淀んでいた気は掻き回されて、いくらかマシになったようだ。


「次はどうすんですかー」


私が投げやりに聞くと、形の良い眉を上げた若君が不服そうに睨む。


「何だよそのやる気のない態度は」

「上空は暴風なんです。ただの人間には辛いですよ。息ができないし」

「はっ、誰がただの人間だって? 三神の加護付きだろ」


神の加護で息ができるなら私は水中でも生きていけるな。

無茶を言うな。



青国の惨状を片付ける一週間は光の速さで過ぎて行った。魔物を蹴散らし、気を巡らせ、ちょっとは国土が収まったと信じたい。あとは——青馬神と青国の人たちの頑張り次第だ。


青国の王族の方々を前に、黒国の我々は帰国を告げる。


「やれる事はやった。あとは自国の民と力を合わせ、青国を盛り立ててくれ」


エグエグと泣き崩れる青馬神を微妙な表情で見て、若君は呆れ混じりのため息をつく。


「黒国は春に俺と楓の婚姻の儀を行う。その頃までに国を立て直して、儀に参加できるようにしろ」

「うゔぅ。わぎゃりますた! えぐっ、この青馬、黒龍神様の末であられる嵐龍様の婚儀には、何を置いても駆けつける所存でございますー」


ひぐ、えぐっと涙と鼻水を啜りあげた青馬神は、勢いよく私の方へ駆け出して来るとガバッと抱きつく。ヤメロ、鼻水つくじゃないか。


「かーえーで様ぁ! 可愛くて、逞しくて、情深い貴女が、青馬は大好きでーす!!!」


彼女の潤んだ青い瞳が私を捉えると、視界がグラッと揺れる。


「あれ?」


……これ、加護じゃん。


「楓?!」


若君が青馬神をベリっと剥がして、私の肩を抱く。

うん、ごめん。体に力が入らないや。


「へへへへ、これで楓様は私の加護も持ちました! 黒龍様や赤鳥姐様、白獅子に混ざって、私も楓様を応援できまーす! 愛してます、楓サマー!」


若君がすごい顔して青馬神の頭を叩いた。


「勝手に加護をつけてんな!」

「ふぇ! 加護つけて怒られたの初めてです!」


はははは。

青馬神の加護は水気が多くて体が冷える。赤鳥神様の熱気と競合して、体がグルグルするよ。水蒸気? 体の中が水蒸気で膨張してる? もしかして、水蒸気爆発する?


私を抱き上げた若君が何やら早口で支持を出しているのが聞こえた。

けど、私は神気の混在で朦朧としてた。そのあと、見事に発熱した。


黒国へは無事に戻れたようなんだけど、高熱のお陰で移動の最中の記憶はない。

青馬神には、ちょっと文句を言いたい。


体調が戻った頃には、黒国で海馬の飼育が始まってた。濃紫が一頭の海馬をいたく気に入って、俺の嫁、とか呼んでるらしい。


——雄馬だって聞いてるけどね。

やっぱ濃紫はそっちの人だった、と、濃紫狙いだった女官たちが泣き濡れてるとか、濡れてないとか。


宮廷作法に貴族勢力図、行事と運営などの皇太子妃教育が待ち構えていた私は、青国のその後をフォローすることもできず、ひたすら勉強、勉強、勉強。


勉強の合間に女官による美容向上計画を受けさせられ、マッサージ、入浴、全身のお手入れ。お手入れ、お手入れ。


それだけなら、まだ、なんとか耐えられた。

なんとかな。


けど、けどー!!


食事内容を変えられたのは地獄だったよ。

果物、野菜、お肉は厳選された部位のみで白飯は無し。

白飯なしー!!!!!!


嵐龍様が悲壮感漂う私に、こっそり塩おにぎりわ渡そうとして、女官に袋叩きにあってた。いいのか、女官達、その人は黒龍神の末にして、龍化までする国の重要人物なんだぞ。塩おにぎりくらい食べさせろ!


そんなこんなで、私は明日、嵐龍様に嫁ぐ。

すごく不安。


なぜなら——。


「嵐龍様。夫婦舞、本当に大丈夫ですかね?」


練習不足が否めないんだよ。

一人で踊るんじゃないから、まだ、うーん。どうなのかなぁ。


「大丈夫も何も、やるしかないだろ?」

「けど……」


黒龍神様に奉納するんだよ?

失敗したら命が危ないだろ。


そんな私の不安を払拭するように、若君は力強く笑った。


「そんな顔をするなよ」


不安のあまり自分の思考に埋没してた私は、若君の行動を読めなかった。グッと頭を引っ張られ、唇に唇を落とされて凍りつく。


——ひゃ?

いま、いま、接吻しませんでしたかー?


「お、真っ赤」

「わ、わ、わ、若君!」


嬉しそうに笑う嵐龍様は、私の頭を撫で回した。


「ずっと忙しくて楓不足だったんだぞ。何があったって、婚儀が終わればお前が妻になる。そう思ったら、なんとでもなる」


なでなで、なでなでと。

優しく頭を撫でられれば、私も不安どころでは無くなった。



ふくふくの我が子を抱きながら、龍神の血を引くとはこういう事だったのかと思う。


婚姻の儀を無事に終え、皇太子妃になった私は一年後に無事に帝孫を産んだ。男の子なので末は帝という立場のお子様だ。


名を玉龍という。


婚姻の後にさー。

貴国の王様が挨拶に来てね。血筋的には嵐龍様の伯父様なわけだよ。彼の後ろにね、黄虎神という筋骨粒々の神様がついて来て何故か木刀で殴られかかり、真澄様直伝の懐刀で応戦したら気に入られた。


「我を前にして一歩も引かぬ気骨に天晴だ!」


ええ、ええ、加護もらいました。

五色の神をコンプリートだ。


私の目ん玉は不思議な事になってるし、元天水玉は五色玉とか名を変えて黒国帝国の宝玉になった。


まあ——お陰で嵐龍様の子を産んでも体は健康なんだがね。


「日向ぼっこか? 玉龍は?」

「ご機嫌です」


縁側に座ってる私の横に嵐龍様が座って、腕の中の我が子を覗き込む。目を開いた玉龍は不思議な瞳の色をしている。虹色というか、玉虫色というか。髪は嵐龍様と同じく、黒に赤毛が混ざっている。


小さな手に指を掴ませ、嵐龍様は優しい顔で微笑んだ。すっかり一人前の男性になった彼は、帝より少し柔らかな雰囲気ではあるけれど体も一回りは大きくなっている。


「黒龍神様の血が混ざるとはいえ、鱗があると不思議な気がしますねー」


そうなのだ。

玉龍は銀色の淡い鱗で体が覆われている。


「赤子のうちは、龍の血を調整できないからな。俺もそうだったらしいぞ?」

「見てみたかったですねぇ」


嵐龍の頬を突っつくと、彼はふにゃっと笑った。

——可愛い。


顔を上げると黒龍神様の居である黒山が、今日も勇壮な姿を見せたいた。婚姻してから宮廷に居が構えられたのだが、私達は今も杜若で暮らして居る。


自分に孫ができたようですと喜ぶ守谷さんと、白蛇神を祀りながら働く砂白、相変わらず入り浸っている濃紫は、この頃は少し様子がおかしい。独楽の妖ぶりが進んで成長した事と関係しているのかもしれない。


帝も精力的に働いて居るし、師匠も健在だ。あ、玉龍と名付けてくれたのは師匠。


嵐龍様が私を抱き上げて、玉龍ごと膝に乗せた。


「えっと? なんですか?」

「お前、ここん所は玉龍の世話で忙しいだろ? たまには俺にも構え」

「ははは。私の旦那様はお可愛らしい」


私はひょいと顔を上げて、嵐龍様の頬に口付けた。擽ったそうな夫の笑みにかぶせるように、腕の中で我が子がキャラキャラと笑う。


黒山の上で喜ぶように日雷が鳴った。


通常の日雷は日照りの前兆だと嫌がられるが、黒国では違う。


「黒龍神、機嫌が良いなぁ」


そう。黒龍神の笑い声みたいなものなのだ。


私が子を産んで、もちろん、若君も帝も喜んだし、宮の皆んなも友人知人も喜んでくれた。けど、意外な事に一番喜んだのは黒龍神様だと思う。神々を呼び集めて玉龍のお披露目したくらいだ。


神、曰く。


——子孫が増えるは繁栄の印。国の繁栄こそは、神の繁栄。目出度き事。我は玉龍を寿ぐ。


「嵐龍様」

「うん?」

「世はなべて事も無き。良い一日ですね」

「ああ」


親子三人で黒山を眺め、幸せという言葉を噛み締めた。



長く投稿できずにすみませんでした。


どうも構成間違えまして、全く進まなくなってました。本意ではないですが、エタるよりはマシかと無理やり終わらせます。飽きずに付き合って読んで下さった方々、いいねで応援してくれた方、ブクマつけて下さった方、本当にありがとうございました。


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