59 赤鳥神様と北斗王
「内乱が治ったら、俺は国を出る」
「……出る?」
「ああ。帝国外の国々を回りたいって話さ。白獅子が反対するなら、俺は内乱を治める手伝いはしない」
白獅子神が軽く牙を剥く。
『……お前。民の安全を蔑ろにする気か』
「威嚇したって無駄だぞ。そもそも、民を蔑ろにしたのは、親父だろ。静観したお前にも非があるよな? 尻拭いに奔走しろってんなら、俺にも益がねぇとな」
キュッと片眉を上げた雲母王子は、軽く腕を組んだ。
「だいたい、親父も白獅子も兄貴を舐めすぎだ。俺を王位に押す奴らなんか、欲の皮の突っ張った頭デッカチだろ。兄貴が御せないとでも思ってんのか?」
『国の施政が二分するのは国益に反するという話だ』
「今まで一致団結して施政に当たってた事なんかあんのかよ? 兄貴だってそのくらいは理解して王太子をやってんだ」
——おやおや。
これは白獅子神の部が悪いかな。
「親父もお前も干渉し過ぎなんだよ。干渉ってのは、相手の力を弱める。庇護するつもりで力を奪ってどうすんだよ。俺も兄貴もガキじゃねぇ。困ったら人に相談するくらいの知恵はあるんだぜ? 先回りして広がってくはずの世界を狭めんな」
——おぁぁ。
キツイな王子。
白獅子の耳がヘコッと寝ちゃってるじゃん。
ヘコむ国神なんか初めて見たぞ。
「ま、まぁ、まぁ。親から見れば、子供ってのはいつまでも子供なんだって言うよ? 心配くらいさせてやんなって」
「それで何もかも取り上げちゃ意味ねーだろ」
何もかも——か。
雲母王子には、それを言う権利があるのかもな。
この上なく安全だけど、安全なだけの神界育ちだもんなぁ。
「確かに……信じるってのも親の仕事だね。白獅子神様、雲母王子は庇護の必要な少年ではないよ。化け猪から私を守ってくれた剣技は、そこらの剣士も顔負けの技だった。すでに立派な青年だよ」
私が魔法使いとして魔物討伐に出て行けたのは、師匠が私の能力を信じてサポートしてくれたからだ。だから、魔法使い仲間も出来たし、自信を持つ事もできた。師匠にはどんだけ感謝しても足りないよな。
白獅子神がハーッと牙の間から溜息を漏らした。
『私の分身を連れて行く。これが帝国を出て行く条件だ』
雲母王子が嬉しそうに笑った。
耳も尻尾も盛大に振れているなぁ。
「ヨッシャ! 言質取ったからな。援護サンキュー、笛姫」
「いやいや。本当にそう思ってるだけだし」
「そうと決まれば——どうすりゃいいんだ、白獅子!」
白獅子神は苦い笑を浮かべ、気を取り直したように言った。
『まあ、待て。赤鳥に応援を頼んだ。明日には事が進む。今夜は食事して、湯に浸かって、とにかくゆっくり眠っておけ』
□
翌日、白獅子神の言った通りに赤鳥神様が訪れた。
『久方じゃの、楓! 壮健そうで何よりじゃ』
相変わらず周りの空気が歪む程に美しい。熱気で陽炎が生まれてる。しかも、髪には私と若君で選んだ簪が揺れていた。
「お久しぶりで御座います。赤鳥神様におかれましても、あいも変わらずの美貌で目の保養で御座います。簪も使って頂けているようで嬉しく思います」
『うむ! 簪は気に入っておる。薔薇の簪とはハイカラじゃ』
「赤鳥神様の御髪を飾るとなれば、大輪の花でなければと選ばせて頂きました」
燃えるような真紅の薔薇を模した簪は、彼女のための特注品だ。派手で整った顔立ちの赤鳥神様によく似合う。
『ほれ、北斗。主も楓に会うのを楽しみにしていたろう』
——お。
赤鳥神様の後ろから、恥ずかしそうに出て来た北斗くんは、小さく微笑む。
「お久しぶりです」
「北斗くんも来たの? えっと、忙しいだろうにゴメンね」
「いえ、僕がついて来たかったので」
「少し背が伸びたね?」
「はい!」
相変わらず柔和で愛らしい少年だが、赤国の正装姿の彼は少年王として貫禄が出てきている。男児三日会わざれば刮目せよか。人の子は成長が早いなぁ。
「何だよ、お前ら知り合いなのか?」
「うん、前に赤国に招かれたことがあるんだよ。北斗くん、彼は白国第二王子の雲母殿下だ」
「お初にお目に掛かります。赤国の北斗と申します」
「こっちこそ、よろしく頼む。白獅子が頼みごとをしたようで、悪かったな」
「とんでも御座いません。楓さんは赤国の恩人ですので、お役に立てるなら光栄です」
パタパタと羽をはためかせ、赤鳥神様が割って入って来た。
『堅苦しいのは無しじゃ、無し! ここは白獅子の神域、見る者もおらぬ。妾は招かれた客神じゃ。持て成せ、白獅子』
『貴殿は相変わらず落ち着かない奴だな。酒を寄越せというんだろ?』
『よう分かっておるではないか。妾は白国の美酒と楓の笛を楽しみにしてきたのじゃ!』
半笑いの白獅子神が、ヒュッと息を吐くと小さな白い女児がワラワラと生まれて走り出す。
「白獅子神様の……眷属ですか?」
『ああ。アレらが身の回りの事をしておる。宴席も用意させる。に、しても、赤鳥。王まで連れてきて良かったのか?』
『ふん。一日や二日の留守で滞るような施政はしておらぬ。主こそ、楓を引っ張り出して良いのか? この娘は黒龍殿のお気に入りだがの』
『黒龍殿には好きに使えと言われておる』
『はははは、それは楓も災難じゃな。まあ、青国ほどではないか。あの国は、今、大変な事になっとるからのう。自業自得じゃが』
大変な事?
思わず……北斗くんに視線を向けると苦い笑いを浮かべた。
「楓さんが拉致されたと言う事で、皇太子殿下がお怒りで。青国は暴風雨に覆われています」
「ぼ、暴風雨?」
赤鳥神様が口元を隠して、すごく面白そうに笑った。
『嵐龍殿は黒龍殿の末じゃからの。激怒した龍の気が荒れておるのよ。しかも攫って置いて所在を失ったからの。青国の者へ、無事に返すまでは決して止まぬと宣言したそうじゃ。青国の者は血眼になって楓を探しておるよ。阿呆じゃの。青国は十日もすれば水没するのではなかろうか』
「あ、あの。桂王子と紫陽花姫様は……」
『すぐさま青国へ返された。遊業などしている場合ではないからの。青馬神が青い肌をさらに青くしておったわ。末の行いを知らなんだようじゃ。管理不行き届きじゃの。黒龍殿に諌められておったわ』
いや、黒龍神様は私の居場所を知ってるでしょ。
若君に教えてないって事?
ブックマーク! ありがとう御座います。定期的にあげられなくて、申し訳ないです。頑張りますー!




