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63 戴冠式

すごく間が空いてしまいました。すみません。

時間感覚がおかしいです。一月が一週間くらいに思えます。


ぼちぼち……更新を再開していきます。

宜しくお願いしますー。

黄水晶様の戴冠式は荘厳かつ滞りなく終わった。何が荘厳だったかと言えば、臣下の方々が総出で剣舞を舞ったのだよ。


白獅子神が跪いた黄水晶様の頭に王冠を乗せた途端に、楽隊の大太鼓担当が派手に太鼓を打ち鳴らした。それが合図とばかりに広場に出ていた臣下の方々が広がって間合いを確かめ、一斉に剣を天へと振り上げた。


「新王、万歳!」


偉そうな軍人さんが声高にそう叫ぶと、黄水晶様が答える。


「私が王座についたからには、祖神を敬い、身命を惜しまずに白国の為に尽くす事を誓う! 白国にさらなる繁栄を!」


黄水晶様が自らの剣を腰から抜いて天に差し上げると、感極まった表情のお偉いさんが声を張り上げた。


「我ら白国の民は、すべからく王の剣! 悪を打ち、正義をなす白獅子の牙! 黄水晶王を讃えよ!」

「黄水晶王バンザーイ!」

「おおおおっ! 万歳!」

「新王に幸いあれー!」


臣下たちの祝いの言葉が、あちらこちらから叫ばれる。黄水晶王が剣を収めると、太鼓の音が変調した。ドン、ドドン、ドン、ドドンと低く鳴らされ、臣下の方々の剣舞が始まったわけだ。


動き自体は単純な型の繰り返しだったんだが、人数がね。百名近い人数だったのではないかな。広場全体に広がって、老いも若きも、男も女も、楽隊の太鼓に合わせて一斉に型を繰り広げてゆく。


壇上の黄水晶様や獅子神様から見たら、さぞや見事だったんじゃなかろうか。

戴冠式の催しといいうのは、国によって随分と違うのだなー。


黒国の戴冠式は帝の血筋だけで秘め事のように行われ、後に祝祭が国を挙げて行われると師匠に聞いたことがある。治めている神の気質にもよるのかな。黒龍神様は舞を好まれるけど、騒がしいのはお好きではないようだしね。


勇壮な剣舞が終了すると、新王が壇上を降りて広場の人たちにお酒が振舞われた。剣士ではない女性たちが配り歩いてさ。嵐龍様や私にも勧めてくれたけど断った。


嵐龍様が私の手を引いて帝に寄って行く。薄衣で視界が遮られてるけど、気配で分かるんだよ。帝の気配は隠しようがないからねぇ。


「父上。戴冠式が終わったようなので先に戻ります」

「……新王への挨拶は?」

「父上にお任せしました」

「白獅子神へは?」

「時を改めて挨拶に伺います」


嵐龍様の有無を言わさない口調に帝がため息をつく。


「分かった。楓を落とすなよ」

「誰に言ってるんですか?」

「……気をつけて帰れ」


嵐龍様の気配が変わる。


なんていうの?

気配はそのままなんだけど、質量が変わったっていうの?


「……? え、うわぁ!」


風が逆巻いたと思ったら、私の体は急上昇してく。


——龍が!

——黒国の王太子だ。

——あれが?


人の騒ぐ声が聞こえてくるけど、私はそれどころじゃない。


嵐龍様が——龍になってしまったんだから。

私はといえば、その手の中に捕まえられて空中高く浮かんでる。


『飛ぶが、怯えて暴れるなよ?』

「……は…い?」

『気で包んでおくから、息は吸えるし寒くないはずだ。行くぞ』


——お、おお。


あたりの景色が一気に変化してく。雲を突き抜け山を飛び越え、陽光に照らされた嵐龍様の鱗が煌めいて見えた。


黒龍神に比べれば、嵐龍様の変化した龍は小型だ。だが、その体一つで山並みを軽々と陰らせる。全身を覆っている鱗は、いくらか赤色の強い黒で、彼の髪の色そのままだ。大きな頭には尖った二つの耳、長い髭が風になびいている。


目も赤みがかった黒だけど、白目はない。目の中央には金と銅を混ぜたような瞳孔が縦に走ってて、神獣らしい威圧感を出していた。いや、嵐龍様って本気で人間離れしてたんだなぁ。言ったら傷つきそうだから言わないけど。


私を掴んでいる手は胴の割に短く、三本指で一本一本が太くて大きく爪も長い。私など指の隙間から転がり落ちてもおかしくない。気で包むと言った通り、私の周りは丸い膜のような気で覆われている。それのお陰で隙間から落ちないで済んでいるんだろう。


遠くから見たら、龍が玉を握っているように見えなくもないだろうな。

私は宝玉ではないけどね。


黒国から白国の都市部へは馬でも四、五日は掛かる。

けど、龍の姿の嵐龍様は半日とかからないで移動した。


——ちょっと凄いよねぇ。


黒国の上を飛ぶと見つけた国民が次々と頭を下げてく。なんか、平伏しちゃってる人もいる。まあ、気持ちはわかるけど。


杜若の宮が小さく見えてくると、嵐龍様の声が聞こえた。


『降りるぞ』

「へ?」


バチバチッと火花が散ったと思ったら、龍の体が霧散して雷雲に包まれる。腰を引っ張られたと思ったら、嵐龍様の腕に抱えられてた。私たちは、そのまま落雷として杜若の門の前に——落ちた。


バタバタと迎えに出てきた守谷さんが、私を抱えた若君に抱きついた。


「楓ちゃん! 若君もご無事で!」


こんなに崩れた顔の守谷さんは初めて見たな。その後ろから転がる勢いで独楽が飛び出してきて、守谷さんの横から飛びついて来る。灰色の影が飛び出して来たと思ったら、灰色さんが守谷さんと独楽ごと私たちを抱きすくめた。


「楓、このバカが! 心配をかけるんじゃねぇ!」


……揉みくちゃ。


ハァーッと深いため息が頭の上から聞こえる。


「心配してたのは分かるが、離してくれないか? 楓が潰れる」


嵐龍様の言葉で灰色さんと守谷さんが手を離したが、独楽だけは私の腕から離れない。この子の事だから、また自分をせめて落ち込んでたんだろうなぁ。


「独楽、心配かけて悪かったね。私は大丈夫だよ。どこも怪我してないし、ひどい目にも会ってないからさ」


彼女の小さな頭を何度も撫でてやると、顔を上げて私を見る。


——あれ?


「……独楽。泣いてる?」


キョトンとした独楽は不思議そうに首を傾げた。涙がこぼれ落ちるとか、そういうんじゃないけど彼女の黒いガラスの瞳が潤んでいる。


——独楽の目が潤んでる。


「うわっ。み、見た? 独楽の目が潤んでる! 見て、若君!!」


私が興奮して嵐龍様を見上げると、彼は小さく笑った。


「お前を心配して、ずっとショゲてたんだ。感極まったんだろうよ」

「け、けど。独楽が……」

「落ち着け。宗元も心配してたからな。落ち着いたら挨拶がてら聞きに行こう」

「そうですね、そうしましょう!」


嵐龍様が面白そうに私を見る。


「なんですか?」

「いや……開口一番のツッコミがそこなんだなって思ってさ」

「当然じゃないですか。独楽の変化は衝撃ですよ」


守谷さんが吹き出す声が聞こえた。灰色さんが情けなく眉を下げてる。


「え? なに?」

「いやぁ、そういや、お前ってそういう奴だよな。なんてのか、普通は違う所に衝撃を受けるだろーが」


守谷さんが笑いながら頷く。


「楓さんが元気そうで安心しました。さ、とにかく中へ入って下さい。灰色さん、二人の為に風呂の用意をお願いしても良いですか? お疲れでしょう。独楽も二人にお茶の用意をしてくれるかい?」


こくんと頷き、私の手を掴んで何度か振った。


「大丈夫だよ。もう、どこかに行く予定はないから」

「予定は初めから無かったぞ」


嵐龍様に頭を小突かれる私を見て、独楽が嬉しそうに笑った。

え——笑った? 笑ったよね、今。


「守谷。飯があったら何か食べたい」

「分かりました。変化したのでエネルギー切れですね。独楽、茶漬けの用意もお願いします」


頷いてパタパタと杜若に入って行く独楽、なんか、いない間にすごく変化した?


「ほら、宮に入るぞ」

「あ、はい」


嵐龍様が私の手を引いて歩き出す。


——そういえば。


「若君は龍になれたんですね」

「……今か?」

「はい? さすがの私も空を飛んで移動したのは初めてですよ。凄い光景でしたね。嵐龍様はたまに飛ぶんですか? 夜とか、また違った光景なんでしょうね。ご飯が食べたいってことは、やっぱり龍になると疲れるんですよね?」


思わずたたみかけると、彼は目を細めて私の頭を何度も撫でた。


子供っぽいとか思ってるのか?

仕方ないだろ、龍と飛んだのは初めてなんだから。

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