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52 宴 

青国の二人を迎えるにあたって、黒国では宴を開くそうなんだが……。

オッサンから若いのまで、公達がこぞって参加するらしい。


——ウザい。


さすがに帝が難色を示して参加者を絞ったらしいんだが、それでも奉納祭に匹敵する人数になってるという。まったく、何を期待して参加するのやら。


若君は凛々しい眉を寄せて軽く溜息をついた。


「まぁ……他国の王族と知り合える機会なんか、そうそうは無いからな」

「いや、知り合うって。宴会に出るだけでしょ? サシで話すわけでもないのに」

「それでもな。何かの偶然が起こらないとも限らん……とか、思ってんじゃないの?」

「偶然って何ですか」

「いや、ほら、異国で緊張してる王子をフォローする機会に恵まれるとか、姫に好ましい男性としてアピールできるとか? 何かの縁で気に入られれば娘を王族に輿入れなんて野望も生まれるの…か?」


——アホか。


「……黒国の公達は、どんだけ夢見がちなのか」

「俺に言うなよ」


満面に苦笑を浮かべた若君が、また軽く溜息をついた。


「正直言って、面倒臭ぇよな」

「確かに。でも、ま、外交ですから。頑張って下さい、若君」


若君が私の顔をキョトンと見てから、何度か瞬きした。


「まさか、お前、自分は逃げられるとでも思ってんの?」

「え? いや、だって、私は関係ないですよね?」

「関係ない事あるかよ。王子はお前に会いに来たんだぞ?」

「はぁ? ご冗談を」

「帝の話を忘れてんのか? 青国の王子はお前を妃候補にあげてんだぞ?」

「確証はないって言ってたじゃないですか。噂でしょ? 眉唾ですよ」

「………」


そんなジト目で見るなって。


「公達の事は言えないな。お前だって夢見がちだ。現実を見ろ。逃げられるわけねーだろ。皇太子の許嫁だぞ。笛姫は宴に参加すんだよ」

「笛姫は嵐龍様の寵愛を受けてるんで、人前に出たりしないんですよ」


バシッと後頭部を叩かれた。

冗談んじゃないかよー。

痛いなぁ。



何だってんだ。

マジで人が多すぎる。


若君に言われて強制参加させられたわけだが、私は皇族ではない。


接待って立場でもないんだしー。

着飾って薄衣被せられて人形のように座ってるだけだしー。


給餌だって宮仕えの女性達が居る。姫はガツガツ食うもんじゃないし、酒は飲めないし、奏でられる音楽だって若君の笛の足元にも及ばないとあっては——あくびを咬み殺すのが仕事みたいなもんだ。


青国の桂王子が、そんな私を気遣って声を掛けてくれたようだ。薄衣を被せられてるんで見えないんだけどね。声で分かるじゃん。


「酒の案では……笛姫様には少々退屈でしょう」


私は無言で、ゆっくり首を振る。黒国では、上位の御仁に許可なく発言はしないもんだし。


「……先ほどから食事もあまり進まないようですし。少し風に当たられて来ては如何ですか? 私や妹は気にしませんよ?」


——いやいや。

他の貴族が気にするからな?


「女性が顔を隠すのは、致し方ない事ですが。薄衣は視界が遮られますよね?」


……ううむ。


こう話しかけられたら、返事をしない方が不敬なのかな。小声で控えめな感じなら返事をしても良いだろうか。


「………お気遣いを有難う御座います。私は大丈夫です」

「そうですか? 時に笛姫様。今夜はあなたの笛は聞けないのでしょうか。実は楽しみにして来たのです」

「…今夜は楽師もおりますので」

「それは残念です。貴女の笛は見事だと赤国の王も仰っておれられたので」

「北斗王が…光栄ですね。いつか、機会がござ——」


——と。

帝が私たちの話を聞いていたようで、大きな声で割って入った。


「おお、そういう事なら吹いてやれ!」

「おい、親父」

「いいじゃないか、嵐龍。出し惜しみするなよ。そうだ、紫陽花姫。貴女は青国一の舞い手と聞き及んいる。ぜひ、楓の笛で舞って下さらないか」


——この、クソ親父。


会場の公達がどよめいて、そこかしこから拍手が聞こえて来た。これじゃ、辞退するのも一苦労になるじゃないか……。


どう言えばいい感じに辞退出来るかな——と。


「帝位様のご所望では断われませぬ」


——へ?


「笛姫様。月夜唄をお吹きになられますでしょうか?」

「えっと……手習い程度ならば」

「では、月夜歌に致しましょう」


深い溜息の後、若君が私の薄衣を捲った。

やっと視界が開けた——けど、酒の回った帝や公達の顔なんか見たくもないぞ。


そんな中で艶やかな花のような紫陽花姫が立ち上がった。ゆるゆると宴席の中央へ歩み出る。宴の為に着替えたようで、銀と薄紅の衣装から青紫の着物へ変わっている。自らの名にちなんでいるのだろう。


装飾がシャラシャラと可憐な音を立て、天女のような羽衣が動きに合わせて揺れる。うん、これは美しいよな。


——ま、こんだけの美姫が踊るとあっては、公達共がどよめくのも頷ける。


期待値マックスってヤツだ。

仕方ないなぁ。


——ん?


視線を感じて顔を向けると、桂王子と目が合った。第一印象通りに女性的な美形だ。紫陽花姫の姉だと言われても信じるかもしれない。王子は薄緑の着物に金細工の装飾で雅だ。


私が首を傾げて挨拶すると、ちょっと狼狽えたように瞬きしてから、はにかむような笑みを浮かべた。


——おいおい。

可愛いじゃないか。


実際、私の印象では王子より姫の方が男性的に感じる。ま、どうでもいいけど。


私は楽の担当だし中央まで出る必要はないだろう。座ったままで胡蝶を出して紫陽花姫を確認する。中央に出た彼女は薄衣を腕に絡めてスタンバイしている。


軽く私に目配せして、口角を上げて微笑む。

うむ、いつでもどうぞってな。


では——月夜歌を奏でよう。


月夜歌というのは笛や舞の中では初期に学ぶ唄だ。朧雲おぼろぐもから月が覗き再び雲に隠れるまでの短い時を唄ったもので、本来は詩である。


なんか、ほんの少ししか見せてくれない月の姿を焦がれる女性の姿に例えた詩——だったと思う。


曲調は静かなのだが、天女と見まごう美しい月光をイメージしてるので音を微妙に震わせる。ビブラートの練習に最適な曲だ。


私の音に合わせ、紫陽花姫がそれこそ天女のように舞い踊る。緩やかな回転と膝を折る愛らしい仕草が、歳若い乙女の優美さを表すので、姫君の最初の舞によく使われる。


——ぜーんぶ、真澄様の御高説なんだけどね。


笛と舞はタイミングを合わさねばならないので、私は彼女の動きに集中する。即興の合わせは難しいんだから、舞い手もこちらに集中して欲しいものだが——どうも紫陽花姫は気が散っているようだなぁ。視線の先は若君なので、若君に猛烈なアピールといった所かな。


曲が終わり拍手が起こり、私は彼女の気が散っていた理由を知った。笛を吹き終わった途端、若君が私に薄衣を被せ直したからさ。若君、私の事を見てたね。こういう時は舞手を見るもんだぞ。


ケラケラ笑った帝が……。


「楓を見せたくないか、嵐龍」

「無論です」

「そわそわと、楓ばっかり見やがって紫陽花姫に失礼だろ?」

「姫の舞も見ていましたよ。見事ですね」


……棒読み過ぎだろ。

宴の席に戻ったであろう紫陽花姫の声が聞こえてくる。


「光栄で御座います」


うわぁ。

声が硬い。


月が中点を過ぎる頃、宴席も終わりに近づく。酔いの回った貴族たちが、へべれけになり始めたからね。喋る言葉に品性が欠けて来てる。


……そろそろ解放されるか、と、胸を撫で下ろしてたら。


「少し酒精に酔ったようです。……笛姫様、風に当たりに連れて行って下さいませんか?」


いきなり紫陽花姫が私を誘った。薄衣の向こうではあるが、彼女が立ち上がったのが分かる。


「嵐龍様、姫を少しお借り致します」

「……宮中とはいえ宵闇です。宴ももうすぐ終わりますよ、姫」

「ご心配なさらず、すぐにお返し致しますから」


半ば強引に腕を引かれ、松明の灯る庭から少し離れた。若君の視線が背中に突き刺さってくるけど、王子に話しかけられたようで視線が逸れる。


細い手が私を暗闇に誘う。

——と。


「貴女に恨みは御座いませんが、どうあっても我が国へお越し願いたいのです」


切羽詰まった紫陽花姫の声に薄衣をまくろうとしたら——頭を殴られたようだ。横から殴られて脳が揺れるのが分かった。うん……脳震盪のうしんとう起こしたな。辺りが暗く消えてゆく。





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