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35 牡丹の宮

何度も言うが、牡丹の宮は広い。中庭がいくつもあり、グルグルと回廊が巡っている。その宮の奥の奥、大きな黒龍神の衝立の向こうが帝の在わす場所だ。


——で。

若君は一人息子なわけで、我々共々、その衝立の向こう側に泊まるのだと言う。


「……良いんですかねぇ」

「何が?」

「いや、だって。黒藤京の中枢も中枢……ですよね?」


そんな所に、元魔法使いなんかが泊まるってさー。

なんか気後れするよな。


「本当に、お前って自覚ないんだよな」

「なんの自覚でしょうかね」

「お前の右手に嵌ってるのは何だ?」

「天水玉ですねぇ」


——分かってますよ。

国宝が嵌ってるから、国の中枢に軟禁されるんだってさ。


「お前の隣に立ってるのは?」

「……黒国の皇太子様ですねぇ」

「で、お前は俺の何なんだよ」

「……………許嫁です」


そうだったな。

私ってば、皇太子の許嫁だ。

それは、要するに黒国の皇太子妃候補で、後の皇后候補ってことだ。


「お前が宮の奥に泊まるのに問題があるか?」

「ないですね……たぶん」


若君は、ふーっと息を吐いて私の手を掴んだ。


「問題ないなら行くぞ」

「……はい」


黒龍神の衝立を抜けて、先日、赤国の篠と対談した部屋を抜け、長い廊下を歩いて真っ赤な牡丹の絵の描かれた襖の前で止まった。


——なるほど、牡丹の宮、ね。


「父上」


おっ。

父上ときたか。


若君が帝を位で呼ばないのは、もしかしたら初めて聞いたな。


「おう。入れ」


お腹の震えるこの声は帝だなー。

ヤダなー。


独楽と白砂は廊下に控えたまま、そっと襖を開いてくれる。


——と。


いきなりガバッと抱き竦められ、ぐしゃぐしゃと髪を撫でくりまわされる。

このオッさん、襖の前で待ち構えてたのかよ。


「よう来た、楓! 相変わらず、ちんまいなー!」

「しゅ……主上」

「おう!」

「離して下さい」

「嫌だな!」


若君が私の両肩をガシッと掴んで、帝から引き離して自分の後ろに庇ってくれた。


「親父。自分の腕力を考えろよ」

「んだよ。俺だって手加減ぐらいできるぞ」

「いいから」


——と。

ガシッと若君に抱きついた帝は、ガシガシと若君の頭を撫で繰り出した。


「仕方ねーな。息子で我慢するか。お前、またデカくなったかー?」

「離せ、ウザいな」


「何だよ、照れんなよ」


はぁ…。

帝って、こういう人なんだよなぁ。

愛情が濃いっていうか、身体接触が好きっていうか。


私が憐憫の目で若君を見てたら、彼は眉間にしわを寄せながら帝を引き離した。


「そういうのはいいから! さっさと、泊まる部屋を教えてくれないか?」

「短期は損気だぞ。お前らを首を長くして待ってた俺の立場はよ?」

「今日から三日までは滞在するだろ。こっちは年越しの準備で疲れてんだよ」

「んだよ、愛想のねぇ。楓に苦労させるなよー?」


目を細めた帝は、若君が口を開く前に顎へ手をやりながら言った。


「お前はいつもの部屋だ。楓は隣。侍従は向かいに部屋を用意してる」


妥当な部屋配置かな。

私が頷くと、帝はニコニコっと笑った。


「嵐龍と楓の部屋は襖で隔ったってるだけだ。開けば一つの部屋になる。気兼ねなく過ごせ」


は——えっと? 

ああ。

帝は早く孫がみたいぞってか?


この人、私の手には天水玉が嵌ってんだって忘れてないかな。


「独楽と楓は同室だ」


若君が少し疲れたように言うと、帝は拗ねたように口を尖らせる。


「なんだ、嵐龍。その顔は。気を利かせてやってんのによ。別に子作りしろって話じゃねーぞ? お前は元服前だし、楓も裳着式が終わってない。まだ早いぞ。ただ、二人でゆっくり過ごしたいかと思っただけじゃん」

「あのな、親父。コイツに天水玉が嵌ってんの、忘れてないよな? たとえ帝の在わす宮の奥でも、一人で置くわけにはいかないんだよ。万が一にも、国の中枢で呪いが発動なんて洒落になんないだろ」


若君がすごく真っ当なことを言ったら、帝はさらに拗ねたように部屋の奥へ戻って座布団に座った。


「お前は本当に頭が硬いよ。宮野守りは完璧だぜ? まあ、座れ。今、湯の用意をさせる」

「……話聞いてたか? 疲れてるって言ったんだけどな」

「ちゃんと聞いてたって。薬湯の準備をさせるから、少し待ってろって事だ。お前は年越しで仕事もあるんだしな。ちゃんと禊しとかんと。まさか、肉や魚は食ってないだろうな?」

「食ってない」


——守谷さんからも聞いてたけど。若君は、この一週間、肉や魚は口にしてない。年末の祓いの為の潔斎だ。


「楓もそこに座れ、膝に乗れとは言わんから。ちっと、話もあるんだ」


帝の話ってのは、ロクな事ないんだよなぁ。


チラッと若君を見たら、諦めたように頷く。

帝の側に並べられた座布団に座ると、帝は小さな鐘を鳴らした。


——あれって、若君の鈴みたいなもんかな。

茶の呼び出しとかに使われるんだろうか。


それにしても——距離が近い。


通常、帝と話すというのは御簾の向こうの帝と話す事だ。一段は上がった場所に座ってるし、手を伸ばせば届く距離で話す事なんかないんだけど。まあ、若君は家族だから……かなぁ。


もともと、このオッさんは距離感が変だけどね。黒龍神様の血を引いてるし、帝にも若君にも、大概の脅威は脅威じゃないんだろうけど。


「話っていうのはな。青国からの申し出の話なんだが。嵐龍に内々で婚姻話が来ててな」


——え。

これって、私が聞いてもいい話か?


「末の第二王女を妻にどうかってさ」


若君がハーっとため息をつく。


「わざわざ、コイツの前でする話なのか? 当然、断るんだろ?」

「それがなー。どうも、胡散臭くてな」

「俺に自国の王女を輿入れしようなんて、政治向き以外の話があるとも思えん。胡散臭いのは当然なんじゃないのか」


帝がぽりぽりっと首筋を掻く。


「いや。な、お前に王女を当てがって、楓を自国の王子に輿入れさせたいようなんだが?」

「——は?」

「王太子に王太子妃を迎えようって話が出てるんだそうだ。内政の問題なんだろう。祝賀に繋がる話が欲しいらしい。どうも、その候補に楓が上がってるって噂だ」

「わざわざ人の許嫁を候補に挙げてるって? 俺に喧嘩売ってんのか青国は」


若君が剣のある声を出す。

ううむ。


そこで可愛らしい女童がお茶を運んで来てくれた。

——んだが。


若君が剣呑な空気を出すもんだから、半泣きになりそうに怯えてる。脅してどうすんだ。見兼ねて女童に近寄った私は、彼女の腕を軽く叩いて落ち着かせる。


「ありがとう。あとは私がやるからね」


私がお盆を受け取ると、女童は声も出せずに頷いて、逃げるように慌てて部屋を出て行った。


「若君。怒気が漏れてますって」

「……煩いな」


苦笑を浮かべる帝が、機嫌が悪くなった若君を見る。


「楓への婚姻話は憶測だ。まだ打診があった訳じゃない。お前の顔を潰さない為に、先に婚姻話を持ちかけたんだろう」

「どっちにしろ、断る話だ」


——ううん。


「主上」

「なんだ、楓」

「疑問があるんですけど」

「言ってみろ」


どうにも合点がいかないんだよ。


「私に天水玉が嵌ってるのは極秘なはずです。濃紫も神経を尖らせて隠してくれてますし、事情が漏れているとも思えないんですけど。黒国における宗元の位は低くないと言っても、他国の王太子が元魔法使い筆頭の娘を欲しがる意味が分かりません」


帝がぽりぽりと首を掻きながら苦笑を浮かべる。


「楓が黒龍神に舞を奉じた時、青国の使者が見ていたのが事の発端だろうな」


——ん?

奉納舞かい?


「特別な事は無かったはずですけど?」

「お前の容姿の問題だな。お前……自分の両親について、どのくらい聞いている?」

「どのくらい、と、言われましても。化け物退治に巻き込まれて命を落としたとしか聞いていません」


うん、うん、頷いた帝は、私を見て目を細める。


「お前の両親は優秀な魔法使いだった。そんでな、ここからが重要だが、出自は青国なんだ」

「……え? そうなんですか?」

「ああ。青国にはな、能力の高い魔法使いが生まれるので有名な里がある。魔女の里って呼ばれててな。そこの者は、お前と同じ黒一色の髪色と瞳だ」


へぇ。

それは——知らなかったな。


確かに、女舞の時は髪色を変えてなかったけど。


「んー、でも、主上。なら、余計に分かりませんね。青国の王族なら、青馬神の末裔ですよね? 神気を纏っている方々に魔法使いが嫁いだ所で魔力の継承はできませんよ? 意味が無いでしょう」


——神気は魔力を弾くんだし。


「そうなんだがな。青国には奇妙な伝承があるんだよ」


伝承とな。

また、曖昧で不確かな物が出てきたなぁ。



評価が増えてる!! 有難うございます。続き頑張りますー(^^)

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